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人嫌いの転生記  作者: ラスト
第二章
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対策

 その夜、拠点地下の作業スペースで創作活動に勤しんでいたレイの元に、レイの命令によって調査を行なっていたエストレアが帰還した。


「レイ様。ただいま戻りました」

「……エストレアか。随分遅かったな」

「すいません。標的が尻尾を見せるまで時間が掛かってしまいました。すいません」

「そうか…」


 レイは作業を止めてエストレアに向き直る。『おかえりー!』と言いながらフラムがエストレアに飛びついてじゃれているが、レイはそれをスルーしてエストレアの魔力を魔法で読み取る。

 そしてそれを終えて一言。


「向こうで何かしらされた様子は無さそうだな」

「はい。トラップなどは全て人間用で、精霊に対する警戒はなされていませんでした」

「まあ、普通は精霊が偵察に来てるなんて思わないだろうからな」


 精霊が見える者など全体で見てもそれ程多くないし、例え素質があったとしても、精霊が人の前に姿を表す事自体が稀なので、レイのような特殊な存在を除き精霊を使役出来る者など殆ど居ない。

 そんな少ない確率を警戒するのなら、その分を目の前の脅威に向けた方が良いと思うのは当然である。それこそ、レイのような過剰な程疑り深い者でない限りは。


「それで、どうだったんだ?」

「はい」


 レイに促されて、エストレアが集めて来た情報を報告する。

 曰く、あの時の男はとある宗教団体を纏める司教的な存在らしく、街の郊外にある屋敷に拠点を持って細々と布教活動をしているらしい。

 宗教団体というよりは殆どカルト集団に近い集団らしく、今も何かしらの準備の為に殆どの信徒は出払って居る。その為宗教の構成員は今の所はっきりしていない。

 少なくともこの日集まった信徒は十人にも満たなかったそうだが、一応はそれ以上居ると考えた方が良いだろう。

 そして会話の中でレイに接触してきた理由についても述べられていたが、案の定レイが何者なのかを探りに来ていたらしい。具体的には同志かどうかを確かめに来たのだとか。


「一体何をどう見たら俺を仲間だと勘違いするんだよ」

「どうやら黒いローブが原因みたいです。拠点に居た人達は皆黒いローブを着ていましたから」

「迷惑極まりないな…しかもその所為で無視する訳に行かないから質が悪い」

「そうなの?」

「当たり前だろ。アイツ等と俺、殆ど同じ格好してるんだからな」


 自分が活動している時に同じ格好をした別の勢力が悪事を働く。そんな事になれば、同じ格好のレイにまでとばっちりが行く事は明白だ。

 何としても阻止しなくてはならない。その集団が行動を起こす前に。


「万が一の為に、作っておいて正解だった」


 そう言ってレイは作業台の上に置かれた物を手に取る。明かりに照らされてぼんやりと見えるそれは、小さなトカゲの置物のようだった。


「レイ様。それは何ですか?」

「ゴーレムだ」

「ゴーレム?そんな小さな物がですか?」


 見た目だけならただの置物と思ってしまいそうになるくらいに作り込まれたそれは、ただ言われただけではとてもゴーレムとは思えなかった。フラムなど興味津々に眺めている。


「コイツは偵察用のゴーレムだ。敵地に潜り込ませるのに、態々ゴツい見た目である必要は無いだろ」

「ゴーレムを偵察に用いるというのか!?」

「そんなの聞いた事が無いよ」


 一般的に存在が確認されているゴーレムは大抵人間サイズかそれ以上の大きさである事が多い。ゴーレムが殆どの場合で戦闘か、他にあったとしても人間に出来ない重労働にばかり用いられる事が精々だからである。

 戦闘をさせるのなら強い方が良い。そしてただ強ければ良いのだから精巧に作る必要も無いのだ。自然と見た目はゴツく、そして大きくなる。

 だからこそレイのゴーレムは異質なのだ。仮に動いたとしても新種の魔物にも思われそうな精巧な見た目と、ゴーレムのセオリーから外れた小さな姿は、この世界の常識的に有り得ない物だった。


