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いきつく所へ~学校編~  作者: 内田葵
7/8

疑問

 学校にたどり着くなり牧田さんを引き連れて足早に進んでいく。

 牧田さんも何か思うことがあるのか、授業をサボろうとする俺を咎めるわけでもなく素直についてきてくれた。


 たどり着いた先は、見覚えのある校舎の裏側にある小さな小屋で目的の人はすぐ目の前にいた。


「おー牧田君じゃないか。それに君は確か高杉君だったね、元気にしてるかい?」


 元気ですと簡単に挨拶を済ませ、早々に本題に入った。


「南君かね、もちろん覚えているとも!」


 やはりビンゴだった。

 昼前には帰ってしまう上に、教職員というわけでもないので学園祭には参加していなかったようだ。



「あれは悲惨な事件だったねぇ。」



 思いがけない単語が出てきたので次に聞きたかった言葉が出なかった。

 悲惨?事件?

 牧田さんも同様できょとんとしている様子だがすぐに質問をする。


「柳先生、悲惨な事件ってどういうことなの?」


「あれはそうだなぁ、君たちが生まれるかどうかの頃ったかな。クラスメイトの男の子が南君を殺害してしまってね。とても人懐っこい子だったから忘れもしないよ。ちょうど牧田君のような子だったねぇ。」


「先生違うのよ、ついこの間転校してきた南春香さんについて聞きたいの。」


「はてそんな子いたかな。」


 どうやら柳先生は過去に同姓同名だった女の子の話をしているらしい。

 俺が聞きたいことではないが、何となくどんな事件だったのか気になるので質問をしてみた。


「確かこの学校の裏にある山道で殺されたと聞いているよ。部活に励んでいる最中だったとか。男の子が南君に恋をしていたそうだが、何かしらが原因で犯行に及んだのではないかねぇ。」


 裏山!もしかしてあの坂道付近にあるくぼみ付近だろうか。


「その通りだよ高杉君、よく知っていたね。殺害直後に学校生徒と教職員全員で現場へ赴いたね。」


 俺のであった南春香は人見知りをするようなおとなしい子だ。

 それに対して先生の知っている南春香は牧田さんのような活発な人懐っこい子。

 何故だろうか、まるでタイプは違うがどうしても他人だとは思えない。

 何しろ誰もが俺の知っている春香ちゃんのことを忘れているのに、殺害された南春香と同じ場所で思い出したからだ。


 早く戻りなさいなと柳先生が教室に帰るのを促したので、先生にお礼を言って俺達は教室へ戻った。


 クラス中が、最近あのペアなんか怪しくない?などと黄色い声があったそうだが、その時は今回の件がどういうことなのかと考えに耽っていたので気づかなかった。



 帰宅してから南春香に関して調べてみたものの、事件の犯人、被害者ともに未成年ということから具体的に名前が出ておらず、有力な手掛かりはなかった。


 近所や学校の先生方にも聞いてはみたものの、年数が経過しているということもありあまり詳細に知っている人もいない。


 あの日以来、春香ちゃんは姿を消し、みんなの記憶からも消え、昔同じ学校に通っていた同姓同名の殺人事件被害者がいて犯行現場が春香ちゃんとの思い出の場所、ということぐらいしかわかっていることがない。


 なぜかすっきりはしないが時間が経てばすべて忘れることになるのだろうか。

 そもそもなぜ俺はこんなにも執着しているのだろう。


 どのみち今調べたところで春香ちゃんが戻ってくるとは思えないし、いっそのことみんなと同じように忘れたままでいれば時間を無駄にせずに済んだかもしれない。


 その場はそう思いはしたものの、来る日も来る日も事件について調べてみたが何も収穫は得られず、いつしか事件について調べることをやめていた。



 長い休みに入ったが厳しい寒さからかあまり外に出たい気分ではない。


 ただ部活があるのでさっさと支度をして寒空の下自転車をこぐという苦痛を考えると、風邪をひいたと嘘をついて休んでもいいのではないかと考えた。


 考えただけで実際に意味もなく休めるほど度胸はないので、嫌だなと思いながら家を後にする。


 長期休暇が始まって最初の祝日ということもあり、学校にはあまり生徒がいない。

 俺達ぐらいだろうか。


 いつも通り今日は顧問の先生が休みということだそうで上級生たちは張り切ってコートを独占しており、俺達下級生は外を走らされる羽目になった。


「先輩たちは本当にテニスが好きなんだな。」


 嫌味のようにつぶやく洋輔がいたが、先輩たちの耳に入ったら大変だ。


「俺は聞こえてもいいんだけどね。だっておかしいじゃないか、何しにわざわざこんなくそ寒い中学校に来たんだか。」


 言っていることは分からんでもない。

 実際に寒い中外をランニングしたい気分ではないが、文句を言ったところで状況は変わらないだろう。


 そんなやり取りをしていると俺と洋輔を除いてコートに残っている者はおらず、先輩たちがこちらに視線を送っているのに気付いた。


「どうせ顧問がいないわけだから、ここにいて話してたって問題ない気がするんだけどな。」


 そんなことを言ってその場を動こうとしない洋輔。

 珍しく怒っているのだろうか、はたまた抗議の姿勢だろうか。


 どちらかといえば温厚な性格な洋輔だ、素直にぺこぺこ頭を下げるような人間ではないがあまり怒る姿も見たことがない。


「どうせこの後バイトあるし、俺帰るわ。悪いな。」


 なるほど、どうせ楽しく部活が出来ないなら予定もあるし帰ろかと考えていたのか。

 洋輔はさっさと着替えを済ませて自転車にまたがる。


 校門まで一緒に帰り、洋輔に挨拶を済ませた俺は外周を走ることにした。



 久しぶりに外周を走る気がする。

 木々は葉っぱがすっかり枯れ落ち、田んぼや畑もどこか寂しい。


 いつもの坂に到着すると春香ちゃんと南春香に関して思い出した。

 ここに来るのもいつぶりだろうか。


 坂を上がっていくと例のくぼみが見えたので少し中に入ってみた。


 座ってみる風景は木の葉っぱがないからかいつも見ていた風景よりも視界が開けており、見晴らしがいい。


 ここで春香ちゃんからお守りを貰い、お守りで春香ちゃんを思い出し、そして南春香が殺害された場所か。


 座っている場所を見渡してみたが、当然ではあるが事件らしき痕跡もない。

 相当年数も経っているわけだし当たり前といえば当たり前か。


 そんなことを思っていると、ふとあることに気が付いた。



 ここにあった地蔵はどこへ行ったのだろうか。



 来るたびに埃かぶって佇んでいた地蔵が見当たらない。

 まさか誰かが盗むようなものでもないし、かといって自分で動き出すなんてこともあり得ない。


 誰かがどこかへ移動したのだろうか。

 想像してみたが見当もつかない。


 考えても仕方ないと思い、くぼみを出て坂の頂上を目指そうと走り出したとき、頂上から人影が見えた。


 もし間違いでないなら、その人は俺が追いかけていた人物だ。



「春香ちゃん!!」

 ようやくここまで来たなといったところです。学校編は次回で完結します。

 まだいきつく所へシリーズは続きますが、うまく締めくくれればと思っております。

 それではまた次回お会いしましょう!

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