6 ツナミ・スライム
‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥
んんっ?
ここってどこだっけ?
──ううん、そうじゃないよ!
どこって分かるんだけど!
津波みたいなスライムの中!
すごく視界が青い!
青色は嫌いじゃなくむしろ好きなんだけど‥‥。
ずっと目の前が青いと飽きてくるよね。
──あ!
そうそう。
あの時みたいに!
あたしは、津波にさらわれて~!
山への上り坂にまで追尾してきたチート津波でした。
あれ本当に心臓に悪い!
そうだ! ゼロちゃん!
あたし、ゼロちゃんと一緒だったの!!
で、ゼロちゃんが、《ツナミ・スライム》に‥‥!!
‥‥。
うう‥‥。
助けなくっちゃ!
助けなくっちゃ!!
なのに!
ルビーベリーってアセロラみたいな味だよねって!
そんなこと今はどうでも良いですって!
「ゼロちゃん! ゼロちゃん! どこー!」
あれあたしの声が全然違う?
しかもとってもかわいらしい声!!
あれ?
あたしって、こんなだったっけ?
なんだか身動きとれない‥‥。
あたしの体が‥‥なんか変??
むね‥‥が‥‥ちっこ‥‥。
うう‥‥。
体自体が小さい気がする‥‥。
あ、ごめっ!
──うっ‥‥。
ちがうの!ちがうの!
これはっ!
そう思った瞬間すごく恥ずかしくなってきた!
生まれ変わる前のあたしも、この体のあたしも、羞恥心に溢れたみたい‥‥。
それとともに、ダブルで申し訳ない気持ちに‥‥。
ううう‥‥っ!
「──へっちゅふん! ちゅふっ!! ‥‥んにゃ~」
なんでこんな時に!
スライムの中で器用にくしゃみできる自分自身にびっくりします‥‥。
気持ちが高まっちゃうと、つい出ちゃうのよねー。
生まれ変わっても、くしゃみの音と変なクセは変わらないんですね。
声が全然違うのに何このナゾ仕様。
「にゃふ‥‥くしゃみの余韻がまた、かわいいにゃ~‥‥」
「ぜ、ぜろちゃ‥‥」
向こうにゼロがいる気配が!
と言うか、無事で良かったとともに、聴かれてた‥‥!
オレンジと白の三毛猫のゼロちゃん。
──だったはずなのに。
なんで? なんで?
「ゼロちゃあん?!」
なんで?
──体が青いの?
ドラえもんなの?
「にゃふーん!!」
「ゼロちゃん! ゼロちゃん~~!」
「ご主人様‥‥。あにゃたのお名前は?」
ええ?
ゼロが‥‥。
「ゼロちゃん?」
しゃべった‥‥?
あ、そうだ。
使い魔でした!
身動き取れないし、遠くにいる。
でも、ゼロの声がちゃんと聴こえる。
「あたしは、レイ‥‥。あれ? レイ‥‥?」
『レイテンさああああああああん!』
ええいっ!
レイテン言うな!
この声はリカルデント‥‥。
それって、ガムの名前じゃん!
あ、リカルデントって、そう意味でしたね!
お父さんがリカルデント派、お母さんはクロレッツ派‥‥。
‥‥あの頃の両親を思い出すのはあとにしましょう。
視界が悪くなってしまいます!
「あたし‥‥」
『レイテンさまああああああああ!』
リッチャンの声です!
ダチョウのようなコスチュームのメイドさん。
そうか。あのメイド服は、ダチョウっぽいフォルムでした!
だから、レイテン‥‥。
「あたし、レイカだったんだけどー」
「‥‥にゃ」
「海の近くの町で生まれてー‥‥」
「‥‥そうか‥‥思い出せたのにゃ!」
ゼロが目を青くして涙を見せてるけど‥‥。
涙までも青くない?
あたしの名前は‥‥!
ナイト──。
そう。故郷では、家名が最初で、お名前が最後でした。
「あたしは 内藤 冷夏だったのに‥‥」
「‥‥もういいにゃ」
「だったのに‥‥死んじゃ‥‥。」
つらい。
「もういいのにゃ‥‥」
でも良かった。
「生まれ変わったし、ゼロに無事逢えたから!」
「‥‥お互い、生まれ変わってよかったにゃんね!」
お互い声が震えている。
それはもう泣いているんだから、仕方のないこと。
「ゼロちゃん‥‥。あたし全部思い出せた‥‥みたい!」
「冷夏ちゃん‥‥」
「ゼロちゃん。違うよ。あたしは今は──」
レイティエン・ビビアナイト辺境伯令嬢なんだから‥‥!
