1.何が何やら、何があったんでしょう?
【登場人物】
赤野井ゆい(24)
リリー・アドライナ・シャイリマール公爵令嬢(17)
ジャック・ロータス・レックマイヤー第2王子(19)
ミア(19):リリー専属メイド
ジュリアス・サンリル・アイリーロ(23):ジャックの側近
晩酌のつまみにしていたミニトマトをひとつ口に放り入れる。
「ん!?なにこれ!?チョコレート!?」
食感はミニトマトなのに味が濃厚なミルクチョコレート。
味が悪いわけではないが、違和感がすごくて飲んでいた缶ビールで流し込むと私は意識を失った。
「お嬢様!!!」
「ん・・・」
お嬢様お嬢様と繰り返し聞こえてくる。
「お嬢・・?」
目を開けると見知らぬゴージャスな天井。
「あ!!よかった!お嬢様」
「きゃああああ!!!!」
何!?なになになになに!?
「お嬢様!?大丈夫ですか!お嬢様!」
驚いて起きあがろうとするが、全身が重たくて動けない。
「う」
「あああ!お嬢様!医者を!ああ!まずはベッドに!あああ」
私はまた力なく床に倒れ込む。
「すぐお医者様をお呼びします!!お待ちくださいね!」
女の子がこれまたゴージャスな扉に向かって走っていく。
女の子はメイド服を着ていた。
「うお!?メイド喫茶?」
本格的なメイド喫茶にでも来たんか?
家でビール飲んでたはずだよなぁ・・
ていうか、あんなシャンデリア落ちてきたら一発アウトじゃない?
「一体ここはどこ!」
再び起きあがろうとして自分がゴージャスすぎる青いドレスを身に纏っていることに気が付く。
「は!?痛!」
コルセットが食い込み、痛くて起き上がれない。
大の字で寝転がる。
「どうなってんの?」
最近まで幼なじみのユウタに借りて読んでいた漫画を思いだす。
まさか異世界転生だなんて言わないよね。
自分のあり得ない馬鹿馬鹿しい発想に枯れた笑いが出る。
「夢なら早く覚めないかなー」
もう一度目を瞑る。どうせ夢ならもっといい夢見せてよねー。
ちょっと待って・・今確かに痛かった?
コルセットが食い込んだ部分をさする。
「こっちです!」
あ、メイドさんが帰ってきた。
「お嬢様!また意識がなくなってしまったのですか!」
焦るメイドさんの声が聞こえて目を開ける。
いいえ、意識はありますとも。
「あぁ、よかった!」
「シャイリマール嬢」
男の声が聞こえてそちらを見ると桜色の髪に黄緑色の瞳の麗人が膝をついてこちらを覗き込んでいた。
「わー、綺麗な色」
髪に手を伸ばす私の手を驚いた様子でかわす麗人。
「あ、ごめんなさい」
勝手に触ったりしたら嫌だよね。そりゃそうだ。
1年半あんまり人との関わりを持たない様にしていたから距離感がバグってる。
「嫌だと思うが少し我慢してくれ」
「え?キャ!」
麗人に簡単に抱き上げられベッドに優しく置かれる。
「医者は既に呼んである。休んで待つといい」
「え、あ、ありがとうございます」
「ジャック第二王子殿下、ありがとうございました。」
「第二王子!?痛い!!!」
上半身を持ち上げるとまたコルセットが食い込む。
麗人が眉間に深く皺を寄せる。
深々と頭を下げていたメイドさんが驚いた顔でこちらを見る。
「お嬢様?」
そういえばこの人の髪の色・・やっぱり絶対異世界説濃厚!!
「・・・勘弁してよ・・」
ベッドに上半身を預け手で顔を覆う。
異世界転生って・・あり得ないんですけど!?
「お嬢様!どうしちゃったんですか!?」
それは私が1番聞きたいよー!えーん!
「コルセットも痛いしー!」
「お嬢様!?」
「脱ぎたいよう!!」
「お嬢様!」
麗人は咳払いをする。
「混乱しているのだ。楽な格好に着替えたのちに医師の入室を許可するように」
「はい!承知いたしました」
メイドさんが素早く返事をすると深く頭を下げる。
うーわー本格的―。指の間で2人のやりとりを見ながら異世界来ちゃった感ひしひし感じてるけど、信じたくない。
「第二王子殿下つかぬことをお伺いしますが、その髪色は地毛ですか?」
「お、お嬢様!?」
「殿下を侮辱するか!」
知らん人が私と麗人の間に入る。
知らん人は銀髪じゃん!もうどんどん異世界転生確定してくるじゃん!
「あなたも地毛ですか?」
「意味の分からないことを申すな!」
「いい、下がれジュリアス。」
「しかし」
「今の今まで倒れていたのだぞ。水をやってくれ」
ジュリアスという名の、知らん人は軽く頭を下げると麗人の後ろに下がる。
ため息をついた後、ベッドの横の椅子に座る麗人。
メイドさんが私に水を持ってきて、コルセットが食い込まないように体を起こしてくれる。
はー、水が身体に染み渡るー。
「何があった」
「何が何やら、何があったんでしょう?」
「・・僕が誰だかわかるか」
「第二王子殿下・・ですよね?」
「僕の名は」
「わかりません」
「そこにいる侍女の名もか?」
「分かりかねます」
ガチャン!
飲み終えたグラスを落とすメイドさん。
「み、ミアの名前もお忘れで・・」
麗人が手をあげると気を失い、倒れそうになるミアを銀髪の人が支える。
あれ?瞬間移動?
さっきまで王子のすぐ後ろに立ってたよね。
驚いていると麗人はまたため息をついた。
「君、自分の名前は分かるか?」
「もちろん分かりません」
いや、私の名前は赤野井ゆいってんですけどね。
さっきこの人私のことシャ・・シャリなんとかって呼んでたよね・・?
「そうか」
麗人は立ち上がると手鏡を私に渡す。
「誰これ!?」
鏡を見ると青い瞳の金髪ロング美女が現れた。
うーわー。漫画でも転生先って大体が美女だったけど、私も例に漏れず美女なのかー!
現代だったらハリウッドデビューできそー!
なんか魔法使えそう!
ふんふ〜んふんレディオサーみたいなやつ。
「ここって魔法とかってあるんですか?」
王子にあっという間に目を逸らされてちょっぴり寂しい気持ち。
「・・今は君も色々と混乱しているだろうが、君の名はリリー・アドライナ・シャイリマール公爵令嬢。この国の公爵の娘だ。今はこの城に妃候補として王太子妃教育を受けにきている」
「リリー・・・???妃候補?」
カタカナ苦手なのよね。覚えられない。
「僕の名はジャック・ロータス・レックマイヤーこの国の第二王子だ。とりあえず医者に診てもらおう。詳しい話はまた後で」
「えーー・・と、なんだか色々とありがとうございました」
「では、失礼」
フードを被りながらゴージャスな扉に向かって歩いていく第二王子。
いつの間にか正気を取り戻していたミアが深々と頭を下げている。
私これからどうしたらいいんでしょ?