03 未完成な世界でもゲームだ
それにしても、ここはわたし以外は誰も居ない。
いや、誰というどころか、何もないのである。無である。無。
いろんなところへ移動するも、何もない。変化がない。
相変わらず、空に雲、遠くに山の『線』が描かれただけの恐怖が続いて広がっているのだ。
広がっているというか、ループしているのではないか?
ここでいうループは、ステージの端に移動すると反対側の端に転移するものだ。
しかし、転移した瞬間に背景の位置が少し噛み合ってない。雑な処理だ。
まるで動作確認用の仮ステージのようだ。アクションゲームか?
しかも、時間の概念もなくずっと昼だ。あほくさ。この世界。
未完成ゲームの世界説は、あながち間違ではないのかも知れない。
「あでねぱみ-」
……気が狂いそうだ。
何も居ない。
誰も居ない。
心の底から寂しくなった。
わたしはネットとゲームが恋人だった。
それ即ちデジタル廃人である。仕事以外はネットとゲーム一筋だった。
そんなわたしでも、こうも寂しく思うことがあるんだな。
この世界には、ネットもゲームもないから当然か。
なにせ、ゲームにすら満たない未完成の世界そのものだから。
「りり」
異世界転生の物語の大半は、ゲームの世界が舞台であったとしてもさすがに現実化してるはず。
登場人物たちがそれぞれが命を宿して、それぞれの人生で生きているはずであり、完全なるゲームデータではない。
ゲーム機にソフトを入れて常に電源を入れた状態のこの謎世界は、ここくらいなものだろう。
電池は切れないのか。ACアダプターでも使ってるのか。こういう変なところが気になりだした。
そもそも、わたしは何に転生したのだろうか。
鏡を見ないとわからない状態だし、人間の形をしているかも怪しい。
気づけば、手も足も見えないので、明らかに人間ではなさそうだ。
透明である可能性だってある。
それって転生と呼べるものなのか?
「みかんせいの せかい か・・」
そういや、ゲームの未使用データを発掘して掲載する海外のウィキサイトがあったな。
ゲーム本編では一切使用されないデータが残されており、それを未使用データと呼ぶ。
それを発掘し公開するウィキサイトが存在するのだ。
しかも発売されたものだけに留まらず、未発売で『未完成のもの』までもが標的だ。
未使用キャラクター。未使用敵。未使用アイテム。未使用ステージ。未使用グラフィック。未使用音楽・効果音…などなど。
最も多いのは、未使用テキストだ。──要は『隠しメッセージ』である。
開発者による個人的な愚痴から、愛の告白。メーカーの社是。今後の作品の匂わせ。過去作品の裏話。などなど。
過激なものだと名指しの脅迫文まであったというのだから…。
開発スタッフのお遊びから、お遊びで済まされないものまで、マーキング感覚でこっそりと自我を残していくのである。
判明するのは時間の問題であるので、まるで違う種類の時限爆弾のようだ。
わたしには何故かこのウィキサイトの情報が興味深かった。
そのウィキサイトを見すぎてしまった。
いや、掲載していない情報を追記したり、修正までしたことがあったほどだ。
もしかしたらこの日頃の行いで、天罰が下ったのであろうか。
未完成の世界は、前世の獄中より厳しやすぎないか?
だんだん、心の底から寂しくなった。
「わたしは どこから」
「まちがえたのだろう・・」
わたしは、手遅れになった悪役のようなことを言ってしまった。
あんなもの見ずに一切関わらなければよかったと後悔したからだ。
ウィキ編集するんじゃなかった。
「あ!」
ふと、わたしは思った。
「へんしゅう するか!」
わたしはこの世界を作り変えていくことを決心した瞬間である。
「なければ つくればいい!」
未完成な世界でもゲームだ。
わたしにとって、ここはオープンワールドのようなものなのだから。
まずは地形を作ろう。あの線の背景をなんとかしたい。
いや、まずはひらがなに割り当てられたアルファベットを元に戻すのが先か。
朝昼晩という時間の概念。
オブジェクトというオブジェクトを作らないと。
容量足りるのだろうか。
とにかく、あらゆるものを1から作ることを模索せねば。
『これから先が長いな』と、わたしは思った。
これでわたしの心の底から寂しかった孤独感は吹き飛んだ。
むしろ、少し生き返ったような心地だ。
そして、わたしは心の底から叫んだ。
「わたしこそが かみだ--!!」
この発言は例え事実だとしても、なんだか『かっちょ悪いな』と少し思った。