娘が聖女を往復ビンタして婚約破棄されたようです〜いやそもそも聖女は私(母43歳)です。娘を傷つけた偽聖女は絶対許しません〜
「ただいま帰りました。そして重大なお知らせですの。私、婚約破棄されましたわ」
卒業パーティーから帰ってきた娘が怒っているような泣いているような顔でそう言いまして。私は紅茶で咽せ、夫は持っていたクッキーを落とし、四人の息子達は固まり。
当の娘はハニーブロンドの髪を振り乱して、綺麗な緑眼に涙を溜めて、堰を切ったように事の顛末を話し始めたのでした。
グローリア王国フォーサイス公爵家の末っ子長女ことアレッタちゃんは、この国の第一王子であるトビー殿下の婚約者……だったはずなのに。
卒業間近の三ヶ月ほど前に聖女として学園に転入してきた少女、カトリーヌ男爵令嬢と殿下が恋仲になったのだとか。つまり聖女と婚約者が浮気したと。
「あの浮気殿下……私が進言しても聞く耳を持たず、嫉妬は見苦しいとか言いやがりまして……」
元々王子殿下を愛していたわけでもなくこれ以上嫉妬とか思われるのも癪だったようで、どんなに顔に泥を塗られても我慢していたらしいの。けれど数日前にその聖女が面と向かってマウントをとったことにブチギレ、往復ビンタをくらわせ、無視をしたのだとか。
「……国王陛下が、北の悪逆王の元に嫁げと」
今日の卒業パーティーでそのことを告発され、断罪された。しかも、判決は国外追放ならぬ死刑ならぬ悪逆王……つまりは北のグレイシャル王国への嫁入り。対してあの聖女と殿下は断罪後嬉々として婚約を結んだ……と。
「もう最悪の気分ですの! 私は謝りませんわよ!? おやすみなさいお父様お母様お兄様方!」
と最後に泣いて喚いてドアを乱雑に閉めてアレッタちゃんは自室に戻ったのでした。
「男運がねえのな、うちの妹」
「あいつ、変なところで運が良くて変なところで悪いからな」
「俺ちょっとあいつの好きなケーキ買ってくる」
「……じゃあ俺はあいつの好きな茶葉買ってくるわ」
長男と次男は悪口を言いながらも詳しい事情を調べに行き、三男と四男は傷心中の妹への差し入れを買いに行くようで。なんだかんだ言って妹を可愛がってるんだから。
とまあ、部屋に夫以外誰もいなくなったところで。
「私の可愛い娘を傷つけて……許さないわ」
よくも私の可愛い娘を傷つけて泣かせたわね……あのクソ王子と”自称“聖女をどうしてくれようかしら……。
怒りで思わず地響きが起きたけれど、不可抗力だわ。
「そもそもその男爵令嬢が聖女? 笑わせないで頂戴。聖女は”私“なのだけど」
国王陛下ならびに屑どもに申し上げるわ。あなた方が害したのは聖女の娘よ。
そもそもなぜ王族と血縁でもない我が家が公爵家なのか、考えたことがないなんて。
先祖に初代聖女を持ち、妖精を包む大樹のあるフォーサイス領。何百年に一度聖女が生まれ、聖女が育つ地。
たった二百年聖女が現れなかっただけでこのことを忘れるなんて国中にわとり頭なのかしら。
そして今の聖女が私、エラ・フォーサイス公爵夫人、43歳。あらやだ年齢言っちゃったわ。
その夫で現当主がジェフリー・フォーサイス公爵なのでした。
「そ、そろそろ災害レベルの被害が起きるから怒りを鎮めてくれエラ」
「……あなただってずっと手をキツく握りしめてるじゃないの。血が滲んでるわ」
手を広げさせて、地の妖精に治癒の魔法をかけてもらって。奴らの罪は、間接的とはいえ夫を傷つけたことも追加ね。
「ありがとう。それで、やはりその男爵令嬢は聖女じゃないんだな」
「ええ、昔に妖精達に聞いたけれど、他に聖女はいないって言ってたわ」
「そうだよな。君が聖女だもんな」
この事実は私と夫しか知らない。
だって目立つつもりがなかったのだから。元々私はフォーサイス領の大樹のある村の孤児。つまり平民。大樹の元で生まれ、妖精の加護を受け、聖女の力を持っていたけれど、正直世界は当時も今も平和。聖女の出番はなかったし、聖女として何かするつもりもなかったのでした。
