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人嫌いの転生記  作者: ラスト
第一章
28/56

飢えない為に

 コニー達が居なくなって早数日が経過した。村の人口が少し減ったが、それで飢饉が解決する訳も無く、それどころかどんどん厳しさを増して行く今日この頃。

 今日も今日とてレイ達は空腹に悩まされていた。

 既にフレッドは腹減ったと言う気力も無くし、グッタリとだらし無く倒れている。


「おいフレッド。大丈夫か?」


 グゥゥゥ〜〜


 レイの問いには口では無く腹の音で答えた。せめてイエスかノーで答えて欲しい。


「お兄ちゃん、お腹空いた……」

「そうは言われてもな。何か食べたくても、その食べる物が殆ど無いんだらどうしようも無いだろ」


 腹が減っているのはこの村にいる誰もが思っている事だ。それでも食べる物が無いから我慢するしか無い。これから冬に入るって時に、この状況は些かキツい。冬を越える以前に、冬まで食料が持つのかも怪しい状態だ。

 前にコニー達が出て行く直前に行商人が来た際、皆なけなしの品や金で買えるだけ食料を買っていたが、殆ど焼け石に水だろう。無論、レイの家だって食料はそれ程変わり無い。


「ハァ、どっかに食い物とか落ちて無いかな」


 そんな簡単に食べ物落ちていたら、今頃こんなに飢えて無いだろう。


「コイツとか食えねえかな」

「食べるなよ。食べるなら親の了解を取ってからにしろ」


 足元の雑草をブチブチと千切りながら言うフレッドを窘める。極限状態で意識が朦朧としているのなら兎も角、今の状態で下手な物を食べて腹を壊したら洒落にならない。


「うん、分かった。帰ったら聞いてみる」


 何故かユニスから返事が来た。まさか本当に食べるつもりなのだろうか。幾ら家の野菜スープの味が薄過ぎるからって、トイレの無いこの村で誰が糞尿を撒き散らしたかも分からない雑草を食べる気には正直なれないのだが。


(かと言って、他に提案出来る事も無いしな)


 無闇矢鱈に駄目だと言っても反発されたらそこまでだ。それに下処理さえちゃんとさせればその辺の草を食べた程度で腹を下す事も無いだろうから、それ程心配しなくても良いだろう。別にこんな村の中で毒草が生えてるなんて事は無いだろうし。

 それにいずれどこかで補充しておかないと危険だ。食料に余裕無い以上、このままでは冬の内に餓死者が出る。

 しかし食料になりそうな物がありそうなのは帰らずの森くらいしか見当が付かない。


(……いや、待てよ)


 もう一ヶ所、もしかしたら生き物がいるかもしれない場所が有ったのを思い出した。日常的に通っていたから視界にも入らなかった。灯台下暗しという奴である。

 試してみようと立ち上がったレイに、子供達の視線が集中する。


「どうしたんだレイ?」

「もしかしたらだけど、食べ物が手に入るかもしれない」

「マジで!?」


 先程言った願望が現実になるかもしれないと、フレッドが勢い良く起き上がった。


「もしかしたらだけどな」


 そう言って歩き出すレイ。その後ろをフレッド達が追った。

 向かった先は、毎朝村の女衆が水汲みや洗濯に来る川だった。そう、狙いは川魚である。この世界は電話は疎か科学の概念すら存在しない世界だ。工業廃水や酸性雨などとも縁遠いこの世界は空気は澄んで水は綺麗、そうなれば川魚も当然いる筈だ。

 村で食べられている所を見た事が無いのでそういう物なのかと思っていたが、そこまで追い詰められては仕方ない。どんな理由があるのかは知らないが、森の果物や魔物だって食べられるのだ、川魚が食べられない筈は無いだろう。

