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送春  作者: 支那勿忘草
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終春

誰か一人でも何かを感じてくればいいと思っています。

もう生きることが難しいかもしれない。

そう思ったのは高校二年生の夏だった。

今まで抱いてきた「もう無理!」とか「死にたい!」とかそういうものとは違った。

時折ふっと現れる”自分は今何をしているんだろう”感に近かった。

自分の中で張り詰めた日々、アクティブに動き回っていた日々が終わり、ふと我に返る時間に似ていた。

ああ、もう人間としての日々の営みを人並みにこなすことが僕にはできないのかもしれない。

といついかなる時も考える。

夜寝ることや朝起きること、ご飯を食べ、歯を磨き、人と話し、お風呂に入る。

そんなようなことまでもが自分に気を使わないとできなくなっていた。

学校に行くために朝起きる。自分で朝ご飯をつくりそれを食べる。

何の疑問を持たずにただ日々のルーチンとしてやっていたことが嘘のように思えてくる。

まだ眠い目をこすりながら学校へ行くために自転車を出す。

すうっと頬を生温かい風が撫でる。人の肌のようで心地が悪かった。

シャッターや自転車のチェーン、車の走る音などほとんどがいつもよりも大きな音に聞こえた。

脳みそが文字通り揺れていた。間違いなく揺れていた。

急に気持ち悪くなり、自転車を立てる事もせずに用水路に嘔吐した。

鼻にまとわりつく酸っぱい臭いと焼ける喉、もう出るものもないだろうにずっと嘔吐する動作をしていた。

10分ほどだったか経つとそれも収まった。

制服に見えるようには飛び散っていなかった。

良かったと思い重い頭と軽くなった体を持ち上げて転がっていた自転車をこぎだした。

初めて学校を遅刻した日だった。

学校につくといつものように友達が元気よく迎えてくれた。

僕もいつものように元気よく返事をしたつもりだったが、

「今日体調悪い?」

と聞かれてしまった。びくっとしてさっき吐いたことを伝えようか迷ったが伝えずに、

「いいや!」とさっきよりも元気に返事をした。

体調は悪くはない。でも良いわけではない。言うとすると「体調がすぐれない。」だ。

ただそんなことは誰にでもあってみんな隠して生活してる。いう必要はない。

いつもより元気よくふるまえないだけ、いつもより人の話が頭に入ってこないだけ、

いつもより体が重いだけ。

ただそれだけだった。それ以外はいたって普通だ。多分。通常運転だ。恐らく。


そこから「体調が悪い」に移行するまでそうかからなかった。

ものの数日で体感別人のようになってしまった。

朝起きると鉛のように重いからだが起き上がろうとする僕の気力を削いできた。

食べ物は食べれるがすぐに吐いてしまう。

音という音すべてに過剰に反応してすぐに頭が痛くなる。

その状態で学校に行っても、トイレで胃液をぶちまけてしまう始末だ。

保健室で一限分過ごしそのあとは体調不良で早退する。

早退することに強いストレスを感じ、次第に学校自体に行かなくなった。

学校に行かなくなるといつも一緒に遊んでいた友達から心配の言葉が届く。

返事をすることにもしんどいと感じてしまうのでもう送らないでくれと思いながら

「大丈夫」

と返す。「ならよかった。」という返信には何も返さなかった。

今日のプリントと幼馴染が持ってきてくれるが、その時は感謝の気持ちなど無かった。

こんな姿を見ないでくれ見せたくないという気持ちが大きかった。

今まで自由に使えていた体が急に自由に扱えなくなった。

作り笑いもへたくそになった気がする。

自分がどんな声だったかをも忘れそうになることもあった。

担任の先生も心配して家まで来てくれた。

僕が失恋で落ち込んでいると勘違いしたのか恋愛に関する本も持っていた。

というのも学校に行けなくなる直前、二年半ほど付き合っていた彼女と別れていた。

しかし別れを切り出したのは僕のほうで別れる決断も二人ではなしあった結果だ。

ただ全く関係ないとは言い切れず、いやほとんどがそれなのかもしれない。

その時は違いますと話し、先生を帰した。

僕はその時の恋人と一緒にいる為に頑張っていた。

将来その人と暮らすために、自分の子供ができた時の為に、

いい大学に行こうと思っていた。

保育士、幼稚園教諭になりたく、ただでさえ給料も少ないのでいい大学にだけは行っておかないと

その人やもし子供ができた時に迷惑をかけると思っていた。

そうだ、僕は自分じゃなく彼女のためだと思っていたから頑張れていたんだ。

そう気づくと自分のとった行動がとても情けなかった。

別れるときにした「学校を辞めない」という約束が僕にドンと乗っていた。

ごめんなさい。本当にごめんなさい。その約束守れないかもしれない。

そう思うとどんどん気が病んでいった。

学校に行かないと。学校に行かないと。毎日毎日自分を奮い立たせようとするもうまくはいかなかった。

ひたすら嘔吐を繰り返し、すみません。と学校に連絡を入れていた。

まったく自分勝手な野郎だと思う。がもう自分ではどうしようもないところまで来ていた。

自殺を何度も試みた。

ギターのシールドを首に巻き付けほどけないようにした。

あのひんやりとしているのに熱を持っているような感覚は今でも覚えている。

何度も何度も試した。

そのたびに感じたことのない恐怖に似た何かに止められていた。

自分がその恐怖に打ち勝つ勇気が無いことを恨んだ。

いつだったか、本当に死にそうだったことがある。

その時は親友と呼べる存在からの連絡の音で目が覚めた。

涎まみれになった自分の口と部屋の床にとても情けなくなった。そしてまた死にたくなった。


そんな日々が続いたある日母親が通信制高校や高卒認定試験について教えてくれた。

それまでこの高校をきちんと出ないと大学に行けないと思っていた。

しかしそうではなかった。気持ちが少し楽になるのを感じた。

それに加え当時好きだったアーティストの解散のニュースがあった。

それぞれのコメントはとても前向きで新しいまた別の活動をそれぞれで続けるようだった。

その言葉にとても救われた。

すぐさま東京と北海道であるライブのチケットを取った。

そこから体調がよくなるまで長くはかからなかった。

年に一回一週間ほど行くだけでいい通信制高校への編入が決まった。

ただまだ完璧に良くなったわけではなく、夜になるとどうしようもない感覚に襲われていた。


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