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ギル・ロアートがロアとティアを変化魔法で人間に?

朝になりメアの部屋で眠るティアとロアは、窓から差し込む日の光にモゾモゾと動き出した。

どうやらお目覚めのようだ。

2匹は寝床としていたクッションから飛び出て暖かい窓際へと向かう。


「ロア、ティア。朝だよー…ってあれ?」


優しい声が部屋の入り口から聞こえてくる。

どうやらメアは2匹より早く起きていたようだ。時間を見計らい様子を見に来ていたのだった。


「……キュゥゥ」


「……クゥゥ」


2匹の寝息がメアに届く。

だが、寝ていたはずのクッションにはいない。


メアは部屋へと入り周りを見渡すけれど2匹は見当たらない。

メアの頭には"???"が浮かぶ。(どこにいるの?)と心の中で呟く。

すると窓際のカーテンが一瞬動いた。

よく見るとカーテンがいつもよりモッコリとしている。

どうやら2匹は暖かい日差しに釣られ、カーテンの内側で2度寝をしてしまったようだ。


「可愛すぎるぅ!」


なんて言いながらクスクス笑うメアには、当然2匹は気づかず爆睡なのであった。


そんな2匹の様子をメアはすぐさまギルに伝えにいくと、少し強引に連れ出し2匹のいるカーテンまで戻る。そしてカーテンを掴みそーっと開けた。


「なんだこの寝相。」


ギルが吹き出す。


「可愛いでしょ!抱きついてるんだよ!ティアの方が小さいのに!」


その2匹の寝相はとても可愛らしいものであり、2人は起こすことをすっかり忘れ見つめていたのであった。


ーコンコンッ


「メアお嬢様、ギル・ロアート様、朝食のご用意が出来ましたので御支度が出来ましたらダイニングまで御越しくださいませ」


モモの声にメアが応答する。


「わかった!支度が済んだらいくー」


その声を聞いたモモはダイニングへと戻っていった。


さて、この2匹をどうするか…。

起こしてダイニングに連れて行きたいが、とても可愛らしい寝顔を見ると起こすことが出来ない。


「置いてくか…」


「そうだね。気持ち良さそうだし…」


2人の意見が同じということで、気持ち良さそうに眠る2匹を置いて部屋を出た。


朝食は夕食に比べるととてもシンプルであった。

一般家庭とあまり変わりはないと思えるものである。

2人は朝食を済ませると2匹分のご飯を持って部屋へと戻る。

扉を開くとそこには動き回るメアとロアがいた。


「やっと起きたか」


ギルは走り回る2匹を見て呟く。

そしてティアの方へと歩み寄り、ティアを抱き上げ話しかけた。


「ティア。お前、すごい寝相だったぞ」


当然ティアはギルが何を言っているのか分からない為、降ろせと言っているかのようにジタバタしていた。

その様子にギルは少し笑ってティアを降ろす。


「まずは変化魔法からだな…」


なんて呟きながらギルは2匹にご飯を与えた。

2匹は目の前に美味しそうなご飯を見つけ頬張(ほおば)りはじめた。


変化魔法とは、神から生まれた動物が人間に変化出来る魔法だ。ただし、使えるまでにはかなりの時間がかかる魔法なのである。そんな魔法をギルは1番に教えようとしているのだ。

