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全裸中年男性と3匹の子豚

作者: 水森つかさ

むかしむかし、あるところに、全裸中年男性と三匹の子豚がいました。


優しいお母さん豚に育てられた子豚たちは立派に大きくなり、独り立ちの時がきました。


「坊やたち、オオカミに食べられないように、立派なおうちを建てるのよ」お母さん豚は言いました。

「「「うん、分かったよ」」」」子豚たちは、元気よく返事をしました。


末っ子の子豚は、村中のワラをかき集めて、ワラの家を建てました。

次男の子豚は、末っ子に負けまいと、総ヒノキ造りの木造住宅を建てました。

長男の子豚は、次男に負けてはならぬと、レンガ造りの家を建てました。

全裸中年男性は、宅地をもらえなかったので、空き地でただひたすらに立っていました。





ある日のことです。


「獲物を捕まえなきゃ、群れを追い出されちまうよぉ」


くたびれたオオカミが、職場の愚痴をつぶやきながら、トボトボと歩いています。


「おお!こんなところに子豚の家があるぞ!しめた!!こいつらを捕まえて、今月のノルマにしよう」

オオカミは、立ち並ぶ三軒の住宅を見てさけびました。


オオカミは、社会人になってから日々のストレスに耐えられず、家に帰るとストロング系をキメて寝る、という不摂生な生活をしています。

けれども、学生時代はスポーツをしていて、肺活量には自信があるのです。


まずは、一番弱そうなワラの家に、ふうう、と息を吹きかけます。

それは、耳の奥を優しく撫でるASMR音声くらいの優しい吐息でした。末っ子豚は耳かき音声に弱かったため、家主に似たワラの家は、砂のように崩れ落ちて吹き飛んでいきました。


「わあ、オオカミが襲ってきた!脳イキしてる場合じゃないや!兄さん、助けて!」末っ子豚はそう叫ぶと、あわてて次男子豚の住む総ヒノキ造りの家に逃げ込みました。


次男の家は、たいそう立派な邸宅です。枯山水の庭園に、ししおどしがあり、障子には金箔を貼り付けている、成金趣味の権化です。

子豚たちにとってはたいそう不幸なことですが、オオカミには「自分は資本家オオカミに虐げられている、プロレタリア・オオカミである」という強烈な革命的自覚がありました。

 

総ヒノキ造りの邸宅は、オオカミの彼自身は資本家にとって代替可能な商品として扱われているという。潜在的な事実を思い出させるのに十分でした。

オオカミは、まるで自分が全労働者を代表しているかのような大船に乗った気分になります。

そんな調子で、吹きかけた息は、すべての資本家を絶滅させるという彼の革命的意思を代弁するかのように、総ヒノキ造りの家を吹き飛ばしてしまいます。


「レンガの家なら、大丈夫かもしれない」


次男の子豚は、そう言って、末っ子とともに、長男のレンガ造りの家へ逃げ込みました。

オオカミは逃げる子豚たちを追って、レンガ造りの家までやってきました。オオカミは胸を空気でいっぱいに膨らませると、口先をすぼめて、全力で息を吹き出します。


「フー、フーフー、びくともしない」オオカミは、空を見上げて呟きました。


近代的科学理論に基づいてレンガを積み上げた長男子豚の家は、科学的素養がなく、所詮は1匹の畜生に過ぎないオオカミでは吹き飛ばすことはできません。


しかたがないのでオオカミは、隣の空き地でたたずんでいる全裸中年男性を、つかまえることにしました。


「やい、そこの人間。おとなしくしろ」オオカミは言いました。

「むっ、そこのオオカミよ。ワシにもその自慢の息を吹きかけろ」突然のスコールでずぶ濡れになった、全裸中年男性は言いました。


オオカミは、うるさい人間め、黙らせてやる。と全力で息をふきかけました。


「ああ、きもちええ。天然無添加のドライヤーじゃああ」


全裸中年男性は、突然のオーガニック系アピールとともに、風を全身で受けています。

 

木造住宅すら吹き飛ばす自慢の息に、ビクともしない全裸中年男性に、オオカミは驚きました。

ただ、オオカミは気づいたのです。一箇所だけ、揺らめいてる場所があると。

それは彼の、大黒柱です。

オオカミはしばし、古時計の振り子のように動くその大黒柱を見つめていました。


「まるで、俺みたいだな。社会に振り回されて、ひとりぼっちじゃないか」オオカミは呟きました。


「いや、お前は一人じゃない。ワシはお前で、お前もワシも全裸中年男性なんだ!」突如、全裸中年男性は、声を張り上げました。


全裸中年男性は言葉を続けます。


「自分の大黒柱を人に握らせるな!」


全裸中年男性は、そう言うと、突如、腰を回転させ始めました。

オオカミは、あっけにとられ、息を吹きかけるのをやめてしまいました。

ところが、全裸中年男性の大黒柱は風がやんだにもかかわらず、出撃準備の整いつつあるプロペラ戦闘機のように、回転数を上げ始めているではありませんか。風を吹きかけられるどころか、扇風機のように自ら風を生み出し始めています。


「お前も、全裸で!自分の人生をまわせ!」全裸中年男性は、オオカミに言いました。

「でも、俺は獣だ。元から全裸だ」オオカミは言いました。

「その社会性という服を投げ捨てろ!ワシは心の全裸を待っている!野生を取り戻せ!カムバック・ワイルド!」


全裸中年男性のプロペラは周囲の草木を吹き飛ばす程の威力になりました。

彼は、そのプロペラをレンガの家へ向けます。ですが、レンガの家は頑丈です。プロペラの生み出す暴風にも耐えています。

しばし、オオカミは全裸中年男性の様子をぼうっと眺めていました。

そして、噛みしめるようにゆっくりとうなづくと、一歩ふみ出します。


「俺も野生に帰るぜ!グッバイ・ソーシャル!」オオカミは、そう叫ぶと、全裸中年男性の横に立って、腰を回し始めます。


オオカミのロンリーウルフが加わりますが、それでもレンガの家はビクともしません。


「一人じゃ無理でも、二人なら!……ぐっ、やはり無理なのか?」オオカミは言いました。

「二人で無理なら、みんなでだろ?」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきました。


「お前たち……」


オオカミが振り向くと、3匹の子豚がいました。

彼らも腰を回し始めます。


「「「「「「うおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」


顔を真っ赤にして腰を回し続ける全裸中年男性。声の続く限り、その孤高な叫びとともに腰を回し続けるオオカミ。捕食者と被捕食者の壁を越え、となりにいるオオカミを恐れるどころか、友情すら感じて腰をまわす子豚たち。

5つの風がくっついて、一つの大きな旋風が生まれました。

彼らの生み出す旋風は、ついにレンガの家を吹き飛ばしました。レンガの家はそらたかく舞い上がって、かなたへと消えていきました。

 

「やったんじゃ、ついにワシらはやったんじゃ!!!!」全裸中年男性は叫びました。


全裸中年男性とオオカミと子豚たちは、互いに肩を抱いて、泣いています。

はたから見れば、彼らはすべてを捨ててしまったのかもしれません。


ですが、彼らは、本当にだいじなものを見つけたのです。


いつまでも、いつまでも、全裸中年男性とオオカミと子豚たちは笑い合っていました。


 



おしまい。

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