表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人嫌いの転生記  作者: ラスト
第一章
32/56

盗賊の襲来

 次の日、イルマの葬儀が執り行われた。日本のように通夜や葬式は行われず、身内や友人が集まって遺体を墓に埋め、そこに墓石代わりの木製の十字架を突き立てるだけの簡単な作業だ。ジムの時と一切変わり無い。

 その際にはレイの妹のユニスも我慢出来ずに啜り泣いていた。グループ内でも面倒見の良い姉のように見ていたイルマの死は、ユニスにはとても辛い物だったらしい。

 イルマの墓はジムの墓に比較的近い所に建てられた。少しでも仲が良かった友人の近くにという利用の意向なのだそうだ。だからと言ってイルマが死んだという心理的負担を軽く出来るという訳でも無いのだが。


 一夜明けた現在も尚、フレッドはイルマの死を悔いていた。案外次の日になればケロッとしているのでは無いかとも思ったが、どうやら今回のはフレッドにとってもかなりキツい物だったらしい。固く握られた拳からは、ポタポタと血が流れていた。


「俺がもっと早く森に入っていれば」


 ぽつりとフレッドが零す。ユニスが泣き疲れて眠くなったそうで、母親のユーリに連れられて家に帰って行った後の事だった。


「俺がグズグズしねえで森に果物を取りに行ってれば、イルマは死なずに済んだかもしれなかったのに……!」

「………」


 レイは何も言わなかった。転生する以前よりまともな交友関係など皆無に等しかったレイに、こういう時にフレッドに掛ける言葉は見付からず、結果フレッドの後ろでただ見ているだけになっている。

 フレッドは『もっと早ければ』なんて言っているが、世の中にはその行動すら起こさない奴が大勢いるのだ。それに比べれば危険な森に入ってまで食べ物を取りに行って来たフレッドは十分良くやった方だと言える。

 しかしそんな事をフレッドに行ったところで彼はその言葉を素直に受け入れないだろう。フレッドにとっては『イルマの為に食べ物を取って来た』という過程よりも、『結局イルマを助けられなかった』という結果の方が重要なのだ。そんな相手に良くやったなんて言ったところで皮肉にしかならない。だから言うべきでは無いのだろうし、実際レイも言わない。

