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人嫌いの転生記  作者: ラスト
前章 プロローグ
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不信者の追憶 前編

転生する前にちょっと過去のお話です。これを含めて二話位になるかと思います。

それが終わり次第話を進めます。


プロローグが長くてすいませんが、何卒お付き合い下さい。

 朝の始まりを告げる鐘の音が部屋に響き渡る。デジタル式の置き時計の鳴らす電子的なアラームが、起きる時間を告げている。

 その音に目を覚ました嶺は、アラームに眉を顰めつつ、いつまでも鳴り続ける時計に手を伸ばし、ボタンを押してアラームを止める。

 そして起き上がるのかと思いきや、まだ眠いからという理由で目を開ける素振りも見せずに二度寝を敢行した。まだ意識は半分夢の中だ、数分もすれば直ぐに夢の中へお帰りなさいである。そして夢の中で一時の安らぎを一秒でも長くエンジョイするのだ。

 しかしそんな嶺の目論見を邪魔するかのように、時計を止めて一分も経たずに部屋にノックの音が。


「嶺君、起きてる?入るよ」


 本人の了承も無しに扉を開けて部屋に入って来たのは一人の少女だった。キッチリと制服に身を包んだ彼女は、布団に包まって眠る嶺を見て溜め息を溢す。


「もう、やっぱり今日も寝てる」


 やっぱりと言う辺り、嶺の二度寝はいつもの事なのだろう。少女は慣れた様子でカーテンを開けると、布団に包まる嶺を揺すり起こす。


「嶺君、起きて。もう朝だよ」


 脳を揺さぶられて意識が現実に引き戻される。これ以上は寝ようとしても難しいので、仕方無く目を開けて起きている事を伝える。視界に映るのは黒い髪を垂らして自分を見る美少女の姿。


「おはよう、嶺君」

「…姫咲か」


 自分を起こした少女、まゆずみ 姫咲きさきはフワッとした笑みを浮かべた。


「別に毎日起こしてくれなんて言った覚えは無いんだけどな」

「だって嶺君、私が起こさないといつも遅刻しちゃうんだもん。駄目だよ、ちゃんと起きなきゃ。お義父さんとお義母さんに悪いよ」


 そう言うと姫咲は朝食の手伝いがあるからと先に部屋を出て行った。一人残った嶺は取り敢えず起き上がって体を伸ばす。そしてさっき姫咲の言っていた事を考える。

 別に遅刻する程寝るつもりは無い。ただ姫咲と一緒に登校さえ出来無ければ良い。美少女と一緒に登校出来るのは普通ならご褒美とか役得とかなんだろうが、嶺にとっては可能な限り遠慮したい事なのだ。そして両親に悪いと言っていたが、それは姫咲の個人的な感想だ。

 嶺には親に申し訳無いなんて感情は、欠片程も存在しないのだから。


 とはいえこのまま寝る気にもなれないので、渋々ベッドから出てダラダラと着替える。その途中、制服を着ようとした所で、ポケットから何かが落ちた。それは一本のカッターナイフだった。嶺は落とした事に気付くと、直ぐにそれを拾い上げる。しかし何を思ったのか、直ぐにそれをしまわず、刃をカチカチと出したりしまったりを繰り返す。暫くそれを続けて、満足したのか再びポケットに戻すと、一階に降りて身支度を整えてからリビングに行く。


「あ、嶺君。やっと来た」


 リビングには朝食を食べる姫咲、そして洗い物をする嶺の母親の姿があった。父親はもう出掛けたようだ。

 何故姫咲が嶺の家で食事を摂っているのかというと、それは姫咲の両親がもうこの世に居ないからだ。

 元々家族ぐるみの付き合いをしていた朝霧家と黛家。そして嶺と姫咲が小学四年生の時に、姫咲の両親は他界した。良くある事故死という奴である。

 それ以来姫咲は嶺の家で暮らしている。朝に起こしに来たのも、家が隣だからでは無く、この家に、正確には嶺の隣の部屋に住んでいるからだ。


「やっと起きたのね。もっと早く起きなさいっていつも言ってるでしょ。余り姫咲ちゃんに甘えてばかりいちゃ駄目よ」

「はいはい」


 挨拶も無しに説教をかます母親を軽く流して席に着き、いただきますも無しに朝食を食べる。


「もう嶺君、お母さんにそんな言い方したら駄目だよ」

「んー」


 母親へと態度に姫咲からも注意が入るが勿論嶺にそれを聞き入れる気は無い。生返事を返して朝食を食べる。母親の居ない姫咲にとっては家族とは仲良くして欲しいと思っているのだろうが、嶺はそんな姫咲の思いを汲んでやったりはしないし、寧ろそんな事を言うのなら養子にでも入れば良いのにとさえ思っている。

