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脱出

遅くなりましたすいません


よろしくお願いします


 屋敷の使用人代理の依頼を受け始めてから5日目のことである



 最初の4日間はララさんのお手伝いをしながらの作業だった。しかし今日は色々と忙しいということで俺はルミナさんと一緒にあの調度品でいっぱいの恐怖の応接間の掃除をしていた



「えーと...この花瓶は確か赤い薬剤を使うんだよな...一応確認...よし、合ってるな」


 俺はアイリスにわざわざ書き写してもらった説明書を一度確認してから霧吹きで薬剤をかける


 ルミナさんは暖炉上のトロフィーなどを拭いていた



 会話が一つもなく沈黙がただひたすら続く

 気まずい、実に気まずい。今日はルミナさんと一緒に行動するということは知っていたのでこうなる事は覚悟していたが実際沈黙が続くとかなりつらい



「はぁ...まぁ仕方ないか」


 正直話しかける勇気もないし、話しかけたらかけたで嫌な顔されそうだから俺が話しかけること絶対にない。向こうから話しかけて来るなんてことはさらにありえない




「きゃあっ!!」


 ルミナさんの叫び声がした

 ルミナさんの方を振り向いてみれば薬剤を盛大にぶちまけて床に尻餅をついていた



「ルミナさん、大丈夫ですか!」

「むむむ、むむ、虫...」

「虫?」

「あ、あ、あ、あそこに...」


 ルミナさんが指さす方を見ると体長30センチ程の巨大なクモがいた


 ルミナさんがクモで驚いて腰を抜かしたのか。意外だけどちょっと可愛いと思う


「あ、薬剤!」


 俺はぶちまけられた薬剤を見て不吉な予感がした。暖炉上の調度品を見てみると調度品のいくつかに薬剤がかかってしまい変色したり溶けたりしてしまっている


「どうしよう...」


 ルミナさんが腰を抜かして絶望した顔をしていた


 そして廊下の方から足音が聞こえてくる

 ルミナさんの悲鳴を聞いてこちらにやってきてるのだろう



 俺はとっさの判断でルミナさんが手に持っていた霧吹きをとって、中の薬剤を自分にかける


 応接間の扉が開く


 そして俺は言った


「すいません、俺の不注意で薬剤をこぼしてしまいました!!」と



 ◇




「ふむ、では君の不注意で清掃用の薬品がこぼれたと」

「はい、間違いありません...」


 今応接間にはこの屋敷の主であるグリドラスさんと家令のログマリアさん、そして現場にいたルミナさん、一応俺の保護者という設定のアイリスだ


「そしてこぼれた薬品が暖炉上にトロフィーなどにかかって溶けてしまったと」

「はい、その通りです...」

「君は...君はこのトロフィーが何か知ってるかな?」


 グリドラスさんが薬品がかかった部分が溶けて穴があいたトロフィーを手に取って俺に見せてくる


「...すいません、知りません」

「これは去年国王様から直々に授与されたものだ。戦争での私の戦果を報奨するために特別に私に授与してくれたのだよ。これがどれほどの価値があるか君にわかるかな?」

「はい、大変申し訳ございませんでした」


 俺は深々と頭を下げる


「違う、カエデくんじゃっ...!」

「ルミナさん、別に俺を庇ってくれなくてもいいですから」



 そうこれは俺が選んだことなのだから別にかまわないのだ


「.........」


 アイリスはただ壁に寄りかかって腕を組んでこの状況を静かに見つめているだけだ



「旦那様処罰の方はどうされましょうか」

「ふむ、そうだな......」


 グリドラスさんが少し視線を動かししながら考える


「いや、今はいい。ログマリア、アイリスさんこの後私の部屋に来てくれ、それじゃ今のところはこの件は保留だ。カエデくんこういうことがないように次からは気をつけてくれ」

「...ありがとうございます」



 俺はほっと息を吐きながらグリドラスさんに頭を下げる。首の皮がなんとか繋がったって感じかな...