普通ではあり得ないことである。

だが、普通でないことをするのがギルであった…。


お腹いっぱい食べたティアとロアが再び遊びだそうとしたその時、ギルが2匹を抱き上げた。

2匹は驚いたのかピクリとも動かなくなった。


「今日から魔法を教える」


突然なギルの言葉にメアは驚く。

ティアとロアが生まれてまだ2日目だというのに今日から魔法を学ぶ事になってしまうのだった。


魔法とは生まれ持つ素質によって異なる。

強い素質を持っていれば高度な魔法が使いこなせる。

反対に素質が弱い場合は最低限の魔法しか使いこなせない。

そして魔力には限りがあり、使いすぎれば体力が消耗するのだ。


2匹の生まれ持つ素質はギルによって引き出された。

ギルは2匹の(ひたい)に手をかざして魔力をこめる。

するとその魔力に反応し、2匹は異なる光に包まれた。

この光が生まれ持つ魔法の素質であり光が強ければ強いほど、素質の高さがわかるのだ。

2匹はギルの想像通り、魔法の素質がとても高かった。


「将来が怖いな」


なんて呟くくらいにギルは驚いたようである。


「よし、まずは変化魔法をかけてみるか」


そうギルは言うと2匹に魔法をかけた。

2匹は紫色の光に包まれ、一時的に人間へと変化する。その姿はとても幼く可愛らしいものであった。

メアはその幼い2人の姿に興奮し、ティアを抱き上げる。

抱き上げられたティアは、とてもとてもご機嫌のようだ。

そんなティアを(うらや)んでいるロアを見たギルは、ロアを抱き上げた。


「この方が言葉とか魔術とか覚えやすいだろ」


とメアに向かいギルは話す。


「全部計算だったの?」


「勿論。でも一時的な変化だ。時間が経てば元に戻る。そこで提案がある。こいつらを1年間変化させ続けて、魔術を教えるのはどうだ?」


「…ん?……え?1年?」


「俺とメアの魔力なら1年くらいちょろいだろ」


「ちょっと待って!たった1年で変化魔法を覚えさせるの?」


「正確には半年だな。言葉を覚えてからじゃなきゃ出来ないだろ」


「絶対1年じゃ無理だよ!」


「その時はその時でまた1年増やせばいい」


「そんな無茶苦茶なー!」


「どう考えてもこの姿の方が教えやすいだろ?言葉も魔術も」


「そ…それはそうだけど!」


「んじゃ決まりな!」


こうして1年2匹を人間にする事が決まり、1度幼い2人を元の姿へ戻した。

そして今度はメアも加わり2匹に変化魔法をかける。

2匹は変化が楽しいのか満面の笑みである。

再び人間になったティアとロアはまだ歩くことの出来ない幼児であり、ハイハイしては転げていた。

まだ歩けずハイハイしては転げる幼児に言葉を教えようとするギルとメアは、端から見れば"鬼"である。


「ロア、ティア。まずは言葉だ。言葉を覚えるんだ。最初は自分の名前を覚えろ」


「「……?」」


幼い2人は首を(かし)げる。

その様子を見かねたメアがギルの前に立った。


すると自分を指差し「メ・ア」

ギルを指差し「ギ・ル」

ロアを指差し「ロ・ア」

ティアを指差し「ティ・ア」とゆっくり丁寧に教えたのだ。


これを何度か繰り返したら段々とロアとティアはメアの動きや言葉に興味を示し、1時間もしない内に名前を覚えたのだった。

ロアがギルを指差し「ギーリュ」

自分を指差し「リョーア」なんて感じで、ティアもメアを指差し「ミェーア」自分を指差し「チーア」と笑顔で言うのだ。


そんな2人が可愛くて仕方がない。

ちゃんと言えていない所が更に可愛さを増していた。

キャッキャとはしゃぐ幼い2人は何度も名前を繰り返し遊び始めた。


「「ギーリュ!ミェーア!リョーア!チーア!」」


名前の何が面白いのか…とにかくずっと笑っているロアとティア。

その姿にギルとメアは癒されていた。


ーコンコンッ


「メアお嬢様、ギル・ロアート様、少し宜しいでしょうか?」


この声はハルである。メアが扉を開けて対応する。


「どうしたの?」


「先程フレイア様から此方へこれから伺うとの御連絡が御座いましたので、お伝えに上がりました」


「え?フレイアが来るの?なんで?」


メアはハルとギルを交互に見つめ頭を傾げた。


「フレイア様はお2人の事をとてもご心配なされておられました」


「要するに確認って訳か。面倒だな」

ギルの顔色が変わる。


「12時頃にはお見えになるとのご連絡でしたのでご一緒にお食事を為さるか気になりまして」


「ギルはどうする?」


「一緒でいい。どうせ自室で食べてもあいつは様子見に来るだろ」


「それもそっか!じゃあハル、皆で食べる!」


「はい、畏まりました」

ハルは確認が済むとその場を離れていった。


部屋の中でハイハイしているロアとティアを見つめ、メアがギルに(たず)ねる。


「この状況、フレイアが見たらなんて言うかな…」


「んな事、知るか」


ギルは頭を()きながら応えた。

(なんで今日来るかなぁ。)なんてフレイアに対して思ってしまうメアの気持ちはここでは誰も分かってくれないのだった。


フレイアがRosa(ローザ)に到着するまであと1時間となった。

メアとギルは幼い2人を抱き上げ、ある事を教えていた。

そのある事とは…


「「ご飯を食べる時は、い・た・だ・き・ま・す」」


「「食べ終わったら、ご・ち・そ・う・さ・ま・で・し・た」」


何度も何度も繰り返し言い聞かせてみる。


