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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
紅葉伝説

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13/21

サルタヒコ

「三現主義よ。現場に向かうのがいいわ!」

「現場って?」

「箱根か、戸隠かしら。戸隠は私も何度も行ってるわ。自然の豊かな良いところよ」


 戸隠と聞いた瞬間、紅葉の顔色が変わった。

「先輩、戸隠から行きましょう。私の故郷も近いし……」

「え? 何でお前一緒に行く事になってるの?」


「空が綺麗ですよ。週末外出しようって、約束したのは、先輩ですよ!」

 実は、図書委員だけど、俺は、天文部でもあるのだ。何か部活にも入らないといけないのだが、この部活ならと。

「お前よく知ってるな? 俺が天文部だって?」


「保名先生に教えてもらった!」 

「おしゃべりだな! まあ、約束は守るよ」

 だが、高校生の男子と中学生の女子だけでお泊りなんてのは……


「大人の人の同行が必要ね!」

 稗田さんの発言に、紅葉が、寂しそうな顔をした。

「稗田。いるか?」

 休憩室に入って来たのは、背の高い大きな赤ら顔で外人のような鼻の高い男だった。

「はい! こちらに!」


 稗田さんがすっと立ち上がった。他の人とまるで態度が違う。

「誰?」

 俺が、紅葉に聞くと、小さな声で微笑みながら「猿田様」と答えた。


「話の途中に悪いな。阿部を探していてな。お前と同じ図書委員で仲が良いと聞いていて」

「目の前にいますよ!」

「おお、お前か。俺は猿田。よろしく!」

 握手をする手が伸びてきた。


 俺が手を差し出すと、ものすごい握力で握られた。

 いててて、猿なのか、天狗なのか。馬鹿力だ。

「よろしくお願いします!」

「俺は生徒会の副会長でな。お前に依頼を出したいんだ。雨乞いのな」


「はぁ……」

 稗田さんも紅葉も大笑いした。

「何だ? 変なこと言ったか? 俺?」

 猿田さんは頭を傾げた。

「いいえ、丁度、その話をしていました。それで……」


 稗田さんが、事情を説明した。

「それは道理だな。それなら、俺が連れてってやろう。俺は旅が好きでな」

 いやいや、それでは全然気が休まらない。

「猿田様。今週は、夏越しの大祓ですよ。旅に行ってる暇なんてありませんよ!」


 六月三十日の前後、一週間ほどがこの学校では梅雨休みとなる。実家での用事、いやお務めが多いからだ。


 本当は、俺も色々あるらしいのだが、修行の身という言い訳で免除されている。

「戸隠といえば、忌部か阿智だな」

「でも忌部くんは、ラグビー部の海外遠征中で学校には寄らずに帰ると思います」


 忌部くんは、俺でも知ってる最強ラガーマンだ。

「じゃあ、阿智か。一緒に行けば……稗田仲が良いだろ? 紹介してやってくれ」


「はい。でも今年どこに帰るか迄は知りません。私も社がありますし、私がいきましょうか?」

「今年はだめだ。俺が寂しいだろ。一緒に来てくれ」


 そう言われて、稗田さんはぽっと頬を赤くしている。

「じゃあ、阿智くんと話をしてきます。何か事情を知ってるかもしれません」 


「ああ、お願いする。阿部、雨乞いは任せた」

 猿田さんは、あっという間にいなくなった。忙しい人だ。

「それじゃあ行きましょう!」


 稗田さんは、阿智くんのいる場所を知ってるらしく、すたすたと歩きだした。

「どこに行くんですか?」

「図書室にもよくいるけど、今日は見かけないから、囲碁部の日だと思う」

「囲碁ですか?」


「うん、彼は多才だから、他にも、幾つか部活を兼任してるわ」

 文化部棟だ。うん、落ち着く。

「阿智くん、いますか?」


 部室の扉を開けると、真剣に碁盤と向き合っている男がいた。書物を片手に、一人で。他には誰もいないがらんとした部屋で。

「ああ。稗田さん。どうしました? こちらへどうぞ!」


 痩せた神経質そうな、眼鏡をはめた阿智くんは、本を閉じると畳の席から立ち上がり、ソファに案内した。

「お茶で良いですか? 茶菓子をどうぞ!」

 なぜか、ついてきた紅葉は、差し出された茶菓子の箱を無邪気にあれこれ漁っている。


「相変わらずね。それで話ってのは……」

 稗田さんは、事情を説明した。

「高知に行く順番なのですが。わかりました。まさか、稗田さんは戸隠に来ないのですか?」


「わかってて……」

「猿田先輩にも困ったものですね。近いうちに神楽を舞に来てください。鬼の屋敷の話は聞いてますよ」

「馬鹿な奴ばっかり!」


 稗田さんは、顔を赤らめて怒って出て行った。

「神楽って、そんなに恥ずかしい……」

 俺が話そうとすると、紅葉からパンチが飛んできた。かなり恥ずかしいことらしい。


「先輩、馬鹿ですね!」

「ははは、阿部くんは、勉強が足りないようですね」

「九頭龍大王と話は出来ますか?」


「残念ながら、九頭龍と仲の良いのは、忌部くんの方でね。それと、何が原因かは一緒に調べましょう。残念ながら解決策には私は手を出せませんが」


「ああ、それでも助かります! ところで稗田さん大丈夫かな?」

「ええ、彼女とのいつものコミニュケーションですから」


 紅葉は、ひたすら茶菓子を貰い、俺は流れるような彼の話を聞いて頭が良くなった気分だけを味わうと、その場を後にした。

「阿智さんて、どんな神様の生まれ変わりなの?」


「思金神様に決まってるでしょ」

「ああ、岩戸隠れの知恵者だ。それで、猿田さんと稗田さんて、どんな関係なの?」

 俺は紅葉に聞いた。彼女は答えにくそうに言った。


「先輩、泣かないでね。猿田彦様と天鈿女様はご夫婦よ」

「そう……」


 俺は冷静を装っているが、きっと紅葉によって『叶わぬ恋の物語』が女鬼寮に広まるのだろう。

 それを考えると体は更に重くなった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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