 そしてグリドラスさんとログマリアさん、そしてアイリスが部屋を出ていく。保護者であるアイリスと俺の処罰について話すんだろうな



 そして俺とルミナさんだけが部屋に残される



「...なんであんなことをしたの?」

「あ、えーと...なんとなくですかね。あのままにしてたらルミナさんが怒られると思ったら咄嗟に身体動いちゃったっていうか...あ、気にしないでくださいよ!後悔とかしてませんから......え、えっとじゃあ俺別の仕事に行きますんで!」



 その場にいれなくなった俺は逃げ出すように別に場所へと移った。ルミナさんに申し訳ない顔をされるのが結構きつかったのでその場から逃げ出したことは自分としては間違いではなかった


 ◇



「ふぅ...やっと1日が終わるか...」



 俺は借りている自分の部屋のベッドに飛び込む


 結局あの後も何も言われずただ静かに一日が流れた。逆に静かすぎて嫌な予感しかしないんだけど


 もしもの時はアイリスと一緒に逃げてやろうと思ってるんだけど、そのアイリスとあの時以来会っていないのだ



「あー、どうなるんだろうか」



 とりあえずルミナさんのことは守れたんだしよかったんじゃないかな、美人を助けることが出来て俺としては感動的だよ


 ベッドに寝転びながらあれこれ考えていると扉をノックする音が聞こえる


「カエデ、いるか?」

「アイリスか、いるよ」


 アイリスが扉を開けて中に入ってくる


「カエデ、少々厄介なことになったぞ」

「あー...うん、ごめん、俺のせいで」

「いや、お前が謝る必要は無い。とりあえずあの後何があったかを教えよう」


 そうか、アイリスは応接間から出た後グリドラスさんもログマリアさんと一緒にどこかに行ったんだ



「グリドラスに私の身体を求められた」

「はい?」

「だからお前に危害を加えられたくないなら私の身体を代わりに差し出せと脅されたのだ」

「......えと...ほんとに?」

「あぁほんとだ、わざわざこんな嘘を話したりはしない」


 アイリスの身体を求めた?それってそういうことだよね?


「えっと...それでアイリスは...」

「無論断った、一応時間を稼ぐために考えさせろと答えがな。まぁそんな事はどうでもいい」

「いやいやどうでもよくないよ!!だって...!」


 俺が言う前にアイリスが俺の頬に手を添える



「安心しろ、私の身体はカエデのものだ。お前以外に私の身体に触れることも許さない。とりあえず問題はそこではないんだ。1回外を見てくれ」

「外...?」

「あぁ見てみればわかる」


 俺は部屋の窓から外を覗いてみる

 窓の外には庭が広がっており、ただ月明かりに照らされているだけでほぼ真っ暗である



「......?」


 不意に赤い光が蛍のように暗闇をおよぐ

 よく見てみるとその赤い光は結構存在した


 よくよく目を凝らしてみると...


「ひっ!?」


 その赤い光は夜の庭で鎌を持ちながら歩いているメイドたちの目の光であった


 俺は驚きのあまり腰を抜かして後ろに倒れてしまう



「あれは私たちがここから抜け出した時に捕まえられるように巡回しているんだ」

「もしかしてアイリスが言っていた厄介なことって」

「あぁ既に私たちがここから抜ける事は確定済みだ。だか向こうも私たちがそうするのを読んでいたみたいだな」

「どうするつもり?」

「無論強行突破だな、機を見て今晩にでも脱出するぞ、準備しておけ」


 強行突破、という事は戦闘もありえるってことか。俺は枕元に置いてある「ツインズ」に目をやる



「まぁまだ何もしないからリラックスしていろ。それより聞きたいんだが薬剤をこぼしたのは本当にカエデか?」

「......!そ、そうだけど?」

「ふむ...だがどう見てもカエデがこぼしたようには見えなかったのだが」

「そ、そんなことないよ!?俺がこぼしたんだからね!?」


 やっぱりアイリスは誤魔化せないか...


 って別にアイリスにまで嘘をつく必要はないんじゃないか?


