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可愛い妹に何してくれんだこの野郎

作者: アナグラム

「お兄様! 明日の卒業式に来ていただけると言うのは本当ですか!?」


 自らの通う学院の卒業式の前日。私の部屋に勢いよく入ってきて興奮気味に叫ぶのは妹のマリアだ。少し茶の交ざった艶のある綺麗な髪を後ろで軽く結い、大きな目を輝かせているその様はひいき無しに見ても可愛い。いや、実際に彼女はその可愛らしさと無邪気さで多くの男性の心を射止めているのだが。


「ああ、仕事が少し落ち着いたからね。入学式に行けなかった分、明日はちゃんと行くよ」

「まあ! 嬉しいですお兄様!」


 もう17歳の淑女になるというのに相変わらず子供の様にはしゃぐ妹。実に可愛らしい。兄としてここまで喜んでもらえるのは幸福だ。


「明日はマリアの晴れ姿を楽しみにしているよ。さ、今日はもう遅いからベッドにお入り」

「はい、お兄様。私も明日は楽しみにしていますね!」


 用件はそれだけだったようでマリアは部屋を出て自分の寝室へと向かった。明日は妹の晴れ舞台。煌びやかなドレスに身を包んで歩く妹を想像したら思わず笑みがこぼれてしまった。明日もこの調子では気持ち悪がられるなと思いつつ私は就寝の準備を始めた。




***




 翌日、マリアが家を出た時間から少し遅れて馬車で学院に向かった。

 ものの数分で到着し、馬車を降りて久しぶりの母校の門をくぐる。そのまま卒業式と言う名の社交界が行われる講堂に足を踏み入れた。もうすでに多くの貴族達が集まり、会談を始めている。卒業生はまだ来ていないようだ。この学院では卒業生は後から入場することになっている。その時間に遅れることなく来れたことに安堵のため息を漏らした。

 私は伯爵家当主としてそこにいた様々な貴族達(卒業生の親、または代理人)に挨拶を交わしていく。するとそこで思わぬ人物と会った。


「おお、お前も来てるんだなアルノルト」

「殿下。まさかお越しになっていらっしゃったとは」


 私の名を呼びながら片手を挙げて近寄ってくる金髪碧眼の美男子はこの国の王太子であるリオラ殿下だ。私とは学院時代の同期で今も王城で会う機会が結構ある。


「まあ、弟が卒業するからな」

「ですが王族の卒業式には代理人として別の者が使わされるものでは?」


 事実、目の前におられるリオラ殿下の時も陛下や王妃殿下がいらっしゃることはなく、王家の執事が来ていたはずだ。

 

「いやなに、ちょうど私も仕事が片付いたのでな。久しぶりに弟の顔でも見ようと思ってな」

「おや? 確か寮から帰るのは昨日のはず。お会いになっておられないのですか?」

「ああ、昨日はなぜかは知らんが夜に出かけて行って、会えなかったのだ」

「そうでございましたか。では今日が約三年ぶりの再会と言うわけですか」

「ああ、お前は妹と会ったのか?」

「ええ、昨日会いましたよ」

「良かったな。それにしてもあいつらが結婚すれば我々も家族か。なんとも面白い話だな」

「ははっ。確かに奇妙なものです」


 私の妹、マリアはリオラ殿下の弟であるレオリア第2王子殿下との婚約が為されている。婚約は私達が卒業して少ししてから決まった。私とリオラ殿下の仲が良かったのと私とマリアが陛下に気に入られたこと、私がマリアを推薦したことが理由として挙げられる。レオリア殿下はリオラ殿下に似て見目麗しくマリアもまんざらでもなさそうだった。と言うかマリアが送ってくる手紙には学院でよく会うようになって、レオリア殿下に本気で惚れたと書いてあった。兄としては少し寂しい。


 その後もリオラ殿下と少しの間、歓談を交わしていると会場のドアが大きく開き、音楽が流れ始めた。卒業生の入場だ。

 男性は多くが白のタキシードに身を包み、女性は色鮮やかに赤や青、緑など様々な色のドレスを着て歩いてきている。そうして続々と生徒が入り、最後には殿下に手を引かれるマリアが純白のドレスに身を包んで歩いてきた。前を歩く生徒達と同じようにニコニコと手を振りながら歩いていく。

