自分らしく生きる事
次の日、畑にはフレッドもフレッドの父親の姿も無かった。ただ朝にはフレッドを見掛けたから少なくとも元気ではいるだろう。
レイは気にせず畑仕事をし、そして昼になると早めにランドが仕事を切り上げたので、レイはユニスを連れて外を歩いていた。と言うのも同じく家で母ユーリの手伝いを終えたユニスが皆と遊びたいと駄々をこねたからである。ユニスもまだ子供なので、ぐずり出すと煩い。故にぐずり出す前に連れ出す事にした。
尤もレイの家が仕事が無いからと言って、他の家もそうとは限らないので、取り敢えず各家に言って遊べるか聞いてからという事になり、今こうしてユニスと共に皆の家へと向かっているという訳だ。
レイと手を繋いで鼻歌交じりに歩くユニスはご機嫌である。ただ歩いているだけなのに、一体何がそんなに楽しいのかレイにはさっぱり分からない。
そしてユニスの鼻歌に合わせてフラムも鼻歌を歌っていた。やはりフラムの知性はお子様並みなのだろう。
『つーか頭の上で歌うなよフラム。流石に煩い』
「え〜!何で私だけ怒られるの!?ユニスだって大声で歌ってるのに!」
そう、ユニスはまだ子供であるからか音量調節がまだ出来ないようで、近くで歌われると結構煩かったりする。とは言え煩いから止めろと言うと明らさまに拗ねて面倒なので仕方なく我慢しているのだが、流石に頭の上でフラムにまで歌われては堪らなかった。
『だからこうして我慢してるんだよ。頼むからお前は歌わないでくれ』
「ぶ〜、レイのケチんぼ」
(ケチとかそう言う問題じゃ無いと思うんだけどな)
そんな事を話しながら歩く事少し、もう直ぐでフレッドとエリックの家に着くという所で、背後から何やら物音が聞こえて来た。車の存在しない田舎だと、かなり遠くの音が聞こえて来る。それが例え隣で妹が大きな鼻歌を歌ってたりしてたとしてもだ。
聞こえて来たのは馬の足音だった。テレビで聞いた事のある音と同じだから間違いない。見ると、誰かが馬に乗って走って来ていた。数は二人、馬も二頭いた。
しかし、この世界では馬はポピュラーな乗り物ではあるが、こんな辺境の村に馬を飼う余裕など無く、乗れる人間などいない。となると、アレは村の外から来た貴族の関係者という事になる。
レイはユニスの手を引いて道の脇に移動する。貴族の関係者なら関わるべきじゃ無い。そう思っての判断だった。
「おい、そこのお前」
しかし相手はそうでは無かったようで、近くに来ると馬を止めてレイに話し掛けて来た。内心溜め息を吐きつつ振り返ると、そこには明らかに身なりの良い二人の少年少女が馬に乗ってレイ達を見下ろしていた。
女の方がレイと同い年くらいで、男の方はそれより一回り程大きいから精々一、二歳年上と言った所だろう。二人とも太陽を反射して輝く質の良さそうな金色の髪をしていて、顔付きも大まかに似ている所があるから兄妹なのだろう。
そして着ている服に手入れがなされている肌と、そして乗っている馬を見れば、彼等が貴族なのは間違い無いだろう。恐らく、あの豚貴族の子供辺りだろう。
尚、彼等の目には一種の蔑むような雰囲気が混じっていた事から、正確には見下ろすと言うより見下すと形容した方が良いだろう。
「お前、昨日馬車の前でウチの兵士に頭下げてた奴だろ。馬車から見てたぞ」
どうやら彼等も馬車の中に乗っていたらしい。これでほぼ確定だ。
兄の方は豚貴族に目元等の細かい部分が似ているが、妹の方はそちらに似ず可愛らしい顔付きだ。恐らく母親に似たのだろう。尤も今は侮蔑の目でレイを見ているので台無しだが。
「汚い地面に頭を擦り付ける姿は滑稽だったな」
「はぁ、そうですか…」
そう言われても、レイにとってはお世辞にも顔が良いとは言えない貴族兄の傲慢な姿の方が滑稽に思えた。
彼は己が貴族と言うだけで全てが思い通りになると勘違いして思い上がっているのだろう。そう思うと滑稽と思いこそすれムカついては来なかった。既に精神は二十歳を超えたレイだからこそそう思えたのだ。
