Acquaへ出発!そしてロアが迷子?
ギルが眠りについた頃、メアも自室で眠りについていた。
100年前について調べようにも術が無かったのである。
その為ハルにライムが育った " Rosso " へと行かせたのだ。
メアには「運命」の魔力は有していない。
ライムが読んでいた分厚い本も、もしかしたら「運命」に纏わる本だったのかもしれない。
とにかく、今のメアにはオズからの新たな情報とハルがこれから調べ、得た情報が頼りなのである。
メアはフレイアから伝言を聞いた時、Acquaへ行くことは決めていた。
けれど何も情報が無いまま行くことに少し躊躇いもあった。
そこでハルの情報を得てから向かおうと考えていたが、ギルも一緒に向かってくれると聞いて気持ちが揺らいだ。
ギルが一緒ならば不思議と不安が無くなる。
今の自分が持つ情報は幼い頃の記憶のみでしかない。
それ記憶のみでもギルとならば問題は無いと思得るほどに、ギルはたくさんの知識を持ち頼れる存在なのである。
明日になればハルがこの屋敷を出る。
メアはAcquaへ行く日程を明日、決めることにして考えることを止めたのだった。
それからはモモが持ってきてくれた夕食を自室で食べて眠る準備をして数時間後には眠りについていた。
朝になり、扉をノックする音がする。
ーコンコンッ。
「メアお嬢様、朝早くに申し訳ございません。ハルです。」
メアは寝起きのまま扉を開けハルを招き入れる。
「これから出るの?」
目を擦りながらメアは問いかけた。
「はい。これからRossoへ向かいます。朝食のご用意はモモと既に致しました。このお屋敷を留守にする間、モモに何でも仰せ下さいませ。」
ハルは深々とお辞儀をする。
「うん、分かった。でもハル、メアもここを出ようと思う。いつまでも立ち止まってたら100年前の真実にきっと辿り着けない。だからギル達とAcquaへ行ってくる。」
メアは真剣な顔でハルに話した。
「畏まりました。私も調べが済みましたらAcquaへ向かいますので、どうかお気をつけてお向かい下さい。我々はメアお嬢様が笑顔でこの屋敷に帰って来られる事を、心から願っております。」
ハルはメアの手を握り微笑みながら応え、メアに一礼して部屋から出て行く。
ギルにも挨拶を済ませるとハルはメアとギルとモモの3人に見送られ屋敷を出たのであった。
メアとギルは部屋へと戻り身支度を済ませる。
ギルの部屋で眠る幼い2人は未だ起きる気配がしない。
約15時間は眠っている。
流石に心配になったのかギルは2人のほっぺたをつつく。
けれど寝返りを打つだけであり、全く目を覚まさない。
ギルは眠り続ける2人をおいて朝食を食べにダイニングへと向かった。
ダイニングではメアが先に食事をしていた。
そこにギルも加わり一緒に食事を取る。
今日の朝食は生ハム入りのサラダにエッグベネディクト。
デザートには、ふんわりまろやかプリン。
どれも絶品である。
特にデザートのプリンは2人のほっぺたをとろけさせた。
デザートはモモが担当することが多く、今回のふんわりまろやかプリンもモモが作ったものだった。
メアとギルはプリンをおかわりしてから幼い2人の分を受け取りギルの部屋へと向かった。
部屋に戻ると眠っていた2人がモゾモゾと動き出す。漸くお目覚めのようだ。
ーパチクリー
ロアとティアはキョロキョロと辺りを見渡し始める。
どうやらギルを探しているようだ。
そこでギルとメアが2人に近寄り抱き上げると満面の笑みとなりはしゃぎ出した。
ギルとメアが机に置いたプリンを指差し食べるかどうかを聞くと口をパクパクしてねだった。
2人を抱き抱えたまま机の方へと移動しプリンを少しずつ食べさせた。
プリンがとても美味しかったのか2人は満面の笑みでもっともっと!と口をパクパクする。
その様子にギルとメアは自然と微笑む。
プリンを食べ終えた2人をギルとメアは着替えさせ、魔法を使い宙に浮かせて遊ばせる。
その間にギルとメアは旅支度を始めた。
「泉」の神国 AcquaはRosaから南東部に位置しており、飛行魔法を使えば約3時間程で到着する距離である。
メアは旅支度を済ませるとモモの元へと向かった。
「メアお嬢様、どうなさいましたか?」
「モモ、私達これからAcquaに行こうと思う。」
メアは曇りのない真っ直ぐな眼差しで話すとモモは少し微笑みながら「私はこのお屋敷でメアお嬢様と皆様のお帰りをお待ちしておりますね。」とメアに応えた。
メアはホッとした顔をして、ギルの部屋へと戻る。
「行くの、今でいいのか?」
ギルはメアに問いかける。
「うん、いいの。今、知りたいから…。」