 私の近くまで来たマリアは私を見つけ嬉しそうな笑みを見せた。そして明らかにこちらに向けて手を振ってくる。可愛い。世界一だ。ここにいる誰よりも輝いている。見たか私の妹を。この可愛さは筆舌に尽くしがたい。何にも例えられない。さすが私の妹。

 

「殿下。見ましたか」

「ん。レオリアはあまり変わってないな」

「違います。マリアです。あの可愛さ。何にも例えられないほどの輝かしい笑み。この会場、世界でマリアに敵う者などいませんね」

「・・・・」


 横におられる殿下からは返事をいただけなかったが、マリアの晴れ姿を目に焼き付ける事の方が重要なので放っておいた。


「相変わらずのシスコンぶり・・。そんなだから未だに嫁ができんのだ」


 ぼそっと殿下が何かを呟いたきがしたが聞こえないふりをして無視をした。





 卒業生が入場し終わると扉は閉まり、式典が始まった。学院長が卒業生代表に言葉を贈り、代表がそれに返すという簡単なものだ。そして当然だが代表はレオリア殿下だった。王家に相応しい堂々とした態度で学院長に言葉を返しておられる。リオラ殿下は私の横で「おお、すごい胸張ってる」と台無しにするような感想を述べていらっしゃった。

 レオリア殿下と学院長のやりとりも終わり、音楽が流れ始める。ここからはダンスを踊り、軽い食事をしながら歓談したあと解散となる。親達も夫婦で踊る者や調子に乗って男同士で踊り出すやつもいる。毎年の様にこの後はカオスと化すのだ。

 今年も例年に漏れず、男同士、女同士で踊り出す者が現われ会場は盛り上がり続けた。私はと言えば何人か誘ってきた男性を断りながら殿下と一緒に食事をしながらマリアとレオリア殿下の踊りを見守っていた。途中でレオリア殿下は別の女性と踊っていたがまあ、記念にと言った感じだろう。マリアも他の女性と踊ったりしてたし。私の所に誘いに来なかったのは少し残念であったが。いや、ホント少し残念って感じだから。


 そんなこんなでダンスも終わり、歓談へと移ろうとしたその時だった。


「ここにいる貴族家当主、及び卒業生諸君! 聞いて貰いたいことがある!」


 一カ所からそんな声が上がった。さあ、これから楽しく歓談と言うときに上がったその声に場の視線は集中する。それを叫んだ人物は一段高い場所に上がった。貴族家当主殿ではなく当主と言ったことからなんとなく予想はついていたがそれはレオリア殿下だった。


「リオラ殿下。レオリア殿下は何をおっしゃられるおつもりなんですか?」

「さあな。大方、楽しんでくれとかそんなところだろう」


 殿下とそんな会話をして私達もレオリア殿下に注目した。


「皆に聞いて貰いたいこととは私の婚約者であるマリア・ロゼッティの事だ!」


「お前の妹の事だとさ」

「何かあったのでしょうか」


 当の本人であるマリアの方を見ると驚いた表情でレオリア殿下を見つめていた。どうやらマリアは知らない展開のようだ。


「私、レオリア・ルーズベルト第2王子は彼女との婚約を破棄し、新たにチャーリー・アドラと婚約を結ぶことを宣言する!」


 殿下が発した内容に会場は騒然となる。それもそのはず。王子が独断で婚約を破棄し、新たに別の人物と結び直したのだから。貴族当主達は「いいのか?」「いいわけないだろう」とささやき合っている。さすがに王子の言うことに真っ向から批判をのべる事は出来ないのだ。

 そして会場が騒然となる中、チャーリー・アドラと呼ばれる人物は前に出た。誰も前に出ろなんて言っていないのに自主的にだ。そして殿下の横に並び立った。

 

「彼女がチャーリー・アドラだ! 私は彼女と結婚する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」

「お、お待ちください! そんな・・そんな話は聞いておりません・・!」


 マリアは高らかに宣言する殿下の前に出て殿下に向かって抗議の声を発した。自分はそんな事は知らない、と。だが殿下はそんなマリアに対してあまりにもな言葉を投げた。


「言っただろう、マリア。私は真実の愛を見つけたのだ。親に決められた婚約などという偽りの愛では無く、自らの意思で選び、見つけた愛。私はチャーリーと真実の愛を育んでいくのだ」

