6.クソが!!!
ミアに迎えに来てもらって、無事に部屋に着いた。
第二王子に見繕ってもらった本を開いて、目を皿のようにして読む。
ここはスイード国。
建国からは119年。
建国当時からレックマイヤー家が王として君臨している。
30年前まで不治の病が流行していて、先代の国王は病で亡くなっている。
代々王家の者の髪色は赤。なのでこの国を象徴する色は赤。
やっぱり第二王子の髪がピンクなのは突然変異っていこと?
赤は薄めてもピンク色にはならないから、やっぱり王様の妾の子とかなのかな?
妾の子だからこの身体の子も毛嫌いしていたのかな?
自分の手のひらをみる。白くて細くて指も長くてとっても綺麗。
まあ、お兄さんがいてその人が王国を継ぐみたいだし、特に問題はなさそうだけど。
というより、不治の病って何よ。怖いじゃん。
本に目線を戻して、目を細める。
「活字キチィ〜・・」
本の上に突っ伏した。
字が読めることは良かった。
でも、本っていうか活字苦手なんだよね。
ユウタによく活字の苦手を克服しないと頭いい奴に騙されるぞって注意されていたっけ。
両親の保険金やら相続資産やらが多かったから親族だと名乗る人が連絡取ってきたりして大変だったなぁ。
「でも苦手なもんは苦手〜」
「お嬢様、お茶を淹れました。少し休憩なさってはいかがですか?」
顔を上げるとすぐそばでミアがティーカップを持って立っていた。
「うわーい!休憩するする!」
「私がお部屋に入ってきたことにも気づきませんでしたね」
「うん、集中してた〜」
お茶を飲むと煮え切った頭がスーッとした。
「何これ!!!美味しい!」
「ミントティーです。お勉強を頑張っているみたいなので」
「うーん!美味しいよー!ありがとう!」
目の前にクッキーがのったお皿が置かれる。
「おやつ!!!!」
「お茶に合うクッキーをご用意しました」
クッキーを一口食べる。
「おいしい!沁みる〜」
クッキーを味わっていると部屋のドアがノックされる。
ミアと顔を見合わせる。
「誰だろ?」
「来客なんて聞いていません」
「また第二王子の側近の人かな?」
第二王子と図書室で会ったし。
「いえ、普通は事前に連絡が入るはずです」
急いでドアの方に向かうミア。
ミアを見ていると驚いた様子で一度部屋を出た後、すぐに部屋に戻ってきた。
「お嬢様!第一王子殿下がいらっしゃいました!」
「え!?」
「本などを片付けてください!あぁお髪も整えたいし・・殿下にお出しするお茶も・・あぁぁ」
「はい!」
そうだよね、普通事前に連絡があって準備しておくものだよね。
急いで本を重ねて机のはじに寄せる。
髪も自分の手で整える。
「クソが!!」
「え!?」
「メイド長の野郎絶対わざとだわ、ふざけやがって」
ミアがテンパリ過ぎて立ち尽くしたままブツブツと文句を言い始めた。
「ミ、ミア落ち着いて!お茶は今出してくれたものと同じでいいわ」
「ですがお嬢様」
「大丈夫大丈夫、早くお迎えして差し上げて」
「はい!すぐに!」
私が立ち上がるとミアも急ぎ足でドアの方に向かった。
「やあ、突然お邪魔して申し訳ないね」
私はミア仕込みのカーテシーを披露する。
「お見苦しい箇所がありましたら、申し訳ございません。」
「ほう、記憶がないと聞いていたがそんなことができるのか」
「私には優秀なメイドが側におりますから」
一瞬第一王子の側近と目があって、逸らされた。
なんだ?
「ここいいか?」
「あ!失礼しました!どうぞ、おかけになってください」
よくわからないけど、ニコリとしたあと第一王子の向かいの席に座った。
赤毛に黒い瞳。第一王子も綺麗な人だなー。
第二王子をワイルドにした感じ。
興味深そうに辺りを見回している。
赤毛は後ろに無造作に束ねられていた。
「記憶が戻ったわけではないのだな?」
「はい、戻っておりません」
「そうか、今は何をしていた」
「図書室に所蔵されている文献にて勉強していました」
「そうか、何か分かったか」
「読み始めたばかりですので、まだ王族は代々赤毛だということくらいです」
「そうだな。なぜか王族のみこの髪色になる」
自分の髪を触り、苦笑いする第一王子。
あれ?黒い瞳だと思っていたけど、よく見たら深い緑色の瞳。
「ドレスをまた新調したのか君にしては控えめだな」
また?そんなに私ってドレスを買っていたのかしら。
「いえ、今持っているドレスの装飾を取って作り直してもらっています」
「装飾を取る?」
「はい、記憶をなくしてから重いドレスが身体に合わなくなってしまって軽いドレスにするためには装飾を取る必要がありました」
「新調すればいいではないか」
「そんなもったいないことできません」
「もったいない!?」
大口を開けて笑う第一王子。
こやつもまた失礼なやつだ。何がおかしい。
側近も目を見開いている。
「いやあすまんすまん」
ミアが持ってきたお茶を飲む第一王子。
「美味しいな」
「ええ!ミアの入れるお茶はとても美味しいのです」
私の隣に立ち、赤面するミア。
「何やらスッとする」
「ミントティーです。煮詰まっている私の頭がスッとする様にとミアが考えて入れてくれました」
「そうか、私も執務に追われていたからちょうどいいお茶だ」
そうだ!クッキーも食べてもらおう!
「ミントティーにはこのクッキーが合うんです!よかったらどうぞ」
「そうか、ではいただこう」
「殿下」
机に置いてあったクッキーを乗せた皿を持ってくると驚いた顔をした第一王子だったが、側近が止めるのも聞かずにクッキーをひとくちで口に入れる。
「殿下!」
「んん!うまい!」
側近が焦っている様子にクッキーを乗せた皿を持ちながらなんか不味かった?とミアを見るとやってしまいましたねお嬢様・・みたいな顔のミアと目があった。
「で、殿下、大変失礼を・・」
「いいんだ。素晴らしかった」
「ええ!私のメイドは素晴らしいです」
「お嬢様!」
「え?」
また大口で笑うとミントティーを飲み干し、立ち上がる。
「元気そうでよかった。妃教育には早々に戻れそうだな。ではまだ執務があるのでこれで失礼する」
「・・・妃教育?」
わー!!!忘れてたー!!!!