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人嫌いの転生記  作者: ラスト
第二章
38/56

家完成とその後のゴタゴタ

その場の勢いで書いたらこんな事に…

 時刻は夕方になり、色々有ってレイの家は遂に完成した。あれから家具や設備等の内装を整えるのに結構な時間を費やしたが、何とか今日中に完成に漕ぎ着けたのだ。

 趣味の木工で作っていた家具がこんな所で役に立つとは、レイ自身も思っていなかった。


「ハァ、終わった終わった」


 家から出て体を伸ばすレイ。未だにゴーレムで遊ぶ精霊達の一糸乱れぬダンスを視界からフェードアウトして、完成した家を外から眺める。

 想像していた現代の日本の家屋とは違って、昭和の頃の様な木目の見える古い感じの家になってしまったが、初めてにはしては上出来だと納得しておく。

 まだ改良は必要だろうが、取り敢えず住むのには問題無いと言えるだろう。


「終わった?」


 帰って来ていたミクォラがレイの傍に来て尋ねる。


「ああ、後で作り変える部分は有るけど、一応は完成したと言えるな」

「そう。じゃあ、あれ、何?」


 あれとは恐らく、後ろで踊る人型の土塊の集団の事だろう。ミクォラの向く後ろに有る物と言えばそれしか無い。実際振り向いてもそれしか無い。というかムーンウォークなんて何処で覚えたというのか。


「何なんだろうな」

「ミィ?」


 いくら聞かれようと精霊達の考える事などレイには理解出来ないのだから仕方ない。一体何が楽しくて一斉に踊っているのだろうか。


「いや、何でも無い」


 ミクォラの取ってきた魔物の山を【アイテムボックス】にしまい、休憩の為に家に戻る。折角作った家なのだから思う存分寛ぐとしよう。

 レイの住む家だけ有って、家の造りは何処か日本の家を連想させる。玄関には靴置き場が有り、此処で靴を脱いで行く仕様になっている。

 革製の靴を脱いで丁寧に並べ、廊下を廊下を通ってリビングに向かう。と、その時、レイの背後から足音が聞こえた。立ち止まって振り返ると、其処にはレイの後を追って家に入って来たミクォラの姿が。


「何で入って来てんだ?」

「ミィ?」


 何を言ってるのか分からないといった具合に首を傾げるミクォラ。それを見て、レイの胸中に嫌な予感が一気に湧き上がる。


「まさかとは思うけど、此処に住むつもりじゃ無いだろうな」

「うん」


 何を当然の事をとばかりに頷くミクォラ。嫌な予感が的中して、顔を手で覆うレイ。無意識に溜め息を吐いた。


「あのな、此処は俺の家だ。この拠点の中で済む事は許可したけど、この家に住む許可は出してない」


 この家はレイのプライベート空間である。部屋の全てが、レイが暮らし易い様に建てられたレイ専用の空間だ。

 其処へいきなり他人を住まわせたりしたら、折角家に居てもちっとも心が安らがない。それでは家を建てた意味が無い。


「……駄目?」

「駄目だ」

「ミィ……」


 寂し気に耳を垂れるが、そんな落ち込まれても答えは変わらない。レイにも心安らぐ時間は必要なのだ。


「レイ、住まわせてあげないの?」

『お前まで何言ってんだよ。信用出来ない奴を家に住まわせるなんて御免だ。流石の俺も、あの身体能力を持った奴相手に寝込みを襲われたら無傷で済むか分からないからな』


 レイとて無敵では無い。ちょっとした油断が原因で死ぬ可能性もゼロでは無いのだ。そう簡単に死ぬつもりは無いが、それでもその可能性はできるだけ排除しておきたい。レイからすれば、今のミクォラには不安要素の方が多過ぎる。信用には値しないのだ。


「それなら大丈夫だよ!だってあの猫の子からは悪い感じはしないもん!」

『…随分とアイツの肩を持つんだな』


 精霊は魔力に敏感だ。人の魔力から、その人間の善悪を把握できる程に。その精霊が大丈夫という事は、ミクォラは少なくとも現時点で悪人では無いし、レイに対して悪感情は抱いていない事になる。

