2 青よりも青いブルー
短編と言えなくなるほど長かったら、ごめんちゃい。
大津波がこちらに迫ってます。
逃げても絶対に間に合わないし、もう窓の外の光景は見たくない!
あたしは愛猫のゼロとともに大津波に飲み込まれそうです‥‥。
覚悟していたその時でした。
『テロロロ・ローン♪ テロロロ・ローン♪ テロロロ・ローン♪』
大津波警報の通知音が、テーブルの上に置いた蜘蛛の巣画面の携帯から呑気に鳴り響きました。
鉄琴を奏でたような呑気なこのメロディは、今では呑気には聴こえないです!
日常ではない違和感に、あたしとゼロは思わずビクッとしました。
何故にこのタイミング?!
だってあまりに遅すぎでしょ通知!
どうなってるのよこの国は!?
こんなの0点な〝レイテンシー〟よ!
なお、レイテンシーの意味は、あたしにはわかりません。
意味もわからず使っています。
きっと、0点取ってシー!って言う意味だと思う!
絶対に違うと思うけど!
あたしはこの国の災害対策のレベルが0点だと失望しながらも、目の前に立派なヒゲを生やしたかわいい毛むくじゃらの顔を見て落ち着くしかなかったのです。
藁にも縋るアニマルセラピー。
死ぬ間際のアニマルセラピー‥。
人生最後のアニマルセラピー‥‥。
ねこかわいい!
ねこかわいい‥‥!
ねこかわいいいいいい‥‥‥!
ねこかわ!!
ゼロかわいいいい!!
ゼロもあたしを見てるし、見つめてる!
猫の癖にこの状況が分かるのか、目の下の毛がずぶ濡れです!
なんと聡い猫なのでしょう!
しかしいちいち視界が霞んで見えません。
あたしは目元を触るとすごく濡れる!
あたしも信じられないくらい涙と鼻水出てるのかも!
さっきまで鼻先に居たアセロラも、きっとキレイに洗い流れたことでしょう!
なんと聡いあたしたちなのでしょう!
「ゼロちゃ‥‥。ずっと一緒に居て」
「にゃふ‥‥」
「死んでもずっとあなたと一緒よ!!」
「にゃふ‥。にゃーふ‥‥」
「またどこかで逢いましょう!ゼロちゃ」
「にゃうー‥ん」
「‥‥」
「‥‥」
ここから異様に静かでした。
時が止まったのかと思いました。
まるでもう死んだのかと思うくらいに‥‥。
あたしはとうとう来たかと気づくと視覚と聴覚が一瞬でなくなりました。
水の冷たさや水圧もなく、息苦しいと言う感じもありませんでした。
でも、ゼロを抱いてる感覚だけはずっとありました。不思議です。
あたしはこれで終わったのだと覚悟したと言えば嘘になりますが‥‥。
家族とは幸せな日々を過ごせたな‥‥と思ったあとに、一切思考できなくなりました。
あっという間にあたしたちは、大きな波の一部になったのでしょうか。
感じるのは目の前がただただ青いだけ。
あんな泥水だったのになぜ青なのでしょうか。
青よりも青いブルー‥‥。
‥‥
‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
‥
「うわあっ! とうとう! 0点取ってしまったああ!! ヤヴァイ~!!」
あたしは、レイティエン・ビビアナイト。
辺境の森にあるナトロライト学園に通う4年生で、16歳の女子だ。
髪は亜麻色で、お気に入りの髪型はサイドテールにして、リボンは青系を付けることが多い。
気がつくと青色のリボンや服装を選んでいる気がする。
別に青いが好きとかそういうわけでなく、青が落ち着くんです。
魔法は得意な科目だけど、他はまぁまぁ。
特に地理が苦手‥‥。
そう思ってたら生まれて初めて、試験で0点取っちゃった‥‥。てへへっ!
あたしは地理の試験結果に、項垂れてしまった。
ちゃんと解答してるのに、名前も書いたのに、0点だったよ!
魔法を勉強しすぎた結果、ついに地理が0点になってしまったのだった。
しかし、こんなあたしには魔法がある!