 もう直ぐ夕方になるこの時間にここに来るような物好きな人はこの村にはおらず、今この場にいるのはレイ達だけだ。

 水の流れる涼し気な音色だけが聞こえて来る。それがレイ達に心理的な清涼感を与えてくれるが、生憎もう直ぐ冬になるこの季節では余計寒気がして来るだけだ。


「なあ、こんな所のどこに食い物があるんだよ。水しか無えぞ」


 確かに視界に映る限りには川魚は疎か水棲の昆虫すら見付からない。人間が頻繁に通うから逃げ出したのだろうか。

 念の為探知してみた所、ここから少し離れた所には小さな反応があったので、そこに行けば普通にいるようだ。取り敢えずそこを目指す事にする。


「あ、おい!」

「待って〜!」


 スタスタと川に沿って歩いて行くレイに、不審に思いながらも付いて行くフレッド達。なんだかんだで食べ物の誘惑は少しの不審感も凌駕するらしい。


「アレだな」


 本当に少し離れた程度の場所だったので、案外直ぐに目的の魚は見付かった。

 流れに逆らうような形で、数匹の魚がゆったりと泳いでいる。


「アレか!?よーし!」


 フレッドは魚を見るや否や、いの一番に川に入り、魚に向かって猛ダッシュした。当然そんなに騒ぎ立てれば、身の危険を感じた魚達はスイスイと素早く逃げ出した。


「あっ、待ちやがれ!」


 そんな事を言って待つ生物がいる筈も無く。魚達はフレッドから距離を置いて逃げ回る。


「ねえレイ。あれって本当に食べられるの?」


 フレッドが無謀な追いかけっこをしている間に、イルマがレイに一番に確認しなくてはならない事を聞いて来た。


「絶対とは限らないけど、あれが俺達と同じ生き物なら、体に着いた羽みたいなのと内臓さえ取ってしまえば、後は骨と肉だけだ。村の猟師が取ってくる獣みたいに焼けば食べられるんじゃないか?」


 キノコなどの植物と違って、動物や魚類の毒は上手い事処理すれば問題はない筈だ。偶に牡蠣みたいな例も有るが、毒のせいで食べられない川魚なんて聞いた事ないし、この世界でもこんな外敵の少なそうな場所に毒性を持つような魚が現れる可能性は低いだろう。

 念の為毒針や毒の器官がありそうなヒレとはらわたさえ取り除いてしまえば、特に気にする必要は無いと考える。最悪魔法で体の毒素を取り除くなりしてしまえば良いのだし。

 そんな事を話している間にも、フレッドは魚達を追いかけ回しているが、一向に捕まえられる気配は無い。

 結局フレッドは体力が尽きるまで追いかけ回し、結果一匹も捕まえるどころか手の届く範囲に魚を追い詰める事も出来なかった。


「ゼェ、ゼェ。こんなのどうやって捕まえれば良いんだよ」


 悪態を吐きながら戻って来るフレッドは、当然ながらびしょ濡れだった。雨に濡れても風邪を引かなかったから大丈夫なのだろうが、見ているこっちが寒くなる姿だ。

 しかし確かに、素手で川魚を捕まえるのはやや非効率的だ。何か銛のような道具があれば良いのだが、当然この村にそんな便利な道具は無い。

 何か無いかと見回すと、一本の木が目に入った。


「あれを使うか」


 レイは木に駆け寄ると、その木を登り出した。そしてある程度進んだ所で、手に持つのに丁度良さそうな太さの枝をへし折った。

 そしてその枝を適当な長さに調節して、川に有った尖った石で削って加工し、即席の槍を作り上げたのだ。以前フレッドが持って来た剣という名の木の棒とは違う、そのまま武器としても使えそうな鋭い先端の槍だった。


「これで少し離れた場所から突き刺せば行けるんじゃないか?」


 即席ではあるが先端は確り尖っていて、魚を貫くのなんて訳無い。恐らくさしたる抵抗も感じずに貫通するだろう。

 手掴みと違いリーチがある分逃げられる危険性は低くなるから、成功率も悪く無い。


「何それ!カッケー!貸して貸して!」

「お前がやるとまた魚が逃げるだろ。今度は俺がやる」


 生活が掛かっている以上、あまりフレッドの遊びに付き合っている時間は無い。もう大分日が傾いているのだ。日暮れまでに帰らないと家族が心配して騒ぎ出すかもしれない。

 せめて一匹だけでも手に入れて、夕ご飯のおかずを一品追加したい所だ。


 ブーたれるフレッドを無視して川に入る。この時期の水温は馬鹿に出来ないレベルで低い。多分五分もあれば足の感覚が無くなるには充分だろう。フレッドは良くこの中で走り回って平気だったものである。

 しかしそんな事で立ち止まってはいられない。手身近にいる魚に狙いを付けると、慎重にやりの届く距離まで近付いて行く。ここ数年の生活で森の中を歩くのは慣れたレイだったが、川で狩りをするのは初めてだ。上手く行けるか心配だったが、特に問題も無く接近出来た。