 実際一度言ってみたが、『でもそれだと、お父さんとお母さんの子供が居なくなっちゃう』とか言って断わられたのでもう言う気は無い。


「御免ね姫咲ちゃん。何時もウチの子が迷惑掛けて」

「いえ、そんな事は無いですよ。嶺君は何時も優しくしてくれていますから」


 嶺の時とは一転して明るい感じで話す母親。この親はいつもそうだった。姫咲には何時も甘くて、嶺には殆ど甘やかされた事が無かった。まるで姫咲の方が実の娘のように。

 居心地の悪い空間から早く出たくて、嶺は急いで朝食を食べ切って学校へと向かうべく家を出た。外は清々しいまでの青空の中、太陽に照らされて光輝いていた。

 しかしそんな陽気とは裏腹に、嶺の気分はちっとも晴れなかった。自分がこんなに暗い気持ちだというのに、世界は嶺を無視して周りを明るく照らしている。まるで自分が世界にまでハブられたみたいな気分になる。


「嶺君、待ってー!」


 明るい世界に怨嗟を募らせていると、後ろから姫咲が駆け足で追い付いた。


「もう、置いてかないでよ」

「別に俺に合わせる必要は無いだろ」


 一緒に登校したく無いから一人で登校しようとしたのだから、置いて行くのは当然だ。寧ろ姫咲に追い掛けられた方が困る。


「またそんな事言って、折角一緒に暮らしているんだから、一緒に行こうよ」


 いつも嶺がこんな態度だからか、今の言葉が照れ隠しか冗談かと思われたようで、特に気にした様子も無く普通に着いて来る。避けられているとは思わないのか不思議でしょうがない。

 登校中にやる事なんて無く、仕方無く他愛の無い事を話す姫咲に相槌を打って進む。そうして進む事暫く、嶺と姫咲との間にブラウンの髪をツーサイドアップにした少女が割り込んで来た。


「ヒーメちゃん!おはよう!」

「キャッ!結衣ちゃん。おはよう」


 姫咲の事を姫ちゃんと呼んだ結衣と呼ばれた少女は、嶺と姫咲との間を引き裂く様に二人の間に割り込んで姫咲の腕に抱き着いた。そして昨日のテレビの話題を中心に他愛の無い話をする。

 一見すれば仲睦まじい感じだが、嶺には分かっている。これは結衣自身が仲良くしたいという感情の他に、嶺への当て付けの意味も含まれているという事を。現に少しづつ結衣が姫咲を引っ張って嶺から距離を取らせているし、隙を見て嶺に向けて嘲笑の笑みを向けて来る。結衣も見た目は悪く無いのだが、この性格の酷さを知らない奴が目の当たりにしたら女性が信じられなくなるようになるだろう。

 そんな様子を見せつけられても、嶺は怒りを表情に出す事無くその後ろをゆっくりと追従する。尤も何も思わなかった訳では無い。別に姫咲が誰と仲良くしようが嶺には関係無いが、結衣の当て付けには不愉快な気分にさせられる。馬鹿にされて喜ぶ様な趣味は嶺には無い。

 だが事はそれだけでは終わらない。学校に近付くにつれて同じ学校の生徒達が見え始めると、その生徒達は姫咲達には熱い眼差しを、そしてその後ろを歩く嶺には侮蔑や嫉妬の視線を向けて来る。これこそが、嶺が姫咲と一緒に学校に行きたく無い理由だ。いや、更に言うなれば嶺が姫咲と一緒に居たくない理由である。

 姫咲は学校ではアイドルとかマドンナとか、憧れの的の様な立場に位置している。容姿に加え頭も良いし運動だって人並み以上に出来る。それでいて人当たりの良い優しい性格は、周りの人達に強い好印象を与えた。

 そんな姫咲の直ぐ側に冴えない男が居るとなれば、当然それが気に入らない奴というのは出て来る。

 そんな嶺に近付いて来るのは嶺が気に入らない連中か、嶺に取り入って姫咲と仲良くなろうとする連中ぐらいだ。必然的に嶺は人が信用出来無くなり、今の嶺には友達と呼べる人間は、姫咲を含めて一人も居ない。

