5話 長谷部太一
太陽がだいぶ高くなってきた頃、携帯が着信を告げてきた。
太一からだ。
長谷部太一。
俺の数少ない気のおけない友人で、中学からの付き合いだ。高校では1年からサッカー部のレギュラーで、今年はキャプテンをやっている。普段はへらへらしているけれど、サッカーが絡むと人が変わる、サッカー馬鹿だ。
貴重な友達だし大事にしないとな。とりあえず、電話には出ておくか。
「勇介! なにやったんだ、お前」
電話に出たとたん、「もしもし」も言わせないうちに太一が大音量で騒ぎ立てる。部活以外ではいつもボーっとしているアイツにしては珍しいな。
たぶん安達のことだろう。それ以外に心当たりがないし、どこかから耳に入ったんだろう。
「安達さんが入院したって」
「入院?」
予想外の単語に思わず聞き返してしまった俺の耳に、太一はさらに予想外の単語で追い討ちをかける。
「しかも自殺未遂で原因がお前だっていうから、もしかしてって」
「……」
言葉が出ない。昨日の今日だから、当然、その原因は失恋だろう。こともあろうにその相手は俺だ。
「おい、勇介。もしかして安達さんに何かひどいことをしたんじゃ」
「いやいや、交際を申し込まれて断ったけど……特別ひどい振りかたなんてしてない」
「本当だろうな」
「本当だ。神に誓ってな」
神に誓うといっても俺は特定の宗教を信仰しているわけではない。
俺と太一の間で神といえば、若くして亡くなった、あるサッカー選手のことで、俺たちが出会うきっかけになった人のことだ。この人に誓ったことは絶対に破らない。ある意味、俺と太一にとっての信仰なのだが、それはいずれまた別の機会に。
「……そうか。 信じるよ」
納得してくれたようで一安心。
太一には後で学校で落ち合う約束をして電話を切る。
安達美月の泣き顔が頭をよぎる。
自殺……しかも俺が原因か……
逃げ出したのは不味かったかな。とりあえず理由は説明すべきだったんじゃないのか、本気の告白に対して誠意に欠けていたのかもしれない。責任はあるかも。いや、男に振られただけで自殺って安達のメンタルが弱すぎるだけだろ。いや、でもそれだけ俺のことが好きだったわけで、それに対してあんな態度をとったのは確かだし……
くそ、頭がこんがらがって上手く事態を整理できない。
とりあえず……俺はバイト先に休みの連絡を入れた。2年以上バイトを続けてきて、初めての欠勤だった。




