接近
第3話まで来ましたいきつく所へ~学校編~です。
もし前話から読んでいただけている方、お待たせしました。初めましての方、お時間がある際に1話から読んでいただけると話が分かりやすいかと思います。
それではお楽しみください!
あまり女性と会話をしない俺としては、どのタイミングで話しかけたらいいのか、どんな話題を出したら会話が弾むかを考えこみ、気づくと学校から一番近い交差点まで歩いてきてることに気が付いた。
「ごめんね誘っておいたのに、無言でここまで来ちゃったね。」
「いえ、こちらこそすみません。気が利かなくて。」
気が利かないのは俺の方だ。洋輔ならどんな話をするだろうかと考えそうになったが、また無言になってしまうのも忍びないので何か話しかけなければ。
「都会ってどんなところなの?」
とても当たり障りのないどうでもいい事を聞いてしまった。明日から一緒に帰る機会がないかもしれないというのに。
「そうですねぇ。都心部は一般車が地上を走っていて、その少し上を業務用車等が走っているんです。歩行者はそのもっと上にある歩道を渡るんですが、この街のように車が歩行者と並走いるのは少し怖いです。」
「ニュースでは聞いたことあるけど、本当にそうなんだね。」
「はい。でも郊外は、この街と同じだと聞いています。行ったことはないですが。」
「一度でいいから都会に住んでみたいと思ってるんだよね!」
「きっとそんなに憧れるような街ではないですよ。」
そうクスっとわらった南さんの笑顔に見惚れてしまった。
「どうかしましたか?」
「い、いやなんでもないよ。」
まじまじと見つめる俺のことが気になったのだろう。不思議そうな顔をしている。
「俺の感覚だと、人間は地面を歩くものなんだけど、都会の人達は空に架かる道をあるくわけだよね?」
「すごくロマンチックな表現ですね。」
先程よりも気持ちの良い笑顔を見せてくれた。
「いやそんなつもりはないんだけどね。どんな風なのか想像もつかないなぁと。」
「んー。単純に歩道の下を車が走っているだけなので、そんなに不思議ではないんですけどね、体験したことがなければ分かりづらいかもしれませんね。」
「あとはどんな所がここと違うの?」
「そうですね、お店に店員さんってほとんどいないので、機械から購入するのが普通ですし、ビルばかりなので、いわゆる一軒家というものは初めて見ました!流行は、プログラムをすると気分に合わせて部屋の模様替えができるシステムですかね。あとは若い女の子たち向けに開発された、個人の為だけに歌ってくれるライブシステムとか、亡くなった方とお話しできるシステムとかですかね。」
「こっちではどれも馴染みがいないね。つい最近やっと畑を自動で耕してくれる機械が手に入ったって裏のおじいちゃんが喜んでたかな。」
「ふふ、そうなんですね。私からすれば、ここはとっても素敵な街だと思いますよ。あとは少し前に電車がすべて地下化されました。鉄道ファンから抗議が殺到したとニュースになっていましたね。」
「それは俺も見たよ!ここよりもっと田舎に行けば、路面電車だってあるのに。」
「路面電車って何ですか?」
目を丸くして俺の顔を見るめている。
「地上を走る電車のことだけど、専用の区画があるわけじゃなくて、道路に線路が敷いてあって、そこを走るんだよ。」
「すごいですね!なんだか危なそうですけど。」
「そこは田舎だから成り立つんだろうね。人がそれほど多いわけでもないし、電車が来たら道行く人は止まるのが当たり前だと思ってるし。」
「確かに都会では難しいかもしれませんね。」
そう言って笑った南さんは、手で口を隠すような仕草をした。
その手を下すとき、彼女の指先が俺の指先と触れ合った。
「すみません!」
「こちらこそ、そんなに謝らなくても大丈夫だよ。」
今ちゃんと声にできただろうか。南さんに伝わっただろうか。一瞬の出来事にもかかわらず、心拍数が上がるのを感じる。
俯く南さんに何か話をしなければと考えてはみたものの、何も話題は浮かばない。頭が真っ白になるとはこういうことなのだろうか。何か話題はないものか。
「ご、ご家族とは仲良いの?」
どうしたんだ俺、まるでお見合みたいなこと言ってるじゃないか。
「そ、そうですね。父も母も仲良いですし、私も大切に育ててもらっています。高杉君のご家族はどんな方なんですか?」
「うちもみんな仲良しだよ!未だに家族で出かけたりするし。父親はいないけどね。」
「そうなんですね。すみません、変なこと聞いてしまって。」
「全然平気だよ!」
慌てて答えてはみたものの、今ここでいう必要なかったな。今度は少し気まずい空気が流れている。
こんなことなら積極的に女子達と交流を取っておくべきだった。牧田さん以外で。
「高杉君は」
何かを聞きたいようだが、その先の言葉が出てこず黙っている。
「ん?何?」
「いえ、ごめんなさいなんでもないです。」
