プロローグ
この世界にはいくつかの人間の国と魔族の国がある。
魔族の国は小さいが魔族たちはとても強く、周りから恐れられていた。
そんな魔族の国のある小さな村の前で赤ちゃんが捨てられようとしていた。
村の入り口近くの木の下。
二人の若い男女が周りを気にしながら野菜袋にくるまれた赤ちゃんを置く。
親だろう二人が知ることはついになかったが、赤ちゃんはとてもかしこかった。
かしこかったので、自分が今捨てられることも知っていた。
だが赤ちゃんにできることは何もなく、親が去っていくのをただ見送った。
ひとりになった赤ちゃんは、カゼをひく前にだれか拾ってくれるといいな、と思う。
そして意外と早くその時は来た。
村の入口から女性の小さな悲鳴が聞こえたのだ。
「あ、赤ちゃん……!?」
その日の朝、村の外の畑へ向かおうとしていた女性は、木の下に赤ちゃんを見つけて飛び上がった。
女性は自分が見たものが信じられず、村の入り口で固まってしまう。
そしてもう一度確認するように、木の下の、野菜袋にくるまれた赤ちゃんを見た。
見間違いじゃないとわかると、そばへ来て赤ちゃんを抱き上げた。
女性はしばらくその場に立ち止まって、何かを探すようにキョロキョロと周りを見る。
もしかするとこの子の親が、思い直して戻ってくるかもしれないと思ったのだ。
やがて赤ちゃんの親が戻ってこないだろうことを悟ると、村に入っていった。
女性は赤ちゃんを連れて村の教会へ向かう。
赤ちゃんを預けようと思ったのだ。
しかし、教会はすでに子供であふれていた。
その年は不作が続いていて捨て子が多かったのだ。
女性は教会を出て少し立ち止まると、腕の中の赤ちゃんを安心させるようにほほえんだ。
「あなた、うちの子になる?」
赤ちゃんは答えるように女性のひづめを小さな手でにぎった。
女性は赤ちゃんを連れて自分の家に帰る。
家はおおいかぶさるように生えた木の枝にうもれそうな小さな木の家で、家の中は清潔でとても居心地がよさそうだった。
女性は小さなベッドに赤ちゃんを寝かせ、台所に踏み台を置くとその上に立ってお湯を沸かす。
タライにあたたかいお湯を張って赤ちゃんの体をきれいにして、新しい服を着せたりと世話をやく。
その日、赤ちゃんはぼんやりとした視界に映る、家をせわしなく動く小さな白い影を、あきることなくずっと見ていた。
夜になって女性がおやすみのキスをすると、赤ちゃんは安心して眠った。
村の前に捨てられていた赤ちゃんはナターシャと名付けられた。
ナターシャがママに抱かれて家の外に出るようになると、ママはナターシャに村を見せる。
ママはナターシャがもう色々なことがわかることを知っていたので、大きな子供と同じように話す。
村はオークたちが住んでいる村で、ママもオークで名前はヒルダ。
そしてナターシャは、青白い肌に銀色の髪と紫色の瞳を持つ、ダークエルフという種族だと教えてくれた。
ナターシャを抱っこしたママが村を歩いていると、村のオークたちがやってきてはナターシャの頭をなでたりあいさつをしていく。
そうしている内にナターシャはあることに気付く。
オークたちは見上げるほど大きいけどママはずっと小さい。
ママは白い毛並みだけどオークたちは緑や灰色の肌。
オークたちの鼻は丸くて低いけど、ママがナターシャにキスをしようとすると口より先にピンク色の鼻がくっついた。
つぶらな黒い瞳。
シンプルなドレスにエプロンをつけたおしりには、くるんと丸まったしっぽ。
やわらかい笑みを浮かべる口元にオークのような牙はない。
手足もオークとは違ってひづめだ。
ナターシャのママ、オークのヒルダはふつうのオークとは違うようだった。
というより
その
なんというか…………ブタさんにとてもよく似ていたのだ。
イノシシ年ということで
短編。全5部ぐらいの予定です
短い間ですがよろしくお願いします