 しかしそうなると、最早レイにはフレッドに掛ける言葉は無かった。

 気は進まないが、これ以上ここに居ても何も出来る事は無いのだ。結局レイはフレッドに何も言わずその場を立ち去った。


「ねえレイ、フレッドに元気出してって言ってあげないの?」


 フラムも気にはなっている様だが、生憎そのつもりはもう無くなっていた。


『言って元気出すんなら、とっくに元気を取り戻してるだろうよ。今アイツに必要なのは時間だ。元気出せって言うのは、アイツが落ち着いてからでも良い』

「……そっか」


 何故か嬉しそうなトーンで返事が返って来た。


『今の話のどこに喜ぶ要素があったんだ?』

「だって、レイはちゃんと考えてくれてたんだもん」

『俺を何だと思ってんだよ…。考えも無しに行動する程無鉄砲じゃ無い』


 考えた末、余計な事は言うべきでは無いと判断してその場を離れたのだ。何も考えてないんだったらユニスが泣き疲れた時点で家に帰っている。


「えへへ、そっか〜」


 レイの肩に止まって顔を綻ばせるフラム。本当に話を聞いてたのか微妙な所だが、それを追及してもフラムの言葉では要領を得ないだろうから、諦めて適当に流す事にした。


 ーーー


 その日の夜、いつもの如く住民が寝静まった頃合いまでベッドに横になって寝たふりをしているレイ。横では妹のユニスが規則正しい寝息を立てて穏やかに眠っている。

 そろそろ行くかと体を起こした時、エストレアがレイに耳打ちして来た。


「レイ様、何やら良からぬ気配が近付いて来ています」

『良からぬ気配?』

「はい。村の入り口の方からゾロゾロと」


 探知魔法で調べてみると、確かに三十近い反応が村の方々に移動しているのが窺える。


「恐らく盗賊の類いじゃろうな。こんな場所にまで来るとは、余程追い詰められておるのか?」

『そうだな。でもそんな事は考えても仕方ないだろ。敵である事に変わりは無い』


 こんな夜中に村に来るなんて、夜襲を仕掛けた盗賊か魔物くらいなものだろう。どちらにせよレイにとっては敵である。


「じゃあどうする?」

『決まってるだろ。殲滅するんだよ、一人残らずな』


 それなら早い方が良いだろうとベッドから降りたその時である。外が一気に騒がしくなったのだ。怒号、悲鳴、物の壊れる音、襲撃が始まったらしい。


『もう動き出したのかよ…』


 出来れば動き出す前に殲滅してしまいたかったのだが、少し遅かったらしい。


「すいません!私がもっと早く気付けていれば!すいません!」

『…今更気にしても仕方ない。それよりも、早くこの雑音を消しに行くぞ』


 さっきから外から『ギャハハハ』と癪に障るような笑い声が聞こえて来て煩わしい。以前の、地下に居た頃の朝霧 嶺に暴行を加えていた不良連中を思い出してしまう。実に不愉快だった。それこそ殺したい程。

 仮にレイが行動しようがしまいが、どちらにせよ迷惑を被る連中なら、別に全員殺してしまっても問題無いだろう。そう思う事にした。

 もう直ぐ村からおさらば出来るという状況も、その考えを後押ししていた。


 さて、いざ行かんとしたその時、別の部屋に居た両親がレイとユニスの居るこの部屋に向かって来たのだ。

 そしてバタンと勢い良く扉を開けて部屋に入って来た。


「レイ、起きてたのか!直ぐにここを出るぞ!」


 入って来るなりレイを急かすランド。ユーリも未だ眠っているユニスを起こしに行く。


(チッ!面倒な事になったな…)


 レイが襲撃者を殲滅しに行こうとすれば、間違い無く両親は止めるだろう。無理矢理振り切っても良いのだが、それだと両親のどちらかが追って来たりして更に面倒な事になりかねない。流石に敵に好き勝手殺されるのはあまり良い気分では無い。

 出来れば完膚無きまでに潰したいレイとしては、目の前で殺されるような事態は遠慮したいのだ。


 仕方なしにどうやって離れようか別の案を考えていると、それを嘲笑うかのように襲撃者の反応が二つ程向かって来た。


(面倒が増えた…)


 反応は真っ直ぐレイの居るこの家にやって来ている。このままだと家を出る前に襲撃者が家に入って来るだろう。

 とは言えこの状況からレイが一人になる方法は考え付かなかった。襲撃者がこの家に来るまで十秒も無い。完全に手詰まりだった。


(仕方ない。出来れば嫌な気分で村を出たくは無かったんだけどな)


 こうなってしまっては最早手立ては無い。あったとしても今のレイには思い付かない。将棋で言うなら詰み、チェスで言うならチェックメイト。そこまで行ってしまったら、もう盤ごと全てを破壊するしか無い。

 圧倒的暴力で全てを終わらせる。これがレイの出した答えだった。


 蝶番が壊れん勢いで扉が開かれた。入って来たのは身形の悪い盗賊二人組。どうやら襲撃者は盗賊だったらしい。

 盗賊二人はレイ達を見るなり脅し文句も無しに笑いながら斬り掛かって来た。ランドがせめてレイだけでも守ろうと身を挺して盾になる。

 瞬間、風を切り裂く音との後に鮮血が舞い、腕が一本斬り飛ばされた。腕がボトリと床に落ちると、切断面からドバドバと血が流れ出た。


「ギャアアア!!!お、お、俺の腕がぁぁぁ!!!」


 腕を斬り飛ばされた盗賊・・は、傷口を押さえてトカゲの尻尾の如く悶える。


「………は?ーーーッ!?」


 そのようを呆然と立ち尽くして見ていたもう一人は、次の瞬間には爆音と共に腹に大穴を開けて壁に叩き付けられた。

 瞬く間に無力化された盗賊。だが攻撃は未だ終わっていなかった。

 再び鳴る風を切り裂く音。すると今度は片腕を斬り落とされた盗賊の片足が切断されたのだ。


「ヒギィァ!?」


 更に立て続けにもう片足と残った片腕が切断された。四肢を全て斬り落とされて達磨のような姿になった盗賊。


「な、何だよごれ!?何が起ごっでんだ!?」


 痛みに悶えながら自身の身に降り掛かった攻撃に怒り、怯え、混乱する。身動きも取れず、何が起こっているのか分からないという恐怖が、彼を苛んでいた。

 一方で、何が起こったのか理解出来ないのは、レイの家族達も同じだった。突然の事に理解が追い付かずに唖然とするランドとユーリ。ユニスの目を隠し忘れた為、ユニスもその惨状を直視してしまっていた。