 何故姫咲さえも信用出来ないのかと言えば、姫咲が自分が周りからどう思われているのか、そして嶺が今どんな状況置かれているのかを全く理解していないからに他ならない。姫咲からすれば友達一杯嬉しいなくらいの感覚なのだろうが、実際は姫咲という存在は一種のトレンドと化している。女子にとっては姫咲とどれだけ仲が良いのかはステータスの一部の様に扱われているし、男子に至っては姫咲の写真が高値で取り引きされているくらいだ。

 そういう意味では結衣は良くやったのだろう。女子なら誰もが狙っている姫咲と一番仲の良い女友達というポジションを獲得したのだから。他にも友達はいるが、結衣程長い時間を一緒にしている奴はいないだろう。

 姫咲はそんな事には一切関知せずに毎日を過ごしている。本人に自覚は無いのだろうが、自分がこんな苦しい思いをする事になった原因を嶺は友達だなんて思わないし、そもそも一緒に居たいとも思わない。

 だがそうは行かないのがこの世の中だ。今の嶺がこういった間接的なイジメで済んでいるのは、ひとえに姫咲という存在が抑止力にもなっているからだ。嶺の事は気に入らない。でも姫咲に嫌われたくない。だからまだ直接的なイジメには発展していない。姫咲から離れたいのに、姫咲から離れる訳には行かないというジレンマを抱えながら、今の嶺は生きている。せめて高校を卒業したら一人暮らしを始めて、姫咲を知らない場所で生活する事を希望として今を繋いでいる状態だ。

 そうこうしている内にも、視線は厳しさを増して行く。中には嶺にギリギリ聞こえるレベルで影口を叩く始末だ。

 そんな中を歩くのは酷いストレスを感じる。そんな嶺はポケットに手を突っ込むと、中に入っていたカッターナイフをカチカチと弄る。そして頭の中で、ゾンビゲームのように周りの生徒達をナイフ縛りで刺し殺す事を想像する。こうする事で、最低限のストレスを発散し、現実から思考を排除する事で精神の安定を保っている。こうでもしないと、己を保って居られないのだ。それ程までに、今の嶺は精神的に追い詰められていた。


 ーーー


 教室に着くと、直ぐさま姫咲の席に女生徒の人集りが出来る。それは即席のバリケードの様になり、男子達から姫咲を遮る壁となる。それによって男子達は余程の事が無い限り近付けない。だからこそ姫咲の写真は高く売れるのだ。

 そして嶺は我関せずといった感じで離れた自分の席に座り、直ぐに寝る体制に入る。これから夕方までずっとこの建物に監禁されるのだ。その間ずっと教室から向けられる侮蔑の視線を受け続けるのは嫌なので、寝る事で一秒でも長く現実から離れる。侮蔑の視線も自分が知覚しなければ問題は無いのだ。

 そんなこんなで騙し騙し授業を受けて放課後までやり過ごす。


「嶺君。今週掃除当番だよね」


 ホームルームが終わるなり、姫咲が話し掛けて来た。姫咲の言った通り、今週嶺は掃除当番だ、それが終わってからでないと帰れない。


「ああ、そうだが」

「じゃあ下駄箱で待ってるからね」


 いつの間にか姫咲の中では嶺と一緒に帰る事が決定しているようで、嶺の返事も聞かずに教室を出て行ってしまった。別に待たなくても先に帰れば良いのにと思うが、そんな事を今更言ってもしょうが無い。掃除なんて早ければ十分も掛からないのだから、さっさと終わらせてさっさと帰る、その序でに帰り道に姫咲が同行するだけの事だ。