 さて、ここからが本番だ。手に持った槍を穂先を下にして構え、魚に狙いを定める。

 フレッドが遠くて「行けー!やっちまえー!」と叫んだり、ユニスが「お兄ちゃん頑張れー!」と応援したりしているが、本当に上手く行って欲しいのなら気が散るから黙っていて欲しいと内心愚痴る。

 深呼吸で雑音によって生じる雑念を払いのけ、息を止めて力を溜めつつ、体のブレを最小限に抑える。少しずつ動いて位置を変える魚に上手く狙いを絞って、そして一気に突き刺した。

 盛大に水飛沫が上がってレイに掛かるが、そんな事は二の次だ。一番は魚にちゃんとヒットしているかだ。

 大きく揺らいでいた波紋が収まって槍の先が見えるようになる。その結果魚は…


 刺さっていなかった。

 止めていた息を吐いて槍を引き抜く。魚が刺さっていないのを見て失敗したとわかった子供達から落胆の声が上がった。


「はい失敗〜!やっぱりレイも駄目じゃんか!じゃあ交代な」

「ついさっき初めて作った槍を一発で扱える訳無いだろ……」


 とは言えこれ以上焦らすと手を付けられなくなりそうだし、何よりフレッドが煩いので、満足するまで軽く使わせてやる事にした。

「よっしゃー!」と言いながらまたしてもドタバタと魚に向かって突っ込んで行くフレッド。それで近付く事も出来なかった事を忘れたのだろうか。


「レイ兄ごめんよ。兄ちゃんが我儘言っちゃって」

「お前に謝られてもな」


 弟であるエリックが代わりに謝罪して来たが、こういうのは本人が反省しなくては意味が無い。これで真剣に魚を捕ろうとしてくれているのであればそれ程怒りも湧かないのだが、あれはただ新しい玩具で遊びたいだけだ。取れるかどうかなんて既に頭の隅に追いやられている事だろう。食事が掛かっているのだからもう少し真剣にやって欲しいものだ。


「謝るくらいなら、ちゃんと押さえ込んでおいて欲しかった」

「ごめん」

「だから謝るなって。それにしても、今まで色々と経験して来た筈なのに、ちっとも変わらないな。もう少し成長するかと思ってたんだけど」


 ウルフに襲われて、ジムが死んで、父親が貴族に殺されて、その上コニーとネリーも村を出て行ったと言うのに、子供っぽさが全然抜けていない。普通これだけの事を経験すれば、もう少し精神的に成熟しても良いだろうに。


「これだけ変わらないと、良い事なのか悪い事なのか分からなくなるな」


 届かないからか槍を投げて魚に当てようとしているフレッドを見て思う。果たしてこれは美徳なのか、それとも悪徳なのか。辛い事があっても明るいままなのは美徳だが、知り合いが居なくなる事に対して過剰に反応するのは悪徳だ。悩ましい限りである。


「そうね。でも、元気の無いフレッドって、凄い変な感じよね」


 確かに、ジムと父親が死んだ時のフレッドは、正直キャラが崩壊したんじゃ無いかと思う程に落ち込んでいた。良くそんな状態から立ち直れたなと思わなくも無いが、それでももう少し精神的に成長して欲しかった。


「まあフレッドの場合、村が滅びでもしない限りそんな事にはならないだろうけどな」

「確かに」


 クスクスと笑うイルマ達。それを見たフレッドが除け者にされて怒りながら戻って来た。


「おい!皆んなでなに楽しそうに話してんだよ!」

「お前が一人ではしゃぎ回るから退屈だったんだよ。分かったらそろそろ変われ」

「あ、おう。ほらよ」


 一頻りはしゃいで満足したのか、フレッドはあっさりと槍を渡してくれた。レイが川に入る後ろで何を話していたのか聞いてるみたいだが、どうやら本人には話さないつもりらしい。皆して秘密秘密と言って、フレッドを憤慨させていた。


 そんな事はさておき魚獲りである。もう直ぐ日が暮れてしまう。そろそろ一匹くらいは突いておきたい所だ。

 既に数回程の失敗を重ね、その度に徐々に調整を重ねている。これなら後一、二回で行けそうだ。


「なぁ、もう帰ろうぜ。もう日が暮れちまうしさ」

(コイツは…!)