「良かったにゃ‥‥。ミー、ここでご主人さまに逢えたのに‥‥」
「うん‥‥」
「ひとりぼっちだと思ったにゃ‥‥」
ゼロにひどいことしたな。
思い出せなかったからしょうがないかも知れないけど‥‥
でも、謝らずには要られなかったの!
「ごめんね。あたしなんも思い出せなくて‥‥」
「いいにゃ!‥‥ご主人さまは悪くないのにゃ!」
「もう絶対にひとりぼっちにさせないよ! ゼロちゃん!」
「にゃうん‥‥」
「あたしと、ふたりぼっちなんだから!」
「あの時の冷夏ちゃんの口調に戻ってるにゃ‥‥」
「あたしはレイティエンだから。でも冷夏で呼ばれるのも‥‥うれしいね」
『お嬢さま! お嬢さまあああ!』
クロエの声ですね!
珍しく冷静さのないクロエの声‥‥。
まさか、みんなは近くにいるのかな?
普通に危ないよ? 津波みたいなスライムだよ?
でも、こんな頭の中に直接語りかけるように聴こえるのも変だ。
おそらく、クロエたちは魔力であたしたちに呼びかけてるんだ。
魔力の発信先を探すと、森の中に入らず様子を伺ってますね。
今、森の中には騎士団が入っていったのでしょうか。
リカルデントだと思われる魔力の位置が動いてる。
心配しないわけがない。
──自然災害級のスライムだし。
「ゼロちゃん」
「にゃ。ご主人さま‥‥」
「あたしが、レイティエンって名乗ってる意味分かる?」
「まさかにゃ? レイテン‥‥? あ、しまったにゃ」
えーい!
あんたもか!
レイテン言うなや!
「‥‥むうっ!」
「ふにゃあ! ご、ごめんなさいにゃあ!」
やっぱり、ゼロも日頃そう思ってたのね。
あなただって、あたしの0点の答案用紙の上で召喚された癖に!
あーあ。シラケました。
まあ、こう言われることは予想はしていましたさ!
「ゼロちゃん? レイティエンの由来はね──」
「ご、ご主人さま‥‥」
あたしは、魔力を抑えるのをやめて、ゆっくり両手を上にかざしました。
「──天女さまに変わって、光りと怒りの天誅を。 雷天!」
あたしは自分自身の名前を含めて詠唱をしました。
今まで使ったことのない最大魔力量をね。
あたしを危険な目に遭わせて怒らせた罰ですっ!
ゼロがすごい顔してますが、知りません。
そりゃもう、有名アニメの必殺技みたいですよ。
青きイナズマが、『ちゅどーーーん』って感じにね!
落雷後にはすぐに快晴に戻りますし、局部的な雷雲だから何の問題もありません。
するとあたしの周りのスライムは弾き飛び、水滴のように飛び散りました。
遠隔からの魔法操作も多重ノイズで妨害することもできる。
これはあれですね。ざまぁです。
あたしは手から放つ以外に、空からも地面からも魔法を放つことができるんだから。
それで、ウォータボールで消せない規模の山火事を何度も消したんだから。
あまりに危険なことだから、日常生活では使わないけどね。
例外は除きます!
青いものには青いものを!
自然災害には自然災害を!
「ゼロちゃん、脱出するよ!」
「にゃう‥‥。うう‥‥。怒らせたらいけない者たちばかりにゃ‥‥」
それをわざと聴こえるように言うから怒るんでしょ?
んん? 〝者たち〟って??
『転生前の記憶を取り戻せたのねレイちゃん! 若いのにつよかとね!』
この声は‥‥シャルちゃん?
「シャルさまぁ! にゃあの足が短くてすっ転んでしまい、申し訳ないにゃ!」
「きさーッ‥‥! こら台本をバラすんじゃないよ!」
「うう‥‥ッ! にゃふッ‥‥」
あきらかに〝貴様〟って言おうとしたよね? シャルちゃん?!
体が青くなったゼロが、これ以上もない青くなっていました。
ゼロの影からピョコンっと堕天使シャルダンが飛び出してきた。
「わりい、じゃなかった。 ごめんちゃい、レイちゃーん!」
シャルちゃんは宙でおみ足をキレイに見せながら土下座しながら着地した。
これは、いわゆる〝ジャンピング土下座〟というやつです。
このネタってゲームのネタだっけ? 芸人さんのネタだっけ?
