紅の少女
目の前に現れたのは、紅い瞳に金色の髪を持つ少女だった。
「アナト」
アナトと呼ばれた少女は、矢をつがえてこちらに弓を向けながら、素早くアスタルテを庇うように立った。その間、ユウジはじりじりと後退している。
「アスタルテ! こんなところでなにやってたの!? それにこの変な男はなに!」
アナトは威圧するようにそう言い放った。だがアスタルテはそんなことは微塵も気にしていない様子で言い放つ。
「変な人」
「そう……。じゃあ殺すわ」
「待て待て待て、待ってくれ! 俺は殺されるようなことはしていない!」
ユウジは酷く狼狽えた様子で無実を主張した。変な人という理由だけで殺すとはなんて物騒な奴だ。
「じゃあ、何をしたのかいってみなさいな」
「その前に、何かしたという前提をやめてもらいたいんだが……」
「その怪我は?アスタルテにやられたんじゃないの? 明らかな戦闘の証拠を残したまま言い訳だなんて、おこがましいにもほどがあるわ」
「え…? あぁ、いやこれは」
何といえばいいか。この傷は全てこちらへ転移する前の世界で負ったものだというのに、どう説明すればいいのか…。
ユウジは苦悩する表情でアスタルテを見た。
目が合ったアスタルテは、最初に首を傾げたが、ぽんと手を打って救済の一声を出す。
「待ってアナト、戦ってない。この人、焦げてる」
そう言われたアナトは、厳しい視線をユウジに向けた。まるで殺意に満ちた獣に睨まれたようだった。すごい迫力だ。
「確かに焦げてるけど……」
焦げているから何なのか。ユウジはそう思ったが、予想に反してアナトは納得した様子だった。
「まぁあなたがそういうならいいわ。で、結局あんたは何者なわけ?」
疑心に満ちた視線を向けるアナトに、ユウジはアスタルテに話したことと同じ説明をした。
だがどのみち通じないだろうとユウジは思っていた。
「異世界人ね……」
しかしアナトは、アスタルテとは違う反応を示した。彼女はどことなく腑に落ちているようだ。
「アスタルテは知らないかもしれなけど、私はそういう記録を見たことがあるわ。別の世界へ飛んで、帰ってきた人の記録をね」
「記録があるのか……?」
ユウジは信じられないといった表情をした。であれば、彼以外にも転生もしくは転移した者がいるということだ。それも帰還し、元の世界に記録を残している。
「その記録というのは何が記されているんだ?」
「それは口で説明するより見た方が早いと思うわ」
それからアナトは「付いてきて」と、森の中へ歩き出した。