レイ、家を建てる
「家を作るじゃと?」
食事も終わり、今日の予定を進める事になったレイ。その内容は拠点に家を建てるというものだった。
「ああ、本格的に此処に住む様になったからな。折角だし家でも建てて其処を新しく居住地にしようかと思ってな」
以前は夜中にしか来なかったからあまり気にしなかったが、これから此処で生活するとなった時、ずっと地下生活というのは気分的によろしく無かったのだ。
やはり人として生きる以上、最低限文化的な生活を送るべきなのだ。洞穴に生活するなんて遥か昔に有るか無いかというレベルだ。到底分的とは言えない。
世間一般で言うところの家屋に住んでこそ、人間は文明的な生活を営めるのだ。
「本当は?」
「前にフラムに蟻さんみたいって言われて腹が立った」
「完っ然に私怨じゃな」
「んにゃ?」
尚、当の本人には伝わらなかった模様。
「まぁ理由はどうであれ、家を作る事自体に反対はせん」
「そうだね。折角作るんなら、前に住んでた家よりも立派なのが良いね」
「大っきいお家作ろ〜!」
「レイ様のご威光を表す様な立派な物にしましょう!」
一応精霊達からは前向きな意見を貰えた。まあ仮に反対されても強行するのだが。主にプライドの為に。
「でも、お家ってどう作るのかしら」
「え?木を組み立てたら出来ないの?」
「積み木かよ」
幾ら何でもそんな寄木細工の様には行かないだろう。釘を使わない昔ながらの日本家屋だって、数々の伝統技術によって作られているのだ。
尤もそんな建物は神社が寺しかレイは知らないのだが。
「取り敢えずやって見るか」
やってみない事には出来るのかどうかも分からない。一先ず試してみて、駄目ならその時に何が駄目なのかを考えれば良い。
ーーー
そして作り始めて数十分後。
「…駄目だな」
取り敢えず伐採しておいた丸太から木材を作って、適当に骨組みだけでも作ろうとしたのだが、如何にも骨組みが安定しないのだ。押すとグラグラ揺れて安定しないから何処か不安になる。
村に住んでた時の家の壁でも此処まで酷くは無かった。
「グラグラ〜!」
「遊ぶな」
骨組みを揺らして遊ぶフラムを窘めて、レイは考察に入る。骨組みを安定させるにはどうすれば良いのか。
「ム?レイ、此処の繋ぎ目、隙間が出来てるぞ」
「え?」
ティエラに指摘された場所を見てみると、確かに隙間が空いていた。此処だけじゃ無い。他にも幾つか隙間や歪みが発見された。
「そういえば、長さとかは全部目算でやってたな。道理で上手く行かない訳だ」
建築などのミリ単位のズレも許されない代物にはそれでは駄目だ。ちゃんと尺度を図る道具を元に長さを合わせて作らなければならない。
「そうと分かれば、先ずは道具の方から作らないとな」
という訳で建築に必要な道具を揃える。と言っても切断と研磨と接合は全て魔法で代用出来る為、鋸も鉋も接着剤も必要は無い。第一接着剤は作り方も知らない。
よって必要なのは長さを測る定規や差し金位だ。定規に関しては物差しの様に木材に目盛りを入れるだけで良いので、多少時間は掛かったが何とか作れた。差し金も同様にして何とか作り出した。
「これ、何に使うの?」
「長さを測る為だな。これを使って切る長さを一定にすれば、建物が歪む心配は無くなる」
この世界では如何だか知らないが、地球に居た頃は工作なんかでも使う事は有ったのだから、大工仕事でも使える筈だ。日本建築の事なんて良く知らないが。
「さて、もう一回やってみるか」
今度は隙間も出来難くなっているから、先程のよりはマシになっている事だろう。そうで無いと困る。でないと何の為に此処迄準備したのか分からなくなってしまうのだから。
だから上手く行ってくれと願いつつ、再び丸太の裁断から再スタートした。
ーーー
そして更に数十分後、それなりに見栄えの良い骨組みが完成した。途中で土台を安定させる為の基礎工事を行った為余計に時間を掛けてしまったが、その分しっかりした作りになっている。