 自分が退屈になると直ぐこれである。一体誰の所為でこんな時間にまでずれ込んだのか分かってるのだろうか。

 だが確かに言っている事は正しいのだ。例えそれが言った本人が原因であったとしても。これ以上遅くなるのは拙いだろう。


「先に帰ってて良いぞ。俺も後一、二回したら帰るから」

「おう!じゃあまたな!」

「あ、待って兄ちゃん。レイ兄ごめん、またね」


 欲求に忠実なフレッドはレイから帰って良い聞いた途端、迷わず帰る事を選択した。それに付いて行く形でエリックも帰って行った。ああして見ているとどちらが兄なのか微妙になって来る。フレッドが兄である筈なのだが…上が良い加減だと下が確りするという法則でも働いているのだろうか。


「ごめんねレイ。私もそろそろお父さんとお母さんが心配するから、先に帰るね」

「分かった。気を付けて帰れよ」

「うん。レイも遅くならないようにね」


 続いてイルマも帰ってしまい、残るはレイとユニスだけになってしまった。


「ユニスも待ってるのが嫌なら帰ってて良いからな」

「ん〜……もうちょっとだけ待ってる」

「そうか…」


 確認だけ取って、レイは魚獲りに戻る。突き刺すコツは分かって来た。魚の動きも速いが見失う程では無い。

 槍を構える。その体制を維持したまま、ゆっくりと魚に向かって移動。槍のギリギリ届く距離まで近付く。魚は細かく移動して位置を変えるが、大きく逃げ出す様子は無い。

 息を止めて、槍を突き刺すタイミングを伺う。魚の動きをよく見て、そして……


「……フッ!!」


 魚の移動が終わり、魚が落ち着いたタイミングで一気に突き刺した。瞬間に感じる小さな抵抗と、その直後に感じたズブリとした感覚。


(手応えありだ)


 水飛沫が弾け、水面が穏やかになると、そこから見えた槍の先には狙った魚がい確りと刺さっていた。

 抜けないようにもう一度差し込んでから槍ごと魚を持ち上げる。


「やったー!」


 レイが魚を獲ったのを見て大喜びするユニス。喜んでくれるのはありがたかったが、それはレイが魚を取る事が出来た事に対する物なのか、それとも今晩のおかずが一品増える事に対する物なのだろうか。

 どちらにせよ、初めて魚を獲った事は純粋に嬉しいし、今晩のおかずが一品増える事も嬉しいからレイとしては別に良いのだが。

 取り敢えず一匹獲る事は出来たし、時間もそろそろ拙いので今日はこの位にして川から上がる。


「お兄ちゃん凄〜い!」

「まあ、何回もやれば流石にな。それより早く帰るぞ。遅くなると父さんと母さんが心配しそうだ」

「うん!」


 魚を槍から引き抜き、やりはその辺に隠してからユニスと共に家に帰る。家に帰ると、両親は遅くなった事よりもレイが持って帰った魚の方に興味を向けていた。お陰で変に注意される事も無く、しかもそれも異世界で初の魚を食べる事が出来た。

 流石に塩が少ないのでただの焼き魚になってしまい、特に手を加えられていない為純粋に魚の味しかしなかったが、殆ど味のしない野菜スープよりは味が確りしている。実際家族には中々好評だった。


 ーーー


 その日の深夜。レイは一人川に来ていた。目的は勿論川魚である。

 昼間は人目があるので自力でやったが、今回は人目を気にする必要も無いので、水属性魔法で水ごと魚を下から叩き上げ、風属性魔法でキャッチして終了である。


「呆気無いな」


 昼間に何度も失敗して漸く獲った時と比較すると、あっさり過ぎて虚しさすら覚える。


「当たり前じゃ。というか、また魚を食べるつもりなのか?」

「当たり前だろ。たったあれだけで食べた気になれるか」


 一匹の魚を家族四人で分けるのだ。二十センチにも満たない魚では一人分は一口かそこらで無くなってしまうような量しかなく、しかも塩味も効いて無い中途半端な焼き魚になってしまった。これでは到底満足など出来よう筈が無い。久々に食べる魚の塩焼きがそんな味では、満たされるどころか寧ろ逆効果だ。


「せめて塩焼きにでもしないとな」

「普通に焼くのと何か違うの?」

「大違いだな。そもそも塩は調味料、味を調える為の材料だ。使うのと使わないのでは全然違って来る」


 魔力さえあれば生きていける精霊には分からないかもしれないが。人間は別だ。少なくともレイはここ数年で、どうせ食べるのなら少しでも美味しい物を食べたいと思うようになっている。


