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第六話 風紀委員

 家に帰った俺は、日課の筋トレを軽くしてから風呂に入り、その流れのまま歯を磨いて勉強をして眠る──そんないつもの流れにもかかわらず、なんだかソワソワして落ち着かない。今までの自分からは想像もつかないほどの積極的な行動の数々に、高校生という立場の付加価値を覚える。そして、それらがもたらした衝撃のカミングアウトに、ひとりドギマギが止まらない。


 吸血鬼……。実在することよりも、好きになった人がそうであった事の衝撃が大きい。現実離れした体験に意識がふわふわとしていると、スマホがピコンと通知を告げる。──咲良さんだ。


『今日はありがとう!そして驚かせてごめんね』


『吸血鬼ちゃんも、決して悪気がない訳じゃないの』


『あと、告白の答えも曖昧になっちゃったけど、いまわたしたちの中で喧嘩になっちゃってて……』


『しばらく保留、でいいかな?』


「ゆっくり考えていいよ」


 はぁ……一番不安になる回答だ。しかし、喧嘩になる、ということは可能性はあるのだろう。まあ、どんな結果になっても受け入れよう。それが告白したやつの覚悟ってやつだ。俺はそんなことを考えて眠りについた。


◇ ◇ ◇


 次の登校日……月曜日がやってきた。罪悪感か何かがあるのか、俺はなぜか早い時間に登校していた。


 扉を開けると、なんと咲良さんたち女子三人組が登校していた。


「おお! おはよう柊真くん!」


「──おはよう」


 俺は自分でも分かるくらい素っ気なく、咲良さんに挨拶を返した。


「柊真くん? どうしたんだい?」


 咲良さんは昨日のことなど何も気にしていないような様子で返した。


「い、いや……保留されちゃったもんだからさ」


「あぁ、あれは青の『人間人格』と赤の『吸血鬼人格』がそう言っているだけだから」


「『人間』と『吸血鬼』……? 『だけ』ってことは……」


「そうそう。だから個人的にはOKだよってこと♡」


「え……えぇ!?」


 そういえば、咲良さんは黄色の瞳になっている。もしかしなくても、別人格か? 俺は咲良さんに耳打ちし、質問する。


「ねぇ、もしかして三人目の人格……?」


「そうそう。黄色は宇宙人の人格。それと、耳打ちはしなくても大丈夫だよ。雛と蘭世には隠してないし」


 そう言うと、咲良さんの友達二人はうんうんと頷いた。ということは……いまの俺は一人の女性と半分付き合い、半分保留されている……という状況になってしまった……!? 


 なんて驚いていると、ガラリと横開きの扉が開いた。そこには、明らかに三年用の制服を着た身長の高い女子が立っていた。髪は短く茶色な上、耳にはピアスなんかが付いている。しかも、それにそぐわない『風紀委員』という腕章を付けている。確かに、スカートは割かし長めだ。


「大井柊真はいるか?」


「──えっ、俺?」


 子吉さんと高瀬さんが俺を押し出す。俺はなされるがまま、そのイカつい先輩の前へと出される。


「えっと、なんの御用で?」


「とりあえず風紀委員室へ行くぞ」


「ええっ!?」


◇ ◇ ◇


 俺は先輩に風紀委員室へと連れられた。なぜか金髪ポニテギャルの子吉さんも着いてきた。


「いきなり連れてきて悪かった。んで、オレは風蓮勇気(ふうれんゆうき)。風紀委員会委員長をやらせてもらってる」


 俺は風紀委員会、という言葉が嘘でないことに驚いた。目の前にいる自称・委員長の人物はどこからどう見ても不良だ。明らかに女子用の制服なのに一人称が『オレ』だし。


「あ、あの、風紀委員長がそんな格好していいんですか?」


「あ?スカート丈も問題ねぇし着崩しもねぇだろうが?ピアスは校則一覧には記載が一切ねぇし。規定がないってことは自由ってことだろ?」


 確かに、夏服であるからか着崩し自体はない。というかあったら露出度が高くなりすぎる。それに、この学校は進学校だから校則も緩い。それ故に頭髪付近に注目が集まる。


「茶髪はセーフなんですか……?」


「オレは水泳部だから塩素で色が抜けんだよ。地毛ならセーフ」


 たまに金髪やピンク髪の女を見たりするがそれは地毛なのだろうか?


「ま、御託はいいだろ。単刀直入に聞こう。大井、お前は長良と付き合おうとしているんだよな」


「えっ、なぜそれを!?」


と、言ったものの、大体察しがついている。きっと子吉さんから流れたのだ。女子の情報網の面倒くささが出ている。


「ウチが言っちゃった」


「やっぱりか……」


 俺はどうなるのだろうか。もしや、この人は過激派の咲良さんファンなのだろうか。


「子吉、どこまで話した」


「いや〜……なにも」


「──そうか。まあ、仕方ない。いいか、目の前にいる子吉、そしてさっきまで隣にいた高瀬は吸血鬼だ」


「──えぇっ!?」


「そうでーす、ウチは吸血鬼〜っ」


 衝撃の事実に、動悸が止まらない。つまり、俺と俊太は吸血鬼に囲まれてるって事かよ!?


「そして……大井、いいか。お前は黄金の血である可能性がある」


「おうごんの、ち?」


「──なあ、血を吸うことを許可してくれないか」


「えっえっ、もしかして風蓮先輩も……!?」


「そうだ……」


 風蓮先輩はそう言って首筋を見せた。彼女の首には多少の噛み傷らしき跡があった。


「オレも黄金の血だ……」


「えっ、そっちなんですか!?」


「ああ、だから血を吸うのは子吉だ」


「はーい、いいね?吸うからね〜?」


 そう言って子吉さんはワシワシと手を動かし、俺の左首に噛み付いた。やはり痛くはない。しかし、なんだか罪悪感が襲う。


「ん〜美味ー! 風蓮先輩と同じくらい美味いっ!」


「そうか、子吉がそう言うってこたぁ大井は黄金の血なわけだな」


「そうなんですか!?」


 色々よく分からない。俺は一つ一つ疑問を解決していくことにした。


「てか、なんで子吉さんがここにいるんですか?」


「単純だよ。オレの活動に協力してもらってんだ」


「活動?」


「ああ。吸血鬼に血を与えて健康にしてんの。黄金の血にはそういう効果があるからな」


「てか、その黄金の血ってやつもなんなんですか?」


「血が金色って言うわけじゃねぇけど、吸血鬼にとってはとてつもない美味しさで、黄金と同じくらいの価値ある血が黄金の血、らしいぜ。ま、詳しくは知らねぇし、詳しく知ってるやつは別にいるからな」


「そうなんだ……」


「それで、なんで俺が黄金の血である可能性が分かったんですか?」


「長良咲良が黄金の血を求めているから、だな」


「それまたなんで……?」


「知らね」


「無責任だなぁ」


「ま、本人には聞いてやるな。だいぶ話しづらそうにしてたしな」


「直接話を聞いたことがありそうな口ぶりですね……?」


「まァな。咲良が来たのも、黄金の血であるオレがいたからだ。ま、そしたら奇跡的に別の黄金の血がいたってことだな」


「そんなまさか……」


 なんてことだ。咲良さんがオレの体質を求めているってのか。


「んで、頼み事だ。風紀委員に入れ」


「──ええっ!?」


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