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メアとギルの忘れられない記憶(後編)

「そうだ、君は自分の魔力形質や色を知っているかい?まずは自分の魔力がどういうものなのかを知ることが大事なんだけれど…。」とラビは尋ねた。


「色は知ってる。母親に教わったから。でも魔力形質は…知らない。」


「ほぅ。色のみ教わったのか。なら話は早い。魔力形質とは君自身が生まれ持つ魔力の素質を主に意味しているんだ。口で説明するより実際に見た方が分かりやすいかな。」

そう言うとラビの身体が光に包まれた。


「僕の魔力形質は3つ。1つは君と同じ " 影 " で色は紫。2つ目は " 運命 " で色は赤。3つ目は " 癒し "で色は桃色(ピンク)。君のように近い将来、神になる者は複数の魔力をあまり持とうとはしない。何故かと言うと、神という立場は君も知っているとは思うが、国中の誰よりも魔力に()けていなくてはならない。そうなると自然に皆、生まれ持つ魔力だけを極め、神になるんだ。…けれど君は生まれ持つ魔力の量が(すで)Viola(ヴィオーラ)で1番大きいはずだ。魔力制御さえ出来てしまえば、極めなくとも神になれる。」


「そんな簡単な事じゃない!」

ギルは反発する。


「ハハッ。そうだね、今の君からしてみたら簡単な事ではないかもしれない。とりあえずは、魔力形質について分かったかな?」

ラビは笑顔で尋ねた。


「あぁ。その者の持つ能力や素質が魔力形質なんだろ?」

ギルは応えた。


「まぁ、ざっくり言ってしまえばそういうことだが、遺伝なのだよ。ここは神が生み出す世界だからね。よし、魔力制御を教えよう。先ずは自分の魔力を知ることが大事だ。」


「自分の魔力は知ってる。」


「そうだね。でも違うんだ。膨大な魔力もそうだけれど、君自身の中にある魔力の素の事を知るんだ。」


「俺の中にある魔力の素?」


「あぁ君の中にある魔力だ。」

そうラビは言うと手をギルの胸にあて魔力を込める。

するとラビの魔力に反応してギルの魔力が身体の前へと形を変えて浮き出した。


「これが君の魔力の素だよ。」


ラビが見せたギルの魔力は丸く薄い紫色に包まれていた。

触ろうとすればまるで生き物の様に宙を動き回るその魔力はギルを一瞬笑顔にした。


「君らしい魔力だ。その魔力に君自身が()れられるようになれば魔力制御が出来るようになる。」


「…こんなのどうやって触れるんだよ。」

ギルは今目の前で起きている状況に困惑していた。


「ハハッ。これはなかなか…クフフッ。」

ラビは笑いを抑えられず吹き出した。


ギルの魔力は一定の範囲内でしか自由が効かない状態であるものの、捕まるものか!と言わんばかりに猛スピードで飛び回っているのだ。

その状況を目にして笑いが込み上げてしまうのも無理はない。

それほどまでに可笑しな光景なのだ。


「捕まえるのには苦労しそうだね、…クフフッ。」

ラビは笑いを(こら)えられずにいる。


「笑いすぎだ!」

ギルはラビにキレる。


さて、どうやって触れようか…。

ラビは捕まえるのではなく触れろと言った。

少しでもかすれさえすればいいという事なんだろう。

でも今のこの状況では、かする事さえ至難(しなん)の技だ。

出来るだけ体力は使いたくないが、決して触れさせようとはしない魔力にムキになってしまうのもまた事実なのであった。


「どうだい?触れられそうかな?」

ラビは木の上で悠々(ゆうゆう)とこちらを眺めている。

その姿にもギルは少し腹立てていた。

どんな方法を使っても一向に触れることの出来ないギルは自分に苛立ちはじめていた。

何故自分の魔力なのに触れることが出来ないのか…。


「ここで1つに良いことを教えてあげよう。魔力とは、要は君の分身であり君自身でもあるんだ。言っている意味はわかるかな?君がとる行動は魔力にも予測出来てしまうんだよ。」