 しかしそれと彼女の肩を持つ事はイコールでは無い。フラム達はレイと契約した精霊達だ。レイの望まない事はしないし、可能な限りレイの意思に沿う形で行動している。

 そんなフラムが、何故レイの意見に反してまでミクォラの肩を持つのか。


「だって、あの子から『レイの事大好き〜』って気持ちがすっごく伝わって来るんだもん!きっとレイの味方になってくれるって思うの!」


 実に子供の様な理由。しかし、魔力から性格を判断出来る精霊となると、その信憑性は高くなる。


『いや、別にアイツが俺の事を好きかどうかの問題では無いんだけどな』


 それとこれとは別問題なのだ。彼女がレイをどう思っていようと、そんな事は今のレイには関係無い。別に彼女に好かれたいと思っている訳では無いのだから。

 問題なのは寧ろ、彼女が何らかの理由でレイを攻撃して来た場合だ。寧ろ意識的にしろ無意識的にしろ、あの身体能力は脅威だ。

 特に寝ている所を攻撃されでもしたら、正直危険だ。寝ている間は無防備になりがちだ。其処から急に反応出来るかは分からない。

 故に彼女を住まわせる訳には行かないのだ。


『せめて寝ている間の絶対的安全が確保出来ないとな』

「それなら精霊結界を使えば良いのじゃ」


 精霊結界。それは精霊達が自分達の住処を外敵から守る為に張られる特殊な結界だ。主に霧の様な形で視界を奪い、方向感覚を狂わせて住処に近付けない様にする事が出来る。

 レイの拠点もこれによって守られおり、そのお蔭で下手な魔物は拠点に近付く事も出来ないのだ。尤も最近はエンシェントウルフやら猫の獣人やらと突破されているので、その性能にはやや疑問符が付くが。


『ああ、あれか。でもあれって森とかの複雑な地形で無いとあまり効果が無いんじゃなかったか?』


 相手の方向感覚を狂わせるには、木々や岩などで視界が悪い状況であればある程効果が高いと言われている。家の中でやっても機能するのかは疑問だ。


「それは複雑な地形の方が効果が高くなるだけで、別に迷わせるのにそれ程大きな問題は無い。それに妾達が力を合わせれば、その辺の無属性精霊よりも強力な結界を作り出せるのじゃ」


 確かにフラム達は精霊の中でも属性を持ち、更に契約によって成長した個体だ。その力はその辺の無属性精霊とは比べるべくも無い。


『具体的にはどの程度まで強く出来るんだ?』

「そうじゃのぅ。最大すれば、少なくとも部屋に入った瞬間から前に進む事は疎か、起きている事も出来なくなるじゃろうな。入った瞬間バタンキューじゃ」

『おっかねぇな』


 恐らく視界を狂わせて平衡感覚を奪ってしまう物なのだろう。言い回しは可愛いのに、効果はとてもえげつない。

 見た目はただのミニマム褐色ロリなのに、やはり彼女も精霊なのだ。


「じゃがこれなら、あの獣人が扉から入ろうが壁をぶち抜いて入ろうが、レイに攻撃を加える前に動けなくなるじゃろう。その上契約したレイには一切効果が無い。これ程良い物は中々無いじゃろうな」


 ティエラの話を聞きながら考察する。確かにそれなら万が一ミクォラが突撃して来てもレイに攻撃する前に無力化される。それなら家に居てもそれ程問題にはなら無いだろう。

 ミクォラもションボリしながらも立ち去る様子は無く、モジモジしながらどうにかして住まわせて貰おうかと思案中の様子。諦めるつもりは無いらしい。

 レイは小さく溜め息を吐いて、それから告げる。


「俺の部屋と地下室への立ち入りは禁止だ」

「え…?」

「それから、俺の家に住むからには、一日最低一回は風呂に入って貰うし、最低限清潔にして貰う。後家の設備についての文句は一切受け付け無い。これが守れるなら、物置部屋をお前の部屋にしてやる。これ以上の譲歩は認め無いぞ」


 条件付きの許可。家に一緒に住んで良いと分かった途端、ミクォラの目はキラキラと輝き、髪がフワリと逆立つ。答えは聞くまでも無い様だ。


「さて、一緒に住む事が決まった所で…先ずは風呂に入って来い」

「………………………………………ミィ?」


 一瞬にして固まったまま無理矢理に惚けているが、レイは見逃すつもりは毛頭無い。


「だってお前足ドロドロだろ。そんな足でこれ以上家の床を汚されたら堪らないからな」


 昼間ずっと森を駆け回っていただけ有って、ミクォラの足は土だらけだ。それだけじゃ無い。体中汗でビショビショで、髪には所々木の葉が絡み付いている。

 そんな格好で家の中をうろつかれるのは我慢ならない。よってリビングに入る前に、ミクォラには一度洗い直す必要が有った。


「風呂は俺が用意してやるから直ぐに入れる。其処で体中ピカピカになるまで洗って来い。良いな?」


 最後の一言から、有無を言わせない何かを感じ取るミクォラ。一瞬体が逃げ出そうとしたが、一緒に住む為には最低限清潔にする必要が有るという先程の条件を思い出し、体が硬直する。