「それは好都合だ」


 存在が確認されて無いのであれば警戒のしようがない。対人間用のトラップが張り巡らされていようと、このトカゲ型ゴーレムから何の問題も無く潜り込める。


「あれ?これとこれ、ちょっと形が違う」


 ふと、トカゲ型ゴーレムを見ていたフラムがそんな事を言い出した。


「何?」

「……本当。ちょっとだけど形や大きさが違うわ」

「ちょっと待って!こっちもその二つと違う形をしてるよ」


 良く見るとトカゲ型ゴーレムは合計三種類の形をしていた。それぞれ変化は小さいが、少し目を凝らして見れば直ぐに分かる。


「ああ。流石にこのサイズだと動かすのがやっとでな。それ以外には一つくらいしか命令出来そうに無いから、それぞれに別の命令を付与する事にした」


 見た目が違うのは、その際に本人が見間違えたりしない為である。これによって、種類と個数が明確になるのだ。


「それぞれ偵察用、視覚共有用、爆破用と分けてある」

「……爆破用?」

「そうだ」


 何やら不穏な単語が聞こえ、ティエラ思わず聞き返してみたが、結局は自分の耳が正常で、レイの言ってる事がそのままの意味である事が分かっただけだった。

 それに乗っかる形で、シエルもまたレイに問い掛けた。


「えっと…これって偵察の為に用意したゴーレムなんだよね?」

「そうだ。それがどうかしたか?」

「その割には爆破用のゴーレム多くない?」


 用意されたトカゲ型ゴーレムは爆破用の数が多かった。偵察用と視覚共有を合わせた数よりも、爆破用のゴーレムの数の方が多い。偵察の為に用意したにも関わらずだ。


「流石にこのサイズだと爆発も規模が小さくなってしまってな。生き埋めにするにはそれなりの数を揃える必要があったんだんだからしょうがないだろ」

「いやいやいや。しょうがないとかそういう話じゃ無いから」

「じゃあどういう話なんだよ」


 冗談でも無く本気でそう尋ねるレイ。

 それを見てこれ以上は遠回しに聞いても埒が明かないと踏んだティエラは、仕方なくレイに直球で問い掛けた。


「そもそも、何故偵察するのに爆破用のゴーレムが必要なのじゃ?」


 偵察用は置いておくとして、視覚共有用も分からなくは無い。だが爆破用だけは明らかに用途が違うと思わざるを得なかった。


「そんなの決まってるだろ。アイツ等が動きそうになったら、アジトに集合した段階で地下に埋めて一網打尽にしてやる為だ」

「いや、そんなの決まって無いし、第一それもう偵察じゃ無いから」


 偵察とは相手の様子を探る事であって、そこに敵を攻撃する事は含まれていない。それはもう襲撃である。


「最初は普通に偵察するさ。でも敵が動きそうな時に一々俺の方から出向いて殺す必要は無いだろ」


 仮に彼等がレイに明確な敵意を持って行動しようとしていたのなら、もしかしたらそれを後悔させる為に態々出向いて自らの手で殲滅する事もあったかもしれない。

 だが今回はそうでは無いのだ。カルト集団は何かしら悪事を働こうとしていて、その被害が偶々レイにまで届きそうになっているだけ。

 それなら別に出向かなくてもレイとしては何の問題も無い。ゴーレムに命令して全て解決した方が楽だし直ぐに終わる。


「それに俺から遠く離れた場所で死んでくれれば、誰も俺が犯人だとは思わないだろうしな」


 要はアリバイ作りである。仮に地下を爆破したとして、そこから遠く離れた場所にずっと居たレイがそれをやったなんて普通は思わない。

 特に直ぐ傍にはいつもカーラッツが居る。彼をそのまま証人に仕立て上げれば、小さいゴーレムの存在を知らない人間達がレイを疑う事は無い。


「もしそれでも無理矢理捕まえようとした時はどうするのじゃ?」

「その時はその時だ。捕まえようとして来る憲兵共を一人残らず叩き斬ってから悠然と街から逃げるだけだ。その為に態々黒いローブで身を隠してるんだからな」

「最初から着なければそもそも疑われる事も無かったじゃろうに」

「それだと店にムカつく奴が現れた時に叩き斬れないから却下だ」

「普通はそっちを自重するべきなんだけどね…」


 尤もそれを言うシエルも内心では無理だろうとは思っている。かれこれ十年以上行動を共にしているから十分過ぎる程理解しているが、自分の好きなように生きると決めたレイに、自重などという言葉は存在しなかった。