あれ? まーいいや。
「プルーンちゃん、頭ん先だけお出ししんしゃい!」
『あかりまひた』
するとドラゴンの頭だけが、地面から飛び出しました。生首ドラゴン。
わあ。でっかい顔。でもおヒゲがかわいらしい。しかもプルプルしてる。
紫に近い青いスライム状のドラゴンの頭が、地面から3DCGのポリゴンが突っ切って生えてきたようにも見えます。
「このコ、ウチの下僕のプルーンちゃんやけんね。このコに《ツナミ・スライム》を拵えてもらったけんね。こう見えて女の子やけんね。ほら、プルーンちゃんご挨拶しんしゃい」
「あちしは、ぷるうんです。おどどかせてごめなさ‥。ゆしくおねがしま‥‥」
とても舌足らずに挨拶をするプルーンもあたしに頭を下げました。
大きい体をしていて、あどけない女の子のスライムドラゴン、プルーンちゃん。
かわいい‥‥。
「レイちゃんに転生前の記憶を思い出して貰うために、こっそりいっちょんかんやったとよ。うまくいかんやったけん、これが最後ん切り札やったっちゃん!」
「どうして、あたしが転生者って?」
「ウチを拾ってくれたある御方の依頼やけんね。その方も転生者で──」
あたし以外も転生者っているんだ!
それを知ってすごく安心しました。
ゼロとあたしだけじゃないんだーーって。
うれしい!
目の前の強者3名が「ごめんごめん」とすごい謝ってるし、こんなところ誰かに見られるとまずいよ?
「シャルちゃん。プルーンちゃん。顔上げて下さい」
「にゃ」
「あ、ゼロはだめね」
「ふみゅッ‥‥!」
シャルとプルーンとゼロが、あたしの反応を待っています。
3名揃って顔が青い気がしますが、ゼロは全身青い‥‥。
──ってことはあたしも全身青なのかも?!
あ、腕が青いし。
あたしは怒っているというより、このあとの不安しかなかったです。
だって辺境伯令嬢なのだし、いろいろとあとのことを考えないといけないのです。
「とにかく、プルーンちゃんをお借りしていいですか?」
「それは分かったっちゃけど、どげんして?」
「時間がありません。この辺境伯の住民たちに納得できる説明が必要になります」
その不安を取り除ける最適解を考えました。
《ツナミ・スライム》という災害級魔法が使えるのは、目の前の《スライムドラゴン》のプルーンだけ。
今は怯えた顔した生首ドラゴンで、そんな貫禄を感じさせず小さく見える‥‥。
シャルちゃんに嫌な仕事を任せられて可哀想です。
「住民にシャルちゃんの存在がバレたら──」
「困るけんね。あの御方に多大なるご迷惑が‥‥」
もう、あたしと辺境伯の領地に多大なる迷惑かけてるでしょ?
その〝あの御方〟ってひとにお逢いしたら、チクってやるし!
最悪まとめて全員に天誅下してあげるんだから!
あたしは〝チャベ(チクリ魔)〟やげんね!
「プルーンちゃんのいたずらをあたしが止めたテイにしましょう」
目の前の3名が大粒の涙を貯めて、何故かキラキラしてるし!
この3名、なあんにも考えていなかったんだなって‥‥。
「さすがご主人さま! 聡明にゃんね!」
「前世の役立つ知識ば、ちゃんとつこうて、山登って逃げたっちゃろ? さすがやね! レイちゃん!」
それで登り坂でも追尾する津波が誕生してしてしまったのか‥‥。
おそろしいことです。
「ゼロちゃんは、当分デザート抜きです。今思えば、誘導ヘタクソだったですよ?」
「なんでにゃあああ。でもそれでいいにゃ。当分スライムゼリーの気分じゃないにゃ‥‥」
ゼロの「もうコリゴリにゃ」と言う言葉に、みんなで笑ってしまったのでした。
‥‥
‥‥‥‥
──こうしてあたしたちを襲ったナゾの《ツナミ・スライム》の脅威は解決しました。
辺境伯騎士団たちがこちらに到着し、見た光景に驚愕していました。
その中にリカルデントことリカルドの姿もありました。
なにせ、真っ青な体に変貌したあたしが、小さいスライム状のドラゴンに向けて指を差し、厳しく叱ってる様子だったのですから。
‥‥叱ってるフリと言っても、クロエの叱咤激励をモノマネするようなものでした。
まあ、彼らもクロエさんの怖ろしさを知っていますから。
プルーンは体の大きさを変えることができました。
大きさをゼロくらいにしてもらい、あたしに叱られる役をやってくれました。
それでも、フリとは言え叱られるのはとても効いたらしく、泣きだしました‥‥。
あとでルビーベリーをたくさんあたえてご機嫌を取りましょう。
この《ツナミ・スライム》の件で、あたしとゼロの全身が青く変色しました。
それも、洗っても落ちないようになってしまいました。
髪も、肌も、目も、口の中までも‥‥。
青色になっちゃったって、本当に猫型ロボットじゃないんだからさ。
あーでも、あたし前世は9月3日生まれだし、ふつーにドラえもんでしたわ。




