2話 3年2組
高校の体育館。
高野勇介の所属する3年2組は現在体育の時間である。
体育館は中央をネットで仕切られ、男子はバスケ、女子はバレーを行っている。
「やっぱ安達かな」
「林田もけっこうでかいぞ」
「身長との比率でいけば日高も捨てがたい」
5人ごと4チームに班分けされ、試合を待つ間、となりで飛び跳ねる女子の胸の大きさを、そのゆれ具合から推測しようとチラチラと覗き見ては分析結果を述べていくチームメイトたち。
そのチームメイトの様子を見ながら、勇介は軽くため息をつく。目立たないようについたため息を目聡く見とめたチームメイトの一人が茶々を入れてくる。
「高野は興味なさそうだな……さてはロリ好きか?」
ふざけているのだろうが、その冗談は見過ごせない。
「んだと? ふざけんな、殺すぞ」
勇介は睨みながら返事を返す。
「はは、冗談だって起こるなよ」
このクラスでその冗談は洒落にならない。
「ま、あいつとは違うよな」
二人して洒落にならない理由に目を向ける。
古屋孝造。
長身で細身。整った顔つきのぱっと見はもてそうなこの男こそ、3年2組でもっとも危険な人間である。
ロリータ・コンプレックスとは、幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のこと。またはその嗜好・感情を持つ人間自体のこと。略して「ロリコン」とも称される。
古屋孝造は筋金入りのロリコンである。
どの程度の筋金かというと、過去に小学生に対する性的な悪戯(未遂)で補導されたことが3度ある程度の筋金である。
「どうやら今は瀬名に夢中みたいだな」
孝造はネット越しにクラス一小柄な少女をチラチラ見ながら息を荒くしていた。
瀬名真奈美。
高校3年にして身長140cmに満たない小柄な身体とくりっとした大きな目、特徴的なアニメ声で、そっちの趣味がない人間でも保護欲を刺激されるのだから、古屋なら垂涎ものだろう。
「やっぱ安達だな」
「異論なし」
「うむ」
どうやら結論が出たらしい。
安達美月。
眉目秀麗、成績優秀、剣道の腕は全国トップレベルと言うハイパフォーマンス女生徒である。
当然、男子にも人気が高い。中でも他の女子とは一線を画す、その胸部にほとんどの男は夢中のようだ。
勇介はクラス一との結論が出た巨乳に目を向け思う。
(不快だ。ものすごく不快だ。なぜあれほど大きな乳房が人に必要なのだろうか。子供に栄養を与えるだけならあそこまで大きくなる必要はないだろう。そもそも相当動きにくいだろう。安達だって胸が小さければ全国で優勝もできたんじゃないのか)
勇介がスパイクやレシーブの度にその存在を強調する美月の胸を見つめながらそんなことを思っていると、ふとした拍子に美月と目が合ってしまい、あわててそっぽを向く。
「次、C、Dチーム」
体育教師の声がかかる。
軽く身体をほぐしながら勇介は胸焼けのような状態になっていることに気付く。
(ちょっと見ただけでこれだもんな。電車でそれを押し付けられたときなんかは眩暈まで起こした。巨乳滅びないかな……)
世の男たちから殺されそうな思いを抱きながらコートに向かう。
高野勇介。
中肉中背。趣味はサッカーとバイト。他は取り立てて言うこともない、少し捻くれているが普通の高校生である。
ただし、巨乳が極端に嫌いであるという点を除いて。
放課後、高野勇介はサッカー部の主将であり、幼馴染兼親友の長谷部太一から、にやにやしながらしばらく教室で待っているように言い含められた。
渋る勇介を太一は「絶対良いことがあるから」と強引に納得させた。
読みかけの文庫小説を読み終わり、そろそろ待つのが苦痛になってきた頃、教室のドアが開き、静まり返った夕暮れの教室に女生徒と2人きりという、まさにあつらえたような舞台が整った。
そこから物語は1話へとつながり、3話に至る。