 そう思っていざ掃除を始めようとした時、目の前には結衣の姿が。その目は明らかに嶺を睨んでいる。


「ちょっと良い?」

「…何の用だ?姫咲ならもう下駄箱に行ったぞ」

「そんなのはさっきの会話を聞いてれば分かるわよ」


 実に堂々とした盗み聞き宣言である。


「じゃあ何の用だよ。俺はこれから掃除なんだ。話なら手短に頼む」

「早く姫ちゃんに追い付きたいから?本当に姫ちゃんが側にいないとダメなのね。キモッ」


 そんな事は欠片程も考えて無い。一体嶺のどの行動を見たらそんな考えが浮かぶのだろうか。その思い込みの激しさには呆れて物も言えない。


「で、用が有るなら早く言ってくれ」


 お前と話すのも面倒だからとは思っても言わない。余計な事は言わないに限る。


「言わなくても分かるでしょ?良い加減姫ちゃんを縛り付けるの止めてって事よ」


 縛り付けるとは良く言ったものである。嶺は姫咲の行動を束縛した覚えは無いし、姫咲に何かを強制した事も無い。


「話にならんな。アイツの行動はアイツの自由だ。俺は何も強制して無い」

「分かり易い嘘吐かないでくれる?強制無しに姫ちゃんがアンタみたいなの相手にする筈無いじゃん。姫ちゃんに聞いても『本当は優しい人なんだよ』みたいな事しか言わないし。アンタが姫ちゃんを脅すなりして無理矢理側に置いてるとしか考えられ無いの」


 随分と自分勝手なこじ付けだ。出会って一、二年程度の結衣に姫咲の全てが分かる筈が無い。十年以上側にいる嶺ですら、姫咲の事を全て把握してはいないのだから。

 そして仮に嶺がそんな事をするような奴だったとしても、結衣に言われただけで止めるなんて事は先ず有り得ないだろう事を先に理解すべきだ。


「証拠は?」

「は?」

「俺が姫咲を脅しているっていう物的証拠は有るのか?」

「それは無いけど、でもそれ以外有り得ないじゃん」


 無くて当たり前だ。初めからそんな事実は無いのだから探しても見つかる訳が無い。そして有り得ないじゃんと言われても、その疑いを掛けられている嶺が賛同する事の方が有り得ない。


「証拠が無いのならお前の言う事に従う理由は無い」


 そう言うと、嶺は掃除を始めるべく結衣を置いて机を教室の後ろの方に移動させる。何やら結衣が忌々しげな顔をしていたが、それは気付かぬフリをした。

 そして粛々と掃除を終わらせて下駄箱に向かう。掃除当番に良く怠ける奴が混じっていた所為で無駄に時間が掛かってしまったが、まあそんな事で姫咲は怒りはしないだろう。一緒にいるであろう結衣は知らないが。


「っと、その前に確認しとかないと」


 教室を出る前に鞄の中身を確認する。時々嫌がらせの一環で荷物を盗まれた事があった為、それ以来帰る前に一度確認しているのだ。


「あれ?御守りが無い」


 今年の正月に初詣で姫咲に渡された御守りが無くなっていた。『幸せの御守り』とかいう、一体何の御利益が有るのかも分からない微妙な代物だ。何故か持ってないと姫咲が煩いので仕方なく鞄の中に入れていたのだが、どうやらそれが盗まれたらしい。鞄の奥の方のポケットの中に入れていたのだ、失くし様が無い。


「…ま、良いか」


 別に大切だった訳でも無いから無くなっても問題無い。姫咲は残念がるだろうが盗まれてしまったのでは諦めるしか無いだろう。開き直って鞄を持ち下駄箱に向かう。

 しかしその途中、嶺の行く手を制服を着た男子達に塞がれてしまった。


「よう朝霧、遅かったじゃねえか」


 目の前の男子達の事は知っている。素行の悪い生徒だと校内でも良く知られている連中だ。

 嶺は彼等に連れられて屋上へと来た。彼等は嶺を囲う様に立つ。十中八九逃げられないようにする為だろう。


「それで?昨日言ったアレ、ちゃんと持って来たんだろうな」


 アレとは、姫咲の写真の事である。しかし唯の写真では無い、姫咲のプライベートの写真だ。

 さっきも言った様に、姫咲の写真は学校の男子達の間で高値で取引されている。その中でもプライベートの写真は、学校では見られない姫咲の姿が見れるという事でその値段も跳ね上がる。

 ではそのプライベートの写真の中で何が一番値が付くだろうかというと、家の中にいる時の写真だ。未だ一枚も流通していないとされている家にいる時の、特に自分の部屋にいる時の写真ともなれば、その額は学生のお小遣いでは済まされない位になるだろう。

 ここまで言えばもう分かるだろうが、彼等は嶺にその写真を撮って来させて、その写真で金を稼ごうとしているのだ。


「昨日も言ったが、そんな物取る気は無いし、持って来てもいない」


 別に写真の一枚くらい問題じゃ無いが、この手の輩は一度言う通りにするとどんどんエスカレートして行くだろう。そんなのに付き合うのは御免である。

 しかし相手方には嶺の事情などどうでも良く、その答えは嶺の腹部に命中した蹴りで返された。


「テメェの言い訳なんざ要らねえんだよ!」


 男子達は嶺を囲んで暴行を加える。流石に十代後半の脚力は馬鹿に出来ない。骨を折りそうな一撃が雨のように嶺の体を打つ。


(何で俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだよ)