 ユニスが膝から崩れ落ちる。その時にやっとユニスの事に気付いたユーリが、慌ててユニスを抱き抱えた。

 一方ランドはというと、信じられないものを見たという目でレイを見ていた。

 転げ回っていた盗賊や四肢を斬り落とされるという衝撃的な光景を見ても眉一つ動かさないレイは、寧ろその光景を当然の物として見ていた。まるで、そうなる事が分かっていたかのように。


「レイ……お前、まさかーー」


 そこから先の言葉は出てこなかった。言葉にする前に、突如猛烈な眠気に襲われて、その場で眠ってしまったのだ。

 時を同じくして、ユーリもユニスも眠りに就く。言うまでも無いだろうが、レイの闇属性魔法【夢への誘い(ヒュプノ)】である。これでレイの障害は消えた。後は外に出て盗賊を殲滅するだけ。

 レイは部屋を出て、達磨になった盗賊の側に立つ。


「無様だな」

「き、聞いてねえぞ。こんな化け物が居るなんて…」

「当たり前だ、今日まで隠してたんだからな」


 村の誰も、友人に両親や妹すらも知らないのだから事前に調べようとも分かるまい。知っていたのは最初から本人だけなのだから。


「まあそれも今日で終わりだ」


 帰らずの森の大まかな地形、拠点となる秘密基地の整備、どちらも大体の準備は整った。後はもう村にいなくても十分暮らして行ける。本当なら欲しい物が街でしか手に入らない場合、街に行っても怪しまれない程度の年齢には達しておきたかったが、こうなったら仕方ない。後で何か方法を考えるとする。


「取り敢えず、お前はここで死ね」

「ま、待ってくーーー!」


 盗賊が命乞いをする暇も与えずに、レイは無慈悲に男の首を刎ねた。壁を見て、もう一人の盗賊が既に死んでいるのを確認すると、レイは怒号と悲鳴がひしめく外へと出て行った。


 ーーー


 盗賊が襲うヨダ村の駆けるフレッド。暗くなっても尚イルマの墓の前に居たフレッドは、盗賊が家を燃やした炎で事に気付いて、自宅へ向けて猛ダッシュしていた。

 既に周りは阿鼻叫喚だ。盗賊が笑いながら村人を虐殺し、逃げ惑う村人たちが次々と殺されて行く。だがそれに対して一々気にする段階はとっくの昔に過ぎてきた。

 いつ自分が襲われるのか分からない恐怖を感じる暇も無いし、ましてや周りを気にする余裕も無かった。今は家族の安否の事で頭が一杯だった。

 そんなフレッドの前に、一人の盗賊が立ちはだかった。大柄で盛り上がった筋肉を前面に押し出したような威圧感満載のその容貌は、フレッドには見覚えのある相手だった。


「久し振りだな、クソ餓鬼!」


「お前…!!」


 忘れる筈も無い。フレッドの父親が貴族に殺された時、一緒にいた騎士の男だった。今は鉄製の鎧を装備しておらず、上半身裸に粗野な麻のズボンを履いた小汚い格好ではあったが、その見下すような憎っくき笑い顔は間違いようが無かった。


「なんでこんな所に居るんだよ!?」

「見てわかんねえのか?盗賊になって、この村を襲ってんだよ」


 悪びれもせずに言う男、いや盗賊に、フレッドの頭に沸騰しそうな程の怒りが湧き上がる。


「ふざけんな!!何度も何度も俺達を苦しめやがって!」

「テメェ等の事情なんざ知るかよ!欲しいから奪う!それだけじゃねえか!」


 とんでもなく酷い理論だった。


「このクソ野郎ォォォッ!!」


 堪忍袋の緒があっさりと引き千切れ、フレッドは怒りの感情のままに突っ込んで行く。


「馬鹿が!良い的だぜ!」


 真っ直ぐ突っ込むフレッドに、タイミングを合わせて手に持った剣を振る。フレッドは振り下ろされる剣が袈裟斬りに進むのを感じた。これまでに何度も感じた死の恐怖に近い感覚。それが迫って来るのが何と無く分かった。