「単純な素材の味だけでは得られない旨さが、調味料によって引き出されるんだ。使わない手は無いだろ」

「まあ、それは美味しそう」

「フラムも食べたーい!」

「はいはい、取り敢えずお前等の分も獲ってってやるから、大人しくしてろ」


 こうしてフラム達の分と、ついでに自分の分をもう何匹か獲って秘密基地に向かう。秘密基地ではいつものように、エンシェントウルフとその子供が寛いでいる。


「今日は遅かったな。ム?それは魚か?」

「そうだ。村の近くで獲って来た」


 そう言うと、何故かエンシェントウルフは可哀想な物を見る目でレイを見る。


「まさかそこまで切迫していたとはな」

「は?何の話だ?」

「いや何、貴様が今晩の肉を確保出来なかったのかとな……これ以上は言わせるな」

「………」


 どうやらエンシェントウルフはレイが今晩食べる為の肉、つまり鹿や鳥、ウルフ等の肉を確保出来なかった故に、苦肉の策として肉の代わりに魚を獲って来たと思っているらしい。


「別にそういう訳じゃ無いから。久々に魚が食べたくなっただけだ」

「そうか。まあ、何だ…これでも住処を提供させておる間柄だからな。困ったら少しくらいなら、私の獲物を分けてやらんでも無いぞ」


 何故か逆に温かい目で優しく接されてしまった。強がりで言っているとでも思ったのだろうか。解せない感じではあるが、これ以上言っても逆効果だと思い、「その時が来たらな」とだけ言っても基地に入って行った。


 着いた先は勿論調理スペースだ。木製のまな板の上に獲って来た魚を並べると、早速調理を始める。

 手始めに滑りを取る為に塩で揉み洗いする。そしてその内の何匹かを内臓を取り出した後に串に刺し、塩を振って焚き火の近くにやって塩焼きにする。残りは内臓を取る他に頭を落として身を開き、骨を取り除いて、麦から作った小麦粉を塗し、森の木の実の種を絞って作った油で唐揚げにする。

 ジュワァ!という音と香ばしい匂いに、精霊達が興味津々に見つめている。


「良い匂〜い」

「パチパチ言ってますぅ」


 興奮する精霊達を他所に、キツネ色になった唐揚げを拾って皿に乗せる。その頃には串に刺した塩焼きも良い感じに焼けていたので、串から抜いてそれぞれ皿に乗せて配膳する。


「それじゃあ、早速食べるか」

「はーい!」


 先ずは塩焼きから食べる。脂はそれ程多く無い為ややパサついているみたいだが、香ばしく焼けた皮とそれを後押しする塩気が良い。

 続いて唐揚げだ。塩焼きを食べた時に思ったが、小麦粉だけだと味気なさそうなので、天ぷらみたく塩で軽く味付けして食べてみる。

 カリカリの衣と柔らかな魚の身の組み合わせは中々良い。味もあっさりしているからしつこく無い。両方共悪く無い出来だ。


「ハフハフ!おいひ〜!」

「お主は食べるといつもそれだよな」

「だってどれも美味しいんだもん」


 フラムだけで無く、他の精霊達にも好評なようだ。普段は必要に駆られない限り何かを食べる事のない精霊にとっては、料理を食べること自体物珍しいので、それも影響しているのかもしれない。

 ふと背後から視線を感じて後ろを見ると、そこではウルフの子供が舌を出してレイを見つめていた。正確にはレイの持っている魚の唐揚げを。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」

「………」


 明らかに唐揚げを食べたそうにしているが、別にに食べさせてやる義理は無いので完全にスルー。そのまま唐揚げを頬張る。


「クゥ〜ン」


 尻尾をダラリと下げて明らさまに落ち込む子ウルフ。こうして見るとお預けを食らった唯の犬に見える。

 仕方ないので一つだけ掴んで子ウルフの方へ放る。子ウルフは即座に反応して空中でキャッチすると、物凄いスピードで走り去って行った。

 一瞬礼の一つも無いのかよと思ったりもしたが、別に礼を期待してやった訳では無い事を思い出して食事に戻る。

 そして村での生活を思う。この調子で魚を獲って過ごせるのなら、上手くやれば今年の冬もギリギリで何とかなるかもしれない。

 そうすれば春には畑に何かしらの対策を打って、ちゃんと作物が育つようにする事が出来る。

 こんな飢饉は二度と御免だ。せめて最低限食うには困らない生活をして行きたい。その為にも、先ずはこの冬を乗り越えなければならないのだ。


(まだやりたい事全然出来て無いっていうのに。こんな所で飢え死には御免だな)


 生き残らなくては。そんな気持ちと共に、レイは魚を頬張った。

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