「そんなに気を使わなくていいんだよ。なんだったら晋平って呼んでもいいんだよ。」
「良いんですか?」
ダメ元前提の冗談で言ったつもりだったのだが、思いがけない反応にビックリした。
「私、朱音ちゃん以外を下の名前で呼んだことなくて、特に男性と交流がなかったので嬉しいです。」
「南さんなら男性がたくさん言い寄ってきそうなもんだけどね。」
「なんでですか?」
子犬のようなその顔は、きっと自分自身が整った容姿をしていることに気づいていないのだろう。
もし気づいてて言ってるのであれば、とんだ美人局だ。
「なら世の男子勢、初の下の名前で呼ばれる男ってことだね。」
「そうなりますね。私のことも春香って呼んでください。」
こんな俺が南さんを下の名前で呼ぶことなど許されるのだろうか。皆に気づかれた日には袋たたきにされることに間違いないだろう。
「わかった、よろしくね春香ちゃん。」
「こちらこそです、晋平君。」
南さんの笑った顔を見てきた中で、一番の笑顔だと思う。きっと今は舞い上がってしまい、補正がかかっているのだろう。それでもこの目に映るすべての景色を、ずっと忘れたくない気分だ。
程なくしてもう少しで家からほど近い公園付近までやってきた。
「私はこっちですので。」
「分かった、気を付けて帰るんだよ。」
「ありがとうございます。晋平君もお気を付けて。」
そう言ってすぐに向きを変え、気づくと薄暗くなっていた街へ、足早にへ消えていった。
なんて幸せな時間を過ごしたのだろう。
みんなの注目の的である南さんを春香ちゃんと呼ぶ許可をいただき、何よりも俺のことを晋平君と呼んでくれるなんて。
しかも他の男子を下の名前を呼んだことがないと来た。
何か特別なことをしたわけでばないはずなのに、他人より少しリードしているのではないだろうか。
いや、あまり舞い上がってはいけない。今はそうだったとしても、今後もそれが続くとは限らないし、そもそもリードしているというのは俺の妄想な訳だから、過度な期待をして痛い目をみるのは俺自身だ。
ただ願望も入っているかも知れないが、少なくとも嫌われてはいないと思う。それだけでも今日一緒に帰ったことに意味を感じる。
そんな幸せを感じているうちに、いつの間にやら寝てしまっていたようで気が付くと朝がやってきていた。
時間が分からず少し焦ったが、いつも起きる時間より早かったようで、タイマーが鳴らずに起きられたのは何年ぶりだろう。
時間に余裕がある朝はすごく優雅で、寝ても冷めぬ興奮と相まって、今日はすこぶる体調が良い気がする。学校であの素敵な笑顔が見れるかと思うと、とても心が満たされる。
そんなことを考えながら支度をしていると、そろそろ学校に向かわなければ間に合わないことに気づき、学校へ向かった。
教室へ入ると、ほどほどの生徒は既に授業前の雑談に勤しんでいる。まだ春香ちゃんは来ていないようだ。
俺の存在に気付いた牧田さんは、元気いっぱいな様子でこちらに寄ってくる。
「おはよ晋平!」
「おはよう牧田さん。」
「あらぁ?何かいい事でもあったのかな?」
「なんでそう思うの?」
「そりゃあ女の感ってやつですよ!」
女の感かどうかは定かではないが、少なくとも、いつもと違った雰囲気を醸し出しているんだろう。
気づかなかったが、ふと目線を逸らすと春香ちゃんが到着していたようで、クラスの女子に挨拶をしながら自分の席に着いた。春香ちゃんと目が合いニコっと会釈をしてくれた。
「おはようございます、晋平君。」
教室が今までにない、耳が痛くなるほど静まり返った。
「あらぁ晋平なーにしたのさ?」
意地悪そうに笑った牧田さんの言葉を最後に、その後何が起きたかはあまり記憶がない。
ただ覚えているのは、クラスメイト全員がこちらに駆け寄り、圧迫されて息苦しかったことぐらいだ。
青春って何だろうと思い返してみると、私の場合は部活でした。
彼のように甘酸っぱい青春は体験したことがなく、1度でいいから制服デートというものをしてみたかったなと思うことが多々あります。
もしこの作品を読んでいる方で学生さんがいるのであれば、臆することなく女子に話しかけてみてください。
大人になって恥ずかしさがなくなったからか、女性と普通に会話できるようになりました。
今となっては学生時代と打って変わり、女友達のほうが多い内田ですが、今から制服デートをしてもただのコスプレにすぎません。遅すぎたのです。
イケメンじゃなければ取り合ってもらえないと思い込んでいる若い男子諸君、イケメンとは程遠い私でも女友達は作ることが出来ました!若さがあれば何でもできます!
若い女子諸君、男の子達はあなたと話したがっています!受け入れてあげてください(笑)
私の体験できなかった制服デートの夢を、若い皆様に託します!
作品とは全然関係のない後書きでしたが、今後もこの作品にお付き合いいただけると幸いです。
それではまた次回お会いできることを祈ります。ありがとうございました。