第九話 入会
次の日がやってきた。時限は五限目。疲れが如実に現れてきた。俺は一息つきながら、意味もなくノートをペラペラとめくった。すると、俺の元に俊太がやってきた。
「なぁ柊真。この次って委員会決めだろ? お前は何やるつもりなの?」
「風紀委員会」
「──マジか。お前ってそんなに真面目だっけか?」
「真面目じゃない。勧誘されてんの」
「──聞いたことねーぜ? 委員会に勧誘されるの」
「だろうな」
言えない。吸血鬼のために立候補しろ、と言われてるなんてこと、全く関係ない俊太に言えるわけない。
「で、俊太は何やるんだ?」
「──ま、俺はド無難に放送委員会だな」
「どこが無難なんだよ」
「知らないのか? 放送委員は担当の教員が死ぬほどやる気ないから、全くもって仕事をしないんだ」
「──それってズルくね?」
「まあな。でもこういうのは情報戦だろ? 先輩と仲良くなっといて良かったわ」
「まー、先輩と仲良くなってりゃ得だよな」
俺の場合は変な先輩としか絡んでいないから得できるかは分からない。なんなら損するかもしれない。
◇ ◇ ◇
委員会決めが始まった。担任が全ての委員会・係を張り出す。そして、生徒たちがその文字の下に自分の名前を書いていく。風紀委員会の下には目論見通り俺と咲良さんの二人しか名前を書かなかった。
しかし、俺たちが早々に決定したのをよそに、俊太の希望である放送委員会は激戦と化していた。枠は二つしかないのに、なんと六人も立候補してしまった。倍率は三倍。割と高い。
結局、放送委員会はジャンケンで決定されることになった。
「じゃん!」
「けん!」
「ぽん!!」
高校生男子らしい大声が教室に響く。俺は机から少し乗り出し、対戦の行方を確認する。
俊太は──勝っていた。
「っしゃぁぁぁっ!!」
俊太は──めちゃくちゃ喜んでいた。
「良かったじゃん」
「いやぁ、掴み取ったって感じだな!」
たかが委員会決めでアツくなりすぎな気もしなくもないが、俊太は昔からこういうやつなので、気にするほどの事でもないなと思う。
「はーい、とりあえず係決めは以上。早速だが放課後に仕事内容を聞きに行くように」
担任がそう言って、放課後になった。俺と咲良さんは所定の場所に向かおうと、プリントを見ながら行くべき場所を確認する。そこには、「三年A組」という情報が書かれていた。
俺たちは三年A組に向かったものの、そこに教師はいなかった。いたのは、お察しの通り風蓮先輩だった。
「おっ、風紀委員を選んでくれたのか! 大井柊真! そして長良咲良!」
風蓮先輩はありえないくらい輝いた顔でそう言った。──選ぶ以外の選択肢はなかったに等しい。だってこの先輩、中身はともかく見た目がイカつすぎるのである。茶髪にピアスなんて、どう考えたって風紀委員長の装いではない。
しかも、この先輩はイカついだけでなく、成績もめちゃくちゃ良いらしいのである。そんな優秀さだし、ピアスの規則は校則にないという事実も相まって教師陣も注意できないらしい。なんて人だ。
「ま、活動内容なんて大したものはない。ただ、大井だけは少し残れ。長良は帰ってもいい。──教室で大井を待ってもいいけどなっ」
風連先輩は可愛げのあるニヤつき顔で言った。思ったよりも気ぶり屋なのか……?
「──? はい、分かりました……?」
咲良さんはそう言って帰っていってしまった。いいのか、これ?
「んで、大井は南と会ったんだってな」
「あ、あぁ、ぐみさんですか」
「下の名前で呼ぶくらいの仲なのか……? まあいい。なら、黄金の血関連については色々聞いたことだろう?」
「はい、聞きました」
「ならば良い。ほら、手短に済ませたんだ。彼女の元に行け」
「ま、まだ彼女じゃないんですけど」
「あ、そうなんだったか? 心に決めた人、とか言ってたから付き合ってるものだと思ったのだが」
「そ、それは俺の言い方が悪かったですね」
「ふーん、まあいい。とにかく行け。大事な相手なことに変わりはないんだろ?」
「──はい」
俺は風蓮先輩に押し出され、教室へと戻った。
◇ ◇ ◇
教室に戻ったは良いものの、咲良さんの姿はなかった。教室以外の所で待ってるのかな? それとももう帰っちゃったか……??
と、不安になっていると、真っ白になっている俊太の顔が目に入った。何があったのだろうか……!?
「どうした──!?」
「──担当教員が、変わってた」
「……マジか」
「体育祭と文化祭で放送するらしい」
「あんなに喜んでたのに……」
ま、まぁ、先程の『仕事をやってない』という話が本当なら、見直されるのもやむなしか。
「──帰るわ」
俊太はそう言って、フラフラと歩きながら校舎から出てしまった。心做しか、その背中は彩度が低いような気がした。
「頑張ってくれ……!」
果たして俺の応援は、彼の耳に届いてくれるのだろうか。届かなくても、俺はお前を応援しているという事実は揺るがないぞ、俊太よ。
「──柊真くん」
聞き覚えのある声が耳に飛び込んでくる。咲良さんだ。先程の不安が杞憂に終わったことに安堵する。
「咲良さん、帰ろっか」
「──初めまして」
一瞬脳がフリーズした。しかし、その言葉の真意はすぐに汲み取れた。咲良さんの瞳の色は、惹き込まれるような紫になっていたのだ。そう、『四人目』だ。