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取り戻す 群青色の日々  作者: 桜炎
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第1話 黒い桜




4月の上旬、朝はまだ肌寒い。しかし澄んだ空気だ。俺はその空気に心地よささえ感じていた。


大して熟考せずに近くにあるよくありがちな県立高校へと進学をした。同じ中学校出身の同級生もたくさん進学しているような高校だ。

中学校時代、ロクに会話もしなかった俺にとっては、そういう奴に思い入れがある訳でもない。高校では、ぼっちを打破したい。友達を作りたい。あわよくば彼女も..........

小学校の時のトラウマは残ってないはず。何度も「初対面 関係 うまく 築く 方法」とgoo●leで検索もした。だから 一歩踏み出せる。


冷たくて澄んだ空気。その中の暖かい南風。その風で舞う桜の花びら。俺の高校デビューを応援してくれているような気候だった。その空気の中、俺はチャリを漕いで高校へと向かった。


途中、大きな橋を渡る時、川から吹く強い向かい風で俺のチャリは重くなり、俺の体力は葬られた。中学校はもちろん帰宅部だったし、生まれつき体力もなかった。鍛えなくてはと痛感もしつつ、高校へ着いた。


高校へ着くや早速入学式の会場へ移動させられた。俺のクラスは1年3組だったらしく、3組のメンバーが2列に並べさせられて体育館へ。ただ、この3組のメンバーは皆が初対面のように見えた。同じ中学の奴は何人いるんだろう。


入学式は始まった。先輩の心からなのか形式的なのか分からない拍手に迎えられ入場する。そこからパイプ椅子に座らされ、校長だの教育委員会だのPTA会長の話が始まる。「偉い人の話。眠気を添えて」というメニューだろう。そのメニューを平らげる頃には俺の意識は地へと堕落した。そのような眠気に何とか打ち勝ち、進行の先生が


「新入生代表、誓いの言葉、1年3組、山川琴葉さん」と言うと。

その琴葉という人が壇上に上がった。壇上から離れている俺から見てもわかる。琴葉は相当の美人だった。背中までかかるような漆黒の黒髪。顔が可愛いのはもちろんのこと、スタイルも良かった。多分、中学時代にスポーツかなんかやってて引き締まった感じのスタイルの良さといったところである。ただ細いわけではない。そして何より、ここで誓いの言葉と称して演説する者は高校入試の成績が一番よかった者だろう。


頭もよく、スタイルのよいこんな非の打ち所がないがない人間と俺は無縁だ。月とスッポンだ。そして琴葉ははっきりとした落ち着いた声でテンプレである、分からないことは先輩に聞きたいだの勉強と部活を両立したい旨を明かして入学式は終わった。


入学式が終わり、3組の教室に入り、黒板に貼ってあった座席表の通りに座る。俺の隣の席は窓側の一番後ろ、隣の席はなんと山川琴葉だった。よく漫画でありがちな展開。成績優秀、容姿端麗な同級生の隣の席になっちゃった現象が今起きているのだろうか。俺の名字は横川だから名簿順と考えれば妥当ではあるが。周りのクラスメイトがもう他中の奴と親睦を深めたのか賑やかな様子だった。あの輪の中に入ろういう考えはなかった。そういう考えがないからぼっちとなったのか。

そんなこんな考えていると隣の席の琴葉が俺に声をかけてきた。


「あなたって、横川悠一くんだよね?私のこと。山川琴葉のこと覚えている?」


と聞かれた。俺は脳内の思考回路がパンクした。ただでさえ何も話せないコミュ障なのにクラス一の美人に話しかけられたらもう頭が真っ白と化すだろう。


「い....いや....えっと......覚えて.....ないです」


俺は蚊の鳴く音と大差ないくらいの声で答えた。長らく会話をしなかったから声帯が弱ったのかもしれない。すると琴葉は微笑んで、


「そう.....まあ仕方ないかもね。これからよろしくね」


と優しく声をかけてくれた。俺は琴葉と今日初めて会ったのに、「覚えている?」と問われた。遠い過去で会ったことがあるのか。少なくとも俺の記憶にはない。同じ中学校出身とかないよね?俺は彼女との発言の矛盾に違和感を覚えた。


しばらくたって、担任の先生が教室に入ってきた。その先生は髭が似合う40代後半の先生だったガタイのいい体に反して結構優しそうで適当な感じの先生だった。高尾野という名字で数学教師だそうだ。先生が一通り話終えた後、


「それでは皆に自己紹介をしてもらおう」


と言った。高校入学最初のイベントだ。この自己紹介のデキが今後の生活を左右する。無難にいくのが良いが、自虐などで変に笑いを取ろうとして火傷すると取り返しのつかない高校生活となる。この自己紹介の無難な方法もgoo●le

で検索した。この自己紹介をキメて脱 ぼっちだ。そう意気込んだ。


俺の名字は横川だから最後の方だろう。悪く言えばトリだ。俺の前に自己紹介した奴は普通に真面目に言ったか、持ち前のネタを披露して地球温暖化防止に貢献したか、普遍的な人間には興味ないと言って大火傷した奴もいた。

俺の番が来た。思いっきり息を吸い込む。頑張れ横川悠一、ぼっち卒業まであと僅か。


立ち上がり喉を震わせる。


「ちゅ...ちゅ.....おう....ちゅ...うしゅっ.....」


思うように声は出ないクラスメイトが真顔で見る中、俺は蚊の鳴く声しか出せなかった。長年喋ってないから当然かもだが。続けて言う。


「しん....のよこがわ......」


言葉に詰まる中、皆の視線が突き刺さった。

目で目で「なんだこいつ」と言っているような気もした。とても怖いし、絶体絶命の危機に晒されて、更に言葉が詰まる気さえした。体に冷たい汗が昇る中俺はありったけの力を振り絞る。


「ゆういち....でs....」


自分の名前を言い終えた途端、体がふらふらして、熱を帯びていき、バタンという音と同時に俺の意識は無くなってしまった。


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