けれど、お忍びで来ていて迷子になっていた公爵家の一人息子……つまり今の夫を助けたところ、惚れられてしまい。かくれようともしたけれど、娘と同じ金髪に少々特殊な虹彩を持つ緑眼は目立つようですぐに見つかり。ちょうど孤児院を出ていかないといけない年だったので紆余曲折ありながらも公爵家に嫁いだのでした。
ほんと、大変だったわ。気に入らないと思った人が毒殺しようとしてきたり、駆け落ちして逃げたらしい夫の元婚約者様が、うまくいかなくなって戻ってきた上に私達を離婚させようとしてきたり。
初夜に私の純潔が失われることに怒り狂った一部妖精が暴れて、夫に聖女なことがバレたり。
「それで、これからどうするんだ? 無論、私は国王陛下に直談判しに行くが」
ええと、思わず怒りと回想で我を見失っていたけれど、現状は……。
娘が断罪されて、悪逆王の元に嫁ぐことになった。王子殿下と偽物聖女が婚約。娘は部屋に篭って泣いている、と。
ええ、もう絶対許さないわ。地獄に落とすだけじゃ生ぬるい。
「いいえ、直談判は待って頂戴」
これは徹底的に潰さねば。とすると、ただでさえ傷ついたアレッタちゃんに汚いものを見せることになる。
悪逆王……つまり最北の国グレイシャル王国への嫁入り、好都合かもしれないわ。悪逆王の噂も本当か疑わしい点がいくつかあることだし。調べてからでも遅くない。
「闇雲に動いてもしょうがないわ。全て調べてからにしましょう」
全盛期には劣るけれど、今従えている風の大精霊の数は三体。まずは、国王陛下、偽物聖女、悪逆王のことを調べてきてもらいましょう。
『頼めるかしら』
『エラの頼みとあれば』
『任せて』
『了解』
そして腹の虫が治まらないのでウンディーネとサラマンダーで、あの浮気王子殿下の大事なところを火傷させることに。大したことじゃないわ、ちょっと熱々の湯を股間にこぼしてもらうだけ。
「ふふふ……ふふふふふ」
「……何をやっているのかはわからないがとりあえずもう始めたのはわかった」
「貴方は教会を探って頂戴。大精霊の数が足りないの」
「わかった」
さて、私の娘を泣かせた奴らに罪を受けてもらいましょう。泣いて詫びても、優しいアレッタちゃんが許しても、私は絶対に許さないわ。
「本物の聖女の力をとくと思い知るがいいわ」
しかも母になった最強の、ね。母は強しなのよ。
*
『……外交上の問題じゃな。彼女が殺されれば戦争に、でなければ弱みに、と考えているようだ。こんなのが王とは嘆かわしい……って』
『あの偽物、禁忌の魔法道具持ってたのよ。ああ気持ち悪かった。だからあまり近寄れなかったわ……だそうです』
『北の方は、全然悪逆王じゃなかったよ。むしろ弱かった。顔は怖かったけど、声小さくて、優しい人間だった……とのことです』
さて早二週間。部屋で夫の報告書を読んでいるところに妖精達が大精霊達の伝言を言いにきてくれていたのでした。
なるほど。これで大まかな方向性は固まったわ。
ちなみにあの日の翌日、アレッタちゃんは泣き腫らした顔でも朝にはちゃんと食堂に現れ、それはもうもりもりご飯を食べていたのでした。これはやけ食いなのかしら……と思うほどに。その後は剣を振ったり、庭を走り回ったり、読書をしたり。我が娘ながら立ち直りが早いというか。とにかく心配なさそうでお母様は一安心。
「エラ、失礼する」
「あら、あなた。どうなさったの?」
「国王陛下がアレッタの嫁入りについて催促の書簡を送ってきた」
そのまま報告を聞いていたらジェフリーが、焦った様子で書簡を手にやってきたのでした。
情報が集まるまでのらりくらりと躱わしていたのだけど……もう必要ないわね。
「そんなに焦らなくて大丈夫よ。ちょうど妖精達が帰ってきて報告してくれたの。アレッタちゃんはお嫁にいかせることになったわ」
「え!?!?」
ジェフリーは、持っていた書簡を落として、真っ青な顔に。
あらら?