 風呂は嫌だ。体が濡れるのが、その後に湿った感じが体にまとわりつくのが気に入らない。

 しかし、レイと一緒の家で暮らせないのはもっと嫌だった。折角一緒に住めるとなったのに、此処で自分から反故にする訳には行かない。

 結局逃げ道は思い浮かばず、ミクォラ項垂れながら小さく頷く事しか出来なかった。


 ーーー


 レイの建てた家は大きな平屋建てだ。おおよそ一人で暮らすには大きな広さの敷地にリビング、ダイニング、キッチンが揃っていて、他にミクォラの部屋になった元物置部屋とレイの寝室の二部屋に、更に以前使用していた地下への入り口も在る。

 そして家の中でもレイが特に力を入れたのは水回りだ。地下に作った簡易的な浄水区画と下水処理区画を地上に引いて、家の中にも繋げてある。

 キッチンには水道が設置してあって、スイッチ一つでオンオフが切り替え可能だ。

 それ以外に風呂や洗面所、そしてトイレも設置してある。地球の現代と比べると流石に劣るが、それでも風呂場は木製の広々とした物だし、トイレも洋式の水洗便所だ。

 これだけの設備、この世界基準で言えば恐らく中流貴族かそれ以上の暮らしに匹敵するだろう。特に下水処理という概念が無さそうなこの世界では、このトイレの水準は王族でも不可能かもしれない。

 オマケに家自体が魔法によって強化されているので、レイが魔法を解除しない限り並の力では傷一つ付かないだろう。

 そんな無駄に高性能な家の中で夕食を取り終えたレイとミクォラは、直ぐ隣のリビングで食後の麦茶を飲んでいた。異世界初の水以外の飲み物である。流石に薄い塩味の野菜スープは飲み物とは言わない。あんな物は飲み物とは認めない。

 精霊の力を一杯浴びて育った麦から作った麦茶は麦の香りが良く、冷やしても飲んだ途端に芳醇な麦の香りが鼻を抜け、続いて麦の深いコクが舌を満たす。

 飲んだ後の清涼感も良い。下手な地球の麦茶よりも美味しいかもしれない。レイの貧弱な語彙力で言う所の、高級感が有るという奴だ。尤もミクォラには麦の苦味が駄目だった様だが。

 そのミクォラがふと立ち上がると、リビングを後にする。チラリとレイが目を向けだが、一々動向を聞く間柄でも無いだろうと、何も聞かずに送り出した。

 魔法の灯りが照らす明るい廊下を進んで行き、ミクォラが向かった先はトイレだった。此処に住むとなった時に、一応水回りの説明は受けていたから、何処にトイレが有るのかは一応知っていた。

 知ってはいたが、それとレイの家に慣れるのとは別問題だ。そもそも用を足す為の部屋なんて聞いた事が無い。

 ミクォラにとって、と言うかこの世界の住人にとって、用を足す時は外の茂みでこっそりしてしまうのが普通だ。寧ろレイの様に汚いからちゃんとトイレでしろと言う方が異質なのだ。家の中でする方が汚いだろうと思ってしまう。

 しかしレイにそう言われてしまった以上、ミクォラはそれに従うしか無い。それがレイと一緒に暮らす為に必要な事なのだから。

 一応水で地下深くまで流してから跡形も無く処理するずっと清潔なままだと説明されているので、それ程忌避感は無い。事前にレイに言われた通り、一番上の蓋だけ開いて座り用を足す。


「………フゥ」


 お腹がスッキリする開放感を感じながら用を足し終えて立ち上がろうとする。ーーーが、何故か立ち上がれなかった。


「…?」


 おかしいと思いながらももう一度挑戦する。ーーーが、やはり駄目だった。更に両手も使い力を込めて全力で立ち上がろうと試みたが、それも失敗。結局立ち上がる事は出来なかった。

 どういう事だろうか。首を傾げたミクォラだったが、暫く考えた末にレイが言っていた教えてある事を思い出した。


『ーーーとまあ色々と説明したけど…一度話しただけで覚えるのは難しそうだな。一応お前が覚えるまでの間、水を流すまでは便座から立ち上がれない様にしておくから、覚えたら教えてくれ』