ただ一つ問題が有るとすれば、
「ハァ、何か飽きて来たな」
「何じゃ、まだ骨組みしか出来ておらんぞ」
骨組みがある程度形になった段階で、レイのやる気が一気に低下し始めたのだ。ティエラに注意されるが、こればかりは気持ちの問題である。
「そうは言うけどさ。本来家なんて数ヶ月掛けて作る様な代物だからな」
魔法で大幅に短縮しているとは言え、それでも寸法通りの材料を揃えるのに数十分、更に骨組みを組み立てるのに数十分と、既に一時間以上経過している。
鍛治作業ならその位は問題無かったのだが、如何やら建築はレイの趣味には合わないらしい。
「一人じゃどうにも時間が掛かるんだけどな。エンシェントウルフの親子は使い物になりそうに無いし、あの黒猫は食料調達に出ているから、手伝って貰おうにも……」
「どうしたの、レイ」
口を開けたまま固まったレイに、心配した精霊達が集まって来る。
「そうだ、居ないなら作れば良いんだ」
「どういう事なのじゃ?」
「まあ見てろ」
そう言うとレイは地面に手を付いて魔法を発動させる。すると、地面が盛り上がって無骨な人形の様な形になった。
「わぁ〜!」
「これって…ゴーレム?」
「ああ。これなら人手を確保出来るだろ」
魔法で代用できる人手としては、ゴーレム生成は実に適していた。これを使えば、数の暴力で一気に建築を進められる。
「じゃが、ゴーレムは特殊な素材を使わん限り、簡単な命令しか実行出来なかった筈じゃぞ」
ゴーレムは簡単な物なら土塊からでも生成出来る。しかしその分性能は低く、戦闘に関して言えば近くの敵に腕を振り回して攻撃する程度の事しか出来ない。
加えて鈍重な為、傍を抜けられて追い掛けても確実に追い付けない等あまり役に立つ事は無い。金属製のゴーレム等は少しは違って来るが、それには大量の鉄が必要になる為コストが重い。
以上の理由から、殆ど障害物や壁代わり位にしか使われないのだ。建築に何て解体の為の破壊工作位しか使えないと思われている。
「木材を持って移動するくらいなら出来るだろ。此処からは床板と壁板を張ってしまえば外側はほぼ完成だ。物量で押せる所は、コイツで一気に終わらせてしまおう」
地面が次々と盛り上がり、ゴーレムが形成される。瞬く間に数十ものゴーレムが誕生すると、それらは一斉に近くに積まれた木材の山へと向かって行く。そして木材を持ち上げると骨組みの方に持って行き、予め骨組みで待機していた別のゴーレムに渡す。
木材を渡されたゴーレムはその木材を骨組みの隙間を埋める様に置いて行き、それをレイが魔法で固定する。
「まさかゴーレムにこんな使い方が有るとはのぅ」
土塊から作ったゴーレムでは、精々木材を持って行く迄しか出来ない。それでは木材は骨組みの近くに移動させられるだけ。それでは最終的な手間は大して変わらない。
なので持って行った木材を空いたスペースに置くゴーレムを加えて補完する。木材を運ぶゴーレムとそれを置くゴーレム。役割を分担させる事によって、一体では不可能な複雑な命令を実行可能にする。
「確かに、これならレイさんが一人でやるよりは効率的ね」
レイが一人でこれをやろうとした場合、木材の重力を無くして風属性魔法で移動させる二種類の魔法を木材数百個分同時展開しつつ、移動させた木材を固定する魔法を逐次発動させる必要が有る。
加えて移動の向きを変える毎に風属性魔法の発動場所を変えなくてはならない。もし全方位に展開しようものなら、最低でも一つの木材に対して前後左右上下の六方向に風属性魔法を発動しなければならない。それを数百もの木材全てに発動させるのは流石のレイでも難しい。
やってみればもしかしたら出来るのかもしれないが、ゴーレムにやらせるのと比べると圧倒的に手間がかかる。その為このやり方の方が魔力的に考えてとても効率的だった。
