21話 部屋にて
ここは……
意識が戻り、最初に目に入ったのは、柔らかな布団。次に棚に置かれた見覚えのある「可愛らしいクマのぬいぐるみ」が目に入った。あれは確か安達とのデートで買ってあげたクマだ。
畳に障子の引き戸と、日本家屋のようだ。この布団もベッドではなく、畳に敷かれている。
部屋を見回していると、引き戸が開けられた。
「安達……」
廊下から現れたのは、制服姿の安達だった。
意識を失う前に感じだ背中の弾力は安達の胸だったのか。ということは、俺の意識を奪った腕は安達のものか……
「いったいこれは……」
しっかりと後ろ手に縛られ、自由に動けない身体を認識して疑問を投げかける。
「ごめんなさい、高野君。私……もうこうするしか……」
安達はそういうと、スカートのホックを外し、ジッパーを下ろす。スカートが重力に引かれてストンと畳に落ちる。
「あ、安達!?」
続いてブレザーの上着を脱ぎ、ネクタイを外す。
なんだこれは!これはどういう状況なんだ!
ゆっくりとシャツのボタンを上から外していく。3つ目を外した所で、着衣から解放された白いレースのブラに包まれた、巨大な乳房が姿を現した。
「高野君……」
安達はそこでボタンを外す手を止めると、四つん這いになり、布団の上で身動きできないでいる俺に近寄ってきた。
「ちょ、ちょっと、安達さん!」
思わず「さん」付けになった俺の言葉など聞こえていない。
安達は頬を赤らめ、ゆっくりと近寄ってくる。四つん這いになったことで安達の巨大な乳房は重力ひかれて形を歪ませ、歩みを進めるたび、その存在を極端に主張する。
しかし、こうなって改めて感じる。俺はやはり巨乳が苦手なんだと……
実際に生で見るまで、もしかしたら映像だから苦手なのであって、本物を見れば興奮するのではないか、とも考えてもいた。しかし、美少女のあられもない姿を前にしても俺は、それに興奮することはなく、極端に自己主張する巨大な乳房へ、はっきりと嫌悪感を抱いていた。
安達は俺にたどり着くと、左手だけで器用に俺のネクタイを外し、シャツのボタンを外し、胸板をあらわにする。
「う……」
自由の利く足を動かそうとした瞬間、安達は右手と右足を使いその動きを抑える。安達に抑えられたポイントには、どうやっても力を入れることが出来ず、俺の抵抗はあっさり封じられた。
俺の意識を奪った手際といい、この技術といい、安達はなにか格闘技の心得があるのかもしれない。
「高野君は……その……初めてかな……」
「……」
俺が何も言わずにいると、「私も初めてだから安心して」などと言って来る。俺が童貞だとして話が進んでいるようだ。
……まあ、童貞なんだが。
「それに男の人は初めてでも痛くないらしいから」
「そんなこと心配してないから! 安達、落ち着け。 冷静になってくれ!」
「落ち着いて冷静に考えて、もうこれしかないと分かったんです」
安達の左手が大きく開いた俺の胸元に滑り込んでくる。
「あ、私の手、女の子らしくないですよね……ごめんなさい」
剣道をやっている安達の手のひらは硬い。なんどもなんどもマメを潰したのだろう。それは文字通り血のにじむ努力の結果であり、恥じることでは決してないのだが、女性の柔らかさを残さないその手のひらは、安達にとってあまり好ましいものではないようだ。
安達は俺の胸元の左手に力を込めて俺の体を押し倒すと、腰の辺りに跨った。所謂、マウントポジションだ。両手を封じられている俺には成すすべがない。
「ん……」
安達は小さな吐息を漏らしながら、俺の左胸に頬をあてる。
「心臓の音……とっても速くなってるみたい……」
やばい!これはやばい!巨乳嫌いとかそんなもので耐えられるレベルじゃない!
柔らかで滑らかな女の子の肌の感触、髪から香るなんとも言えない女性の香り。この状況でドキドキしなかったらおかしいだろ!
そして……俺の息子の上には彼女のお尻があるわけでして……なんというか、暖かさと柔らかさが我慢の限界といいますか……
俺の息子は自己主張を始めてしまったようだ。
「あ、高野君……興奮してくれてる……んですよね……」
安達も自分のお尻の下の変化に気付き、さらに顔を赤らめる。
そして、両手を後ろに回し、ブラのホックを外し、その巨大な果実の封印をとく。制服のシャツは着ているため先端は隠れているものの、ボタンはお腹辺りまで開いている。その巨大な乳房は、ほぼその全容をあらわにしていた。
しかし……全容をあらわすのは俺にとっては逆効果だったようだ。胃が締付けられる様な感覚から立ち眩みのような状態に陥り、平衡感覚が失われるいつもの感覚。高まっていた熱は急速に冷めていく。
そして、息子の自己主張は完全に治まっていた。
「え、な、なんで……」
安達もその変化を感じて戸惑いの声を上げる。
「あれ、あれ、これって……」
沈黙し、全く変化する様子のない俺の息子に、安達の顔色が変わる。
女性が男性を無理やりやる気にさせる方法もあるにはあるのだが、さすがに安達にはそっち方面にはあまり詳しくはなく、ここから先の知識はあまりないようだ。それはつまり、俺がやる気にならない以上、これ以上どうすることも出来ない現状を意味する。
それに気付いてしまったのだろう。恐らく安達の最後の賭け。女性が持つ最大の武器を用いても俺を自分のものに出来ないことに。そしてここまでやってしまった以上、前に出ようと後ろに下がろうと、どこへも行けないということを……
いったい安達は何故こんな真似をしたのだろうか。それほど親密ではないとはいえ、それなりに楽しい関係を築いていたとは思うのだけれど……
沈黙の時間が過ぎる。
安達は俺の上で顔を伏せ、動こうとしない。前髪に隠れてその表情は見えない。俺の胸に一粒、二粒と雫が落ちてきた。
「あはは、そうですよね……私なんかじゃ……駄目ですよね……」
自嘲気味に笑いながら、安達はそう言った。
「……ごめん」
「……なんで謝るんですか。高野君は何も悪くないです……」
安達の手が俺の首に伸びる。また視界が黒くなり、意識が遠のいていく。
「悪いのは私。でも……もうどうしていいか分からないんです……」
いつかの夕焼け。あの告白の時も俺は謝っていた。薄れ行く意識の中、その時の安達の泣き顔が浮かぶ。
俺の言葉も彼女の顔も、あの時と同じだ。違うのは逃げることが出来ない俺の状況だけ……
やだな……人が悲しむのを見るのは好きじゃないんだ……




