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取り戻す 群青色の日々  作者: 桜炎
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第5話 賭けと王様

半ば強制で首席とテストで勝負するという展開になり暗澹となっている俺を横目に、担任の高尾野が教室に入ってきた。


「おはよう。ではHRを始めるぞ。では号令」


「起立、礼。」


俺の近くから凛々しい声が聞こえた。そういえば琴葉は委員長だった。


「今日は国数英だけだけどテストがあるな。中学校の内容がどれだけ身についているか確かめるだけで成績には反映させないから気にしなくていいぞ。」

高尾野はそういうけど、俺は首席に勝てなかったらパシリになるかもしれない身分だぞ⁉︎

例えば、これから毎日、「スコールを買ってこい」と命令されるかもしれないんだぞ⁉︎スコールとカ●ピスソーダの味の違いは分からないが。


「まあ、簡単すぎると皆も退屈しそうだから、数学は皆が楽しめるように問題は作ったつもりだから、そのつもりで」


続けて高尾野が口を開く。テスト問題は退屈なくらいがちょうどいいんだよ‼︎これ絶対難しいフラグだよね⁉︎難しい問題じゃ生徒は楽しめませんよ。高尾野先生。と精神が不安定になりかける。どう考えても琴葉に負ける未来しか無い。


「じゃ、皆もテスト勉強したいだろうし、この辺でHRは切り上げようと思う。」


ここでHRは終わる。1時間目は国語のテストだ。テストまで残り10分。もうここまできて今更琴葉に勝てるほどの記憶を作るのは、無理だと悟った俺は諦めて寝ることにした。


10分後、国語のテストが始まった。国語は実質運ゲーだ。自分の感性とか考えとかに合う文章が出れば勝ちというくらいに考えている。今回の運ゲーの結果は星5つ中星3つといったところだろう。そこそこ読みやすい。論述問題も解けることは解けるが変なニュアンスで減点を喰らうからクソだ。


解けたという自信も爆死したという絶望も感じず、国語は終わった。

休み時間、

「テストどうだった?」

そう琴葉が聞く。

「まあまあだった。」

そう答えるしかなかった。

「私、国語苦手だからあんまり自信ないんだよねー。悠一に負けるかも。『何でも命令していい』とか言ってもエッチなこととかはダメだからね。まあ、悠一はしないか。」


「あと、もし、琴葉が勝っても1〜2回のパシリならまだしも、『毎日パシリしろ』とかの命令はやめてよ。俺の金にも限りはあるから」

一番の俺の懸案事項を琴葉に交渉してみた。それを言った途端、琴葉は笑って、


「あはは、悠一は私がそんな残虐なこと命令すると思ってるの!?私もそこまで鬼じゃないよ。もうすでに悠一に行う命令は決めたから」

と言った。

「そう。ならよかった。」

と口には出しつつも、決めた命令の内容が気になりすぎる。逆に不安だ。極端な話、『パシリにしない』のであって、『サンドバックにする(物理的に)』というのかもしれない。


「琴葉は何の命令をするの?」


「それは私が勝ってから発表します。」

琴葉は口を割らなかった。しかし、何かを企んでいそうな顔、嬉しそうな顔は漏れ出していた。2時間目。数学。試験監督であろう高尾野が教室に入ってきてテストが始まろうとする。


数学の問題が配られ、シャーペンを持とうとした瞬間、絶望した。大問1からわからない。大問1を飛ばして、大問2、3、4と見たけど、ぱっと見ではでは解法が思いつかない。HRの伏線が回収された。今年の高校入試の5倍は難しい。じっくり考えるか、適当に数字を埋める。12分の5とか最もらしい数字を書くとかして。まあ、高尾野も優しいのかじっくり考えたら見えてくるものがあり、そこから数問は解ける。さすがに琴葉も苦戦しているだろうと思っていたが、琴葉はスラスラとシャーペンを動かしているのが見えて絶望した。高尾野の渾身の難問にも屈していない。GAME OVER 。こういう状況だがコンティニューできないから人生はクソだ。


高尾野はそこら辺にあったパイプ椅子に腰掛けて腕組みしてニヤニヤしていた。どうですか。自分が作る問題で生徒が苦しんでいるのを見る気持ちは。さぞ気持ち良いことでしょう。


2時間目の休み時間、俺は机に伏した。数学のじっくり考えた数問も合っているという保証はない。しかも朝食をとっていない体であの難問は疲れる。腹が減って集中できず疲れる。次は俺が一番苦手な英語か。


3時間目、英語。特に特筆するようなこともなかった。言うのであれば、長文の意味が分からない。英語とアラビア語が大差ない気もした。長文の意味がわからず、じっくり読もうとすると時間切れ。英語も死んだ。爆死だ。