「そ、それでは・・殿下と共に過ごし、恋をし、愛していたのは私だけだったと言うことですか・・?」

「ああ、そうだ。元より私は愛してなどいない」


 マリアの顔が悲しみに歪む。


「で、ですが! 愛していると言ってくれたではありませんか・・!」

「・・・・そんな事を言った覚えは無い」


 レオリア殿下がそう言った瞬間、マリアは泣き崩れた。マリアは殿下を愛していたのだ。一ヶ月に一度の私との文通で殿下と過ごした内容を事細かに書くくらいには。殿下のいいところを自慢げに書くくらいには。

 

 大事な妹が泣いているのを見てふつふつと胸の中に怒りがこみ上げてくる。

 なんてことをしてくれたのだ。この卒業式はマリアの晴れ舞台だぞ? それをぶち壊しやがって。真実の愛? ただの浮気だろうが。


 我慢できなかった私は殿下に目配せをして頭を少し下げた。「失礼します」という意味を込めて。


「殿下」

「待て、アルノルト。抑えるんだ。あれはこちらで何とかする」

「いえ、待てません」


 殿下の隣から足を踏み出し、貴族達の間を抜け、私は座り込んで泣きじゃくる愛しい妹の隣に立った。


「レオリア殿下。今の事がどういうことか説明していただきたい」

「ああ、ロゼッティ伯爵殿か。今言った通りだ。私はマリアとの婚約を破棄し、このチャーリーと結婚する」

「いえ、そうでは無く。婚約者がいる身でありながら他の女性に鼻の下を伸ばし、あまつさえ婚約者に対する思いやりも無く、真実の愛だのと馬鹿な事をおっしゃることになった経緯でございます。」


 明らかに不敬な言葉と馬鹿にした様に鼻で笑いながらそう言った事でレオリア殿下の顔はすぐに真っ赤に染まった。そして怒鳴り声をまき散らした。


「ロゼッティ伯爵!! 貴様今なんと言った!!」

「おや、言い直さなければならないほど殿下は頭が弱くなってしまわれたのでしょうか」

「~っ!! ふざけるのも大概にせよ!! 不敬であるぞ!!」

「不敬? おかしな事をおっしゃる。私は敬う価値のある方はしっかりと敬っている。陛下や王妃殿下、リオラ王太子殿下。それ以外にも多数の上級貴族。しかし、婚約者がいるにもかかわらず不貞行為を行い、傷つけた者に払う敬意など私は持ち合わせておりません」

「貴様! 私は王族であるぞ! 兄上と仲がいいからと言ってつけあがるなよ!」

「王族だからなんだと言うのですか。私の唯一の家族を傷つけたのです。可愛い妹を傷つけたのです。私は例え目の前にいるのがあなたではなく、陛下であっても同じことを言いますよ。私の家族を傷つけるならばその者に対して私は容赦しません」

「っ!! 今日のことは父上に報告させてもらう! 兄上も見ていたのだ、誰もお前を庇わんぞ!」

「ええ。いいですとも。ご自由に。ですが話は終わっていませんよ? 私は経緯を説明していただきたいのです。そこのアバズレを選んだ理由はなんですか?」

「あ、アバズレ・・だと?」

「アバズレでしょう。谷間を隠すことなく露わにし、扇情的なドレスを着込んで殿下に寄り添っている。随分と男を誑かしてきたのでしょうね。慣れたご様子だ。今まで何人の男を食べてきたのでしょうかね」

「チャーリーまで馬鹿にするとは・・! いい加減にせよ!! 即刻牢に入れてやっても良いのだぞ!」

「ほう。ですがそうすれば殿下の醜聞が広まるだけですよ? 浮気をして、注意した者を牢へと追いやった馬鹿者王子として。おっと、もうすでにここにいる者には馬鹿者として認識されていましたね。どちらにしても醜聞は広がりますね」