「分かった。…んじゃ、行こうか。」
ギルは荷物を持ち、浮かせている2人を手招きして部屋を出た。
ギルに続きメアも部屋を出ると目の前にはモモがいて屋敷の門まで見送りに来てくれた。
「モモ、ここまででいいよ?この先は飛行していくから。」
メアがモモに笑顔で伝える。
「畏まりました。どうか皆様、お気をつけくださいませ。」
モモは一礼をするとメア達が姿が見えなくなるまで門前で見守っていた。
飛行魔法を使いRosaの街を飛ぶ4人は戦闘服や防御服などが売られている1軒のお店を見つけて降り立つ。
ここのお店はメアが魔法を使い始めた時からよく買いに来ていたお店である。
「あら、久しぶりですねメアちゃん。」
穏やかで優しそうな女性がメアに声をかけた。
その声の主であるマリン・ウォレットにメアは思いっきり抱きつく。
「マリン、会いたかった~!」
なんて大声で叫ぶ。
付き添いの3人がちょっぴり驚く。
どうやら久々の再会でメアのテンションが上がったようだ。
神界では幼少期と青年期がとても長く、身長も幼少期に入ると一時的に止まるのだ。
その為メアは自分に合った背丈の戦闘服と防御服を一通り揃えると服が傷まない限りは店に顔を出さないのだ。
「今日はどうなさったんですか?見る限りでは傷んではいないように思えますが。」
優しい笑顔でマリンは訊ねる。
「あー!今日はメアのじゃないの。この子達の防御服を買いに来たの。」
「畏まりました。いくつかお持ち致しますね。」
マリンはそう言うと店内からいくつか赤ちゃん用の防御服を揃えて持ってくる。
店内に置かれたテーブルに複数の服が置かれる。
「ウール素材などは以下がでしょうか?肌触りも良く、とても軽い素材ですし、防御力も勿論高いものでございます。そしてこの防御服は覚えていらっしゃらないかと思いますが、以前メア様がお気に召された防御服なのですよ。」
ニコニコとその頃を思い出すように笑うマリンに自然とメアも笑っていた。
「じゃあこれにしようかな。これのピンクと水色にする!」
メアは即決した。
何故ならその服はライムとレイシーが選んだ防御服であったからだ。
メア自身は服のデザインを気に入って以前は喜んでいたけれど、今は素材や機能性を考えるとデザインも勿論だがこの服が1番幼い子供を護れる服なのだ。
服を購入するにあたり親の愛情を再び感じることが出来たメアはとても嬉しそうであった。
無事2人の防御服を買うとマリンに手を振り店を後にした。
4人が向かうAcquaは南東部にあり、Rosaから一直線に進めれば飛行時間は少なくて済むが、国の外は龍や飛獣が飛び回っている為に、少し遠回りをして安全なルートで向かうことにしたのであった。
4人はRosso側から向かい、Gialloで1度休憩を挟む事にしてRosaを飛び出した。
辺りは龍や飛獣が飛び回っている。
念のためロアとティアに防御魔法をかけているから危険は無い筈だが、飛獣や龍の数がやけに多い。
一斉に襲われれば神であっても危ないのだ。
ギルはメアの前に立ち防御魔法を放つ。
放たれた魔法は1本の道となり、飛び交う龍や飛獣をはね除ける高度な防御魔法であった。
そしてその1本道はRossoへと繋がって、4人は襲われる事なく無事にRossoへと到着する。
丁度お昼時である。
ギルとメアは昼食を何にするか悩み始めた。
「何食べるー?」
メアがギルに問いかける。
「俺は基本何でも食べれるからメアが食べたいもの選んでいいよ。」
ギルは辺りを見渡しながら応えた。
今いる場所は周りに飲食店が並ぶ小さな街。
お腹が空いたからか、どのお店のどの料理も美味しそうに見える。暫く探索してメアがお店を決めた。
そこはこじんまりとしたカフェであった。
料理の品・ドリンク・デザートの種類がとても豊富であり、更には建物自体とても可愛らしいのだ。
メアが気に入るのにそう時間は掛からず入店する。
店内には可愛い小物が所々に配置されており、まるで絵本などに出てくるような素敵なお店であった。
4人は空いているテーブルに案内され席に着くとメニューに目を向ける。
夏野菜をふんだんに使ったスペシャルサラダ、スダチとレモンの冷製パスタ、トマトと茄子の冷製パスタ、デザートにピーチメルバをそれぞれ1つずつと、なめらかプリンを3つ。そしてドリンクはアイスミルクティーとアイスココアを1つずつでバナナミルクを2つとオーダーする。
スペシャルサラダはギルとメアでシェアして食べる。
ギルは「トマトと茄子の冷製パスタ」と「アイスココア」と「なめらかプリン」。
メアは「スダチとレモンの冷製パスタ」と「アイスミルクティー」と「ピーチメルバ」。
