02 慣れという恐怖と未完成という恐怖
「えーびーしーでー・・」
……それにしても、なぜアルファベットが使用できないのか?
レトロゲームは、むしろアルファベットしか表示できず、英語が基本だったはず……。
何しろ得点表示が当たり前のようにあったし、英数字の印象がある。
アルファベット3文字の名前をエントリーするアーケードゲームが多かった。
エントリー名に『SEX』と打ち込むと、『H!』に変更されるゲームがあるとかないとか。
「ぱよんぱー!」
わたしは、よく『AHO』とエントリーしていたな。
そう言えば、最近はゲームセンターが潰れたりして、縮小したりして、アーケードゲームをやらなくなったな。
「の-みそ こねこね・・」
これ以上、悲しい連想をするのはやめようか。
ある忍者少年アニメのアクションゲームがあった。障害物を避けてチクワを集めるという。
ピザが大好きな4匹亀の忍者少年の海外アニメのゲームもあるが、それとは別で、より古いゲームだったと思われる。
当時はアルファベットのメッセージが中心で、理解するには英語力が必須だっただろう。
忍者少年のゲームは、わたしが生まれるだいぶ前のものだが、そのゲーム音楽をすごく気に入り、動画サイトでプレイ動画を飽きるほど観た。
「にんじゃで ござる-」
英数字や日本語を表示できるようになったのは、選択式のアドベンチャーゲームや、『コンピュータRPG』が続々出てからではないか。
あのスライムが登場する社会現象を起こした『伝説のRPG』シリーズの初代作でも、カセット容量の都合で全てのひらがなやカタカナを搭載していないとネット記事で読んだことがあった。
ラスボス戦では書体が微妙に異なっているものに切り替わっている裏事情があるなど、どうでもいいことも書かれていたっけ。理由はわたしには理解できなかったけど。
しかし、ここの世界はあのテレビゲーム機ではない。うっすら緑の携帯ゲーム機である。
……もはや目が慣れてしまい、うっすら緑であることを忘れつつある。慣れとは怖ろしいものだ。
あの携帯ゲーム機にも、もちろんRPGはたくさんあった。
モンスターをボールで捕まえる大人気ゲームを真っ先に思い浮かべるが、それはやや中期を過ぎた後期の発売だったそうな。
「とったど---!!」
初期ゲームソフトには『なんとかかんとか サガ』というRPGがあり、そこでは英数字・ひらがな・カタカナは普通に使用されていたし、それが当時の標準的なRPGだったと思われる。
しかし、その同時期には『アレサ』というゲームソフトがあり、それは、英数字・ひらがな・カタカナはもちろん。簡単な漢字どころか、さまざまな記号を多数使用されていたのだ。
それでいて、登場人物たちのグラフィックがアニメーションされ結構な大きさで表示されていたような。携帯ゲーム機のゲームソフトにしてはなかなか豪華なゲームだったのではないか。
宝箱の絵とともに『♥ 宝 箱 ♥』という表示がされる印象が強い。
「なかは くすりでした」
『アレサシリーズ』はジグソーパズルのメーカーが発売した異色のゲームソフトであることは、また別の話。
わたしの携帯ゲーム機のムダ知識からして、つまり…。
この世界は、相当デキの悪いゲームソフトなのではないか。
「くーそーしてから」
「ねてください」
アルファベットが使用できないということは、本来アルファベットとしてある画像というか、ドット絵のデータを強引にひらがなに書き換えているのだとしたら、辻褄が合う。
容量を極限にまで節約させるテクニックとしてあるらしいが、そのテクニックが活かされたゲームをわたしは知らない。
カートリッジ式は『バンク切り替え』という8ビットコンピュータ端末における最大の工夫と、ロム半導体の生産コストが下がったことにより、大容量化を可能にしたらしい。
そのため大容量化や低価格化を謳った磁気ディスク式は、利点を失い新作が減少し廃れたとされるが、内蔵音源は豪華だったのだとか。
技術の発達で現在においてはフォントという概念があるため、アルファベットのドット絵を日本語に書き換える必要性は一切ないし、開発効率はとてつもなく悪いことこの上ない。
最大の欠点は画面表示にアルファベットが使用できなくなるからだ。
日本国内に発売を限定するのであれば、別に構わないが。
下手すればこの世界は、ゲーム機ハードメーカーのライセンスを取得せずに、こっそり発売した非正規ゲームソフトなのかも知れない。
はたまた個人が勝手に作った同人ゲームか。最悪、未発売どころか未完成に終わった没ゲームなのかも知れない。
だとすれば、もはや『クソゲー』どころの代物ではない。
そう思うと、なおのこと恐怖を抱くのであった。