「貴様ぁ!! 覚えておれよ! ここまで私を愚弄し、チャーリーをアバズレ呼ばわりしたのだ! ただではすまんぞ!」

「殿下とは違い、記憶力はいいので覚えておきましょう」



 牢に入れれば醜聞が広まるという言葉に納得したのか、レオリア殿下は声を荒げながらチャーリーという娘の腕を引っ張り、講堂から出て行った。

 

 私と殿下のやりとりに唖然としていた会場を未だに泣いているマリアを連れて後にした。リオラ殿下はため息をつきながら見てきたので「すみません」という感情を込めて頭を下げておいた。





 

 屋敷に帰って使用人達に指示を飛ばして夕食と湯浴みをマリアにさせるように言ってから私は自分の部屋に籠もった。

 しばらくペンを動かしていると部屋のドアがノックされる。


「誰だ?」

「お兄様。マリアでございます」


 ドアの方へ歩いて招き入れると沈んだ顔でソファに座った。私もマリアの前に腰を下ろす。用件は分かっているがマリアの口から出るまでただ座って待っていた。数分経つとマリアは立ち上がって腰を折った。


「申し訳ありません。お兄様。殿下との婚約を無駄にしてしまって。ロゼッティ家に泥を塗ってしまって。そして私のせいでお兄様にご迷惑を掛けてしまって」


 怒られると思っているのか、申し訳なさでいっぱいなのか、マリアの声は震えていて少しかすれていた。

 本当に優しい子だ。今は愛していた人に裏切られて心はズタボロのはずなのに家の事や私の事を考えて頭を下げてくれている。


「いいんだ、マリア。気にしなくていい。今は心の傷を癒やすことだけを考えるんだよ」

「で、ですが・・」

「大丈夫さ。私のしたことの方が十分に家に泥を塗っているし、婚約だって今度はマリアが好きな人とすればいいよ。マリアの将来を思って王家に嫁がせようとした私が間違っていたんだ。ごめんね、マリア」


 マリアの隣に移動し座らせて頭をなでながらそう言うとマリアはボロボロと涙を流し始めた。頭を胸に抱き寄せて娘をあやす母親の様にゆっくりとなでてやる


「・・っく・・ひっ・・わ、私・・愛してたんです・・殿下のこと・・」

「うん、知ってるよ」

「なのに・・殿下は・・愛してないって・・他の人を愛してるって・・」

「つらかったね。好きなだけ私の胸で泣きなさい」


 その言葉を皮切りにマリアは声を上げて泣いた。




 やがて泣き疲れたマリアはすーすーと寝息を立て始めた。私はマリアを横抱きにして起こさない様にゆっくりとベッドに寝かせてシーツをかぶせた。マリアの部屋を出てロゼッティ家に長年使えてくれている老執事を呼んで私の部屋に来させた。


「しばらくここを離れる」

「おや、レオリア殿下への報復はどう為されるのですか?」

「気が変わった。今はマリアの心の傷を癒やす方が先決だ」

「いいご判断です。ですが仕事はどう為されるので?」

「知らん」

「・・なるほど。良い方法です。しかし、いささか無責任ではありませんか?」

「そうかもな。だがそれもこれも私の家族を傷つけた代償、と思って貰おう」

「かしこまりました。行き先はどちらに?」

「そうだな・・。ま、それはマリアと決めるさ。とにかくお前達は長期休暇だ」

「老体には有り難いですな。では、そのように」

「ああ、頼んだ」


 老執事は頭を下げて部屋を出て行った。



 三日後、私とマリアは行き先を決め、準備を済ませて王都を出た。王城から召喚の手紙が届いていたがそれを無視して出立した。今頃は私の手紙が届いているだろう。



 


***



 王城の会議室。国家の行き先、方針を話し合う場所では今、王と王妃、王太子がある手紙を前に頭を抱え、レオリア王子は呑気に茶を飲んでいた。その手紙はアルノルト・ロゼッティ伯爵家当主からのものだった。