ロアとティアには「なめらかプリン」と「バナナミルク」といった具合にギルとメアはがっつり食べるのであった。
どの料理もとても美味しくメアはギルが食べていた「トマトと茄子の冷製パスタ」に目を光らせ、一口貰い満面の笑みになる。
そしてピーチメルバも美味しく頂き頬っぺたが落ちるような笑顔をしていた。
そんなメアの笑顔を真似してロアとティアはニッコリ笑う。
その姿にギルは笑いを堪えながら食事をするのであった。
ロアとティアはまだ幼いため、ギルとメアがスプーンでプリンをすくい口まで運んで食べさせる。
ロアとティアは食べるごと笑顔になり口をパクパクさせて次をねだった。
相当プリンがお気に召したようだ。
ギルもプリンを食べてその美味しさに感動していた。
こうして4人は満足した食事を済ませ、ギルに「ここは出すよ。」と言われたメアはすっかりご馳走になり気分が上がりご機嫌であった。
再び飛行魔法を使い4人はRossoを少し探索する。
北東部に位置するRossoは「運命」の神国である。
この国に住む人々の殆どが「運命」の力、即ち未来を見る能力を有している。
かつて、この国にはとても高度で鮮明な予知が出来た神がいた。
だがその神は突然姿を消してしまった。
現在の神であるレイティナ・ローズをひとり残して。
探索していると珍しい装飾品が売られているお店を見つけた。
そのお店にメアは興味を示す。
するとギルはその様子を見て寄ることを決める。
店前に並べられている装飾品も数が多く見応えがあるが、店の中に入いると更に種類が増える。
ロアとティアをギルが魔法で浮かせ自分から離れないように、一定の距離のみに防壁魔法を瞬時にかけた。
ロアとティアはギルの予想通り飛び回ろうとしたが、魔法によって少し制御されてしまった。
店内の装飾品を見て回る4人。
ある装飾品の前で突然ギルが立ち止まる。その装飾品には見覚えがあったのだ。
ギルが立ち止まっているとメアがギルの顔を覗き込み " どうしたの?" と言いたげな顔をしていた。
その様子を見ていたティアも同じ表情でギルの顔を覗き込む。
ギルは一瞬驚きながらも見ていた装飾品を手にして見せた。
「これ、前に1度見たことあるんだ。やっぱりこの国の物だったんだな。これはPerleっていって真珠を意味してるんだ。形から見て分かるかもしれないけどな。このPerleは人の記憶や思い出みたいな、形じゃないものを入れられて未来に残せるんだ。」
そうギルは懐かしそうに話すとメアはPerleの値段を見ようと置かれていた場所を見る。
だが値段は何処にも書かれていなかった。
すると店員が後ろからメア達へと声をかけた。
「此方の品は選ばれた方にお譲りするものとしているため、当店ではお値段をつけておりません。」
「……?選ばれた方?」
メアが首を傾げる。
「はい。1度持って頂いて周りの真珠が光を放てば、この品の持ち主となれます。」
店員は優しい声で応える。
メアはPerleを見ながら(なんだかおとぎ話みたいだなぁ。)なんて心の中で思ったのだった。
装飾品を一通り見た4人はGialloへ向かうため、店を出て飛行魔法で飛び立とうとしたその時…聞き覚えのある声が聞こえた。
「あら、メアとギルじゃない?」
声の主はレイティナ・ローズである。
名前を呼ばれた2人は一瞬ビクッとなり声のする方へと振り向く。
そして声の主であるレイティナを見て溜め息をついた。
「あら?何故溜め息をつくのかしら!」
レイティナは笑顔で向かってくる。
ギルとメアは(最悪だ…。)と心で叫びながら逃げる算段を考える。
2人はお互いに目を合わせ瞬きをした次の瞬間、飛行魔法を使い素早く飛び立ち逃げ出したのである。
その様子にレイティナは「あらまぁ!可愛い子達ね。まぁ、いいわ。また直ぐに会えるもの。」
なんて笑顔で言いながら、逃げるギルとメアを見つめていた。
「追いかけてこないね…。」
メアは時折後ろを向いてレイティナの様子を伺っていた。
「…帰りに捕まえるつもりなんだろ。」
ギルは小さな声で呟く。
その後はお互いに会話を交わす事なくRossoを出る。
この時ギルはすっかり忘れていた。
Gialloまでの道が危険であることを。
そして防御魔法で道を作るべきだったということを…。
気づいた頃にはもう遅かった。
ロアの姿がどこにもない。
(…嘘だろ。)ギルは心の中で呟く。
ギルとメアは辺りを見渡しロアの姿を探した。
けれど周りは龍や飛獣ばかりでロアの姿はどこにもない。
Rossoを出た時は側にいた。
それにロアはとても幼くひとりではそう遠くへ行けないはずだった。
まさか龍や飛獣に連れ去られた?
