蔑まれた者たちへ
「改竄」
「人は都合の良いものを信じたがる。
例えば、都合の良いものなどを悪いものと信じようとしない。」
Fact1
「蔑まれた者たちへ」
「これさ、なんだと思う?」
唐突に声が響く。
声の主は東京帝国大学の山崎教授であった。
山崎は含み笑いをしつつある言葉を投げかける。
「人は都合の良いものを信じたがる。
例えば、都合の良いものなどを悪いものと信じようとしない。」
そんなことは当たり前だ。
だって人は正しいと思ったことしかしない、のだから。
薄暗く薄気味悪い研究室。
遮光カーテン。
光が僅かに差す。
思えばその日からだ。
その日から彼の人生は変わってしまった。
この醜い化け物によって。
醜い、醜い化け物。
思えば今も昔も食われるのは弱者の方であって強者の方ではない。
取り込まれた方が負け、だ。
取り込まれれば間違いなく強者の食い物となる。
要は従わなければ野垂れ死ね、ということだ。
今も昔もそれは変わらない。
なぜならば今でも社会という機構に取り込まれなければ生きてはいけない。
社会。
人は常々、頭を悩ませる。
なぜ幸せもあるが不幸も多いのかと。
その多くは人の悪意からだ。
悪意があるから社会内での不幸は起こる。
悪意がなければおおよその不幸は防げる、のであろう。
若く美しい一人の女と東帝大では平均、という程度の男。
二人の契約。
甘い蜜。
仄暗い血の匂い。
その末路が暗く冷たいことは誰の目から見ても明らかであった。