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人嫌いの転生記  作者: ラスト
第一章
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閑話 フレッドの進む道

注意:この話にはレイは直接登場しません。飽くまで後日談的な物です。

 その日、ヨダ村には悲しみの声が上がっていた。

 先日盗賊に襲われたこの村は、ある一人の少年によって壊滅を免れたものの、それでも被害は無視して良い程軽いものでは無かった。ある所は家を焼かれ、ある者は家族を殺され、中には家族諸共全員死んでいる所もあった。

 そしてそれによって普段は人が疎らにしか訪れない墓地が、今日に限っては大勢の人が集まっていた。皆家族を、友人を、知人を殺されたのだろう事は聞かなくても分かる。

 誰もが悲しそうな顔で、せめてもの冥福を祈っていた。


 その様子を遠くから見ていたフレッドは、一人その様子を不満気に見つめていた。

 別に彼等が死を悼む気持ちを察せない訳では無い。フレッドとて盗賊が村を襲う前から友人の死を経験しているのだから。

 ならば何故かと聞かれれば、この村を盗賊から救ったとされる功労者である友人に感謝する者が、あの中に一人も居なかったからだ。

 フレッドの友人、レイが居なければ、今頃村は盗賊に蹂躙されていた事だろう。しかしその村の救世主たるレイに向けられたのは、感謝とは程遠い感情だった。

 結果、レイは村を去って行った。村を救った英雄は、誰からも感謝される事無く村を出て行ってしまった。唯一、友人であるフレッドを除いて。

 しかし、フレッドもただあの時に感謝の気持ちを伝えなかっただけなら、それ程腹も立たなかった。それだけの超常現象を目の当たりにしたのだから、それくらいはまだ仕方ないと思う。

 だが、そうじゃ無かった。村の人達はレイに感謝の気持ちを抱く事は無かった。寧ろ出て来たのは『何故もっと早く助け無かった』等の恨みの言葉だった。中にはこの村の厄災の原因をレイに押し付けようとする奴まで現れる始末だった。


 正直(はらわた)が煮え繰り返る思いだった。ただ逃げ惑っていただけの癖に、村の英雄に対して恨み言しか言わない村の人達の厚顔さに。そしてそれ以上に、それに対して言い返せない自分に。

 確かに村の人達の言う事も、一部の行き過ぎた発言以外は完全に否定出来ない部分もあったのだ。単体で盗賊を圧倒するだけの力があったなら、もっと被害を抑えられたのではないかと。もっと村の役に立つ事で、皆から受け入れられる事も出来たのではと。

 もしレイが聞いたら『俺は英雄でも無ければ奴隷でも無い』と答えるのだろうが、生憎それを知る者は居ない。そして知らないからこそ、村の人達は好き勝手に言っているという背景もある。それこそ今レイを見掛けたら恨み言と共に石を投げかねないくらいに。


 だが不思議な事に、村人達のレイへの不満が、レイの家族へと向くことは無かった。それはひとえに、村人達の溜まった不安が、この時点で既にある程度解消されているからだろう。


 それは、レイが居なくなって直ぐの事だった。盗賊が無力化された事で村の中に安堵の気持ちが広がりつつあった時の事だ。一人の村人がこう言ったのだ。


「おい!コイツ生きてるぞ!」


 どうやら盗賊の内、レイに風属性魔法で撃ち抜かれた数名が生きていたのだ。殆ど瀕死と言っても良いくらいに、放っておいても死んでしまうだろうと思えるくらいに衰弱していたが、一応生きてはいたのだ。

 盗賊が生きているとなった時には恐慌をきたしていた村人達も、それを知ると安堵すると同時に、こんな事を仕出かした盗賊達に怒りが湧いて来た。

 しかも、事もあろうに盗賊の一人がこんな事を口にしたのだ。

『頼む…助けてくれ…』と。

 その瞬間、村人達の怒りは頂点に達し、堰を切ったように怒り出した。『誰の所為でこんな事になったと思ってるんだ!』『俺達が止めてと言っても聞かなかった癖に!』『返して!殺された家族を返してよ!』そんな事を言いながら、彼等は瀕死の盗賊達を襲い出したのだ。

 まるで砂糖に集る蟻のように集まって、殴る蹴るの暴力を一方的に行った。どちらが盗賊なのか分からなくなるくらいの勢いで、ひたすらに盗賊達を攻撃し続けた。盗賊達が二度と動かなくなるまで。


 そんな事があったお蔭か、ある程度ガス抜きが行われた村人達は、レイについて何も知らなかったレイの家族を自分達と同じく被害者として同情の目で見ていた。

 中には共犯ではないかとのたまう者達も居たが、それらも周りから知らなかったらどうしょうもないと言われてしまえばそれまでだった。

 レイの家族も、その結果にホッとしているようであった。妹のユニスはレイが居なくなった事をどこかにお出掛けしていると勘違いしているようだが、両親はレイの力を見たのだろう。何とも言い難い表情をしていたのを覚えている。