ラビはギルに助言した。

その言葉でギルはますます困惑する。

すると少し考えてギルは浮いている魔力に向かい手を伸ばした。


「なぁ…どうしたらいい?何で逃げるんだよ…。」

ギルは魔力に問いかけながら近づいていく。


生き物の様に動く魔力はまるで驚いているかのような動きに変わる。

ギルは自分と似る魔力を理解しようとし始めていた。

その様子をラビは微笑みながら見守る。


「俺、魔力が発動する度にずっと思い通りに使えない魔力なら、無ければ良かったって思ってたんだ。それが伝わってた?」

手を伸ばしたまま語りかける。


「もし伝わってたならごめん。でも分かってほしい。俺だって…怖かったんだ。止められない自分に腹も立った。でも本当は自分の力で誰かが倒れることが1番怖かったんだ。」

そう語りかけながら1歩ずつ魔力にゆっくり近づいた。

すると魔力も宙を浮きながら少しずつ近づいてきた。

ゆっくりふわふわと浮き先程までの魔力とは異なるスピードだ。

ゆっくりゆっくりお互いが近づき、ギルは魔力に触れることができた。

触れた瞬間ギルは紫色の光に包まれる。


ー" ありがとう。僕を認めてくれて…"ー


ギルはこの光の中で不思議な光景を目にした。

魔力がまるで同じ人間のように喋ったような気がしたのだ。


こうして魔力はギルの中へと戻ったのだった。


「よくやったギル・ロアート!これで魔力制御ができるはずだよ。」

そうラビは微笑みギルの頭を撫でた。

ギルは撫でられたことに少し驚きながらも喜んでいた。


「さぁ、魔力を使ってごらん?そうだなーあの木を薪にしてみようか。」

ラビに言われギルは魔力を解放する。

みるみるうちに木が薪へと形を変えてゆく。


「上出来だ。制御が出来るようになったね。」

ラビは嬉しそうだ。


「魔力が暴走しない。出したい分だけが出る。」

ギルは自分の左手を見つめていた。


「ラビ…ありがとう。」

そうギルに言われラビは照れ臭そうに頭を掻いた。


「魔力制御が出来て良かったよ。君はきっと誰よりも強い神になる。」

ラビは微笑みながら、そして少し悲しそうな表情でギルの頭を撫でた。

この時、ラビにはこの先の未来の一欠片(ひとかけら)が見えていのだった。


Viola(ヴィオーラ)へと戻るため飛行魔法を使い森を出た頃、ギルはあることをラビに尋ねた。


「ラビ、最初に言ってた頼み事って…」


「あぁ、それはViola(ヴィオーラ)に着いたら話すよ。」

ラビは笑顔で応えた。


森を出て暫く飛行するとViola(ヴィオーラ)に着き、ラビは人目を避けギルを自分の家へと招いた。


「一先ずお茶でも飲んで休もうか。話はそれからでもいいしね。」


ラビの家はギルが想像していたよりも小さく必要最低限の物しか置かれていない。

壁には本棚が一面にあり、並べられた本は大きく分厚く、とても難しそうなものばかり。

そして机には大量の本が開いたまま何冊も置かれている。

何かを調べているように感じられた。

手渡されたお茶を飲みながらギルは辺りを見渡す。


「気になるかい?」

机の上に置かれた本を見ていたギルにラビはそっと話しかける。


「今はあまり見ない方がいい。大きくなったらきっと嫌でも読むことになるはずだからね。」

ラビの言葉にギルは首をかしげた。


「君に頼みたい事というのはね…いつか僕を君の手で殺してほしいんだ。」

笑顔で言うラビにギルは困惑する。


「何…言って…」


「僕の魔力は未来の欠片が見えるんだ。その未来で僕は…大切な人達を殺す。だからそれを君に止めてほしい。君なら…いや、君だけが僕を止められるんだ。」

悲しそうな表情でラビは話していた。


「…出来るわけない。…出来るわけないだろ!」

ギルは今にも泣きそうな顔で訴えた。


ラビはそんなギルを抱きしめ更に続けた。


「酷なことを言っているのは分かっている。けれど僕の未来を君に変えて欲しいんだ。僕は、愛する人達を手に掛けたくはない。君にしか出来ない事なんだ。願わくば僕の代わりに大切な人達を守ってはくれないだろうか…。」

ラビは悲しそうに、申し訳なさそうに少し微笑みを浮かべ優しい声で話していた…。



……ッ!!!


ギルが目を覚ます。


「…夢か。」


どうやら昔の事を思い出している内に眠ってしまったようだ。

目の前には気持ち良さそうにぐっすり眠る幼い2人がいる。

ギルはその2人を見て安堵した。

部屋に置かれていた水をコップに注ぎ勢いよく飲み込む。


「…久しぶりに見たな。あの夢。」

ギルは眠る2人を見ながら呟いた。


どのくらい眠っていたのだろう。

カーテン越しに見える外の景色はすっかり夜になっていた。

ギルは2人がぐっすり眠っていることをもう一度確認し、部屋を出る。すると奥からモモが歩いて来る。


「ギル・ロアート様、お目覚めになられたご様子ですね。お食事のご用意が出来ておりますのでダイニングへお越しくださいませ。」


「ありがとう、お腹空いてたんだ。」

ギルはそう言うとダイニングへと向かった。


「本日のディナーはラム肉のソテーに新鮮な鯛のお刺身、そしてデザートには旬であるフルーツをどうぞお召し上がりください。お食事のおかわりは申しつけ下されば私が致しますのでどうぞご遠慮なくお申し出下さいませ。」


「うわぁ。美味そう。ありがとう。」

ギルは目を光らせた。


ディナーを済ませたギルは自室に戻り、起きる気配のしない2人を見守りながら寝る支度を淡々と済ませソファーへと横になる。

数時間前に見ていた夢を思い出しながら(ラビは未来の何を見ていたんだろうな…)なんて心の中で呟き眠りについたのだった。


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