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取り戻す 群青色の日々  作者: 桜炎
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第4話 揶揄いと匂わせ

「起きて。悠一。遅刻しちゃうぞ」

そんな声が遠くから聞こえた。春眠暁を覚えず。まだ寝ていたいし、まだ寝られる。俺はこの声を無視してまた睡眠の帰路へと達する。


その後に感じたのは、

頰に伝わる温かい人間の感触。


その感覚を肌が感じて目が覚めた。目を覚まして寝床を見回すと、そこにはニヤッと笑ったショートカットの姉がいた。


「おはよう悠一。どう?お姉ちゃんのキスで起こされる気分は。悠一のファーストキスなのかな?マウス・トゥ・マウスがよかった?」


俺は筆舌しがたい複雑な気分になった。俺の姉はスタイルも良く、円周率も大きく、顔のパーツどれをとっても客観的に可愛いし、海水浴行くとよくナンパされる。しかし、姉だぞ。血繋がっているんだぞ。


俺は全てを察して、手を立てた。そして姉の脳天を目掛けて振り下ろす。この一連の動作をチョップという。


「実の弟にキスするとかありえねーだろ。このブラコン野郎!!」


姉は「いてて.....」と頭を抑えて無言で下に俯いている。ちょっと『ブラコン』は言い過ぎたのかな。少し反省する。少し間を置いて


「........えいっ.....!!」


俯いた姉は俺の両肩を掴んで寝床に押し倒した。そして姉は俺の体の上に乗っかった。姉の甘い柔軟剤の香りと顔と円周率...いや、体全体が俺の体に触れている。そして何より、大きい円周率が俺の体に刺さる。


姉は甘い吐息を吹きかけるように

「私は実は、悠一と結婚したいの。でも民法734条で『血の繋がった野郎同士は結婚すんな』と定められているの。だからしたくてもできない。それに結婚した人どうしで産んだ子供は障がいを持ちやすいっていうデータがあるの。だから、こうして、悠一に乗っかることしかできない。」

と囁いたあと、「ふう.....」と言わんばかりに俺の体から降りた。やっぱり俺の姉はブラコンだ。でもそれがいいのかも。


俺は時計を見て驚愕した。時刻は既に7時50分。姉の匂わせに付き合っている暇などなかったのだ。これでは遅刻確定となる。急いで着替えを取り出し、制服に着替える。学ランのボタンを急いでつける俺に対して、俺の部屋の柱にもたれかかっている姉は車の鍵を指でくるくるしながら、


「お姉ちゃん、実は運転免許持ってきてるし、東京の街中をよく運転してるんだよねー。だから悠一を車で送ってあげてもいいんだけどなあ。どうする?」


「死ぬよりは遅刻するほうがマシです。」


俺はキッパリ断った。姉の運転テクニックなんて不明である。マ●オカートでは片手で数えるほどしか俺は姉に勝ったことしかないのだが。

だけどマ●オカートと地球での車の運転は訳が違う。俺はまだ死にたくない。


「悠一。お姉ちゃんに対して結構失礼なことを言うじゃないか。そんな子に選択権は与えないよー。」


おい法学部生。俺だって基本的人権はあるんだぞこの野郎。俺が着替え終わってバッグを持とうとすると、


「よいしょっと.......」


姉はバッグを持った俺の体を担ぎ上げた。俗にいう『お姫様抱っこ』だ。お姫様抱っこで俺を運んでゆく。俺の細長い体が姉の腕で支えられる。ちょっと待て‼︎そういうのは背の高い彼氏がするというルールがあるだろ。俺より背が低い姉がしていたら違和感が営業成績1位を取っているレベルなのだが⁉︎


