彼女たちとの関係と決断
ユウジの問いに答えたのはアナトだった。アスタルテは森から呼んだ動物たちと遊んでいる。
「私たちは、ニシモリ・ユウラに造られた存在。核石を媒体にした精神と肉体の融合体。生みの親に言わせれば、造形人間というらしいわ」
それから彼女は、「私が燃やした紙にそう書いてあった」と付け足した。
燃やしたのか、とユウジは多少の呆れを感じたが、読んだ後に燃やしたのであれば、何か感情の揺らぎがあったのだろうと憶測した。
アナトは、ユウジの持つ紙束に視線を落とした。
「そこに書いてあることは私たちにはほとんど分からないわ。分かるのは、私たちは造られた存在で物心ついた時からここにいるってことだけ。それと多分、生みの親が一緒、ということかしらね?」
「そうだな……同姓同名の別人でもなければ、そういうことになるのかもしれないな」
断言はできない。だが状況から考えれば、形は違えどユウジたちは家族ということになる。
「それでこれからどうするの?」
そう言われたユウジは手を合わせて俯き、地面を見つめた。
ユウジは悩んでいた。
現状で帰還の方法がない以上は、彼の行動方針は二つに分類される。
帰還の方法を探すか、あるいは全てを過去としてこの世界で新しく生きていくか。
ユウジは帰りたいとは思えなかった。
転生者として終末の世界を生き抜いてきた彼にはもう、大切だと言えるだけの人間はいなくなってしまった。彼らは記憶の人としてユウジの中に眠っている。かの世界に未練はもうない。だが愛着はある。終わりの始まりを迎えている世界で、失くすばかりの人生ではあったが、だからこそ本気で生きようと思えた世界でもあった。
その想いが僅かな心残りとなって、ユウジの後ろ髪を引く。
ユウジはふと聞こえた笑い声に誘われて、顔を上げた。
そこでは動物たちと戯れるアスタルテが微笑んでいた。あれほど無表情だった彼女が、陽の光の下、屈託のない笑顔を浮かべている。
ユウジには、何故かその光景が輝いて見えた。
それは新たな大切かもしれない。
そう思うと、ユウジの追憶の中の存在は、全て色褪せていった。人も物も、白い砂となって風化していく。
そして彼が紡いできた彼の歴史は今、終幕を迎え新たなページとなって刻まれ始める。
「俺は……旅に出ようと思う」