そしてみるみると床板が貼られていき、更に壁板も貼り付けて窓以外の外側を仕上げた。それから屋根も仕上げて、天井板の上に石を固めて作った瓦擬きを貼り付けて、隙間も土で埋めて固めた。
そして窓枠を作って窓を取り付ける。未だガラスも蝶番も無いのでスライド式の木窓という変わった作りになったが。その内ガラスと蝶番を作ってガラス窓に差し替えるつもりだ。同じく扉も引き戸になってしまったが、こればかりは如何しようも無い。窓を差し替える時に一緒に帰る事にした。
「これで、一応外側は完成したな」
「何だか思っていた以上に変な家になっちゃったけどね」
家の開閉できる場所が全てがスライド式だ。こんな家、この世界には此処しか無いだろう。慣れていないとかなり不便そうだ。
「まあ其処んとこはその内改良するから良いんだよ。それより次は内装だな」
外側は完成したお蔭で一見すると普通に住めそうな感じでは有るが、まだ内側は一切手を付けていないハリボテ状態だ。到底住める状態では無い。
「昼までに大まかに整えるぞ」
そう言ってゴーレム共々ゾロゾロと家に入っていくレイ。ちょっと異様な光景に一部苦笑いしながらも、精霊達はレイを追って続いて家の中に入って行った。
それから暫くして、昼食の材料の魔物を狩って来たミクォラが帰って来た。その頭上には悍ましく積み上げられた魔物の山。その殆どが血抜きと内臓の摘出された物だった。
レイから渡された刃物のお蔭で、それらの下処理も軽々と行えた。きっとレイもこれを見越して渡してくれたのだろうと見当違いな事に感動しつつ、これならレイも褒めてくれるかなぁと期待にほんのり胸を膨らませつつ拠点に戻ると、何時の間にか家が一軒建っていた。
「…何これ」
見た所結構大きな平屋建ての家だ。もしこの家を普通に建てるとしたら、住めるのはかなり裕福な家に限られるだろう。
にしても、何故こんな所に家が建っているのだろうか。そんな謎がミクォラに生まれる。
こんな事が出来るのは十中八九レイしかいない。となるとこの建物は当然レイが建てた事になるのだが。
と、家の前で色々と考えていると、家の中の扉が横に開かれて、中からゾロゾロと人型の土の塊が出て来た。
「ッ!?ッ!?」
突如現れた土塊の大群に驚いたミクォラは、その場に魔物の山を置くとゴーレム達を警戒する。敵襲かと攻撃するタイミングを窺っていると、ゴーレム達は家を出た所でピタリと動かなくなった。如何したんだろうと頭に疑問符ばかりが浮かぶ中、漸く家の中からレイが出て来た。
「何だ、帰ってたのか」
「何これ」
家とゴーレムをチラチラと見ながら質問を飛ばすミクォラ。
「ゴーレムを使って家を作ってた。外側は終わって、今は内側を仕上げている所だ」
「そう」
「それよりお前の方こそ凄い量だな。本当にそれ一食分か?」
ミクォラの背後に有る魔物の山を見て聞くと、彼女は当たり前の様に頷いた。
「いつもこのくらい食べる」
「凄まじいな」
毎地にそれだけの量を食べていれば成長もするだろう。逆に何故太っていないのか気になる所だが。
「まあ兎に角時間も時間だし、此処等で昼飯にするか」
「うん、うん…!」
余程嬉しいのか目をキラキラさせて頷くミクォラを尻目に、レイは魔物の山を捌きながら献立を考える。
そして考え付いた順に次々と料理を完成させて行く。それ等は流れる様にミクォラの腹に収まっていくが、先にレイの分は小さく分けてあるので問題無い。
そして全てを作り終えると漸く自分の昼食に有り付く。
「……おい」
「ミ?」
「料理を食べるのは良いけど、野菜もちゃんと食べろよな」
テーブルの上には空になった器の他に、一切手を付けられていない前菜用に用意した野菜サラダが置かれていた。
拠点の食材は森で取れた魔物の他に、一日で育つ異常な程育ちの良い小麦、そして野菜が数種類存在するが、芋類や煮込み料理に使われた根菜は兎も角、付け合わせ等に用意された生の葉物の野菜はどれも一切手を付けていなかった。
「………」