「ふっ、隠したって無駄だぞ。どうせカエデは彼女をかばっ......っ!!」


 不意にドアをノックする音が鳴り、アイリスはいつのまにか出していた銃の銃口を扉に向ける


 俺も「ツインズ」を手に取って握る力を込めるーー



「カエデくん、いるかしら。ルミナよ」

「へ、ルミナさん...?」


 まさかの訪問者に俺はアホみたいな声で答えてしまう



 アイリスの方を見るとニヤリと笑い、そしてアンチマテリアルライフルの姿となって床に落ちる。あれはもう完全に事情を理解した顔だな


「あの...ちょっと入っていいかしら...?」

「あ、はい、いいですよ!」


 俺はアイリスをベッドの下に隠してルミナさんを部屋に招き入れる



「今日は本当に私をかばってくれてありがとう」

「いえいえ、気にしないでくださいよ。何回も言いますけどあれは俺が勝手にやったことですから」

「いえ、それでもお礼が言いたいの。あなたのおかげで失敗しないで済んだわ」

「は、はぁ...それならよかったです」


 一体何のことだがよくわからなかったけど、とりあえずルミナさんを助けることができたってことでいいんだろうな


「あなたがしたことを何か罰せられるかもしれないけどもうその心配はないわ。やっと見つけることが出来たから」

「見つける...?」

「ごめんなさい、それはこっちの話だわ。とりあえずあなたが心配するようなことはもう何も起こらないから大丈夫よ。今日はぐっすり寝ていればすべて解決してるから。じゃあ私はこのあとやることがあるから。おやすみなさい、本当にありがとう」

「あ、はい、おやすみなさい」


 俺はただルミナさんに夜の挨拶を返すことしか出来なかった



 ルミナさんが一体何の話をしているのかよくわからなかったけど、とりあえず俺の感想はルミナさんが超いい匂いがするってことだろうか


 アイリスもいい匂いがするけどルミナさんもいい匂いなんだよ!やっぱり女の子っていい匂いがするんだなぁ



「ふむ、やっぱりカエデはかばっていたのか」

「うわぁぁ!...アイリスいきなり現れないでよ」

「お前がベッドの下なんかに私を隠すのが悪いんだろうが。それより会話は聞かせてもらったぞ」

「あー...まぁ聞いてたとおりだよ。俺がルミナさんをかばったの、ルミナさんがこのままじゃ大変だと思って咄嗟の判断で動いちゃったんだよ。そのせいでアイリスに迷惑をかけたのは本当に悪いと思ってるよ、ごめん」

「なに悪いとは思っていない、むしろそうやって男らしい行動を取れたカエデを褒めてやりたいくらいだ」


 アイリスがふざけたように俺の頭をなでてくる。まぁアイリスだったら正直に話しても何も言ってこないとは想像してたんどけどね


「彼女が何をしようとしているかは私たちにはわからないが私たちは早くここから抜け出そう」

「そうだね、荷物とかはどうする?」

「いらん、資金は充分に蓄えさせてもらったからな」


 そう言ってアイリスがポケットから宝石や指輪などを見せてくる


「もしかしてアイリス...」

「あぁこの家にある物を色々ともらってきた。退職金だ、これらをこっそり集めるために今日はかなり時間を使ってしまった」


 見かけないと思ってたらそんなことをしてたんですねあなたは


「とりあえずどこかで売りさばけば当面の資金は問題ないだろう。それと脱出ルートは既に考えてある、そろそろ頃合だろう。カエデ準備をしろ」

「う、うん、わかったよ!」



 俺はアイリスに言われた通りもともと来ていた服に着替えいつでも行動できるように準備する


「よし、準備はできたな。カエデ、命令のシグナルは覚えているか」

「ジェスチャーのやつだよね。うん、わかるよ」

「では、私が先行するからカエデは後ろからついてこい」

「了解!!」



 ◇


 薄暗い廊下を歩く



 前方でアイリスが様子を見ながら屋敷からの脱出を試みる。アイリスが手のひらをこちらに向けるあれは「待て」の合図だ


 彫刻の影に隠れている少し先の曲がり角のの廊下を1人のメイドさんが通り過ぎる

 手には鎖の先鉄球がついた武器を持っていたいわゆる「モーニングスター」的なやつだ


 あんなの頭に一発でも食らってたら天国行きだぞ...


 そしてしばらくするとアイリスが手をクイッと曲げる「こっちに来い」という合図だ


 俺は物音をたてずなるべく迅速にアイリスの後ろにつく



「...(カエデ、ここから先は敵が多い)」

「...(え、じゃあどうするの?)」


 俺たちは可能な限り声を潜めて話し合う

 というかアイリスの顔が超近い、それにすごいいい匂いがするんだけど!!


