8話:変化(1)
行間の取り方を変えてみました。
ふえぇ……小説書くの難しいよぉ……
昼休みも終わりかけ。次の授業の教室へ向かっていると、突如美來は通路の真ん中で立ち止まった。
「あ、そうだ。里香に渡したいものがあったんだった」
美來は壁際に移動し、リュックサックを背中から下す。いくつかの書類の挟まった、透明なクリアファイルを取り出した。
「え、何?」
友人の手の上にあるのは長方形の2枚の紙。表面にはカラフルな観覧車の写真が印刷されている。
「知り合いから貰ったんだよ。里香、こういうの好きでしょ?」
美來は冗談っぽく言った。ランドセルを背負っていたような時代は週末の度に、行きたいと強請って親を困らせていた記憶がある。けれど今は特段好きというわけではない。年相応、だと思う。
「別に好きではないけど」
写真の上にメルヘンチックなフォントで、遊園地の名前が印字されている。入場チケットのようだ。
「またまた………謙遜は良いんだよ。欲しいなら、欲しいって言いなよ~」
美來は遊園地のチケットで口元を隠すと、金持ちが札束を扱うように仰いで見せた。
「いや、本当に要らないんで」
こういう時は無視が一番だ。
怪しげな水を売りに度々家にやってくるセールスマンを追い返すが如く。私は扉を開けて、授業を受ける教室に入ろうとした。すると、美來は焦った表情になって、縁と扉の間で腕を広げた。
「待って、待ってよ。ほんとに貰ってくれないと困るんですってばぁ」
「結構です。私は遊園地に行かなくても満ち足りています。では」
ドアノブを握る腕に最大限の力を込めて引く。
「!!?」
扉は全く閉じようとしない。ガチャガチャと腕を前後に揺らしてみても、結果は変わらない。美來の腕は接着剤で固めたかのように離れることなく、扉が閉じるのを妨げていた。
私が繰り広げる攻防に一切視線を向けることなく、美來は私の顔を見つめる。
「貰ってくれるよね?」
「え?」
「貰ってくれるんだよね?」
「い…嫌…」
「はい、ありがとう。はぁ…なかなか貰ってくれる人いなくて、困ってたんだよね」
「……………」
真顔で私の瞳を見つめ続ける美來の覇気に圧倒され、気づけば私はチケットを受け取ってしまっていた。
詳しく事情を聴くと、美來は知り合いから開園前の遊園地のプレオープンに招待されたらしい。元々プレオープンの日は何の予定もなかったのだが、急遽予定が入ってしまい、行けなくなってしまった。知り合いには実際に遊んでみての感想を求められているらしく、行かないわけにはいかなかった。それなら代わりに私に行ってもらって、私から体験を聞けばいいじゃないか、と考えたようだ。
よく見ればチケットには、赤字で日付が書かれている。
「どう?里香。その日空いてそうかな…?」
「あ、空いてるけど…。でも私…」
「本当!!?良かった~助かったよ、里香。ありがとう‼」
私の反論を聞くより早く、美來は背中に鞄を背負い直すとどこかに消えてしまった。チケットを片手に、呆然と立ち尽くす私に、周囲の学生が憐みの視線を注いでいた。
授業が終わった後、私は美來に押し付けられた遊園地について調べていた。チケットについていたQRコードを読み込み、公式サイトへアクセスする。名前は聞いたことがある気がする。確か、先日テレビでコマーシャルが流れていた。
読み込みが終わると、可愛らしいデザインのページがスマホ全面に映し出される。
ウサギを模したぬいぐるみのキャラクターが画面の真ん中で手を振っている。この子がこの遊園地のマスコットなのだろう。その周りには様々な項目へのリンクボタンが配置されている。
アクセス、ショッピング…など順番に項目を開いて見ていくと、途中で食べ物のページに来た。キャラクターの形をしたクッキーや、チョコレートなんかを盛りつけたスイーツが沢山並んでいる。どれも甘そうだ。美味しそうだけど、見ているだけで胃もたれしそう。
砂糖と乳の塊を見ていると、ふと彼の事を思い出した。
そして私は人知れず頷いた。急に誘われても困るかもしれないが、声を掛けてみるだけ掛けてみよう。彼は絶対好きなはずだ。
私はSNSアプリを開き、キーボードに指を走らせた。
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