「バラネロー!」
わたしは詠唱したあと、古い魔導書にあった通りの魔法名を口にすると、ウォーターボールが浮かびます。
ウォーターボールは同級生より3倍以上大きいのが出せるもーん
水温の調節も可能だし、氷もグラス1杯分に収まるほどは出せる。
雨状だと3時間ほど目に見える範囲は余裕で降らせられる。
それで森林火災の消火活動に何度も協力して、何度も表彰‥‥。
表彰式に辺境伯のご夫妻がいらっしゃって、ガチガチに緊張したあたしにとても優しかった。
辺境伯ご夫妻から、欲しいものはないかと聞かれ、あたしはある自伝書が欲しいとつい言ってしまった。
それは、聖女さまと闇の魔剣士さまが共同で書かれた自伝書「陰陽」だ。
光属性と闇属性という相性の悪いカップル同士だが、文章でこれでもかと伝わるラブラブな自伝だが、彼らは同じ世界から来た転生者であることも記されている。
女性を中心に注目を集め、なかなか入手できなかったが、夫人が私物をあたしにプレゼントしてくださった。
この書物はあたしのバイブルになっている。
将来は最強の魔法使いになれる有望株だとして、怪しい大人たちに囲われてしまった。
やれ宮廷魔道士になれるとか、やれ聖女さまになれるとか、いろいろ言われたけど‥‥
どれも戦地に駆り出されそうで嫌なんだけど?
そもそも、あたしは森に迷い込んでいた孤児で、保護されたあと孤児院で暮らしていた。
一人で遊ぶつもりで、何気なく草木に水をかけて遊んでると次第に変に注目された。
推定10歳になる直前に、いつの間にかあたしが学園に通うことが決まったのだ。
孤児院の院長ご夫妻から通うようにと言われたのです。
あたしは訳もわからず、孤児院から学園に通い始めました。
ところが、通い始めて数週間後には、事態が大きく変わることに‥‥。
あたしの人生。流れ流されています。
まるで波のように。
ビビアナイト辺境伯のご夫妻があたしを養子にすると言ってきたのです。
学園から孤児院に帰ってくると、辺境伯閣下のベルーナさまと、夫人のセシールさまの姿がありました。
あたしは、孤児院にご恩があるからと最初は断ろうとしたんだけどね。
すると、孤児院の院長夫妻は辺境伯夫人の両親という驚きの事実が。
となると、院長夫妻があたしの祖父母に?!
あれやこれやと、あたしは辺境伯令嬢となってしまった。
孤児のあたしがこうなっちゃっていいんだろうか?
令嬢って時には悪役を振る舞って、お茶会や夜会で活躍するという架空の物語本イメージしかなかったのに、あたしはなってしまいました。
普通であれば、跡取りのために男子を養子にするイメージがあるんだけど。
一般的に武力を重要視するのが辺境伯ってイメージもあったりする。
最初、戦地に戦地に駆り出されるのではと恐怖したのですが、そういうわけではなかったよう。
辺境伯夫妻の実子は全員男子の三人兄弟。
兄さまたちは皆結婚し、それぞれ家庭を持ったそう。
夫人は子離れして寂しくなったというのがあたしを養子にした動機らしい。
男の子が生まれてくるたび、夫人がとても女の子が欲しかったのだと閣下はカッカと笑っておっしゃられた。
そう言うものなのかしら?
あたしは何度も森林火災を水魔法で消火して表彰されるたびに、何度か夫人にお会いした。
あたしは表彰されるたびに緊張で赤面し、表彰状で顔を隠したりと、無礼でそそっかしくて、毎回申し訳なかったんだけど、その様子がかわいかったと夫人はキラキラな笑みでおっしゃられた。
ううう! うそでしょ?! 恥ずいよう!
あたしはまさに自分自身の顔からの出火し、そっちの消火活動が困難でした。
魔法で外傷を消したり癒やしたりできるのに、心の傷を消したり癒やすことができないのがなあ‥‥。
また、魔法能力の高いあたしが国外へ連れ去られるのではと危惧してたらしい。
確かに地理の成績が壊滅的なあたしが外国に行ったら大変なことになりそうだったので、そう言う意味では助かった。