 つまりこれはレイが施した物で、水を流すまでは此処から移動する事は出来なくなっているという事だ。

 成る程確かに忘れていた。ミクォラは流石レイと変な方向で感心してレイへの好感度を上げて行く。

 そんな事はさて置き、理由が分かった以上、やる事は決まった。水を流してしまえば、この状況は容易く打破出来るのだ。

 確かレイの話では、横のスイッチを押せば水が流れると言っていた筈。そんなうろ覚えの記憶を頼りに横に設置されているスイッチの有るパネルの方へ指を持って行きーーー直後、指が止まった。

 ミクォラが押そうとしていたパネルには、幾つものスイッチが取り付けられていた。レイの住む地球を参考に作られたスイッチだ。当然スイッチの記号も地球の物をそのまま使用されている。

 しかし異世界人のミクォラには、それが何を表しているのか分からないのだ。確かに一度レイから説明を受けたが、幼い頃から学も無く野生児の様な生活をしていたミクォラが一度で全部を覚え切れる訳が無かった。


(………どうしよう)


 このままではずっとこの便器に座ったままだ。どうにかしなければ。

 足りない頭を振り絞っていると、パネルが光っているのが分かった。正確にはパネルに有るスイッチの一つが点滅していたのだ。

 その時、またしてもミクォラの脳裏にレイの話していた事が思い出された。


『万が一お前が忘れた時の為に、時間が経つとどのスイッチを押せば良いのか教えてくれる様にしておいた。どうしても分からない時はそれに従え』


 恐らくこれがレイの言っていた事なのだろう。つまりこれを押せば水が流れるのだ。

 レイの気配りの良さに耳をピコピコさせて喜び、早速ボタンを押す。座っている人に下から何かが放たれている記号のスイッチを。

 瞬間、ミクォラの見えない便座の下から妙な音が聞こえて来た。何かの迫り出す様な音が。

 何が起こっているのか分からず頭の上に疑問符が乱立する。ミクォラ。そして何も分からぬまま、それは起こった。


「ヒャファ!?」


 突如下から水が吹き掛けられたのだ。何処とは言わないが、水を掛けられたその場所からピリピリとしたむず痒さが駆け上がって来て、それが体中に広がる。

 反射的に立とうとしたが、レイの施した魔法の影響で立ち上がる事が出来ない。そして前屈みになった事で余計ダイレクトに水が当たってしまい、体に電流が走ったかの様にビクビクと体を震わせる。

 この時点で何が起こったのかは言うまでも無いだろうが、一応説明して置くと、単にトイレの洗浄機能が作動しただけである。この世界では未だ紙は普及しておらず、当然トイレットペーパーも存在していない。

 かと言って作る技術も知識も無いレイが不浄の左手の使用を何としても避けるべく苦肉の策として作ったのが、この洗浄機能だ。

 ノズルが迫り出す機能や水を魔法で作り出すのか外から引いて来るのか、射出方法はどうするのか等と色々と考えた末に一番複雑な構造をしている場所でもある。これも不浄の左手回避の為なのだ。

 但し地球のとは違い温水は出ないので冷たい水で洗浄する必要が有り、その所為で最初はかなりヒヤッとしてしまう。これはレイが最初に試した為ちゃんと理解している事だ。今後の課題でも有る。寧ろ今の時点で水の勢いだけでも調整出来ただけでも改善はされてあるのだ。幾ら何でも水圧で抉るのは洗浄とは言わない。何処をとは言わないが。


 そんな事はさて置き、洗浄機能による水掛けで色々と大変な事になっているミクォラ。噴出する水は的確にミクォラを攻め立てる。其処から発生した名状し難い感覚が全身に広まって行き、背筋がゾクゾクと反応する。普段は無表情のミクォラが、この時ばかりは顔を歪めていた。


「ッ!!ーーーッ!!」


 歯を食いしばって声にならない悲鳴を上げる。最早これはトイレでは無い。ミクォラを縛り付け、責め苦を与える拷問椅子と化していた。

 そして責め苦は更に激しさを増して行く。


「ーーーッッッ!?」


 どういう訳か、噴出される水の勢いが増したのだ。別にレイはそんな機能は搭載していない。しかし実際問題、水はミクォラを追い立てるかの様に勢いを増して、より一層ミクォラに襲い掛かる。