「アレッタを嫁に!? 私は嫌だぞ!?」
「娘だっていつかは親の手を離れるものよ、あなた」
「嫌だ……嫁に出したくないっ! 相手が酷いやつだったらどうするんだ」
「相手が気に入らなくても自力で逃げ出すわよあの子は」
パパっていうのは鬱陶しいのね……アレッタちゃんが小さい時から面倒くさくはあったけれど……ああもうべしょべしょに泣いてるわ。
「まったくもう〜〜、そんなに泣かなくていいでしょう? それに悪逆王なんて名ばかりの優しい人らしいわよ。精霊が言うのだから間違いないわ」
「嫁にはやらん……」
「あなたも強情ね……」
その後説得に二時間かかり、色々手続きの準備をしている頃にはもう夜になっていたのでした。
ちょうど息子達も帰ってきたので呼び出しまして。
「……と言うわけでアレッタちゃんはお嫁に出すことにしたから、当日は話を合わせて頂戴」
「それ結構ひどくないですか」
「いやまあ、手を出したあいつも悪いってのは間違ってないだろ」
「でもあんだけ傷ついてんのに」
「その傷ついてる妹、今日俺の分のクッキー食ってたぞ」
と言いながらも、協力してくれるようで、計画は着々と進んでいる。
あとはアレッタちゃんをお嫁に出した後、証拠をまとめ、一年に一度の世界会議、その後の舞踏会で全てを明かしましょう。聖女が偽物なことも、次期国王が浮気したことも。
*
「では……私も悪いと、そう仰りたいわけですのね。お父様もお母様もお兄様達も」
「そうよ」
「あれだけ散々手だけは出していけないと言っていたのに。反省しなさい。まあ……、お前なら逃亡だってなんだってして帰ってこれるだろう」
と一芝居打ちまして、無事に娘を送り出すことに成功。でもまさか、最後に一発王子殿下を殴って行くとは思わなかったわ。これで不利になることはないと思うから、別にいいのだけど。後処理が大変……。
そうして約一ヶ月後、ちょうど書類が整った頃でした。
『エラ様〜、エラ様〜』
『なあに?』
『アレッタは無事にグレイシャルに着いて、王様と仲良しだよ……とのことです』
どうやら向こうでもアレッタちゃんは上手くやれているようで、今は婚約関係なのだとか。城下町デートをしたり、春の狩猟祭に参加したり、楽しくやっているそう。
なんだか勝手に日記を覗いているようで申しわけないけれど……許してちょうだい、アレッタちゃん。精霊が嬉々として報告してくるの。
『でもねでもね、二人ともお互いのこと好きなのに全然番にならないんだ。なんか、色々勘違いしてるんだよ……だそうです』
『あー……想像がつくわ』
どこで育て方を間違えたのか、アレッタちゃんはどうも鈍いところがあるの。鈍いというか、恋愛がわからないというか。どうしてこうなったのかしらと思わず聞きたくなってしまうような思考というか。
でもまあ、そろそろ書類にアレッタちゃんのサインも、グレイシャルの国王ともコンタクトを取る必要もあるわけですし。ちょうどいいわ。
『レターセットを取ってくれる?』
『こちらですか?』
『そう、ありがとう』
さて、まずは怒っているような文章で一時的に帰国するように言いつけまして。
これが届く頃には……きっともう初夏ね。
【愛する娘アレッタちゃんへ
元気でいるかしら? お母様はとっても元気よ。何故って、それはもちろん馬鹿娘が約束を破ったから。頭が軽すぎて忘れちゃったの?
落ち着いたら安否確認の手紙を送るようにお母様は言いましたよね??
冬の終わりに嫁いで行ったけれど、もう夏よ? 夏】
きっとここであの子ならこう言うわ。「お母様、まだ”初“夏ですわ……」って。
【細かいことはどうでもいいの】
だから、こう書いておきましょう。ふふふ、驚いている顔が目に浮かぶわ。
【とりあえずお母様はとても怒っています。色々しでかした上に約束を破るなんて言語道断よ。これは“お話”する必要がありそうね】
と書いておけば、おそらく飛んで帰ってくるでしょう。けれど、あともうひと押し。
【一度お家に帰ってらっしゃい。……帰ってこなければどうなるかくらい、わかるわよね? 手紙の件は忘れていても】
昔から色々とやらかしてきていたけれど……、あの時はブチギレてお尻を叩いたわね。イタズラで大事な花瓶を割った上に逃げて、領中で追いかけっこになった時は……貴族の令嬢がそんな一人で逃げて攫われたっておかしくなかったというのに。衝動で動いてしまう癖が治っていることを祈るわ。
【突然のことでびっくりしてしまうだろうから、王家にも手紙を送っておいたわ。まさか貴女が嫁ぎ先でうまくいっていないなんてことはないでしょうし。伝書鳩を使っていないから少し遅いかもしれないわ。じゃあ待ってるわね。
かなり怒っているお母様より】
これでよし。あとは帰ってきた時にお説教しながらそれとなくサインさせれば完璧ね。あの子の好きなお菓子とお茶を用意しておかなきゃ。ふふふ、まだ気が早いかしら。
さて、次は王家への手紙……。ちゃんとアレッタちゃんを世界会議に連れてきてくれなくては困るもの。精霊によると、もう事情は全て調べ終わっているそうだけれど。
【拝啓 初夏の候、貴国のなお一層ご繁栄の事とお喜び申し上げます。
さて、この度の手紙で申し上げたいのは、我が娘、アレッタ・フォーサイスについてです。
表向きでは和睦の証としての嫁入りですが、実際はそうではありません。貴方様も知っての通り、実際は不当な理由で国外追放のような形で貴国に嫁いだのです。我が国を代表してお詫び申し上げますとともに、世界会議後の舞踏会にて、すべての告発を行うつもりです。娘には、内密にしていただけますと幸いです。
どうか、お力添え賜りますようお願いします。敬具】
とまあこんな感じでいいかしら。細かいことは二枚目に書いておいて、と。
アレッタちゃんへの手紙を伝書鳩に、国王陛下への手紙は精霊に託して。
『アレッタちゃんが出発してから渡して頂戴』
『かしこまりました』
ねえ、グレイシャルの国王陛下。アレッタちゃんは可愛いでしょう?