『こんにちは。陛下。この度は陛下のご子息であらせられるレオリア第2王子殿下と私の妹、マリア・ロゼッティの婚約破棄、及び、私と殿下の口論の件で手紙を書きました。

 当然のことですが私は一切謝るつもりも罰を受けるつもりもありません。もし、罰を受けろ、謝れなどと言ってきた場合には私の全力を持って抗いますのでそのおつもりで。

 さて、ここからが本題です。まず、レオリア殿下ですが私のほうからとやかく言うつもりはありません。陛下方でご判断為されてください。そして私とマリアはしばらくの間、王都を離れます。と言うのも王都にいると殿下と遭遇する可能性もゼロではありません。心の整理がついていないマリアには酷なことと考えましたので田舎でのんびりするか、適当に街を回るかします。戻ってくるかは分かりません。関門があるのでどこにいるかは分かるでしょうが無理に連れ帰ろうとしても全力で反抗いたします。

 では、ごきげんよう。          アルノルト・ロゼッティ』


 

「何を呑気に茶を飲んでいるのだ。レオリア」


 レオリアは急に低い声で責められてビクッと体が跳ねた。茶を置き、声を発した父親である国王の方を見るとその顔はひどく怒りで満ちていた。レオリアはこれまでに無い程の怒りを見せる父に少し強気で反応する。


「父上は何をそんなに焦っているのですか。その手紙はあの無礼な伯爵からでしょう? 大方謝罪文でしょうがさっさと不敬罪で裁いちゃいましょう。あんな無礼なやつはいてもいなくても一緒です。妹が少し泣いたくらいで過剰に反応して。あ、そうだ。それはそうと早く私とチャーリーの婚約、婚姻を認めてくださいよ。チャーリーも待ってるんです」


 自分を馬鹿にした伯爵より優位に立っていると思っているレオリアはすいすいと口が進む。あれだけ言われてもまだ自分は無傷で伯爵に罰を与えることが出来ると思っている。よく考えれば()()()()()が兄である王太子と仲良く話すことができ、王家とも仲が良く、そして王族に楯突くことなど出来ないというのに。レオリアは伯爵が自分は罰をくらっても自分はそんなに重いものにはならない、せいぜい謹慎程度だろうと思い、自分をこけにしたなどとは想像もしていなかった。

 故にこのような余裕の態度を取っている。しかし、それはすぐに崩れることになる。


「こんのぉ愚か者がぁぁ!!!!」


 会議室に王の罵声が響き渡る。


「貴様はどれほどの事をしたのか分かっておるのか!!」

「な、何を言っているのですか・・? 私は婚約を破棄しただけで・・」

「この馬鹿が! 違うわ阿呆! 誰の怒りを買ったか分かっているのかと言うことだ!!」

「い、怒りですか・・? あの伯爵が何かありましたか・・?」

「そんなことも分からんか! リオラ! この馬鹿に説明しろ!」


 王の隣に座っていたリオラは呆れた目をレオリアに向けて説明を始めた。


「いいか。お前が怒りを買ったアルノルト・ロゼッティは王家にとって、国にとって恩人とも言える人物だ。お前もあいつが何度も我々王家と共に行動をしていることは知っているだろう」

「そ、それは兄上と仲がいいからで・・」

「馬鹿が。その程度の理由で王家と共にあれるものか」

「・・では、どのような功績だというのです! 兄上達がひいき目で判断した結果でしょう! 私も納得できるほどの事があったのでしょうね!」


 リオラは意味の分からない逆ギレをし始めた弟にため息をつきながら続ける。


「まず私が学院を卒業した年から一年後。今から五年前だな。何があったか覚えているか? お前とマリア嬢が婚約したという事以外でだ」

「馬鹿にしないでください! 確か五年前は魔物から王都を守るための結界が出来たのです!」

「そうだな。次にその一年後。何があった?」

「この国に恨みを持つ者達が飛龍を使役し、襲ってきましたが確か結界に含まれる効果で返り討ちにされています!」

「その通り。ではその二年後。今から二年前だがその時は何があった?」

「確か・・結界魔術と呼ばれるものが確立しました! 私もそれを選択してたので知っています! 先ほどから歴史の勉強ですかこれは! 私はあの伯爵の功績を聞いているのです!」


 察しの悪い馬鹿なレオリアにその場にいた全員が呆れかえった。

 