「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」


 今まで一度も感じた事の無い感覚に全身が支配されて行く。そしてその感覚に危機感を抱いたミクォラは、遂に最終手段に出た。

 則ち、便器を破壊して離脱するという方法だ。レイには申し訳ないがこれ以上は耐えられそうも無い。心の中で謝罪しつつ、ミクォラは拳を握って思いっ切り叩き付けた。

 自分より大きな魔物を昏倒させる威力を持つ一撃。しかしそれは、ゴッ!!と鈍い音を立てただけで、トイレ自体には罅一つ入って居なかった。

 その理由は簡単だ。レイは家が壊れない様にと、家の全てに強化魔法を掛けていたのだ。当然、今ミクォラが破壊しようとしているトイレにもだ。その所為でミクォラの全力すら受け止める無駄に高性能なトイレが誕生していた。…それは凄い事なのだが、この場においては空気を読めとしか言い様が無い。

 ミクォラも諦めずに何度も拳を振るうが、トイレは一向に壊れる気配は無い。

 こうしている間にも洗浄と称した責め苦は続き、やがて拳を握る余裕すら無くなる程に追い詰められてしまった。


「ンッ!ン、ンゥ…ンッ!」


 最早ミクォラに出来る事は、今体内を駆け巡る感覚になけなしの意思で抗う事だけだった。その思考すら一秒も経たぬ内にみるみると白く霞んで行く。

 もう限界だった。身も心も訳分からなくなってしまいそうな感覚。これ以上何かが起これば、もう耐える事は出来そうに無い。

 どうかもう終わって。そんなミクォラの切実な思いを踏み躙るかの様に、最後の駄目押しと言わんばかりに水が噴出される。それはミクォラのムズムズしていた所を的確に捉え、そして体中を暴れ回るその衝動は遂に限界を超えた。

 爆発する衝動、全身がバラバラになってしまう様な激しい感覚の中で、まるで濁流に飲まれるかの如くミクォラの意識は真っ白に塗り潰された。


 ーーー


『ミィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!』

「ん?何だ?」


 麦茶を飲み終えて食器を洗おうかと立ち上がったレイの耳に、ミクォラの悲鳴が聞こえて来た。

 何時もの無表情からは想像も出来ない大声だったが、一体何が有ったらそんな声を出すのか想像も付かなかった。

 何か変な事をしでかしたのかと苦い顔をしつつ、仕方なく先程したミクォラの悲鳴を頼りにミクォラを探す。どの辺に居るのか最初は分からなかったが、適当に廊下を進んでいると、ふと廊下の向こうからジャーッと水の流れる音が聞こえて来たので、その音がしたトイレに向かう。

 レイがトイレに着いた段階で丁度扉が開き、中から息を切らしてヘトヘトになったミクォラが顔を出した。ミクォラは外に出れて安心したのか、その場で倒れてしまった。


「おい…マジでどうしたんだ?」


 何が有ったらトイレに入った程度でそんな状態になるのか理解出来ないレイは、息を荒げながらビクンビクンと痙攣するホットパンツのずり落ちたミクォラを見て若干引いていた。


「ビクビク〜!」

『シッ、見ちゃいけません』


 まるで見てはいけない物を見た子供に言う様に、フラムを制するレイ。

 その後、兎に角原因を知る為にミクォラをそっとしておいて、取り敢えずレイはトイレの中を覗き込む。其処で見たのは流れる水と、役目を終えた洗浄用のノズルがトイレの中に戻って行く所だった。

 颯爽と去り行くノズルが形状的な問題でサムズアップしている様に見えたのだが、幻覚か何かだろうか。


「………まさか…」


 アレ(ノズル)が原因とでも言うのか。レイは信じられないと言わんばかりにミクォラを見る。確かにあの洗浄機能は慣れないと違和感を感じるだろうが、だからって此処までなってしまう物なのだろうか。


「至急改良が必要だな」


 毎度用を足す度にミクォラに叫ばれてビクンビクンされては敵わない。

 一応保険として最後は時間が経つと自動で水が流れる仕様になっていたが、最終的にはミクォラ自身の手で水を流せる様になって貰いたいのだ。

 ミクォラにも問題無く使える様に、上手く改良する必要が有る。全くもって変な所で悩ませてくれると呆れつつ、レイは早速改良の為に頭を悩ませるのだった。

 ……足元でビクンビクンするミクォラを無視して。


何か色々とごめんなさいm(_ _)m

作者も悪気が有った訳では無いんです。

広い心で見ていただけると幸いです。

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