そして目論見通り、アレッタちゃんは一度家に帰ってきまして。殿下を殴ったことやお片づけをせずに出て行ったこと、ついでに風の噂で聞いた程で、狩猟祭で国王陛下を助けるためとはいえ雪山へ単身一人で乗り込んだことなどを叱ったのでした。そうして叱られてクラクラになっているところでサインをさせて無事完了。
その後はグレイシャルでの生活や今の流行りなどを聞いて穏やかに過ごした後、また見送ったのでした。
「うう……アレッタ……」
「よかったわ、アレッタちゃんの前で泣き出さなくて」
*
ちょうどアレッタちゃんがグレイシャルに帰った頃。
お節介な精霊のせいか、私の聖女の力のせいか。アレッタちゃんの夢を、私も見ていた。
『アレッタ・フォーサイス嬢! お前は聖女、カトリーヌを傷つけた! よって、ここに婚約破棄を言い渡す!』
卒業パーティーの会場で、王子殿下が高らかに宣言した。聖女はクスクスと笑いながら、殿下に抱きついている。
『まあ……なんてこと』
『聖女様を傷つけるなんて』
『酷いわ』
周りから一斉に、悪意のある興味の目を向けられ、アレッタちゃんは内心怯え震えていた。
──どうして、私がこのような目に遭わなければならないの?
けれども、公爵令嬢としての矜持を持ち、凛とその場に立つ。震える手で扇子をギュッと握り、声を低くする。
『私は、手続きを踏まずに婚約者を奪った方の頬を一、二発ほど叩いただけですわ。「可哀想な負け犬」などと仰ったそこの殿下と抱きついている方の』
キッと聖女を睨みつけ、扇子で怖くて震えている口元を隠した。
『別に王妃の座に興味はありませんの。婚約破棄、ご自由にどうぞ。ただし、正規の手続きを踏んでから』
──私はただ、前王様に殿下と婚姻を結ぶよう、お願いされただけなのです。
そうして踵を返し、家に帰ろうとした時、国王陛下がカツンと杖を鳴らした。
アレッタちゃんが驚いて振り向けば、
『聖女を傷つけるとはなんということだ。アレッタ・フォーサイス嬢、そなたには北の悪逆王の元へ嫁いでもらう』
と、事実上の断罪を告げられた。
この言葉に周囲はよりざわめきを増す。
『つまりは国外追放?』
『いいや、死刑だろう』
『いい気味だわ』
──悪逆王への嫁入り。そんな……そんなのって……。
怒りで泣きそうになる気持ちを抑えて、アレッタちゃんは毅然として言った。
『私は、これを罰だとは思いません。何も、悪いことはしておりませんから。一臣下として、謹んでお受けしますわ』
その一言で視点が変わる。
今度は、アレッタちゃんの部屋に幽体としていた。
「うう……うう……ひっく」
アレッタちゃんは高熱と夢に魘されて泣いていた。銀髪碧眼でガタイがよく、少々怖い印象だけれど、優しい顔をした身なりのいい男性がアレッタちゃんの側にきた。これがグレイシャルの国王陛下なのね。
陛下は、アレッタちゃんの氷枕を変え、涙を拭い、頭を撫でる。
「アレッタ嬢、どうか、泣かないでくれ」
アレッタちゃんと同じくらい辛そうな顔に、昔色々なことがあるたびに共に乗り越えてきた旦那様、ジェフリーの顔を思い出した。きっと、アレッタちゃんは大丈夫ね。嫁に行かせて正解だったわ。
「わたぐじ……わるぐありまぜんの……」
そしてその一言で、ハッと目が覚めた。横ではジェフリーがすやすやと寝ている。頭上にいるのは心配そうな顔をしたシルフ。
『あなたの仕業ね』
『わたし、アレッタのこと気に入ってるの』
『大丈夫よ。あいつらは地獄に落ちる以上に辛い目に遭ってもらうから』
*
「グローリア王国フォーサイス公爵家のおなーりー」
世界会議では、我が国の聖女についての議題が主だった内容で。いよいよ断罪返し本番の舞踏会。少々緊張しているジェフリーの背中を軽く叩きまして、最初のダンスを。