いや、それはない。
龍や飛獣が近づいてくればギルかメアが気づく筈だ。
けれどどちらの姿も見ていない。
考えられるとすれば、ロア自身が離れた…と考えるしかこの状況を説明できないが、考えていてもロアは見つからないのだから一旦考えることはやめて、魔力でロアを探すことにした。
ギルは左手を目の前に出し魔力を込める。
すると見覚えのある光がすぐ側の森で輝いていた。
「見つけた。あの森にロアがいる。」
ギルはそう言うと真っ先に森へと飛んで行く。
ギルに続いてメアとティアも森へ向かった。
森に入ると小さな動物から大きな動物まで様々な動物達が生息していた。
その中を3人は飛行しながらロアを探す。
すると、メアが1本の大きな木を見て驚く。
そこには龍とロアが一緒にいたのだ。
直ぐにギルを呼び、このおかしな状況を見せる。
ロアが龍の背中に乗り、ピョンピョンと跳ねて遊んでいるのだ。
龍は本来、人間を警戒する生き物であり下手に近づけば襲われ、最悪の場合命を落とすこともある。
それほどに危険な生き物なのだが、目の前の龍はロアを全く警戒せず自分の身体で自由に遊ばせているのだ。
「おかしいだろ…。」
ギルは小声で呟く。
さて、この状況をどうするか…。
ロアがとても楽しそうなのが厄介だ。
少しでも嫌がっていてさえくれれば、ギルの魔法で龍を追っ払えるのだが…
ロアは嫌がるどころか満面の笑みで跳び跳ねている。
1ミリも嫌がってなどいないのだ。
寧ろ楽しんでいるのだろう。
ギルは溜め息をついた。
「メア、これどうする?」
ギルは完全にお手上げのようだ。
「え…。メアに言われても…。」
メアは返答に困っている。
「仕方ない。…正面から行くしかないか。」
もう1度溜め息をついてギルは地面に足をつける。
メアとティアに「木の上に隠れてろ。」と小声で言いつけ真っ正面からゆっくりロアの元へ歩いていった…。
ギルの姿を最初に気づいたのは龍の方だった。
龍はすぐに体勢を整えロアを庇うようにして前に立つ。
予想通りの展開だ。ギルは敢えて両手を横に広げる。
するとロアが漸くギルの姿に気づき笑顔で名前を呼んだ。
その様子を見てギルは左手を前に出しロアを宙に浮かせると、ロア自身がギルの元へと向かってきた。
そんなロアの姿を見た龍は警戒を解き腰を下ろした。
ロアを抱き抱えてギルは龍に近づくと左手を出し魔法をかけて会話を始めた。
"ー この子の世話をしてくれてありがとう。ー"
"ー この者が私に近づいて来たので相手をしただけである。礼など要らぬぞ、影の神よ。ー"
"ー 失礼ながらあなたは何故この子を受け入れたんだ?ー"
"ー 姿を変えてもこの者が動物であることは我々ならば簡単に見抜けるぞ。そしてこの者はとても幼い。我は幼い者を襲うほど馬鹿ではない。影の神よ、1つ忠告しておく。その者はとても強い力を持っている。気をつけよ。ー"
"ー あなたみたいな龍がロアと居てくれて助かった、ありがとう。あと忠告もありがとう。気をつける。またどこかで見かけたら仲良くしてくれると嬉しい。ー"
その言葉に龍が少し微笑んだような気がした。
会話を終えると左手を離し龍に一礼をしてその場から離れる。
ロアは抱き抱えられながらも龍の姿が見えなくなるまで見つめ、言葉にならない声を出していた。
ギルは抱き抱えたロアに「また会えるといいな。」と小声で言い、木の上に隠れていたメアと合流してロアの無事をギルとメアは再確認したのであった…。