8話:変化(2)
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当日。最寄りの駅から電車に乗って、例の遊園地を目指す。車両には殆ど人がいなかったので、堂々とシートに腰掛け、スマホを開いた。
『おはよ。今日だよ』
彼からメッセージが着ている。届いた時間は今よりも1時間程前だ。朝はドタバタしていて、全然スマホを確認していなかった。私は慌てて返信を打った。
『おはよう。今電車乗ったよ~』
一先ず向かっているという事を伝えるべきだろう。簡潔な文面を打ち終わってアプリを閉じようとした時、手の中の機械は小さく振動した。
『返信遅い。忘れられてると思った( •ω• )』
申し訳ない事をしてしまったな。謝罪の言葉を入力し始めたのとほぼ同時に、またメッセージが届く。
『忘れてなかったんだったらいいや( ^ω^)遅れないで来てね』
やっぱり彼の打つ文章は可愛いなぁと思う。こんなメッセージが届いたら可愛い女の子だと思うじゃん。彼女にしたい。
まだ彼と現実で顔を合わせた事がなかった頃の日々を思い返すと、心がくすぐったくなる。周囲にばれないように、笑みを抑えられない口を隠した。
「遅い。いつまで僕を待たせるつもりなの」
待ち合わせ場所に到着して早々、かなたは不機嫌なオーラ全開だった。理由は私が約束の時間に遅れてしまったからだ。
いや、待って、不可抗力なんだよ。
かなたとやり取りをしながら車両に座っていると、普段は流れない音声が耳に届いた。「線路に物が落下した」そうだ。結果として、私は数十分遅れてこの場所にたどり着いた。
「そんなに怒らないでよ。さっき送った通りだよ」
かなたも仕方がない理由とはわかっているのだろう。かなたはそれ以上私を責めることは無く、ばつが悪そうに頬を膨らませる。
鞄からチケットを取り出し、かなたに差し出した。かなたは自らの分を摘み取ると、じっとチケットを見つめた。
「……どうしたの?」
変なことでも書いてあったのだろうか。私は同じように自分のチケットを確認したが、よくありそうな事が書いてあるだけだった。
「こんな感じなんだなぁって思って」
難しそうな表情とは対照的に、彼は極めて漠然とした感想を述べた。
巨大な観覧車の上弦は、敷地の外からでもよく見える。
目的の場所が近づいてくると、かなたの機嫌は回復していた。いや、回復していたと言うより、最早普通よりテンションが高い。語尾が少し上ずっているのは気のせいじゃないだろうし、目がキラキラとしているのは太陽のせいじゃないだろう。
入場口でチケットを渡して、敷地内に入った後も彼の上機嫌は変わらずに続いている。
まさか、エルドラ仲間と遊園地に一緒に来ることになるなんて……。一か月前からは考えられない事態だ。
何やら目をパチパチさせている彼の顔に視線を移す。あのきっかけがなければ、今もずっと彼の事を女性だと勘違いしていただろう。何だかしみじみしてしまう。
物思いに耽っていると、手首が捕まれる感触があった。
「ねえ早く行くよ。全部周りきれないでしょ」
え、完全制覇するつもりでいたの?
てっきり彼は甘い物にしか興味を示さないだろうと踏んでいたから意外だ。
「それはかなり大変なんじゃないかな……」
否定の意志をぼかして伝えたものの、彼は気に留めていない様子だった。
「人少ないし、折角色々楽しむチャンスなんだよ?それに、里香と来れる機会なんて無いから楽しみたいじゃん」
一瞬、耳の横で心臓が鳴る音が聞こえる。平然と言い切ったかなたに、こっちが気恥ずかしくなってしまった。