 心の底からそう思った。流石に自分が一番不幸だなんて自惚れるつもりは無い。世の中もっと不幸で辛い思いをしている人も居るのだろう。だがこの瞬間、嶺は間違い無く不幸な部類であるという事は確かだろう。

 自分は不幸だ、そう思えば思う程怒りが込み上げて来る。姫咲を信奉する派閥が出来始めた時から、自分の出来る精一杯で、余計な諍いが起こらない様に立ち回って来た。

 だと言うのにに周りには何を言っても悪い方にばかり受け取られ、終いには孤立して周りに敵視され、そして遂には学校の不良共に足蹴にされている。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく。蹴られている間もずっと、そんな腸の煮え繰り返る思いが嶺の中で荒れ狂う。頭の中で彼等をカッターで刺し殺す妄想でもしないと、頭の中のカチカチ鳴るノイズに耐えられなかった。


「な、何をしているんですか!?」


 突如屋上の入り口からした女性の声に、蹴りの雨が止んだ。腫れて痛む目を開いて見ると、其処には下駄箱で待っている筈の姫咲が居た。


「嶺君!?」


 姫咲は嶺を見付けると駆け寄ろうとするが、それは不良達に阻まれる。


「よお黛さん。まさかこんな所でお目に掛かれるなんてな」

「貴方達ですか?嶺君にこんな酷い事したのは」

「酷いとは心外だな。俺達は約束を守らなかったコイツに罰を下してんのさ」

「だからと言って、其処迄やる必要は無い筈です」

「それはアンタの基準だ。俺達にとってはこの程度じゃ済まされねえんだよ」


 良く口の回る男だ、たかが写真でここまでやる必要は無いのは明白である。


「そんな…!」


 しかしそんな事を知らない姫咲は男の話を本当の話だと信じ込む。


「なら私が、私が代わりに罰を受けます!だからもう、これ以上嶺君に酷い事しないで下さい!」

(コイツ馬鹿なんじゃねえの?)


 自分を助けようとする姫咲に対して、嶺はそんな事を思った。確かに助ける為に身代わりになるのは分かる。だが今のこの状況においては最悪手と言って良いだろう元々不良達の狙いは姫咲の方にあるのだ。そんな事も知らずに気軽に身代わりを申し出たりしたら、間違い無く骨までしゃぶられふだろう。

 案の定、不良達の表情がこれでもかってくらい下衆なものになっている。気付いていないのは姫咲だけだろう


「そうだなぁ、そこまで言うんなら、特別にそれを許してやっても良いぜ」

「本当ですか!?」

「ああ。ただ、後になってやっぱ無理ってのは無しだぜ。その時は容赦無くコイツを痛め付けるからな」


 そう言って指示を出すと、姫咲に見せびらかすように不良の一人が嶺の体の上に足を置いた。


「分かりました!だからもう嶺君に酷い事しないで」

「おお良いぜ。それじゃあ早速だけどよーーー」


 ニヤリと歪んだ不良の口から、嶺の予想通りの最低な命令が下された。


「ーーーその制服を脱いでくれよ」

「…え?」


 意味が分からなかった。何で嶺の代わりになるのに服を脱がなきゃならないのか、殴る蹴るじゃ無いのかと。


「だから制服を脱げっつったんだよ」

「え、あの、どうして…」


 中々脱ごうとしない姫咲に業を煮やした不良は、一つ盛大に舌打ちして後ろの不良に指示を出す。瞬間、嶺への攻撃が再開した。


「止めて!」


 慌てて駆け寄ろうとした姫咲だったが、それは別の不良に阻まれて近付けない。遂に蹴る場所が目立たない服の上から顔面といった目立つ場所にも及んだ。


「分かりました!脱ぎます!脱ぎますから止めて!」


 半ば叫ぶ様に言うと、漸く攻撃が止んだ。


「分かったらさっさとしろ。早くしねえとまたコイツをしばくからな」

「…はい」


 腹を抱えて噎せる嶺を見て覚悟を決めた姫咲は、鞄を横に置くと自分の制服に手を掛けた。

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