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第二話 帰り道

 惰性的に数十分が過ぎた。学年集会が始まったものの、俺の心は上の空だった。完全に脳内が長良さんに支配されてしまったのだ。


 長良咲良、っていい名前だよな。「良」という漢字がふたつも入っているし、長く咲く花の雰囲気も込められている。


 笑ったらどんな顔なのかな。可愛いんだろうなぁ。どんなことをすれば笑顔にさせられるのかな──。


 その他、一般的なイメージの青春を体現したかのような妄想に耽って話が頭に入りきらない。


 そして、いつの間にやら話が終わり、そのままホームルームをやって終業となってしまった。あ、午前で終わるなら弁当持ってくる必要なかったな……。


 帰りの挨拶を済ませ、クラスメイトたちは帰り支度を始める。それは長良さんも例外ではなかった。俺は、その姿を眺めているだけじゃダメだと決心し、思い切って長良さんに話しかける。


「長良さん、あのさ……」


「『一緒に帰らない?』と聞くつもりだったんじゃないかい?」


「えっ、あっうん」


「ふふっ、じゃあ一緒に帰ろうか」


 ど、どういうことだろうか……?あんなに内気そうだった長良さんが明るく振舞っている。それに、瞳の色も変わっているように見える。青かった目が、バチッと光る電気が煌めくような黄色に変わっている。


 しかし、なぜそんなことになっているのかを聞く勇気が出ず、俺と長良さんは一緒に教室を出た。


 それぞれのロッカーから靴を取り出し、履き替えてから歩き始める。俺がほんの少しだけ前を歩き、それに長良さんがついて行く格好だ。


 俺は不思議でたまらなかった。中学時代はどちらかと言えば恋愛に積極的でなかった俺が、いきなり女子と一緒に帰路についている。こんな状況は経験したことがない。


 こういうときは、なにかしらの話題を振ってあげるのが筋なのかもしれない。しかし、今の俺にはそんなことをするだけの余裕と実力が伴っていなかった。沈黙のまま校舎外へと出ていき、継続して校門からも出ていく。なんというか、情けない時間だ。


「もう、静かにも程があるんじゃない?」


 先にしびれを切らしたのは長良さんの方だった。俺よりも背の低い彼女が俺の顔を見る時は、どうしても上目遣いになってしまう。俺はその顔を直視することが出来ず、思わず両肩を上げて目線を逸らす。


「せっかく二人っきりなんだから、テキトーなことでも喋ろうよ!」


「そ、そうだよな……! それで、長良さんは……」


「あ、その長良さんって呼ぶの禁止ね! ボクのことは『咲良』って呼ぶように!」


「まだほとんど初対面なのに!? せめてさん付けで……咲良さん?」


「はははっ! これまた変な感じだなぁ……。まあいいけどね」


「それで、俺のことはなんて呼ぶの……?」


「うーん、柊真くん……かな?」


「『くん』、か……」


「嫌だった?」


「いや、新鮮だなって」


「ふふっ、そっか」


 そんな、初対面らしさの溢れる会話の中で、一つの確信を得る。さっきはあれだけ内気そうだったのに、逆に今は積極的にコミュニケーションを取ってくる、と。


「自己紹介のときは緊張してた?」


「うん? まぁ、そうなのかなぁ」


 長良さんは曖昧な口調でそう返した。というよりも、まるで自分事でないような口調だ。なんというか、あまりピンと来ていないような雰囲気を醸し出している。


「ちなみに、柊真くんの家はどっち方面?」


「西の方かな」


「同じじゃないか! まだ一緒に過ごせるねっ」


 咲良さんは屈託のない笑顔でそう言った。なんと罪な女性だろうか。そんな顔をされてしまっては、益々惹かれてしまうじゃないか。


 俺がドギマギしてながら両足を動かしていると、いつの間にか駅についてしまった。咲良さんはスマホを取り出して自動改札機にかざした。俺はその後に続いて定期入れをかざす。


 ホームへと上がっていき、次の列車を待つ。どうやら三分後にやってくるようだ。


「ちなみに、柊真くんの最寄りは?」


 俺は自分の最寄り駅を伝えた。


「えっ、ほんと!? 同じ駅だ!」


 驚く咲良さんの顔に、俺も驚いてしまう。中学が一緒だったってことは無いはずだ。それなのに、同じ駅になるだなんてことがあるのだろうか?


「もしかして、高校入学と同時に引っ越してきた……とか?」


「そうそう。ボクは最近になってこっちに来たんだ」


「そうなんだ……」


 彼女も高校入学と同時に環境がガラッと変わったらしい。流石にここまで共通点があると、なんだか運命的な何かを感じるな。俺は思わず口角が上がってしまう。


 そんな俺をごまかすように、快速列車が二番線に到着した。二人は少しだけ混んだ車内に入っていった。


 両開きの扉が閉まり、列車が加速していく。満員電車、という訳では無いが、夕方のラッシュアワーということもあって肩が触れ合うくらいには混みあっている。二人の乗車区間は少しカーブが多いからか、列車が右へ左へ小刻みに揺れる。


 俺は左手でつり革を掴み、肩口を覗く。咲良さんはなぜかうつむいていた。


「ど、どうかした?」


 俺は少しだけ心配になり、小さめの声で呼びかけた。彼女はこくりと頷き、それっきり動かなくなってしまった。


「なにかあった?」


 もう一度尋ねた。咲良さんは先程とは逆に首を左右にふった。そこで、俺はつり革を持っていた手をそのまま真下におろし、咲良さんの頭をぽんと触った。彼女は更に顔を下げる。俺は、その様子に悪戯心をくすぐられてしまい、軽く頭を撫で始める。


 咲良さんは、自らの頭を撫でる俺の手を右手でがっちりと掴み、手を先程までの定位置であったつり革の方へ上げた。


 俺はその手をどうすればいいか分からなかった。下げるべきか、上げるべきか。そんな迷いをしているうちに列車は大きく減速していく。その揺れに耐えきれなかった俺は、そのままつり革を掴んだのだった。


 列車はそのまま俺たちの家がある駅に到着した。ゾロゾロと人が乗り降りし、その流れに乗っかってエスカレーターへ搭乗する。咲良さんは俯いたまま、動く段差に身を委ねている。


 俺たちは入場時と逆の順番で自動改札機を通過し、出口へと向かっていった。俺は北口側に家があるので、南口から出ようとする咲良さんに手を振って別れを告げた。彼女は耳を真っ赤にして駅を去ってしまった。その様子を見送った俺は、数秒してからハッとした。


 しまった。なんで俺は頭を撫でたのだろうか。常識的に考えれば、そんなことをしたら引かれるのは必至。俺はあの行動を後悔し、ドン引きされていないことを切に願いながら帰路に着くのだった。

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