レイに言われた途端、ミクォラは急にピタリと動かなくなった。しかしそれも束の間、次の瞬間には何事も無かったかの様にガツガツと料理を書き込んで行く。其処に緑の野菜が入り込む様子は無い。どうやら強引に無かった事にするつもりらしい。
そして最後の皿を平らげると、「美味しかった」と言って席を立ち、「晩御飯のおかず、取って来る」とだけ告げて猛ダッシュで逃げて行った。それこそ再開した際にレイに抱き着こうとした時の速度に匹敵する速さだった。
「どんだけ嫌なんだよ」
そう言いつつサラダを食べる。特に味がする訳では無いが、変なクセは無いから食べ易い。が、それではミクォラは駄目らしい。
煮込み料理の根菜は食べていた様なので、今度ロールキャベツ的な物でも作ってみるのも良いかもしれない。確り出汁を取って味を染み込ませれば食べてくれるかもしれない。…何だか野菜嫌いな子供に如何にかして野菜を食べさせようとする母親の様だとも思わなくも無い。尤もレイにとってそんな母親は空想上の産物だが。
「ところでレイ」
「何だ」
「あのゴーレム達は何時までああしてるんじゃ?」
そう言って指差す先には、今だに立ち尽くしたまま動かなくなったゴーレム達が。
本来ゴーレムは役目を果たすか魔法その物を解除すると、素材に戻ってしまうのだ。継続して使用するには定期的に魔力を補充する必要が有る。
食事中ずっとゴーレムの形を保ったままという事は、その間魔力を補充し続けているという事だ。魔力が有限である以上、あまり無駄使いするのも問題だろう。
「そんなの俺が知る訳無いだろ」
「いや、あれを作ったのはレイでしょ」
「しょうがないだろ。既に魔法は解除してんのに、一向に素材に戻らないんだから」
「何じゃと!?」
本来ゴーレムは魔法を解除すれば素材に戻ってしまう。それはこの世界における常識だ。しかしレイの作ったゴーレムは魔法を解除しても尚その形状を保っている。
正しく非常識だ。遂にレイの非常識さが魔法に迄伝播したのかと思ってしまう程に。
「一体どうやって…」
「んー…もしかしたら、ゴーレムを作る時に【硬化】使ったからかもな」
【硬化】とは文字通り物質を硬化させる魔法だ。拠点の洞窟の表面にも施されていて、レイが使えば土を鉄に近い強度に迄押し上げる事が出来る。
この魔法によって硬質化した土が、魔法を解除されても形状を保っていられた原因ではないかとレイは目星を付けた。何せそれしかゴーレムに施した物が無いのだから。
「なるほど、硬質化による形状の保管か」
「凄いね。他の人間が知ったらさぞ驚くだろうね」
「レイ凄〜い!」
「流石ですレイ様!」
喜ぶフラムと何故か感動したエストレアがレイに引っ付いて褒め称える。
「偶然見つかっただけなんだけどな…」
「うふふ。照れなくても良いんですよ」
「いや、照れてる訳じゃ無くて…ってかお前等も煩い!良い加減離れろ」
耳元で騒がれてキンキンする所為で、あっという間に我慢の限界を超えたレイが引っ付いた二人を引き剥がす。
「ブ〜、レイのケチ〜」
「ケチとかそういう問題じゃ無い。人の耳元で騒ぐな」
「す、すいません!レイ様の世界的発見に、つい感動してしまいました!すいません!」
「大袈裟だなおい…」
「いや、そうでも無いぞ」
どういう訳か、横合いからティエラが否定して来た。
「そうでも無いって…何でだよ」
「レイは知らん様じゃから説明するが、この世界では至る所で魔法の研究が行われておる」
より威力の高い魔法、より便利な魔法、より魔力の消耗が少ない魔法と、その研究内容は多岐に渡る。
「しかしそんな魔法研究の最先端でも、ゴーレムを硬化させる事で形状を保てるなんて話は聞いた事が無いのじゃ」
「そうなのか?」
「うん。僕達も他の精霊達から色々と話は聞くけど、そんな話聞いた事も無いよ」