 それと同時にほぼ直感で掻い潜るようにして剣を躱した。まさか真っ直ぐ突っ込んで来る子供に避けられるとは思っていなかったのか、盗賊の顔が吃驚したものに変わった。

 そしてその隙をフレッドは突く。思い出されるのはつい先日、果物を奪おうとした村の若者にレイがした一撃。


「ウリャアァァァーーーーー!!!」


 渾身の蹴りが剥き出しになった脛を直撃した。魔法で強化されていないただの素足とは言え、その威力は決して侮れない。


「グオォア!?」


 まるで獣のような呻き声を上げる。向こう脛、通称弁慶の泣き所とも呼ばれる場所。骨が表皮の直ぐ側にあるその箇所への攻撃は、骨に直接ダメージを与える。鍛えられていようがダメージを軽減出来るものでは無い。

 しかし、フレッドは一つ勘違いをしていた。先日の村人はあっさりと痛みに倒れていたからこの技はそういうものだと思っているようだが、それはレイが身体強化をしたのいうのも有るが、それ以上にその村人が痛みに対して耐性が少ないというのも関係していた。

 しかし目の前の盗賊は、単純な話、フレッドの攻撃による痛みに耐えてしまったのだ。こればかりは仕方ない。フレッドは向こう脛なんて知らないだろうし、それ以前に相手の盗賊の我慢強さなど知る由も無いのだから。


「このクソ餓鬼ィ!!」


 怒りのままに痛む足を振り、それがフレッドの腹を蹴り飛ばした。胃の中の物がせり上がる感覚と共に地面を転がり、盛大にせる。昼間から何も食べていなかったのが幸いして吐く事は無かったが、かなりのダメージを受けてしまった。


「死ねぇぇぇ!!」


 そして追撃で剣が振り下ろされる。再び迫って来る死の感覚。しかし今回はダメージの影響で避ける事が出来ない。


(嫌だ…死にたく無い…!!)


 刹那の時間、フレッドが何としても生きようと足掻くが、そんな短時間では本の数ミリ程度しか動かない。そして死の恐怖に耐えられず、フレッドは固く目を瞑った。

 直後、風が鳴り、渦を巻き、空気を掻き分けながら猛スピードで飛んで来た。それは強烈なエネルギーを持って盗賊に当たり、耐える暇も与えずに瞬く間に弾き飛ばした。

 何が起こったのか分からず唖然とするフレッドは、次に風の飛んできたと思われる方を見る。

 暗闇の向こう、燃える家の横を通りフレッドの居る方に向かって来るレイの姿があった。一歩歩く度に、ザワザワを草木を揺らしながら近付いて来る。

 表情は何時もと変わらず真顔のままだが、揺らめく炎に照らされたその真顔からは、何か背筋の冷たくなる物が感じられた。


「悪いが、お前等の自由時間はもう終わりだ」


 風属性初級魔法【突風(ウインド)】の当たった脇腹を押さえる盗賊を見ながら、否、見下しながらレイはそう言った。


「レイ…今のって」


 一体何なんだ?そう言いかけて、口にする前に盗賊が顔を顰めて立ち上がりながら言った。


「クソッ、今のは魔法か?魔法使いが居るなんて知らねえぞ俺ァ」

「…魔法?」


 その言葉を聞いたのは、今より幼き日に村に来た冒険者から聞いた話の内容だった。普通の人間には扱えない不思議な力。火や水を生み出し、風や土を操る力。それを今、レイが使ったと言っているのだ。

 あり得ない。即座にそう思った。もしレイが魔法を使えるのなら、今まで一度も使っていなかったのはおかしいからだ。

 しかし、だとすると先程のは何だったというのか。盗賊を吹き飛ばしフレッドを助けた何か。しかし周囲には少し離れた位置に居たレイ以外は、遥か遠くで逃げ惑っている村人と、それを追う別の盗賊しかいない。使える筈がない、しかしそれだと今自分を助けた物は何なのだという二つの感情がせめぎ合う。