ふと会場を見回すと、綺麗な水色のドレスに身を包んだアレッタちゃんが陛下と踊っているのでした。
あらあら、うふふ。好きな人の色のドレスだなんて。
「それで、どのタイミングなんだ?」
「……見てて」
今ね。
風の妖精が殿下の足をもつれさせ、他のご令嬢にぶつかるよう仕向け、そこへ偽聖女が金切り声をあげて登場。
「殿下、浮気だなんて!!」
「わ、私は浮気なんか!!」
コツコツとヒールを鳴らし、二人に近づく。
「いいえ、お二人とも浮気をなさってましたわ。ご機嫌良う、浮気殿下に偽物聖女様」
殿下は顔を青ざめ、聖女は私が誰かわからないようで。
「皆様、この場をお借りして伝えたいことがございます」
さすがは世界会議。さすがは各国の主要人物。音楽はぴたりと止まり、あたりは静まり返る。
「発言の許可を感謝いたしますわ。世界会議での内容に誤りがございます」
偽物聖女もやっと事の重大さに気付いたようね。
「この方は聖女ではありません。禁忌の魔具を使った偽物ですわ」
そう告げると、グローリアの陛下は目を見開き、偽物聖女は慌てて叫ぶ。
「っう、嘘よ!! 嘘に決まっているわ!!」
グレイシャルの国王は打ち合わせ通り挙手をする。他国の王は、現状を淡々と見極めようとしているようね。
「フォーサイス夫人、それは真だろうか。証拠をご提示願いたい」
「ええ、こちらにございますわ」
そこには、妖精の地、フォーサイス領の大樹の状態、魔具による妖精への被害、結託した教会の悪事、ついでに二人の浮気について全て記してある。
各国の王たちは現状を把握すると、未だ喚く偽物聖女を拘束するように指示した。
「っこんなはずじゃなかった!! あんたのせいよ!!」
逆上した偽物聖女は、アレッタちゃんに飛び掛かる。
馬鹿ね。アレッタちゃんは……
「ふざけるのも大概にしてくださいまし!!」
そんなに柔な女の子じゃなくてよ。
華麗に背負い投げを決め、偽物聖女を拘束した。
「わ、私は悪くない。カトリーヌが偽物なことなんて知らなかった無実だ」
「いいえ、教会と結託して私の娘、アレッタちゃんを陥れた罪がありますわ」
拘束された聖女を見て、状況の悪さを理解したらしい殿下はわざわざ無意味で耳障りな弁明を始めた。
「そもそもっ……長年婚約者でありながら他国の王……ましてや悪逆王の元に嫁ぐなんて!! アレッタの方が悪い!!」
「私の未来の旦那様を貶すなんて許しませんわ」
とそこにアレッタちゃんのアッパーが。
何を言っているのかしらこの馬鹿殿下。長年婚約者でありながら浮気したのは貴方ですし。嫁いだのは貴方のお父様、つまり国王様が命じたからであって……ああ血管がぶち切れそう。
と怒り心頭に発しているとき、より怒っている人の気配……。
「俺の妻の名を……軽々しく呼ぶな」
アレッタちゃんを抱きしめ、高い身長で見下ろしながらブチギレているグレイシャルの国王陛下、アレッタちゃんの未来の旦那様が。
そうだわ、もうアレッタちゃんには怒ってくれる人がいるのよね。それとこれとは別としてこの浮気殿下どうしてくれようかしらって感じだけれど。
「ひっ!!」
そして二人仲良くお縄に。グローリアの国王陛下は国際裁判を受けることに。
アレッタちゃんとその未来の旦那様は幸せそうに会場を後にしたのでした。
「いつ頃、孫の顔が見れるかしら〜」
読んでいただきありがとうございました!
このアレッタちゃんと陛下の話を描いているのが、『悪逆王に嫁がされました……が、ただの強面で小声でしたの!?〜本当は優しい陛下の汚名返上したいのです〜』という作品です。下の方にリンクを貼っておきますのでよければぜひ!
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