5.君は妙に癇に障るな
「ここには資料室?みたいなところはある?まずこの国のことを知りたいの」
1番の問題だった衣服問題をクリアして、やっと部屋の外に出られる。
庭園にお散歩!といきたいけれど、とりあえずのこの国のことを知っておかなきゃどうにもならない。
「図書室がありますのでご案内します」
ミアについて部屋の外に出る。
直前にミアに釘を刺された。
「もしも記憶喪失の事を知る人に会ったとしてもその事については決して口外しないようにしてください。部屋から一歩外に出れば誰に聞かれているか分かりませんからね」
「はあい」
そういえば、第二王子の側近が来て記憶喪失のことは家族にも秘密にしてって言ってたっけ。
何はともあれ、私には好都合。
この子の家族に押しかけられても困る。
「では、私は一旦下がります。1時間ほどでお迎えにあがります」
「うん!ありがとうミア」
図書室について、中に入る。
声をかけられることはなかったけれど、すれ違う人みんなに見られてたな・・
この子はこの城ではどんな存在だったんだろう。
今日の夜にでもミアに聞いてみようかな。
図書室を見て回る。
大きな城にしてはコンパクトな図書室で資料を探すのは比較的簡単そう。
「おぉ〜文字は読める」
本の背表紙を撫でると視界に桜色が入ってくる。
窓の近くの床に座り、本棚を背もたれに本を開いたまま眠っている第二王子がいた。
王子が床に座って眠っている・・?
第二王子のそばに腰を下ろして顔を覗き込む。
腰が痛くなりそう。
起こしたほうがいいのかな?でも気持ちよさそうに眠ってる。
「本当に綺麗な髪色、桜みたい」
染めているんじゃないのよね?地毛?これが?さすが異世界。
第二王子の髪を触ったところで腕を取られ、床へと押し倒される。
「きゃあ!痛!」
「・・・シャイリマール嬢?」
見開いた目に黄緑色の瞳。本当に桜を擬人化したみたいな人。
「痛いです。第二王子殿下」
「!」
手を離なし立ち上がる第二王子。手をズボンで拭いている。
私のような下賤のものなんて触りたくもないってこと?
なんか嫌な感じ。
「人に急に触ってはいけない。剣を持っていたら刺していた」
謝りもしないし、私がまだ立ててもいないのに手を差し伸べようともしないなんて!
流石にムッと来て言い返してしまう。
「こんなところで寝ているのが悪いのではありませんか?」
「ど、どう考えても勝手に人に触ろうとするほうが悪いだろう!?痴女に間違われるぞ」
「痴女ですって!?絶対に床に座って寝ているほうが悪いです!」
「なんだと!?」
第二王子の方に手を差し出す。
「なんだ」
「立ち上がるの手伝ってください」
「はぁ!?」
「押し倒したのは殿下ですよ。早く」
「君って奴は・・俺が触ったら嫌なくせに」
「何言ってんですか。紳士の風上にもおけませんね」
触りたくないのは貴方の方でしょうに!
軽くなったとはいえ、裾の長いドレスを着ていると1人で立ち上がるのは難しい。
何か言いたげに口を動かすが、ため息をついた後渋々手をとって立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます、紳士」
「君は妙に癇に障るな」
その言葉そっくりそのままお返ししたい!!!
背中がヒリヒリする。もう最悪!
フン!とわざとらしく踵を返すと本棚へと向かう。
「何しにここに来たんだ」
「本を探しに来たんですよ。図書室なんですから」
「君が?なんのために?」
後ろについて歩いてくる第二王子の方を振り向くと第二王子は一歩下がる。
さっきから本当に失礼な人。
「そんなことより、落ちた本を拾ったらいかがです?図書室の本は大切にする。基本です」
第二王子が読んでいて床に転がっている本を指さすと隣に潰れた麦わら帽子があることに気づく。
「え!ごめんなさい。私潰しちゃった!?」
急いで麦わら帽子を拾って元の形に戻すが第二王子のものにしてはサイズが小さい気がする。
「もう要らないものみたいだから気にするな」
「これ王子が被るんですか?」
「そんなわけないだろ、妹のものだ」
「妹!?がいるんですか?」
「母が違うがな」
「母が違う・・」
Oh!センシティブやん。
やっぱり第二王子は愛人の子とか?
聞きたい!でも聞けない!
「あー・・えーと、本を選んでくださいませんか?この国のことを知りたいんです」
麦わら帽子を第二王子に渡す。
「え、なぜ」
心底驚いている顔をしている。
なぜ僕が探すのか!?ってこと?
それともお前みたいな下賎なものが本を読むのか!?ってこと?
「本当に君が読むのか?」
後者だった!あぁムカつく。この王子嫌い。
「自分の住む国のことくらい頭に入れておかないと」
「いつか思い出すだろう」
「その時はその時です。勉強は無駄にはなりません」
「・・そうか、少し待っていなさい」
王子ってやっぱり甘やかされて育つから!!
拍子抜けするほどすぐに国の建国に関する本を数冊持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
一刻も早くこの王子から離れたい。
「それでは、部屋でゆっくり読みますので失礼いたします」
図書室の外に出る時に第二王子に向かってミアに教えてもらったカーテシーなるものをする。
「あ、あぁ」
図書室を出ようとして、気が付く。
私の部屋って・・どこ?
そういえば1時間ほどでお迎えにあがりますとか言っていたけれど、まだ30分も経っていない。
「どうした」
「いえ・・ごきげんよう」
殿下に話しかけられて図書室から出てしまった。
いや、なんとなく景色は見てきたし、いける?ワンチャンいける?
右だったよな?そうだ!右だ!
右に体を向けたところでフードを目深に被った王子が出てくる。
「君の部屋はこっちだろ?」
左だったー!あれー?
「そ、そうでした!殿下はもう本は読まないのですか?」
「あぁ」
「そうですか!では私はやはり少しここで読んでから帰ります」
「・・・そうか」
「はい!ではごきげんよう」
図書室の扉を閉める。
よかったー!!!よかったよー!危うく迷子になるところだった!!
なんだか最後殿下の顔が曇ってた様な気がするけど・・
気のせいよね!