6話 川原渚
到着。
太一から電話を受け、すぐに学校に向かい、30分ほどかけてようやく到着した。
海岸と学校は家から見て反対方向のため、いったんサボると決めてから学校に来るのはものすごく面倒くさい。
ちょうど昼休みに入ったところのようだ。
午後からの登校だけに昼休みで目立たないのは好都合。まあ、いつものことなのでクラスの連中も担任も特に気にすることはないんだが。
隣のクラスを覗くと、窓際で一心不乱に弁当をかきこんでいる太一がいた。空いていた太一の前の席に座ると、太一が気付いてこちらに顔を向ける。
俺は弁当を食べるように促す。
こいつはどうも要領が悪く、2つのことがいっぺんに出来ない。その上、行動がやたらのんびりしているので、話が長引くと昼休み中に弁当を食べ終えれない事態になりかねない。
腹を減らしたまま午後の授業を受けさせちゃ、かわいそうだからな。
「いやー悪い。 待たせた」
弁当を食べ終えた太一がようやく口を開く。
時計を見ると昼休みの終了まで20分ほど。俺は午前中の電話について詳しく話を聞いた。
「……なるほどね」
太一の話だと、登校するといきなり顔見知りの女生徒が「高野勇介のせいで美月が自殺未遂を起こした、居場所を教えろ」と詰め寄ってきたそうなのだ。
サボっている俺の居場所なんて見当もつかないと伝えてその場は収まったが、びっくりして俺に電話してきた、という流れらしい。
このクラスに来る前に安達のクラスを確認してみたが、確かに安達は休みだった。
太一に話しかけてきた女生徒は安達の親しい友達だろう。そいつとも一度話をしたほうがいいだろうか。
「で、その女子の名前は……」
太一にその女生徒の名前を聞こうとした瞬間、俺の手首を、突然横から伸びてきた腕が掴んだ。
驚いてその腕を辿って見ると、面識の無い女生徒がそこにいた。
「アナタが高野勇介!」
ショートカットで、いかにも気が強そうな面持ちのその女生徒が、確認を取るように勢いよく太一に顔を向けると、その勢いに押されるように太一がうなずく。
それを確認すると、俺を引きずるようにして教室を出て行く。
「ちょっと、おい、離せよ」
「いいから! ちょっと来なさい」
俺の抗議は受け入れられず、施錠された屋上への扉の前まで連れて来られた。
ついてこようとした野次馬は女生徒に追い払われ、辺りは静まり返っている。
「美月の何が駄目なの!」
ようやく掴んでいた腕を解放してくれたかと思うと、俺に詰め寄り、まっすぐに俺の目を見て問いかける。
女生徒は身長が低いので、俺を見上げるような格好だ。
「容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能で性格だってとっても優しいのに!」
なんだか漫画やアニメに出てきそうな設定だ。
「その上、家がお金持ち!」
ますます架空の設定っぽいが、それはおいておく。
この娘が太一に絡んできた女生徒で間違いないだろう。
「あんたは安達の友達か?」
「そうよ。中学からの親友」
「それで、安達を振った理由を聞きに来たと」
女生徒はなんだかえらそうに、腕組みをして頷く。
「安達のことよく知らないしな。いきなり付き合えって言われても困る」
本当は安達が巨乳だから断ったんだが、そんなことをこいつに教える気はない。
安達が聞きたいのなら直接伝えるつもりではあるが、例え親友だとしても俺はこいつのことを何もしらないからな。
「ふーん。そう」
女生徒は腕組みしたまま、なにやら思案しているようだ。
「でも普通さあ、美月みたいな美人に告白されたらとりあえずキープしておくでしょ? 友達からとか」
まあ、俺のように特殊な事情がなければ、普通はそういうものかもしれない。
「あの時はそんな頭まわらなかったんだよ。急だったし」
「じゃあ、今付き合ってる彼女とかはいないの?」
「ああ、いない」と俺ははっきりとうなずく。
「……キミは美月が自殺未遂したこと知ってる? それで今入院中なんだけど」
「ああ、太一から聞いた」
「入院って言っても、たいしたことは無くて、ちょっとした検査で明日には学校これるんだけどさ」
そうか、たいしたことはないのか。良かった、本当に。
「じゃあさ、ちょっと提案、っていうか、お願いがあるんだけど」
そういって女生徒は、内緒話をするように顔を近付けてくる。
「その前に名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
いつまでも女生徒じゃ、おさまりがわるい。
俺の言葉に女生徒はちょっと照れたような笑いを浮かべ、
「ボクは川原渚。高野勇介君」
巨乳美人の自称親友は、ショートカットで笑顔が魅力的な「ボクっ娘」だった。
ああ、そうだ。川原渚の胸は大きくない。服の上からだが、極端に小さいようには見えないし、いたって普通といえる胸だ。
……いや俺には重要なことだから! 確認しとかないと!