実際兄を馬鹿にされたユニスは逆上して言い返そうとしていたので、先に口を塞ぎつつ頭を撫でて落ち着かせてやる。
「うわっ、何アイツ等。感じ悪いな〜」
「私あの人達嫌〜い!」
精霊達からも大ブーイングだった。他の精霊達も何も言いはしないが、良い気分では無いようだ。あからさまに不機嫌そうなティエラは兎も角、アイシアは笑顔が強いし、エストレアに至っては射殺さんばかりに睨み付けていた。
一応昨日の内に貴族と揉め事を起こすと後が面倒だと説明していたからか攻撃はしないが、一触即発な雰囲気である。
「それで、そんな滑稽な私めに一体何の用ですか?」
このままだとずっと嫌味を言われそうだし、そうなると精霊達を抑えるのも出来なくなりそうだったので、先に話題の転換を図る。
「お前、この村の住民だろ?だったらどこか面白そうな場所に案内しろ」
「面白そうな場所?」
「そうだ。折角無理言って父上に着いて来たというのに、行けども行けども見窄らしい畑と小汚い家ばかりでちっとも面白く無い」
(そんな事を住民の目の前で言うか普通)
確かにこの村には畑と家ばかりのつまらない村だが、その村に住んでる人の目の前で『見窄らしい』とか『小汚い』はどうかと思う。ヨダ村はまだ住民の力も強く無い貧乏村だからまだ大丈夫だろうが、ある程度発展した町でそんな傲慢な態度を取ったら、住民の反感を買って領主の信用はガタ落ち、最悪他の貴族に付け入られる隙を作る事になる。
尤も今の彼にそんな事を説いた所で意味など無いのだろうが。
「だからお前が案内しろ。そして俺様達を満足させろ」
「無理ですね」
一切の間を空けずに即答した。
「お前に拒否する権利なんて無い!俺様は貴族なんだ!僕に逆らえば、父上に言ってお前の家族全員奴隷にしてやるぞ!」
そこで自分の力では無く父親に頼む所が小物臭を撒き散らしている。一見脅しているように聞こえるが、見方を変えれば彼自身は無力だと公言しているような物だ。本人は気付いていないのだろうが。
「分かったらさっさと案内しろ!」
「だから無理ですって。だってこの村に面白い場所なんて無いんですから。初めから無いものをどうやって教えろって言うんですか」
面白い場所を案内して満足させろと言われても、この村に住むレイですら見付けられていないのだから土台無理な話なのだ。
「さっき貴方が言った通り、この村には畑と家ばっかり。他と違う所と言われれば精々直ぐそこに帰らずの森と言う魔境があるだけ。それだって凶暴な魔物が出るからと子供は入る事を禁止されているので案内出来ないんですよ」
「そんな訳無いだろ!そんな何も無い所に何で村が出来るんだよ」
「そんな事子供の俺に分かる訳無いでしょ。実際面白味も何も無い村だからこそ、この村は住民の少ない貧乏な辺境の村なんですよ」
レイの正論に言い返せなくなったのか、貴族は「この役立たずめ!」と吐き捨てて去って行った。役立たずと言われても、村が面白く無いのはレイの責任では無いのだからしょうがない。
それに続いて妹の方も「平民の癖に」と言い残して兄の後を追って行った。
「ブー!アイツ等ムカつく〜!今度レイの事馬鹿にしたら真っ黒になるまで燃やしてやる!」
「いいえ、ここは体の端から徐々に凍り付けにしましょう。自分の体が凍って行くのに怯える様はきっと面白いでしょうから」
「そんな事したら大事になっちゃうよ。仕返しなら服を切り裂いて素っ裸にしちゃった方が良いって」
「それでは大して変わらんじゃろうが。それなら地面を盛り上げて何度も躓かせれば良い。外傷も付くし、何より恥を掻かせるには打って付けじゃ」
「コレカラ先一生、毎晩悪夢ヲ見セマショウ。眠レヌ夜ガ続ケバキット苦シイデスヨ。フフフフフ」
最早精霊達の怒りも頂点だ。次会ったらどうしてやるかで盛り上がっている。というかエストレアが怖い。何か黒いオーラを出していて呪いの市松人形みたいになっている。
『お前等落ち着け。そしてエストレアは漏れ出してる黒いのしまえ』
「でも〜!」
『でもじゃ無い。あんな貴族が絶対だと思っている間抜けを一々相手にしてたらキリが無いぞ。下手に突っ掛かって来ない限りは適当に受け流しておけ。良いな』