とりあえず、テストが終わり、4時間目はLHRで

学年主任が要約すると、「お前ら、高校生なんだから中学校までのぬるま湯からはよ抜け出せ庶民‼︎」といった話を50分かけてした。


今日は午前授業だった。なんか先生がテストを採点するために午後を休みにしているらしい。だから4時間目が終われば自由の身だ。帰りのHRが終わった後、自分のバッグに荷物をまとめている俺に、


「テストどうだった?」

と琴葉が聞いた。

「死んだな」

と答えた。英語と数学が戦犯。これで琴葉の条件は受け入れることとなったけど。


「私もあんまり自信ないなあ。だって思ったより難しかったから。」


俺は疑う。首席の『あんまり自信ないなあ』は『(90点以上取れることに対して)あんまり自信ないなあ』だから。

「どうせ琴葉はいい点数取るんでしょ?」

「そんな、テスト返されるまで分かんないよ。だから、悠一も命令考えといて。」


琴葉が柔らかく否定する。考えることは考えるけど、使うときは来るのだろうか。


「あっ、そろそろ電車に間に合わなくなるから急がないと。悠一バイバイ。また明日ね。」


「バイバイ」

そう言って、別れた。



翌日の朝のHR。


「昨日のテスト返すぞー。国語と英語の答案も預かっている。国語と英語の平均はわからないけど、数学の平均は31点だ。ちょっと調子に乗りすぎて問題作ったかな。」


そう高尾野が言ったとたん教室がざわめいた。あの難易度だったら当然とも言える平均点だがあまりにも残虐だ。「俺、10点台かも」という声がちらほらと聞こえる。俺もその一員かもしれないのだが。


「まず、国語を返すぞー。呼ばれたら取りに来い。」


そんな感じで返された国語の点数は74点。そこそこだった。問題は琴葉の点数だが。

「悠一、何点だった?」

「74点だけど。」

すると琴葉は笑顔で俺に向かってピースサインをして、

「勝った。89点。」

おい!この嘘つき‼︎国語苦手とか言っていたじゃないか‼︎あとは爆死した2教科だ。


「次に数学返すぞー。点数が低いからって気絶するなよ。呼ばれたら取りに来い。」


高尾野がそう言う。俺の名字は横川だから名簿順で最後に返される。ただ、答案を貰った途端、クラスメイトに覇気が消えたのが感じられた。絶対俺も覇気が消えると思い、答案を受け取ると56点と思ったより高かった。俺的には30点取れれば良いと思っていたから。


「悠一、数学何点だった?」


答案を受け取った琴葉がまた聞く。


「56点だったけど」

琴葉は今度は俺に向かって笑顔でガッツポーズをした。全てを察した


「97点だった。1問間違い。ホント悔しい。あ、でも悠一には勝ってるか。」


あの難問オールスターで97点は半端ない。

神童とはこのことだ。


「最後に英語を返すぞー」


もう負け確定したから英語は何点でもいい。そうとも思えた。もう悟りを開いたんだ。

英語の答案を手にする。46点。長文が戦犯。ほんと何言ってるのアレ。

「悠一、英語何点だった?」

「46点だった。」

「やったー全教科勝った‼︎ 91点。」


ホント嬉しいといった満面の笑みを浮かべた琴葉は俺に向かって笑顔で話しかけた。


「じゃあ、約束通り命令します。」

ゴクリ。緊張する。何言い出すか分からない。


「今日は金曜日だよね。明日の土曜日、9:00に川内駅に来てね。ちょっと買い物に付き合ってね。新しい服とか買いたいから。鹿児島市まで一緒行こう?」


え?俺は一瞬戸惑った。それが命令?しかも休日にクラスメイトと外に出るなんてボッチだったから5年ぶりかも。しかもそんなのが命令でいいの?逆に動揺してしまった。


「そんなのが、命令でいいの?」


すると琴葉は笑顔で

「もちろん!せっかく高校生になったんだし、鹿児島市とかちょっと遠出してみたかったんだ。あと、助けられてから、命の恩人悠一君といつか一緒にいたいと思った。もちろん、テストで悠一は負けたから拒否権はありません」


俺はため息をついた。こんなあっけない命令で、しかも本当に俺でいいのか?ただ、断っても聞き入れないだろうから従うことにした。


「分かった。」


すると琴葉は笑顔で輝かせた瞳で

「え⁉︎いいの⁉︎楽しみにしてるね。明日、川内駅に朝9:00。忘れないでね。」


友達?との遊びは6年間経験してないんだけど。


あと命令を承諾したときの琴葉の笑顔は忘れることはないだろう。


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