「それにしても、ただの買い物だった筈が、随分と物騒な話になったもんだ」

「そういえばそうだったね」


 既に大分日数が経過してしまっている所為で忘れてしまいそうになるが、本来の目的は搾乳可能な家畜の購入である。いつの間にか商売なんてやってはいるが、それは飽くまでその為の資金稼ぎでしか無い。

 その上今度はカルト集団の偵察まで加わっているのだ。一体何をしたらそんな事になるんだと言いたくなるくらい行動内容が一気に物騒になっている。レイはただ資金稼ぎをしているだけなのに。


「この調子だと数日後には魔物の大軍勢でも攻めて来るのでは無いか?」

「もしくは内乱が起こったりして」

「止めろ。本当になったらどうする…」


 そんな回収したくも無いフラグを建てられても困る。レイはただ金を稼いで家畜を手に入れたいだけなのだ。別にそんな街存亡の危機だとかそういうのは期待していない。

 寧ろ邪魔なので全力で回避もしくは破壊される事を祈るばかりである。尤もレイの祈る対象などお子様か黒猫の二択しか無いので望み薄ではあるのだが。


「まあ良い。その時は迫り来る敵を一人残らず殲滅すれば良いだけだしな。今はそんな事より、これからの事を考えるぞ」

「これからの事、ですか?」

「そうだ。エストレアは知らないだろうが、今日店に面倒な客が来た」


 それは、レイがエストレアを偵察に行かせてから暫くしての事だった。レイが店番と並行して魔力制御の練習をしていると、一人の男がレイの店に現れた。

 その男は見るからに見窄らしい格好をしており、日々の食事にも困っていそうな見た目で、とてもでは無いがレイの商品を買う程の余裕のある生活をしているようには見えなかった。

 男はレイの商品を無造作に掴み取ると、それをジロジロと見ると、突然レイに向かって文句を言って来た。曰く『この商品には傷が付いてるからもっと安くしろ』と。


「要するに、商品に難癖付けて安く買い叩こうとしたんだろうな。半ば腐りかけの野菜が普通に並んでいるのが当たり前のこの世界で、良くもまあそんな小さな傷でギャアギャア騒ぎ立てられたもんだ。まあ、十中八九相手がこっそり付けた傷なんだろうけどな」


 レイの野菜は育ててから収穫して選別し店に並べるまでの行程の殆どを魔法で行なっている為、レイが手で触れる機会が殆ど無いのだ。なので商品に傷が付く事など有り得ない。

 しかし言葉と共に見せられた商品を見ると、確かに爪痕のような傷が付いていた。考えられるとすれば、他の客が触った時に付いたか、目の前の男が手に取った時に態と付けたかである。

 そして相手の顔を見れば、それが後者であるのがレイには簡単に分かった。


「レイ様の商品にそんな事を。しかもレイ様に向けて難癖まで付けるなんて…相手はどこの誰ですか?今直ぐに【夢喰い(ナイトメア)】で永遠の悪夢を見せて来ます」

「止めろ。そもそもどこの誰かなんて知らないしな。それに、仕返しなら済ませてある」


 とはいえ別に叩き斬った訳では無い。確かに片腕を切り落としてやろうかとも思ったりしたが、それよりも早く別の案を閃いた為、そっちを実行する事にした。

 やった事は単純だ。先ずレイは男の持っていた野菜を手に取ると、その場で魔法を発動。野菜は瞬く間に火に包まれた。

 時間にして僅か数秒。高火力の炎に包まれた野菜はあっという間に炭化して行き、更に数秒後には灰になり、風に乗って空の彼方へ飛んで行った。

 そして想像もしていなかった光景に男も隣に居たカーラッツも呆然とする中、レイは商品の中から同じ野菜を取り出し、傷の無いのを確りと確認してから男に渡し、即座に購入金を要求した。『先程まで買う気満々の口調で値切ろうとしておいて、まさか買わないとは言わないよな?』という文言と共に。手元から小さな炎をチラつかせながら。


「今思えば、あれは完全に脅迫じゃったな。相手には同情せんが」

「あんなのを即興で思い付く上に手際良く実行出来るなんて、もう才能としか言いようが無いね。相手には同情しないけど」

「お前等どっちの味方だよ」


 というか、これでもまだ五体満足である分穏便に済ませた方だ。例え逃げていたら本当に燃やす気でいたとしても、選択の余地があった分、問答無用で片腕を切り落とされるよりはマシだと思って貰う他無い。


