重なった薬利
「いやぁぁぁぁぁ!」
奈保が泣き叫ぶ。
直保が死んだのは自分のせいだと、自分を助けようとしたからだと責める。
今すぐにでも兄のもとへ行きたい。しかしそれができない。この身体を縛る紐は強く硬い。
「起きて、ねえ、、、起きてよ、、、お兄ちゃん、、、」
泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて、それでも止まらない涙は水たまりのようなものを足元につくる。
「アハハッ、死んじゃったねぇ。お兄さん♪」
奈保の代わりにアリスが睨む。
「まあ、安心したまえ。すぐに会えるから」
笑って手を上げる。
すると奈保とアリスを縛っている紐が高く上がる。
「痛ッ」
足が浮き手首が痛む。紐がより強く2人を縛る。
奈保の涙は悲しみと痛みが交じる。それに恐怖が入る。先程まで立っていた場所が開き紅く、透き通った朱が広がっていく。
この紅い朱に黄金の姫は飲まれて消えた。
「黄金、、、」
アリスは泣きそうな声で泣くのを我慢している声でそう呟いた。
「黄金の姫に会いたいの?会えるよぉ♪どちらが先に会いたい?直保が先?黄金が先?」
ニヤニヤしながら2人に聞く。
2人は返事をしない。会いたい。だけど、それはどちらが先に死ぬか、ということだ。
「あれぇ?会いたくないのぉ?」
(会いたいよ!会いたいけど、、、死にたくない、、、)
2人の心はそう叫んでいた。
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『君は死んだ』
真っ白な世界で直保はそう聞いた。
『生き返りたい?』
「ああ!」
質問に即座に答える。それこそ間髪入れずに。
『生き返って暫くは最強になるけど、時間を過ぎれば一般人に戻る』
『無論、能力が消える』
「いいよ!」
能力が消えてもあの場所へ戻りたかった。祖父と約束した。奈保を連れて帰ると。
『わかった。だが、頼みがある』
「なんだ?帽子屋」
『アリスや瘋も助けてくれないか』
「当たり前だ」
『ありがとう。【解答者】』
「こちらこそ。創造の神さま、始まりの神さま」
『アリスを、頼んだ』
2人は姿を表した。帽子屋と黒猫。
「私の力をあげる」「俺の力をやる」
「だから、あの子を止めてくれ」「だからあいつを止めてくれ」
2人が言うあいつ、あの子とは黒い部分のことだ。黒い部分、即ち2番目の神さま。
「、、、うん」
直保は2人ともう会えないことを直感した。直感してなお、生き返ることを望んだ。
「大丈夫。俺らは見えなくてもそばにいる。そばで見守るから」
「悲しい顔をしないでよ。そんな顔させたくてこのセカイを作ったわけじゃないんだからね」
流れそうな涙を飲み込み笑顔を作った。
「俺、頑張るから。2人の分まで頑張るから」
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「、、、オマエ死ね、、、」
低く怨みのこもった声が黒い部分の後ろから聞こえた。
逆だった髪の毛、何も写してない金と灰色の両目、手に持っているのは黒い部分に分割された鎌の柄の部分。
3人はそれが誰に向かって言われた言葉なのか理解するのが遅れた。
「利の大事な人、殺した罪、大罪に値する」
目を閉じ言ったその言葉は黒い部分を動揺させた。
「奇術師、もう一度言う。お前が死ね」
言い終えると目を開き、切断面を黒い部分の喉仏に押し込んだ。
「止めろ。死ぬ。苦しい」
苦しいと言いつつも平然とした態度に奈保とアリスは驚く。
「死ねばいい」
その瞳は両眼とも金だったーー。
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赤い鮮血が辺りに飛び散る。