「ちょっ!!離して!」


「だーめ。お姉ちゃんの運転技術を疑った罰。このまま車まで乗せまーす。」


幸い、両親は先に仕事に出て、家には2人しかいないが、駐車場でもこのお姫様抱っこの状態は恥ずかしい。お姫様抱っこで俺を玄関まで連れて行くと、


「じゃあ、一時的に悠一を降ろすから、靴履いて。そしたらまたお姫様抱っこしてあげる。」


「お姫様抱っこで駐車場まで運んだらガチで姉弟の縁切るぞ」


「うっ......分かった。今日はここまで見逃してあげるから。」


「でもこのままじゃ遅刻するし、やっぱ車で送ってもらえるかな」

俺は請うた。時刻にして午前8時。このままでは新学期早々遅刻した悪ガキというレッテルが貼られる。姉の運転技術を信用するしかない。


「わかった。お姉ちゃんに任せなさい!」


姉は自信満々で答えて、駐車場に行く。姉はレンタカーを借りているらしくマンションの駐車場に停めているそのレンタカーに乗る。俺が助手席に乗って、姉がエンジンをかける。


「時間もなさそうだし、飛ばすよ。」


「飛ばさなくてもいいから安全運転でお願いします。事故だけは起こさないでください。」


「犯人引渡し条約を結んでいるのは韓国とアメリカだけ。事故起こしたらフィリピンらへんに飛べばいいよ。それに上級な国の人は......」


「事故起こして死んだら意味ねーし。ほんとに姉ちゃん法学部?」


法学部の人間としてはいただけない発言だった。不謹慎極まりない。運転中に言うべきセリフでもない。


「どう?お姉ちゃんのハンドル捌きは?」


特別、うまいという訳ではないが、命が失われる心配もない。ごく普通の運転だった。ただ、交通量の多い国道を走っているから、油断は禁物だけど。


「まあ....思ったよりはいいのかな...」


「何?『思ったより』って。お姉様には敵いません。ってこうべを垂れてもいいんだぞ」


「死んでも嫌だ。」


そんな会話をしていると、いつのまにか高校に着いた。時刻にして8時8分。生きてるよな。俺。校門前の道路で車を停めて、


「はい、着いたぞー。頑張ってね。我が弟よ」


「ありがと姉ちゃん。」

俺は礼を述べた。一応、俺を送ってくれたんだ。感謝すべきだろう。すると姉はキュンとしたのか顔が赤くなって、また興奮した様子で


「悠一。もう1回言って。そのセリフ」


「.........」

俺は無視して校舎に向かった。こうやってちょっと俺が礼を言ったりするとブラコンはすぐ調子に乗って長いこと拘束される。



教室に着くと、既に俺の隣の席に琴葉が座っていた。昨日友達になろう的な契約をした。琴葉は俺の存在を確認すると、


「おはよう。悠一。早速だけど、今日のテスト勝負しない?負けた方が言うこと聞くっていうルールで。」


何の脈絡もなく戦争を吹きかけた。自身満々に。しかし、相手は首席。入試の点数が一番高かった人間だよ。俺もそこそこ勉強が出来るけど、琴葉には到底敵わない。それに朝食もとってないから、エネルギーもついてない。こんな俺の勝機はゼロに等しい。国数英だけだけど、新入生テスト的なことがあったことも今思い出した。今朝はいろいろありすぎた。


「嫌だ。だって...山..琴葉が勝っちゃうじゃん」


そう言うと、琴葉は「ふーん」と言わんばかりの上目遣いをして自分の引き出しから紙を取り出してペンで何かを書き始めた。


暫く経って、琴葉が一枚の紙を渡した。


誓約書


今日の新入生テストにて3科目の合計点数が高かった者の言うことを聞き入れます。


署名:山川琴葉 横川悠一


「誓約書まで書いたんだからもう『やっぱやめます』なんて言わないよねー。悠一君。」


琴葉がこっち見てにやりと笑った。その顔はいたずらが成功したときの子供みたいでもあった。勝手に俺の名前を誓約書もどきに書かれてしまったのだ。だから無条件で聞き入れろ。ということ。その誓約書を破り捨てようとした瞬間、誓約書がバッと取り上げられて、


「誓約書を破こうと思ったの?本当悠一は可愛いね。大丈夫、私全然勉強してないよ。もし悠一が勝ったとしてもそういうことは命令しないでね。私もそういうことは命令しないから。」


琴葉が眩しく笑った。その顔すらも可愛いと思ってしまった。

『全然勉強してない』とか信用ならない。

ただここで異を唱えても琴葉に聞き入れてもらえないことを悟り、しぶしぶ条件を聞き入れた。


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