「......(おい、聞いてるのか!)」

「......(ご、ごめん!聞いてるよ)」

「......(まったく気を緩めるな。仕方ないからここから先は強行突破だな。この廊下の先まで行けば庭に出れる)」

「......(という事は戦闘も?)」

「......(あぁ、走りながら応戦する)」


 こればっかりは仕方ないから。俺捕まったら殺されるし、殺られるんだったら殺られる前に殺っちゃうしかないよな


「......(まぁとりあえず敵をそれなりに引きつけよう。私の合図と共に走り抜けるぞ)」

「......(了解!)」


 俺は「ツインズ」を腰から引き抜いて構える。魔力のチャージもバッチリだ


 そしてアイリスが廊下の少し先にある花瓶に照準を合わせて弾丸を飛ばす。すると花瓶が割る音に反応したメイドたちがぞろぞろと花瓶の周りに集まる。こんな空気で考えるのもなんだけど「メタギ〇」やってるみたいだな


「行くぞ!!」


 そしてアイリスが頃合を見つけ廊下を駆け出す。俺も遅れずについていく。後ろを振り向くと赤い目をした悪魔たちが床を這い、そして壁を這って俺たちは追いかけてくる


「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」「ハイジョシマス」



「ひぃぃぃぃっっっ!!」



 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!


 なんだよあれ、どこのホラーゲームだよ、くそったれ!!!



「ちっ!向こうからもか!」

「向こうからもって...ぎゃー!!!」



 前方からもまるで超進化したゾンビのようにそしてゴキブリのようにメイドたちが現れる



「仕方ない、カエデこっちだ!!」

「え、アイリス...うわっ!?」



 アイリスが俺の首根っこをつかんで目の前の窓を割って外へと飛び出る



「行くぞ、カエデ!!」

「う、うん!!」


 なんとか体勢を取り直した俺はアイリスと共に走り出す


「数が多すぎる、カエデ、迎撃しろ!!」

「わかった!!」


 アイリスが振り向きざまに引き金を引き後ろから機械がひしゃげた音がする。俺は右から現れたメイドの肩口に向かって白の弾丸を放つ


「いっ!?」


 弾丸があたり腕が取れたがメイドの歩みを止まらなかった


「カエデ、頭を狙え!!こいつらはそれじゃ止まらん!!」

「くそったれ!!」


 俺は黒の弾丸を放って片腕のメイドの頭を打ち抜く。撃たれたメイドはそこで機能停止して倒れる。そしてその後からもまた続々とメイドが現れる


 昔人工知能を有したロボットたちが大暴走して人間達を襲う映画があったけど目の前に広がっている光景はまさにそれだな。アリのようにゴキブリのように湧いて出てくる。こんなたくさんのメイドさん屋敷のどこにいたんだよ!!


 圧倒的な数に囲まれた俺とアイリスは背中合わせになって襲い来るメイドたちを迎撃していた。これがゲームだったらまだ楽しめたのにね!!


「カエデ!!埒があかない!「フルバースト」を使うぞ!!」

「もしかしてあれで脱出するの!?」

「違う!!あれですべて打ち払うんだ!!」



 なるほどね、確かに「フルバースト」だったら放射状に発射されるから掃射できるな!!



「いくぞ、カエデ!!」

「わかった!!」



 俺がアイリスの手を握るとその手にはアンチマテリアルライフル「アイリス」が握られている


 アイリスが緑の眩い輝きを放つ



「ハイジョシマス、ハイジョシマス」


 1人のメイドが俺に向かって飛びかかってくる

 俺はそのメイドに「アイリス」の銃口を向ける


「「フルバースト!!」」


 俺とアイリスの声が重なり合い緑のレーザーがアイリスから発射される


 俺はそのままその場で一回転をして周囲を一気に掃射し、それに合わせて爆発が連鎖的に発生する


 屋敷の方にも被害が出てるけど、まぁ俺の屋敷じゃな意識にすることは無い



「はぁ...!はぁ...!これで全部やっつけた?」

「いや、まだだな」


 いつの間にか人の姿になっていたアイリスがある方向を睨みつける。そしてその先から現れたのは



「残念ですカエデ様、あなたを...」

「う、嘘だろ...」


 俺は襲ってきたメイドさんの中に彼女がいないかを必死に探していた。探しても現れなかった俺は少し安心していた気持ちがあった。だけどこんなタイミングで現れるなんて...!


 綺麗な緑の髪を揺らしながら赤い目を揺らしながら手に持った鎌を揺らしながら、彼女は現れた


「カエデ様、あなたを...ハイジョシマス」

「......ララさん!!」

お読みいただきありがとうございます

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