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勇介君は巨乳が嫌い  作者: 諏部たぬき
22/24

22話 拘束

 目が覚めた。


 意識を失う時は本気で殺されると思ったのだが、どうやらそこまで追い詰められてはいなかったようだ。

 しかし今度は手だけではなく足まで縛られ、体勢を変えるのにも一苦労だ。

 うつ伏せからどうにか体を仰向けにすると、改めて辺りを見渡す。


 ここは倉庫だろうか。

 十畳ほどの四角いコンクリート壁の部屋。あまり物は置かれておらず窓もない。灯りは裸電球が一つぶら下がっているのみで部屋は薄暗い。そこで俺は部屋の中央に置かれているものに気付いた。


 あれは……七輪か!?


 まさか……

 いやな予感が頭をよぎる。

 さらに視線を、俺が寝かされていた場所の対角線上、部屋の隅に向けると、そこに安達が仰向けに寝ていた。

 指を組んでお腹の上に置いたその姿勢は、いやな予感を加速させた。


「安達!」


 大声でなんども呼びかけるが安達に反応はない。お腹がわずかに上下しているから生きてはいるようだ。たぶん睡眠薬かなにかだろう。


 ここまでくれば分かる。

 集団自殺の定番、練炭自殺。練炭を密室で燃やすことで空気中の一酸化炭素濃度を上げ、一酸化炭素中毒で死に至るあれだ。

 俺がどのくらい意識を失っていたかは分からないが、そう長い時間じゃなかったのだろう。まだ一酸化炭素中毒の症状は出ていない。


 しかしこのままだと時間の問題だ。どうにかして火を消さないと。

 這いずっていけばどうにかいけるだろ。

 俺は再びうつ伏せになると、体をくねらせて七輪のある部屋の中央へ向う。


 しかし、七輪まであと少しというところで前に進めなくなる。

 気付かなかったが、俺の脚を拘束しているロープは壁の金具にしっかりと繋がれていた。


 まあ、そうだよな、そう簡単にはいかないよな。

 よし、気を取り直して生き残る道を探そう。


 悪いな、安達。だれかに付き合って死ぬ気なんてさらさらないんだ。


 まずは選択肢が必要だな。どんな状況でも可能性という選択肢は必ずあるものだ。

 しかし、一酸化炭素が部屋に充満する前と言う時間制限もある。あまり悠長なことはしていられない。急がないと。


 とはいえ、ロープをどうにかして外すか、安達を起こして説得する以外に方法はないな。

 安達が呼びかけても目を覚まさない以上、俺にはこのロープをどうにかするしか選択肢はないが……


 ロープは登山用だろうか、やたら頑丈に見える。足の拘束は膝と足首なので外しようがない。

 金具と足を繋ぐロープをどうにか切れれば七輪までたどり着けるだろう。

 俺はロープに顔を近付けると、思いっきり歯を立ててみた。


 ……硬い。


 しばらく「がじがじ」とやってみたが、手首の半分ほどあるロープはとても噛み切れそうにない。

 どうする……どうすれば…心なしか息苦しくなってきたような気もする。やばいのか?

 こうなったら……

 俺はごろごろと回転し、金具と俺の脚をつなぐロープを巻き取り、遊びをなくす。その状態で、力の限り壁を足で押す。巻き取ったロープが体を締め上げる。


「ぐ……あ……はあ、はあ」


 そう、こうなったら壁を壊して金具の固定を外すしかない。コンクリートの壁だから、金具もそれほど深く刺さっているわけじゃないだろう。


 なんどもなんども、壁を力の限り蹴りとばす。その度に体をロープが締め上げる。

 ……どれくらい繰り返したのかも分からない。いい加減体の方が限界になってきた。


 でも今はこれしか方法が……ない!


 勢いよく壁を蹴りつけると、明らかに今までと違う手応えがあった。

 よく見れば金具の周りの壁にヒビが入っている。


 よし、もう少しだ。これで……助かる……


 練炭をどうにかしたら、安達をつれて外に出る。そして安達が目覚めるのを待って話をしよう。巨乳嫌いも正直に打ち明けよう。巨乳は嫌いだけど安達のことは嫌いじゃないと伝えよう。


 ようやく見えた光明に、頭の中に未来の道筋を描きながら、俺は壁を蹴りつけ続けた。

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