「「いーたぁまぁーう?」」「「ごちーとちゃまでーちゃ!」」


見事に言えていない。

だが可愛いので許してしまうメア。

一方ギルは「違う」の一点張りである。

最初からうまく言える筈がないと分かってはいても、()めることはしないのがギルだ。

まるで鬼のようなギルを前に何故かロアは笑っている。

ギルの「違う」という言葉がロアには面白いようだ。


ロアの神経は図太いのだろうか…。


ギルの顔は決して優しいという顔ではない。

それでも笑えるのだから大物であるのかもしれない。

1時間みっちり教え込まれた"いただきます"と"ごちそうさまでした"は、まだ完璧とは言えないがまぁまぁそれなりに聞こえるようになったことでクリアとなった。


12時を少し過ぎた頃、フレイアが屋敷へ着いた。

知らない声に幼い2人は動きが止まる。

知らない声がどんどん近寄ってくる。

幼い2人はギルとメアに抱っこをねだった。

何が怖いのか…ハルが扉をノックした途端…


「「やぁー!!!」」


涙ながらに訴える。


「……なんで!?」


「……はぁあ!?」


思わず心の声が漏れたメアとギル。


「メアお嬢様、ギル・ロアート様、どうなさいましたか?」


ハルがいつもより早口で言う。


扉の向こうにいるハルにはメアとギルの声しか聞こえてはいなかったため、何があったのか分からず心配していたのだった。

どうやら今扉の近くにいるのはハルだけのようだ。

フレイアの声が遠退(とおの)いていく。

部屋の扉を開くとやはりハルだけであった。

ハルの姿を確認したティアは涙目ではあるものの静になり、メアの胸にしがみついている。

その姿を見たハルは申し訳なさそうにティアの頭を撫でた。


「ティア様、申し訳ございませんでした。見知らぬ声にびっくりなされてしまいましたね。メアお嬢様、ギル・ロアート様、フレイア様がお見えになりましたので応接室へお越しくださいませ」


ハルはそう伝えるともう一度ティアの頭を撫でてから応接室へと向かっていった。


「なにがそんなに怖いんだよ」


ギルはロアに訊ねる。

だが、当然何も言えないロアはただただ大粒の涙を流していた。


背中を(さす)りながら落ち着くのを待った。


「メア、ちび達どうする?」

ギルは困り果てていた。


「連れていくしか…」


「また泣くだろ…」


「でもここに2人だけ置いてくなんて…」


「俺が残る。だからメアはフレイアんとこ行ってこいよ」


「…わかった。でもギルだけじゃ大変だからモモを連れてくるね」


「助かる」


そんな掛け合いをするとメアはティアを落ち着かせてからギルに預け、応接室へと向かいモモに部屋へ行くよう頼んだのだった。


「フレイア!ごめんね。お待たせ!」


メアは手を合わせてフレイアに謝る。


「なんだか大変そうだね。ちびちゃんたちはお部屋かしら?あれ、ギル・ロアートもいないのね」


「あー、今はギルが面倒みてるの!2人がちょこちょこ動き回って手が離せないからさ」


「2人?」


フレイアは首を傾げる。


メアが咄嗟(とっさ)に「あ!2匹!2匹だよ!」と言ってはみたがもう遅い。


「何かあったみたいね」


フレイアは目を丸くしてメアに近づく。


フレイアは気になったら追求し、自分で納得しない限り収まらない。

結果メアは、やってしまったのだ。

気づかれてはいけない事を自分の口からあっさり(こぼ)してしまい、(うわぁ、ギルに怒られる!)なんてメアは内心ヒヤヒヤしたのだった。


フレイアがギルのいる部屋へと向かうのに時間はかからなかった。


ーコンコンッ


「ギル・ロアート!いるわよね?入るわよ!」


フレイアは若干、興奮気味(こうふんぎみ)である。


「はぁ?入ってくんな。ちびが泣き喚くぞ」


ギルは低い声で応えた。


ギルの言葉など聞かないフレイアは扉を開けた。

フレイアは目の前の小さな2人に目を更に丸くする。


「「!!!」」


小さな2人は目の前のフレイアにびっくりしてギルとモモにしがみつく。

その2人の目には大粒の涙が()まる。


「勝手に入ってくんな!チビがびっくりしてんだろ!」


ギルは2人をすぐさま魔法で浮かせ、フレイアを(にら)みつけた。

そんなギルにフレイアは少し驚く。

だが、探求心の方が(まさ)ったのか小さな2人へと近づいて行く。

「フレイア!近づいちゃだめ!!」 


メアは走ってフレイアの腕を掴み引き戻す。


けれど次の瞬間、ロアとティアは鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大音量かつ悲鳴にも似た甲高(かんだか)い泣き声を出したのだ。


「「きぃゃぁぁぁあああ!!!」」


一斉に耳を塞ぐ。


「フレイア!一旦廊下に出てろ!!!」


ギルはキレていた。


フレイアはモモに連れられ廊下へ出ていく。

ギルは耳を塞ぎながらもロアとティアを宙に浮かし泣き止ませようと(こころ)みるが、一向に泣き止む気がしない。

1度泣き始めるとそう簡単には泣き止まないことは経験済みだったが、今回は音量も音のキーも前回とは異なりすぎているのだ。


「はぁ…」


ギルは困った顔をしつつこの状況に溜め息をつく。


泣き止ませる(すべ)がない2人は全力で泣きじゃくる幼児に完敗なのであった。

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