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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
学生生活

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10/21

鉄輪作り

「打て、清明。そして、お前の力を」

 俺は、火箸で赤く光る鉄を取り出す。部長の導きに従い、俺は、術を唱えながら槌を振るう。


 かーん、かーん

 金属の音が高く澄み、火花が舞うたび、鉄の呼吸が整っていく。


 十分に形を打ち出すと、部長が頷いた。

「ここからが本当の仕事だ」

 俺は鉄輪を炉から静かに離し、温度を見極めて水に浸す。


 ジュッという音とともに白い蒸気が立ち上る。

 焼き入れによって硬さを得た鉄は、青みを帯びて息を潜めた。


 次に、砥石を取り出して表面を磨く。

 磨くたび、鉄の肌が滑らかになり、光を受けて微かに輝く。


 最後に油を染み込ませた布で鉄輪を拭う。

「まあ、今回のは合格点だな」

 やっとだ。夕方から始めて、もう深夜だ。何度やり直しただろう。


「ありがとうございました」俺は、その場にいる全員に礼をした。

「部長のしごきに耐えるとは、見込みがあるな」


「又、遊びにこいよ!」

 他の部員たちが、笑って返事をした。

 こいつら、化け物並みの体力だな。いや、神だった。


 夜鍋して、作業するのだろう。まだまだ、鍛冶場の炎は消えない。

 道具を片付けると、俺は、ふらふらになりながら、鍛冶屋敷を出た。


 白菊と白鈴が、屋敷の前で待っていた。

「お疲れ様でございました」

 珍しく、白菊が頭を下げて喋る。

 気持ちの良い夜風に、疲れた体が気持ち良い。けど、明日は筋肉痛に違いない。


「さあ、帰ろう」

 月の光に照らされた丘から、四方を見回す。

 漆黒に塗られた、森や校舎が、ぼんやりと影を映す。


 どこからか、喧しい音が聞こえてくる。祭りのような囃子や歌声。

「あそこは何だ?」


 一つの大屋敷、橙色の部屋の明かりが漏れて、朱色や紅色の提灯が屋敷を囲って吊るされている。

「女鬼の寮でございます」

 白鈴が教えてくれた。


「へ?」

「清明様、稗田様と、太陰様が女鬼寮へ訪問してるではありませんか?」

「ああ」


「歓待の宴の最中です」

 調査じゃなかったのか? 俺は頭が痛くなった。だがそれは浅はかな考えだった。

「女鬼寮の近くを通って帰ろう」


 近づくと、野次馬どもが遠巻きに、俺と同じように散歩のふりをして女鬼寮を眺めている。


「稗田様が、舞われるらしいぞ!」

「俺たちも、一目観たいものだ。岩戸の踊りを」

「奴らがいるから覗き見できない」


 散歩というには、多少無理がある。

 女鬼寮の門には、男鬼が警備で立っている。曲者が入らないように、屋敷の周りにも、等間隔で立っている。


「しっかり見張っておれ、蜂一匹でも通すなよ!」

 のしりのしりと、俺に近づいて来たのは、男鬼寮の寮長で、ラグビー部の部長の大江山先輩だ。


「おお、晴明。此度は、お気遣い感謝する。どうしても、この時期になると、学園に馴染めん子鬼が出てくるからな」

 彼は、気にした様子もなく、俺の魂の名を呼んだ。


 入学して、三ヶ月くらい。五月病、いや、六月病か。わかるわかるぞ。俺はずっと掛かっているが、逃げ場所を持たない。


「いえ」

「太陰が、女鬼どもの話を聞いてくれて、天鈿女が、舞を見せてくれる。奴らは朝まで宴会だ。おかげでつまらん愚痴を聞 かされず済む。さすが、稀代の智者だな」


「いえいえ」

「恩に着る。困ったことがあったら言ってくれ!」

 ハグをしようとする大江山先輩。俺はにげるように、「それではまた」と言ってその場を立ち去った。あんな大きな男。抱かれただけで死んでしまう。


 それに、俺は智者でも何でもない。今回の件も、ただの調査だとばかり思い込んでいたのだ。


 帰り道。森の近くの小川の側を歩いている。

「清明様、少しお待ちください。白鈴取ってきて」


 白菊が、森から現れた小狐を見て言った。小狐は口に土まみれの金具を咥えていた。

「頂いて来ました、お姉様」 白鈴は渡そうとするが受け取らない。


「間違いなさそうですね。洗って来なさい」

 そして、寮に帰って遅い食事を取ることになった。

「悪い、白菊。疲れすぎてて食欲がない」

「……」


 彼女は、料理を箸で掴むと、俺の口に運んでくる。

 これでは子供だ。だがなぜか懐かしく感じだ。


「わかったわかった。食べるから」

 何とか腹に押し込んで部屋に戻ると「金具」が渡された。


 壊れてひしゃけた鉄輪だった。

「酷いな」

「川に投げ込まれて、川の者の遊び道具になっていたようです。我が一族で探しました」

 白鈴は自慢げに言った。


「よく見つけたね?」

「いえ、太陰様が昨日、目ぼしをつけてくれたので」

「そうなんだ。俺も一緒に探さないといけないのに」


 白菊と白鈴は、首を振った。

「清明様が森に入ると、揉め事起きる。それに、お身体が弱い。無理はさせない」

「そうか。もう壊れていると悟って、俺に作らせた訳か」


 俺は、その日の激しい労働の疲れで、いつの間にか眠っていた。

 次の日の早朝、俺はいつものように白鈴に起こされる前に、あまりの酒臭さに目を覚ました。


「帰ったぞ、清明。飲まされすぎた」

 赤ら顔の銀髪の白い肌の少女が立っていた。

「お帰り。大宴会だったようだな。寝るかい?」


「いや、依頼は終わった。戻る。その前に事の顛末を話す」

 太陰は、白菊から水を受け取ると飲み干した。


「ああ、頼む」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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