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取り戻す 群青色の日々  作者: 桜炎
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第2話 悲しい過去を忘れている

目が覚めると俺は見知らぬ部屋にいた。消毒液の匂いが充満している部屋の中。ベッドで目が覚めたからここは保健室だろう。入学早々保健室のお世話になった。


そして俺の目の前には琴葉がいた。


「あ、目が覚めた?」

そう声をかける琴葉ことは。俺は自分の身に起きたことを理解できないままでいた。目が覚めたら保健室にいて、美少女がいる事態は不測だ。


自分は大丈夫。ぼっちを打破できる。そう思っていたが、いざ自分が皆の前で何か言うと、極度の緊張に駆られてしまう。そして皆の視線を感じ、体が震えてきた頃から記憶がない。


「そういえば、横川君。体調、大丈夫?急に倒れてしまったから。なんか後遺症的なのがなければいいけど。」


琴葉がそう優しく声をかけてくれた。俺には疑問がある。なんで琴葉がここにいるのか。


「うん.....一応....体調は大丈夫.....でも...なんで山川さんがここに.....いるのです?」


俺はその疑問をぶつけた。会話に多少ちぐはぐがあったけど、前よりかは気を楽にして話せた。記憶が消えてから琴葉が言うには倒れてから少し快方に向かったのか。


「保健の先生が出張でいないらしく、代わりに私が面倒見ることになったの。高尾野先生に頼まれて。あと私はこのクラスの委員長になったから。困っているクラスメイトを助けるのは当然の役目でしょ?」


琴葉は俺に向かってこう微笑んだ。美人の委員長。髪が黒く輝いていて、ぼっちだった俺にも優しく接してくれている。いや、いつ委員長決めたの?俺の記憶にないのか....


「いつ ....委員長とか.....決めたのですか.....」


まだ蠅の飛ぶ音くらいの声しか出せない俺に琴葉は、優しく答えて、


「横川君が倒れた後にそういう学級の役割的なものを決めたの。たしか横川君は風紀委員だったかな。皆が先に決めちゃって残った役割が横川君に当てられたみたい」


俺が風紀委員かよ。俺が陽キャに対して、「服装が乱れている!」とか言うのかよ。これから先を考えるとため息しか出ない。

そんなことを思案していると、琴葉がこれまでとは違った初々しい感じの声で


「辛いことがあったらいつでも私に声をかけてね。私は過去、横川悠一よこがわゆういち君に助けてもらった。悠一君がいなければ今の私はいなかった。次は私が君を助けたい。」


こんなことを言った琴葉は照れくさくて恥ずかしい感じだった。ただ俺は琴葉に会ったこともなければまして琴葉を助けたこともない。多分俺と同姓同名の人が助けたのだろう。俺は疑念を抱き、琴葉にこう問うた。


「俺は山川さんに会ったこともなければ助けたことなんてないです。多分.....俺と..同姓同名の人があなたを助けたのかと....思います。」


この世には同姓同名の人が3人いるってことを聞いたことがある。俺にはその記憶がないのだから。すると琴葉は優しく首を横に振って、


「ううん。確かに目の前の横川悠一君に助けられた。同い年だし、何より顔が似ている。あ、そうだちょっと私に頭を見せてよ。」


琴葉の唐突なお願いに俺は戸惑ったが、言われるがままに琴葉に頭を向けて下げた。


「やっぱり。そうだ。あの頭の縫い傷は私を助けた悠一君のもの。あの時は私を助けてくれてありがとう」


「う.....うん.....」

反応に困ってしまった。何よりも助けた記憶がない。確かに俺には頭に縫い傷がある。ただそれができた経緯は分からなかった。ただ琴葉を助けた悠一の象徴が「頭の縫い傷」であるのか。


「あ、えっと、倒れて何かまた体調が悪化すると悪いから、私が家まで送ってあげる」


「いや、そんな、いいって....山川さんにも悪い....でしょ....」


ただ、琴葉は毅然としてこう答えた。


「高尾野先生が横川君を送るようにって頼まれたの。一応先生が横川君の両親に連絡したけど、両親は忙しくて迎えに行けないらしいから。だってまた帰り道に倒れたらまずいでしょ。だから遠慮しないの。」


琴葉は調子よく俺を口説いているようにも思えた。いかんいかん。こんな美少女がこんな陰キャに気があるなんて妄想。そんなの天地がひっくり返ってもありえない。でも日本国憲法第19条にあるように考えることは自由でいいよな...


「体調は大丈夫?大丈夫だったら一緒に帰ろ。送っていくから。もうとっくにHRは終わったし」


ここまで気を遣ってくれると逆に頭ごなしに遠慮するのも悪い気がしたから一緒に帰ろうと思った。でも俺、自転車で来たんだよなあ。


「ありがとう。でも俺は自転車で来て..るよ。」


「じゃあ2人乗りする?」

そう琴葉がからかってきた。少しニヤリとした笑顔。可愛いと感じない方が難しい。


「委員長さんが2人乗りですか。」

俺は琴葉といつのまにか普通に会話できるようになった。琴葉の優しさと笑顔がコミュ障の壁をぶち壊してくれたのか。


「風紀委員さんが2人乗りですか。」

琴葉はそうニヤリと笑って、保健室を出た。俺もそれについて行った。時刻にして午後5時。

西陽が少し眩しく、学校がオレンジ色に輝いていた。








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