「その全ての事があいつの功績だということだ」

「なっ! そんな訳ありません! これだけの功績を残していたならば今頃は侯爵にはなっているはずです! それなのに奴は伯爵ではないですか!」

「ああ、そうだな。あいつは5年前に侯爵になる予定だったぞ。だがあいつはそれを断って妹とお前の婚約を取り付けた。その後の功績も褒美は辞退し続け、妹に何かあったら王家が全力で何とかするという約束を取り付けさせた」

「ば、馬鹿な! そんなことが・・」

「あいつは重度のシスコンだからな。褒美より妹の幸せと無事を願う男だ」


 説明は終わったとばかりにリオラは王に目配せをした。


「さて、我ら王家は奴との約定、そしてその恩に報いるため貴様をどうにかせねばならぬ。手紙には貴様が王都にいると妹が苦しむと書いておった。故に王都からは出ていってもらう」

「お、お待ちください! 父上! たった一人の貴族との約束のために私を追い出すというのですか!」

「黙れ。貴様とアルノルトどちらに価値があるかなど一目瞭然であろう。片や王都を守る結界を張り、襲撃を退け、新しき魔術を開発し国に恩恵を与えた人物。片や民の手本になるべき王家の人間でありながら婚約者を辱め、恥をかかせた馬鹿者。そして自らも恥をかき、この国の重要な者をこき下ろす始末」

「こ、婚約破棄など珍しいことではないではありませんか!」

「王家の婚約は王命だ。貴様は王族でありながらそれに背いたのだ。王族が王命に逆らう。本来であれば国家転覆の罪に問われるところだ愚か者め。だがそんな度胸も能力も持っていないことは知っておる。故に今回は国家転覆の罪には問わん。貴様は男爵の家に入り王都から離れた場所で暮らしてもらう」


 第2王子だから公爵になり男爵令嬢である想い人に裕福な暮らしをさせてやれると思っていたレオリアは父から告げられる内容を聞き、それまでの反抗的な姿勢は一気にしぼんでいく。これに逆らえば今度こそ国家転覆にでも問われるのではないかという不安も混じっていた。


「そ、そんな馬鹿なことがあっていいはずが・・」

「分かったならさっさと消えろ。貴様を見ると怒りがこみ上げてくるのでな」


 のろのろと椅子から立ち上がり、ドアの方へ向かってレオリアは歩き始め、そして出て行った。

 王は筆をとり、アルノルトに対して結果と謝罪を書き、リオラに渡してアルノルトに届けるように言った。




***




 その後、アルノルトの居場所を探し出し、手紙を届けることに成功したがアルノルトは妹との旅が楽しすぎて帰りたくなくなっていた。マリアは旅のおかげで気分も晴れ、もう戻ってもいいと言うもののアルノルトは納得しなかった。結局、マリアと王家に説得されて王都には戻ってきたがしばらくの間は不機嫌だったという。

 マリアは王都に帰ったあとしばらくしてアルノルトが見つけてきた新しい婚約者と結婚し、仲睦まじい夫婦生活を送っている。マリアが家から出て行ったことでシスコンぶりも少しは治るかと思われたがそんな事は無く、週に何回も会いに行っている。マリアの旦那とも仲がとてもいいそうだ。


 一方、男爵家に婿として迎え入れられたレオリアは現在、領地経営を行っているがうまくはいっていない。嫁であるはずのチャーリーは結婚したとたん、浮気をして出て行った。レオリアはあの時婚約破棄などしなければ・・と後悔をしているらしい。



 アルノルトやマリアはレオリアがそんな目に遭っているとは一切知らず、今日もアルノルトはそのシスコンぶりを発揮しているのだった。

 

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[一言] はじめまして、雅と申します。 コミックを見てこちらにお邪魔しました。 出来れば、アルノルト様の活躍のお話や、リオラ様が、アルノルト様を探しに行く時のお話や、マリア様のその後を、詳しく小話や番…
[良い点] やりたい放題の主人公が良かった。浮気王子をズバズバ裁断していてスッキリ。全体的にあまり深刻な話にならず、「はい王都から出てってね。浮気の責任もちゃんと取ろうね」くらいの軽いザマァだったのも…
[一言] 面白かったです!!! コミカライズでは見えなかった細かなところも読めて良かったです(*^^*) 妹ちゃんが幸せになって良かった❤
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