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プロローグ

「いらっしゃいませ、お客さんこのお店初めて?たわしから対戦車ミサイルまでなんでも揃うレドリック商店へようこそ。もちろん各種斡旋もやってますよ。さあ、お望みの品はなんですか?」







 一見活気に溢れた街、メインストリートには露天が軒を連ね、夜になれば娼婦が客を取りに道行く男達を誘惑する。


 だが、裏通りには浮浪者とストリートチルドレンが日の当たらない道に蠢いている。


 昨日挨拶を交わした隣人が次の日川から死体で上がるなど日常茶飯事。


 流れ者と犯罪者が寂れた炭鉱町に住み着き発展した、最早地図にも載っていない街。


 此処は金と暴力と快楽の街ークリミナルヘブンー





 ガランガランと店の戸に付けた鐘の音がした。


「いらっしゃいませー、レドリック商店へようこそ」


 俺は棚で姿の見えない客に挨拶を投げかけた。


「あのーここでは銃が買えると聞いてきたんですけど……お金ならあります!」


 おずおずと返答してきたのは12才前後の少女だった。


「はいはい、銃も売ってますよ。どんな銃をご所望ですか?」


 子供だろうが老人だろうが金を払えばそれは客、それが俺のポリシーだし、商人とはそういう仕事だと思っている。


 自らと客の繋がりはビジネスだ、俺が商品を売り、客がそれを買う。


 シンプルな等価交換、契約、それが商人として生きるのを決めた時決意した事だ。


「わたしでも扱えるのを…殺さなきゃいけない人がいるの」


 幼い少女に殺人というものを意識させるこの街は狂っている。


 日常に暴力が蔓延る故の死への忌避感の低下、嫌悪感の欠如。


 だが事商売においてそんな私情は挟まない。


 例え自らの売った商品でその暴力の螺旋が加速しようとも。


「そうだなぁ、S&WM37エアーウエイトこれなんかどうかな軽いし小型だからお嬢ちゃんでも持てるだろう値段はサービスしておくよ、中古品だしね弾もおまけね」


 少女は支払いを済ませた後笑顔を浮かべこう言った。


「ありがとうレドリックさん、これで家族を助けられるよ」


 家族を助ける…ね、物事の大半が暴力や金で解決するのは確かだ、そしてこの街ではそれが更に顕著である。


 全てを力に任せて解決するのは悪手ではない。


 ちんたら被害を拡大させるよりも余程効率的な面もある。


 だが解決こそすれ、それは後の事を考えていない。


 血で血を洗う未来が既に見えているのだ。


 目には目を歯には歯を暴力には暴力を。



 去り際の少女に名前を尋ねると


「あたしシャーロット、またお買い物に来るね」


 店舗に売り上げと購入者をメモし店を出ていく少女を見送る。


「お買い上げありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


 ガランガランと店の鐘をならし少女は大通りに出ていった。


 後日談を端的に話すと少女は死んだ。


 朝食後コーヒーを飲みながら新聞を読んでいるとその記事が目に入った。


 少女シャーロットはうちで買った銃で住んでいる家の地上げに来たマフィアを撃ち殺し、その仲間に乱暴された挙句家の前に無惨に打ち捨てられたらしい。


 無論家族もそれを口実に、見せしめとして惨殺された。


 結局少女の行使した暴力はマフィアの地上げを恙無く行わせる為の出しに使われてしまったのだ。


 この街ではこれが日常。


 暴力が暴力を呼び、それを利用して賢いものがのし上がるそういう街だ。


 少女の無念を偲びながら今日も俺は商売に勤しむ。



 日常と暴力を売るレドリック商店へようこそ、あなたの望みの品はなんですか?








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