「つまり、レイは誰も知らん魔法の性質を新たに発見した事になる。これを人間の住む国で発表して認められれば、最低でも金一封、国によっては一財産や大きな名誉を得られる。レイの発見はそれ程の事なのじゃ」
長々とされた説明に、レイは短く「そうか」と答えた。
「あれ?レイ、興味無いの?お金が沢山手に入るんだよ?皆から凄いって言って貰えるんだよ?」
「特に興味は無いな」
「そうなの〜?」
「ああ。別に今金は必要無いし、知りもしない奴から賞賛されても嬉しく無い」
「欲の無い奴じゃな」
「いや、俺にだって欲は有るさ。美味い物食べたいだとか、周りを気にせずに自由に生きたいだとか」
「それなら寧ろ、お金とか名誉とか必要な気がするんだけど」
金が有れば美味い物が食べられるし、名誉が有れば自分の生活を縛られる事は少なく出来る。
「それ以上に人と関わりたく無いんだよ。俺の力を知れば、怯えるか利用しようとする奴ばっか近付いて来そうだ。そんな奴を一々相手にするのは面倒い」
「勿体無いのぅ」
自分の契約した者が偉大になるというのは、精霊に取っても嬉しい物だ。自分の認めた相手が尊敬の対象になるのだから、精霊としても鼻が高いというものだ。
レイ程の実力が有れば、武力でも知識でも財力でも、有名になる事は難しく無いだろう。しかし当の本人はそれを望んでい無いのだ。しょうがないとは言え、如何しても勿体無いと思ってしまう。
「と言うか、此処で生活するのに金も名誉も要らないしな」
最早開き直りとも取れる理由に、精霊達は納得した様に声を上げた。
「まあもし仮に欲しい物が金でしか手に入らないとして、他に手段が無かったらそうするさ」
目立つのは飽くまで最終手段。他に方法が有るのならそっちを取る。
「まあそんな事にはなら無いだろうけどな」
金が欲しいならこれ迄に何度も収穫して溜め込んだ食料を売り捌けば良い。どうせ翌日にはまた収穫可能になるのだから、在庫を殆ど吐き出してしまっても問題は無いだろうし、食料で無くても自作の家具や武具を売れば十分金になるだろう。最終手段を使う事になる確率は限りなく低い。
「それより、これをどうするかだな」
食事を終えたレイの視線が立ち尽くしたゴーレム達に向かう。
ゴーレムは魔法を解除すれば土塊に戻る。そう思って用も済んだので解除したのに、肝心のゴーレムは残ったまま。
このまま大量のゴーレムを放置しておくのもスペースの無駄使いだ。最悪次使う時が来る時迄【アイテムボックス】に死蔵しておく事になる。
「しょうがないから【アイテムボックス】に入れとくか……ん?」
仕方無く【アイテムボックス】を開こうとしたその時、一つの光の玉、無属性精霊がフワフワと飛んで来た。
それはゴーレムの上に降り立つと、なんと染み込む様にゴーレムの中に入って行った。
何事かと様子を見ていると、次の瞬間、そのゴーレムが動き出したのだ。
『ガオーーーーー!』
ゴーレムは突然ボディビルダーの様な見事なダブルバイセップスを見せると、何故か怪獣を真似た声を上げた。尤も声は小さな子供の様な声なので、欠片程も迫力は無いのだが。
「………は?」
目の前の光景が理解出来なかったレイ。もう一度、今度はサイドチェストを見せるゴーレムを見ながら状況を飲み込む。どうでも良いが何処でそんなの知ったのだろう。
「なあ、あれって精霊が操ってるのか」
「そうじゃ。レイも見ておったじゃろ?」
「いや見てたけど…」
家に住み着いた精霊が家の物をポルターガイストよろしく操る様な物だろうか。それに近い物として理解した方が良さそうだと判断し思考を打ち切る。
「ねえねえ」
「ん?」
思考を打ち切った所でフラムが声を掛けてきた。
「あれ、どうするの?」
そう言って指差す先には、何時の間にか一糸乱れぬ動きで様々なポージングを決めるゴーレム達の姿が。如何やら周囲の精霊達が集まって来て遊び出した様だ。
「……俺に聞くな」
最早処置無しと早々に思考を放棄して、レイは現実逃避するかの様に皿洗いに没頭するのだった。




