7話 安達美月
「あのさ、とりあえず友達からってのはどうかな?」
俺の言葉に、安達はなにやら、ぽかんと口を半開きにして呆けている。
どこかおかしかっただろうか。
「と、ともだち……」
呟くように言って、安達は俯いて黙ってしまう。
そのまま、どれくらい過ぎただろうか。時が止まったようだ。
一昨日交際を断られた上、その場所から一目散に逃げた相手、しかも自殺未遂を起こすほど傷つけられた相手からの申し出だ。彼女にしてみたら、「今更なにを言ってる」って話だろう。
「いや、この前は突然だったんで戸惑ったというか、心の準備が出来ていなかったし、よく考えたら逃げ出す必要なんか無くて、もっときちんと話すべきだったと反省したりしたわけで……」
駄目だ。沈黙に耐え切れず、焦って訳のわからないことしゃべってる気がする。
すまん、川原。いきなり失敗しそうだ。
人気のない昼休みの体育館。その2階にある物置場に俺と安達美月は3歩ほどの距離を保ち、向かい合っている。
川原の頼みとは、「美月との交際に結論を出すのをもう少し待って欲しい」というものだった。
俺としては、彼女が「巨乳」という時点で考える余地は無かったのだが、「自殺未遂を起こすほど自分を好きな相手のことを真剣に考えて」と言われてしまえば、確かに不誠実な対応だった気がしてくる。
俺は一晩真剣に考え、もう少し彼女のことを知るべきだと結論を出した。何しろ、容姿以外彼女のことをほとんど知らないのだから、性格や、俺を好きになった理由ぐらいは知ってから決めようと。
そこで「友達から」である。
この古来より伝わる、曖昧に相手に希望を残しつつも、こちらの都合で断ることも可能な卑怯極まりない手法に至ったのだ。
手法に後ろめたさを感じつつも、川原に安達と二人きりで話せる場をセッティングしてもらった次第だ。
「あ、今さら都合よすぎだってのは分かってるから、安達さんが嫌なら遠慮なく断ってくれていいから」
「ち、違うの!ごめんなさい」
俯いて黙っていた彼女に声をかけると、あわてたように言葉が返ってきた。返事はしてくれたが、彼女はいまだ俯いたままで表情は分からない。しかしその言葉は涙で掠れている。
「私が急に告白なんかしたせいで高野君に完全に嫌われたと思っていたから。もう二度と話すことも出来なくなると思ってて……。そう考えたら頭の中が真っ白になって何も考えられなくなって、ボーっとしてたら赤信号で飛び出しちゃって自殺未遂だとか言われて、ますます高野君に嫌われちゃうって思って。でも高野君が今、とも、友達からって言ってくれて、なんかホッとしちゃって、な、涙が止まらなくて……きっと汚い顔してるから、顔上げられなくて……」
一気に捲くし立てると、もう限界というようにポケットからハンカチを取り出し、顔に当てて肩を震わせてる。
しばらくして、ようやく落ち着いたのか面を上げる。
「あ、あはは」
泣きながら笑う安達の顔は、ハンカチで半分隠れていたが、彼女の言うように汚いなどとはとても思えず、普段の綺麗で整った顔よりも魅力的に思えた。
こうして俺と安達は、「友達」としてのお付き合いを開始した。