「大丈夫デスヨ。チョット身ノ程ヲ分カッテ貰ウダケデスカラ」
全然大丈夫では無かった。このままでは本当に呪い殺しに行きそうだったので、全力で説得してどうにか落ち着いて貰った。
兎に角、もううざったい貴族はいないのだ。当初の予定に戻るべきだろう。
「さて、それじゃあ行くぞユニスーーー」
「プーッ!」
「………」
振り向くと、精霊達と同じようにユニスも頬を膨らませて御立腹だった。ユニスお前もかと思いつつ、ユニスを落ち着かせるのに更に時間を費やしたのは言うまでも無い。
そして貴族との遣り取りよりも、フラム達やユニスを落ち着かせる方が疲れたのもまた言うまても無い。
ーーー
「ゴメンね。フレッド達は少し前に家を出ちゃったんだよ。レイちゃん達と遊ぶって言ってたから、入れ違いになっちゃったわね」
ユニスを宥めた後、フレッドとエリックの家に来たレイ達はフレッド達の母親からそんな事を言われた。どうやらレイがユニスを宥めている間に家を出たらしい。
「そうなんだ。ありがとう、オバちゃん」
そう言ってレイはユニスの手を引いてフレッド達の家を後にする。
フレッド達が家を出たとなると、あの二人の取りそうな行動は二つ。いつもの集合場所に向かったか、それとも今のレイ達と同じように他に遊べる奴が居るか探しに出ているかだ。
「ユニス。お前は先に集合場所に言ってみてくれ。俺は念の為コニー達の家にも行ってみる。もしかしたらフレッド達が集合場所いるかもしれないから、そうしたら先にフレッド達と遊んでてくれ」
「え?でも…」
レイと握った手をギュッと握るユニス。レイと離れるのが不安なのだろう。レイはユニスに向き合うと、両手でユニスの両手を包み込むように握る。
「大丈夫だって。俺もコニー達の家を回ったら直ぐに行くから。二人で回って、また入れ違いにでもなったらその方が大変だからな。これはユニスにしか頼めないんだ。お願い出来るか?」
「ッ!うん!」
「良し、それじゃあ頼むぞ」
ユニスにしか頼めないという言葉にあからさまに反応して元気になったユニス。レイに見送られて一人集合場所に向かった。
「森の中には入るなよ!」
念の為注意しておくと、遠くからユニスが返事と共に手を振って応答した。
ユニスが見えなくなるまで見送ってから、レイもコニー達の家へ移動を開始した。
それから数十分後、レイは同年代の子供達の住む家を回ったのだが、全員もれなく外出していた。仕事が無い事を聞いた時の大人達の反応から、どうやらフレッドの父親が領主の貴族に直談判に行った事を知って、その結果を待っているようだ。子供達を外に出したのは、大人達の不安を気取られないようにする為だろうかという下衆の勘繰りをしてしまうが、あながち間違ってもいないだろう。それくらい大人達には、仕事が無いのを聞かれた時に少なからず動揺があった。
まぁそんな事をレイが気にしてもどうしようも無い。既にフレッドの父親が賽を投げたのだ。後は結果が出るのを待つしか無い。
そして全員が外出しているとなると、恐らくレイ以外は全員集合場所に行っているのだろう。あまり待たせるとフレッド辺りに何か言われそうなので、レイも集合場所に向かって歩き出した。
「それにしても、何であの貴族達はこの村にやって来たんだろうね」
その途中、シエルがそんな事を言い出した。
「おい、態々彼奴等の居らん時にまで話題に挙げる必要も無かろう」
「でも気になるじゃん。普通こんな辺鄙な村に貴族が来ると思う?本来ならもっと大きな街に行く筈じゃん」
「確かにそうね」
どうでも良い話かもしれないが、気になる内容ではある。
『あの貴族の兄妹は父親に着いて来たって言ってたけど、そうなると父親の方が何でこの村に来たのかが分からないよな。平民を見下すような貴族の親が熱心に領内の情勢を把握しようとなんて思わないだろうし』
そう思うと余計に分からなくなる。あの貴族はなんの目的でこの村を訪れたのだろうか。まともな理由では無いのかもしれないが、それでもこんな辺境に来る理由が思い付かない。
