04 でばっくもーど
「わたしこそが かみだ--!!」
わたしがそんなくだらないことを言ってから、どのくらいの時間が経っただろう。
わたしは、『移動すると無限ループするステージ』つまりは雲と山の背景のあるステージの環境に嫌気が差した。
ダメ元で地面に穴を少し開けて、そこから床下をするりと通り抜けて、あらゆるグラフィックというのか、ドット絵の破片がランダムに散りばめられ、画面が崩壊したような世界へと迷い込んだ。
ドット絵の破片を見るに、かなりの種類のドット絵が存在しており、実はわたしが見たのはほんの一部の情報に過ぎず、かなりメインから隔離された限定的な場所に居たようだった。
つまり、ここは意外にも未完成の状態ではないのかも知れない。
そう気づいた時には既に遅かった。
わたしは、だんだん意識が遠くなっていった。
……
………………
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意識が戻ったら、偶然にも『でばっくも-ど』という表示のあるメニュー画面になっていた。
『デバッグ』ではなく『でばっく』であることに呆れる暇もなく、わたしは選択メニューの項目をみた。
先頭には『たいる えでっと』という項目があり、ためしにそれを選択してやると画面が切り替わった。
切り替わった先には、驚くことにアルファベットが普通に表示されたのだ。
しかし、画面が切り替わる際に、意味深なひらがなが表示され、それがアルファベットに突如変化する瞬間があり、これはもう態とやっているのか、よく分からない。
おそらくは、その都度でアルファベットの文字のドット絵データをひらがなにしたりアルファベットに戻したりする処理をしているようだ。なんともじれったい謎仕様だ。
『TILE NAME?』と上部に書かれ、下には全種類のアルファベットの大文字が選択できるようだ。
あらゆるゲームでよく見かける名前設定画面のようで、今から作成するであろうものに名前を付ける画面だ。見る限りどうやら名前は最大6文字までのようだ。
てきとーに『TEST』と入力し『OK』を選択したが『ERR』と出て拒否られた。どうやらエラーなのだろうか。次はさらにてきとーに『TESTO』と入力し『OK』を選択してやると、画面が切り替わった。
8✕8のドット絵を描けるようなマスに、黒・濃い灰色・薄い灰色・白の4色のパレット。
この4色のうちの1つに透過を設定できるような感じのインターフェイスをしていた。
なんだこれは。。。
!!
ん? あれ?
この画面ではわたしは発言権がないようだ。
何故?
どうやら、アルファベット表示中は発言権が与えられないようだった。
てかさ、メニュー画面もアルファベットで表示させれば『でばっくも-ど』と言った赤っ恥炸裂の文字列を阻止出来たというのに。
まぁ、それだとわたしは英語しか喋れなくなるし、さらに英語力もないので、ひらがなはあって良かったのかも知れない。結局どっちなのか。
むしろ、某カメラ店の名称や某コーヒーショップというカフェチェーン店で「ホットドック」というようなクセツヨな表記揺れで笑いを取ろうとするために、敢えてひらがな表示を実装したとしか思えない。
だとすれば、とてもくだらない。
『EXIT』という項目を選ぶと、『SAVE?』という簡素メッセージが表示されたので、『NO』を選択したのちに画面が切り替わり、例の赤っ恥表記の『でばっくも-ど』メニューに無事戻ってこれた。
ほかにも、『はいけい せってい』という項目があり、ここでは『たいる えでっと』で作成したドット絵を並べて背景にできるらしい。 つまりは『タイル』はドット絵のことのようだ。たぶん。
既に出来上がってる背景が数種類あるが、ここに来て死ぬほど見た『線で表現された雲と山』が冒頭に出てきたが、他の背景は『ベッドのあるお部屋』『森林』『星空が美しい宇宙』など作り込まれてるので、酷く目立った。
メニューに戻って、他には『おぶじえ せってい』『みらー てすと』『もじ ついか』『らすた すきゃん』……など、試して見たい機能が充実していた。
メニューの項目を全て見たところ、画面表示にまつわるような機能のみで、それ以外の機能はないデバッグモードだった。
だが、デバッグモードということは、ゲーム本編があるのではないか?
そこにたどり着ける手立てはないのだろうか。
とにかく、次は『みらー てすと』という項目を選んでみた。横に2画面に分割された上下に同じものが表示されており、やはり表示された背景は、例の線で表現された雲と山である。もう見たくないのだが。
ここでようやく、わたしは自分自身の姿を目撃することができたのである。
「!!」
それは人間の形。
いや、人間の一部分の形を成しているものであった。
自分自身は、白い手袋が人差し指を伸ばしている姿だった。
これはあらゆるゲームでよく見る「指し指」の姿をしていたのだ。
「ますた-はんど?」
あれ? 『みらー てすと』では、発言権があったようだ。
超人気大乱闘の格闘ゲームに登場したキャラクター名を思わず口走ってしまったけども。
どうやらここでは喋れるらしいが、ミラーの向こうにも同じ文字列が表示された。さすが機能通り、ミラーだ。
気持ち的には顔を覆って言いたい気持ちだったのだが、残念ながら覆う顔がなかったのである。
……覆える顔がなくて、より一層悲しい。
それにしてもこの白い手袋の「指し指」は、いつの時代からゲームに登場するようになったのだろうか。 ゲームだけに留まらず、あらゆるところで見かける有名なアイコン。いやカーソルである。
この世界に来たわたしは「指し指」の姿で、線で表現された雲と山を背景に地面に沿って歩くように移動していたということか。シュールだ。 穴を掘るときは指で床をツンツンしていたのであろう。
レトロ携帯ゲーム機ソフトの謎のステージやデバッグモードの中の『指し指カーソル』に転生か。
「指し指」状態でわたしは、この世界でどうやって生きていけばいいのか。
ますます分からなくなってきた。
これからずっとドット絵を作成し、動く絵を眺める生活が続くのだろうな。
わたしは『たいる えでっと』を選択して、コツコツとドット絵作成をし始めるのであった。
まずは、勇者っぽいキャラと、次はお姫様を──。
わたしは果てしない孤独感を埋め合わすために、創作意欲のある限りドット絵を描いていったのだ。
いつまで飽きずに続けられるのか。
まあどうせ、飽きたら指でミラーモードの時に床を突いて画面崩壊させ、必ずゲーム本編にたどり着いてみせる!
主人公にも悪役にも何でもなってやる!
そうこうしてるうちに、勇者のドット絵の左上部分を描いた。我ながら上出来だ。
次は右上部分に取りかかろうか。
『EXIT』を選ぶ。
『SAVE?』と表示される。
『OK』を選択する。
……
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── 短編「げ-む ぼうや」篇 完。
残念ながら、これでこの話はおしまいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(当たり障りない機能的な後書き文)