 その答えは、レイ本人から放たれた。


「そりゃあ俺以外誰一人として知らなかった事だからな。知らなくて当然だ」

「ッ!!」


 レイが言った言葉に、フレッドだけが驚いていた。レイは黙っていたのだ。自分が魔法を使える事を。村の誰にも、家族にも、フレッドにも。フレッドはその事に愕然とした。


「そういう事かよ。前は俺に頭踏まれてた奴が偉くなったもんじゃねぇか」

「そういうお前は随分と見窄らしくなったじゃないか。兵士をクビにでもされたか?」


 何となく発したこの言葉は盗賊の琴線に触れたらしい。盗賊の顔が不機嫌そうに歪む。


「あぁそうだ。あのクソ豚が死んで新しい代官が来た瞬間にな。思い出しただけでもムカついて来るぜ」

「日頃の行いが悪かっただけだろ」

「煩え!餓鬼が分かった様な口聞くんじゃ無え!」


 図星を突かれて荒れる盗賊。結局自業自得であった。


「へっ、けど魔法が使えるだけの餓鬼なら大して怖か無え。使われる前に殺っちまえば良いだけだ!オイテメェ等!!」


 盗賊が大声で呼ぶと、周囲に散っていた盗賊たちがゾロゾロと集まり、レイとフレッドを取り囲んだ。


「嘘だろ?こんなに居たのかよ!?」


 ざっと三十人は超えているだろう。フレッドは数の差に既に圧倒されてしまっていた。


「へへへ、コイツ等も俺と同じ、職を失って盗賊になった連中だが、テメェよりも経験は豊富だ。テメェがさっき使った奴より強え魔法を使う魔法使いをぶっ殺した事だってあるんだぜ」


 この世界では一般的に魔法を使えるというのはそれだけで常人よりも高い攻撃力を持つ。風属性の初級魔法である【突風(ウインド)】は風属性に適性さえあれば大抵の人は使える魔法だ。しかしそれでも剣を持って突貫するよりは強いとされている。

 それより強い魔法を使える魔法使いを殺したとなれば、少なくとも魔法が使えるだけの子供一人くらい楽勝だろう。…それがレイの全力であればの話だが。


「これだけの数が居りゃあ魔法を詠唱してる間にお陀仏だぜ!囲んで殺っちまえ!」


 野太い男達の雄叫びが上がり、一斉にレイに迫る。数という暴力が唸り声を上げて迫る中、しかしそれを見ても尚レイは涼しい顔をして、爪先で地面を一回叩く。

 瞬間、レイの周囲の地面が隆起し、まるで意志を持ったかの様に蠢いて盗賊達を捕まえると、そのまま母なる大地に引き摺り込まれて行く。

 近付く事すら叶わずに次々と地中に消えて行く盗賊達。


「クソッ!何だよこの化け物は!?」

「こんなのに敵う訳無えよ!」

「やってられっか!俺は逃げるぜ!」

「俺も!」「俺もだ!」


 敵わないと見るや、生き残っている盗賊達が散り散りになって逃げ出した。


「簡単に逃げられると思うなよ」


 レイが腕を一振りすると、その軌道上に空気が点々と渦を巻き針状に形成。直後、先程の【突風(ウインド)】よりも速く、それこそ目にも留まらぬ速度で発射された。

 当然突風達にも反応する暇を与えず、逃げ出した盗賊達は次々と撃ち抜かれて倒れ伏した。

 近付けば大地に絡め取られ、離れれば風に狙撃される。盗賊達に安全地帯など存在しなかった。


「何なんだよ……何なんだよテメェは!?」


 最初にレイに吹き飛ばされた盗賊が叫ぶ。魔法が使えるだけの子供だと侮っていた所為か、予想を遥かに超える超常的な光景に気が動転してしまっていた。


「こんな魔法、普通の魔法使いが出来るレベルじゃ無え!ましてやこんな餓鬼に…!」

「お前の常識なんぞ知るか。今目の前に起こっている事が真実だ」


 レイの言葉だけが静まり返った場に響く。いつの間にか、動いているのはレイとフレッド、そして最初にいた盗賊の三人だけになっていた。

 レイが地面を叩く。すると、隆起した土が盗賊を捕らえ、地面に縛り付けた。更にレイは右手を上に上げる。今度は周囲の土が浮き上がって寄り集まると、家よりも大きな岩になった。


「そしてこれが、今からお前を殺す魔法だ」


 あんな物が落ちて来たら確実に死ぬ。その痛みは想像を絶するだろう。それを連想した盗賊の顔が恐怖に歪む。


「ま、待ってくれ!降参だ。もう俺はこの村に何もしねえ。だから見逃してくれ!頼む!」

「今更だな。命乞いをするには、お前等は遅過ぎた」


 既に何人もの村人が殺され、何軒かは家が焼かれている。ここまでしておいて見逃せというのは、些か無理があるだろう。


「これはお前がこれまでして来た悪事の結末だ。甘んじて受けろ」

「や、止めろ!止めてくれぇぇぇーーーーー!!!」


 大岩が盗賊へ向けて落下を始めた。大質量の大岩は大迫力で迫って行く。そして盗賊の悲鳴は、地に落ちた大岩の衝撃音で一瞬にして塗り潰された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