新たな産業の目処が付いたのなら、村の人達にその情報が広まってなきゃおかしいし、ここ数年は村を出る人は居ても入って来た人は居ないから指名手配犯が潜り込んだなんて事も無い。育てる作物を変えるなんて事ならそもそも領主自ら来る事は無いだろう。
「どうせ碌でも無い事なら考えるだけ無駄じゃろ」
「でもそのせいでレイに迷惑を掛けるかもだよ。これまでだって二度もレイは巻き込まれてるんだから」
「ム、確かにそれにも一理あるのぅ」
「でしょ?」
ティエラがシエルに迎合し出したが、どうやら話し合いはここまでのようだ。
「お兄ちゃーーーーーん!!!」
集合場所に向かう途中、向こうからユニスが走って来たのだ。しかもその表情は明らかに焦っている。
「どうしたんだユニス。何があった」
レイもあまりに必死なユニスの様子に、何か良く無い事が起こったと理解したレイは、先ず自分に落ち着くように言い聞かせてからユニスに尋ねる。
レイの下にやって来たユニスが言ったのは、とんでも無い爆弾だった。
「フレッドお兄ちゃん達が、さっきお馬さんに乗ってた人達と一緒に森の中に入ってっちゃった!!」
「ッ!?」
あの貴族の兄妹、他に面白い所が無いからと遊びの狩り目的で帰らずの森に入ったという事か。しかもフレッド達を引き連れて。一瞬、思考が停止し掛けるのを無理矢理動かす。しかしそうなると、今度は頭に血が昇って来た。
(あんのクソ貴族共が!)
帰らずの森は入ったばかりの浅い場所ならウルフくらいしか出て来ないが、それでも猟師がまともに殺り合うのは避けるレベルの相手。もし出会せば最悪全滅もあり得る。
焦りから急いで森に駆け出そうとするが、何とか踏み止まり、自分にもう一度落ち着けと言い聞かせてから、レイはユニスに更に尋ねる。
「ユニス、森に入ったのはフレッド達と馬に乗ってた二人だけなのか?」
「ううん、他にも昨日馬車の周りにいた人達が一緒だった」
やはり護衛は着いているようだ。流石に魔境に護衛無しで行くほど間抜けでは無かったらしい。尤も本当に間抜けで無かったのなら森に入らないで欲しかったが。
「数は?護衛は大体どれくらい居た?」
「え?」
こんな時に数を数えられない田舎の悪い例が出た。ユニスは数を数えられないから護衛の数が分からないのだ。レイは思わず舌打ちしそうになるのを何とか堪えて、そしてユニスに聞き直す。
「その人達は、フレッド達より多かったか?少なかったか?」
フレッド達の人数はいつもの八人からレイとユニスを除いた六人。それより多ければ多少は安全度は増す。
「うーんと、多分フレッドお兄ちゃん達よりちょっとだけ少なかったかかも」
しかし結果はよりにもよって五人以外であった。ちょっとだけという事は一人か二人程度の違いなのだろうから、人数は大体四、五人程度。昨日見た時はあまり護衛達の練度が高いようには見えなかったから、恐らく倍以上の数、ウルフ十頭から二十頭レベルの規模の群れに遭遇したら終わりだ。それなら浅い場所にも普通に存在する。
『なあお前等、あの貴族達、魔法は使えそうだったか?』
「どうじゃろうな。多分初級なら何とか使えそうな魔力量ではあったが、ウルフに襲われた状態でまともに魔法が使えるかは分からんな」
つまり貴族の二人はほぼ足手纏い状態という訳か。実質戦力は護衛四、五人程度。あまり良い状況とは言えないが、少なくとも直ぐに出会すなんて事にはならないだろうし、狩りに出会しても時間稼ぎくらいなら出来るだろう。
「良し、ユニスは急いでこの事を父さんと母さんに伝えてくれ。俺はフレッド達の家にこの事を伝えて来る」
「う、うん!」
ユニスの頭をポンポンと軽く撫でてから走り始める。怪しまれない程度の身体強化をして急いで家々に話して回った。流石に自分の子供が危険地帯に行ったからか、皆迅速に自警団を集めるように行動してくれた。大して数の多くない自警団だが、それでも四、五人よりは多いから問題無い。小規模同士の戦闘ならなら数は重要な要素だ。
「これで後は自警団が動いてくれれば」