奈保が泣き叫ぶ。
「もう、いやぁぁぁぁぁ!」
もう二度と目の前で誰かが死ぬのは耐えられなかった。それがたとえ先程まで自分を殺そうとしてた奴でも、、、。
「勝手に殺さないでくれないかな♪」
「「え、」」
黒い部分は奈保の隣に移動していた。そして奈保の涙を舐める。
「キモっ」
その隣にいるアリスが言葉で切る。
「酷いなぁ。キモいとか。ただ泣いてる女の子の涙を拭いてあげたんだよ♪」
「拭いてない。舐めた!気持ち悪い」
アリスは黒い部分が気持ち悪くて仕方がなくなっていた。
奈保は黒い部分に舐められたからか固まっていた。
「お前は、何人、穢せば気が済むんだぁ!」
誰かは分からない。アリスはその姿に覚えはあったが全くの別人だ。覚えのある人も黄金が居なくなったことにより狂ってしまったが。
「妙な、奇術、使いやがって!」
「奇術?これは力だよ。2番目の神さまだからね♪」
「ふざけるなぁ!お前が神さま、信じない!」
「信じなくてもさ!事実だからさ、仕方ないよね!」
1人は棒、1人は奇術で攻防を繰り返している。最も、奇術に紛れてそこらへんに転がっているものを盾にして攻撃を防いだりしているが。
「、、、もう」
奈保の口が開く。
「これ以上、直保を傷付けないでぇぇぇ!」
叫ぶ。鼓膜が破れそうなくらい大きな声で叫ぶ。
「もうさ、死んでるんだから♪使ってあげなきゃ!」
黒い部分はわざと直保を盾にして白銀の王を投げる。
「こうして使わなきゃ!」
「お前、心底ムカつく!」
奈保の願いを聞くように直保には手を出さず、白銀の王は投げ返し攻防を続ける。
奈保のそばで止まった直保の死骸は腹部に大きな穴が空き、両腕が変な方向へ曲がっていてひどく腫れていた。
倒れた直後に見えたときは腹部の穴だけだった。だが、その他の怪我はこの攻防でついたものだろう。それを考えるとゾクッとする。
言葉を交わしながらの攻防で盾に使われた直保の身体に刻まれた多くの傷。
「酷いことを、、、」
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「トドメダァ!」
黒い部分は刀(いつ出したかわからない)を振り上げた。
「また妙な奇術使いやがって」
今から殺されるのにそんなこと気にしない風に呟き避けた(避けようとした)。
「あ、捕まってたわ。ごめん、利」
笑って目をつむる。
刀が振り下ろされると同時に開かれた両眼は灰色に変わっていた。
「、、、」
灰色の目は黒い部分を見ると一気に不機嫌になり舌打ちをした。
「あれ?戻ったの。でも残念♪ああ、残念じゃないか!今、黄金のところへ送ってあげるから♪」
「はぁ。むかつく人ですね。姫を殺めたあなたが死んだら私も死にます。だから先にーー」
死んでくださいーーー
その言葉とともに黒い部分が手にしている刀が粉々に砕け散る。
「驚きましたか?そんなわけ無いですよね。あなたが名付けたんですから【薬利】とーー」
「いや、まさかだよ。薬利が2人重なるとそんな風になるとはね」
「【薬利】だけではありません。【破界】(はかい)します」
【破界】それを口にした途端、空気が一気に変わる。
「ハイジョします。ハイジョ、ハイジョ」
両眼が金と灰色の2色になり、落ち着いてきた髪は逆立ち、壊れた機械のように「ハイジョ」しか言わなくなった。
「アハハッ、面白いよ!【破界者】の能力トコトン見せておくれ!」
「ハイジョォォォォォ!」
「すごい、すごいよ!まとっている空気だけで攻撃出来るなんて!アハハハ、アハハハ」
奈保たちから2人が戦ってる姿は見えない。
周りの空気が黒く澱んでいるから。
フッと、奈保とアリスを縛る紐が解けた。
もう1人いたのだ。誰かと後ろを振り向くとそこにはーーー。