 そんなこんなあって漸く一息付いた村人達は、早速今回の犠牲者達を埋葬したり、荒らされた家の片付けなどをしていた。

 幸いな事に、フレッドの家族は母親のポーラも弟のエリックも両方無事だった。今も家を片付けながら、生活に必要な家事や畑仕事などをしたり、周囲の家の手伝いなんかをしている。フレッドももう少ししたら休憩を終えて、家の手伝いに戻るつもりだ。


 墓地を後にして、家に向かいながらフレッドは思う。英雄とは何なのだろうと。

 最初に思い付くのは、行商の護衛で訪れた冒険者が盛りに盛った武勇伝に登場したドラゴンを狩る冒険者。外の世界を知らないフレッドにその話はとても魅力的に思えたし、そんな冒険者を素直に格好良いと思った。

 しかしそれはレイの姿を見て、少しづつ変質しつつあった。圧倒的な力を持って襲い掛かる盗賊達を一蹴したレイ。村を救ったという行動だけ見れば、レイがした事は間違い無く英雄のそれだった。そんなレイが村人達に恐れられるのを見て、フレッドは自分の思い描いた英雄像が本当に正しい物なのか自信を持てなくなってしまった。

 そんなフレッドにふと、昔の父親の姿が頭を過ぎった。村の人達を奴隷呼ばわりした貴族に喧嘩を売って殺された父親。しかしそれは村の為を思って行われた事であり、村の為に貴族に楯突いて、その為に戦った父親もまた、この村では英雄だと言えるのではないだろうか。

 気がつくとフレッドはそんな事を考えていた。


 家に着くと、ポーラとエリックが部屋の片付けをしていた。盗賊の襲撃に際し直ぐに逃げ出した二人は無事だったのだが、家の方は大分荒らされてしまっていた。幸い食べ物は盗賊達に食べられる事無く帰って来たので、実質家具を幾つか破壊されただけで済んだようだ。

 部屋を片付ける二人は、大変そうながらも今の生活を続けられそうだという事を喜んでいた。

 その姿を見て思う。自分の父親の守ろうとした物は、きっとこういう物だったんだろう。そう思うと、あの時は悲しみしか無かった父親の死が、ほんの少しだけ誇らしい物に思えた。

 父親が守ろうとし、レイが守ってくれたこの村。では自分はどうしたら良いのか。そう思った時、自ずと一つの道が頭に浮かんだ。最初は考えもしなかったのに、今はその答えが一番しっくり来る。


「あ、兄ちゃんお帰り」

「あらお帰り、アンタにしては珍しく早く帰って来たじゃない」

「う、うるせえやい…!」


 ポーラの皮肉に思わず強く言い返してしまったが、今言いたい事はそれじゃ無い。


「なあ、母ちゃん」

「何さ、急に改まって。どんなに頼んだって飯の量は増やさないからね」

「そんなんじゃ無えよ!……俺さ、自警団に入ろうと思うんだ」


 自警団、それは村を守る為に組織された村の住人達で構成される集団。父親が所属していた組織。レイが守ったこの村を守るには打って付けだった。


「…そう。まさかアンタがそう言いだすとはね。やっぱり、あの人の息子だよアンタは」


 ポーラは懐かしむようにそう言うと、部屋の奥に行ってある物を持って来た。


「ほら、これを使いなさい」

「これは…」


 それは一振りの剣だった。装飾も無い無骨な作りのその剣は、昔父親が使っていた物だった。


「本当はアンタが村を出る時に、新しい物を渡そうとしてたみたいだけどね」

「父ちゃん…!」


 フレッドが冒険者になると言う度に大口開けて笑っていた父親が、まさかそんな事をしようとしてくれていたなんて思いもしなかった。握り締めた剣に、鉄とは違う重みを感じる。


「何しけた顔してんのよ!」

「イテッ!」


 父親がを思ってしんみりしていると、不意にポーラからバシンと背中を叩かれた。女性にしては鍛えられている二の腕から繰り出されたビンタは、想像以上に痛かった。


「アンタは元自警団団長の息子なんだから、そんな顔してたら笑われるわよ。シャキッとしな!」

「わ、分かってるよ!」


 強がりを言いつつ、フレッドは再び剣を見る。この剣は父親の形見。そしてフレッドの誓いの証だ。

 思えば今まで沢山の物を失って来た。自分に力が無かった所為で。何も出来ず、結果的に助ける事が出来なかった。

 でもこれからは違う。これから力を付けて行って、何時か自分で守りたい物を守れるようになると。フレッドはこの時、形見の剣に誓った。


(今度こそ、守ってみせる!)


 フレッドの決意を後押しするかの様に、一陣の風がフレッドの背中を押した。

という訳でフレッドがちょっと成長した感じを見せるお話でした。

次回からレイの話に戻りまーす。

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