最悪貴族の道楽は止められなくても、フレッド達が保護するぐらいは出来るだろう。その後で貴族達がどうなろうと知った事では無い。
自警団が来るのを待つ間、レイは帰らずの森の前で誰か戻って来ないか見ていた。他にする事も無いのだし、自警団の準備が出来る前にフレッド達が帰って来ればそれを伝えに行く事も出来る。
そう思っての行動だったのだが、森から来たのは人では無く、声だった。それも人のでは無い。ウルフの遠吠えだった。短く、だけど鋭く聞こえたそれは、以前レイが深夜に帰らずの森を彷徨っていた時に聞いた、ウルフ達の襲撃の合図だった。
「チッ!もう出会したのか」
果たしてどの程度の規模の群れなのだろうか。これが数匹程度の規模であれば問題無いのだが、そうは行かない様だ。
「これはちょっと不味いかな」
『どうかしたのか?』
「森の中の風が大きく蠢いてる。多分それなりの規模の魔物が一斉に動き出したんだと思う」
今のこのタイミングだと、十中八九ウルフの群れだろう。全くもって、話がどんどん悪い方に進んで行く。
「とは言え、俺が動くのもな……」
今のレイならウルフが何頭襲って来ようと片手間に殲滅出来る。だがそれだとレイの魔法をフレッド達に見られるという事だ。確実に面倒は避けられ無い。更には同じ場所にはレイを小馬鹿にした貴族の兄妹も居るのだ。余計に見られる訳には行かない。
このまま何もしないと言うのは歯痒いが、動くにはデメリットが多過ぎる。ここは動くべきでは無い。
そう思っていると、フラムがレイの袖を引いた。
「レイ。助けに行かないの?」
真っ直ぐにレイを見つめる目。その表情はまるで、助けに行って欲しそうにも見えた。だがそういう訳にも行かない。レイにもレイの事情があるのだ。
「ああ。元々森には入るなって言われてるしな。下手に入って自らの身を危険に晒す必要も無いだろ」
「……本当にそう思ってる?」
妙に食い下がって来るフラム。もともと精霊とは子供のような精神構造をしている。だからなのか、助ける事が出来るなら助けてたいと、素直にそう思っているのだろう。
純粋。悪く言えば甘っちょろいとも言えるが、要は己の気持ちに正直なのだろう。
その時、ふと思った。
周りを気にして何もしないでいる今の自分は、結局のところ、前世の頃と何も変わっていないのでは無いかと。
レイはこの第二の人生で自分らしく生きると決めた。第二の人生を与えてくれなアルスとフィリアの為にも、そして自分の為にも悔いになら無い人生を送ってみせると。それなのに周りの目を気にして選択肢を狭めるのは、果たして自分らしいと言えるのだろうか。
少なくとも今回は思わない。それがレイの答えだった。何もしないでフレッド達に死なれても少々気分が悪い。それに貴族共に好き勝手されたまま黙っているというのも癪だ。
これだけ材料は揃っている。だというのに、自分はこのまま大人しく待っているだけで良いのだろうか。
それはちょっと違うだろう。
「ここでやらなきゃ、俺じゃ無い…か」
この人生はレイにとって特別なものだ。こうあるべきとか、こうしなくてはならないとか、そんな事を考えるのはそれこそ止めるべきだ。
自分の気持ちに正直に生きる。では、今回フレッド達を助けに行くのは、果たしてレイがやりたいと思っている事なのだろうか。
その答えは、考えるまでも無いだろう。答えは既に、レイの心にある。
「レイ?」
「急ぐぞ。もし仮説が本当なら、そろそろ護衛が全滅する頃だ」
「ッ!うん!」
まるでさっきのユニスのようにパッと花が咲いたように笑顔になるフラム。嬉しかったのかレイの肩にしがみ付いてスリスリしていた。
フラムのスキンシップはいつもの事なので無視して、レイは身体強化で森の中へと入って行く。
(数年間遊んだ誼みだ。今回だけは助けに行ってやるよ)
草木を掻き分けて進むレイ。その先からは、風に乗って微かに血の臭いが流れてきていた。
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