「まあ過ぎた事は置いといてだ。今後もそんな感じの事が起こり得る可能性が高くなって来た訳だから、そっちについても予防なり対処なりしておかないとと思ってな」

「そういう事でしたか」


 漸く話に追いついて納得がいった漸くのエストレア。どうやら既にレイが仕返しをしたとあって、先程の話については引き摺っていないようである。


「それで、何か考えはあるのか?」


 真っ先に疑問を提示したのはティエラだった。

 本題に至るまでの過程は兎も角、リスクに対して何らかの対策を講じようとする姿勢は至極真っ当である。故にティエラもちゃんと真面目な姿勢で話す。


「そうだな…俺としては普通に厳ついゴーレムでも作って店の脇に置こうかと思ってる」

「それだと余計に客が寄り付かなくなりそうだね」

「お客さん怖がっちゃいそうね」


 怪しい黒ローブの店主に店を守る厳つい見た目のゴーレム。色んな意味で危ない店である。


「でもな、こういうのは見た目が肝心だろ?見ただけで『手を出すと拙い』と思わせるような見た目でないと、結局は舐められる事になるんだし」

「それで他の健全な客まで寄り付かなくなったら意味が無いじゃろうが」

「じゃあどうするんだよ。ウチにゴーレム以外に使えそうな人員なんて居ないぞ」

「居るよ?」


 レイの苛立ち混じりの問いに、さっきまでトカゲ型ゴーレムで遊んでいたフラムが即答した。


「ほら、ミクォラが居るじゃん」

「……見た目的に無理がないか?」


 ミクォラの見た目は間違い無く美女と評するに相応しいだろう。顔も整っているしスタイルだって良い。猫耳と尻尾が生えているが、これだってその手の人間からは受けが良いだろう。

 そんなミクォラが店を守っていたら、余計に悪い客が寄って来そうだ。何より女という時点で舐められそうである。


「それに、俺はアイツの事、まだそこまで信用出来ていないからな」

「え?そうなの?」

「いや、何でそんなに驚くんだよ。俺が基本的に人を信じていない事くらい、お前等ならもう知ってるだろ」


 人どころか言葉の通じる全ての存在を警戒するのがレイという存在だ。

 精霊達はレイが生まれて間も無い時期から共にいるのだから、レイが他人に対して冷たい事も、それが人に対して心を許していないからだという事も、当然理解している筈。一体何故、ミクォラに関してそんなに驚くのだろうか。


「だって、レイとミクォラ、まるで家族みたいに仲が良かったじゃん。それで信用出来ないなんて言うとは思わなくって」


 家主と居候という変わった間柄ではあるが、寝食を共にする姿は見方によっては家族に見えなくもない。

 そんな生活を数年間続けておいて、未だにミクォラが信用出来ないと言うレイに精霊達は少々驚いていたのだ。


「家族ねえ…」


 レイの記憶に想起される家族の存在。それはヨダ村の家族では無く、地球で生きていた頃の家族の姿だ。

 自分の産んだ平凡な子供よりも、出来の良い近所の子供を優先する両親。当然そんなものに良い思い出など存在しない。レイからすればあんなのは、血の繋がっているだけのただの他人である。


 それはさておき、家族に対して良い印象の無いレイからすれば、『家族みたい』などと言われた所であまり気分の良いものでは無かった。

 その家族ですら、信用出来ないものだったのだから。

 そんな訳で苦い顔のレイに、いち早く気付いたアイシアが声を掛ける。


「どうかしました?」

「いや、何でも無い。兎に角アイツは無しだ。諦めてゴーレムで行くぞ」


 それからはゴーレムの形状をどうするのかで議論が進んで行く。なるべく一般人に怖がられないような見た目が良いとか、それなら可愛いゴーレムを作ったらどうだとか、もういっその事開き直って滅茶苦茶怖い見た目にしてしまおうか等と半分ふざけたような議論が交わされて行く。

 そんなレイの会話を地下室の入り口で聞いていた人物は、レイが話題を変えた所で音も無くその場から離れて行った。

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