18話 美月の思い出2
高校1年の夏、剣道部に入部してまだ間もないというのに、私・安達美月は団体戦にエントリーされた。
父の影響で幼い頃から様々な武術を嗜んでおり、特に適性のあった剣道は、技術面では同年代でかなり突出していたし、実際、何度か大会で好成績を収めたこともあった。
「技術の面で」と前置かなければならないのは、私が精神面に問題を抱えていたから。
プレッシャー。
人よりも秀でているから人より期待される。期待されれば期待されるほど失敗時の失望は大きくなる。成果を収め続ければ続けるほどに、期待と共に失敗時のリスクは大きくなり続ける。それに気付いた時、私は試合の度に自分の内面と戦わなければいけなくなった。
精神統一も技術であると考えれば、私は特に秀でていたわけではない……と、振り返ってみれば思える。
高校入学を機に、いっそ剣道をやめてしまおうかとも思っていた。だけど、既に県内の剣道関係者の間で私が高校の剣道部に入ることは既定路線だった。平川高校はそれほど剣道の強い学校ではないけれど、先生、先輩方の期待に押されるように私は剣道部に入部した。
そんな事情を知ってか知らずか、顧問の先生は入学後、最初の大会で私を団体戦にエントリーした。
私がエントリーすることで、当然、出れなくなる人がいる。その人はこの大会が最後になる3年生かもしれない。
そんなことが頭に浮かんでは、考えても意味がないことだと、必死にそれを頭から追い出す。
本当に私は弱い。弱いくせに見栄っ張りな私は、それを面に出さない。出せない。
一番仲の良い友人の渚ちゃんにも、結局相談出来ないでいた。弱い私を見られたくないのかも知れない。
毎朝の日課となった夜明け前の散歩。
私は毎日のように夜明け前の校庭へ向うようになった。両親にはジョギングと剣道部の朝錬と説明しておいた。実際にジョギングと朝錬はこなしていたけれど、本命は謎のサッカー少年。
少年は毎日いるわけではなかった。週に2,3回といったところだったけれど、それは私にとってとても大事な時間になった。
ある日、どうしても顔が見たくなった私は双眼鏡なんてものを持ち出した。傍から見れば、こそこそとグラウンドを双眼鏡で覗く様子は、怪しさ抜群だったことだろう。
いま振り返ると、見つからなくてよかったと心底思う。まあ、そのリスクの甲斐あって少年の顔が分かり、そしてその少年が同じ学校に通っている、高野勇介君という、ちょっと変わった人だということも分かった。
謎のサッカー少年の正体が分かっても、私は特に行動を起こすことはなく、いつも通り夜明け前に学校へ向い、一人サッカーに興じる高野君に、ただ見惚れているだけ。それでも学校にいる間は高野君の情報に敏感になっていた。
噂がベースではあるけれど、高野君について一通りまとめると、こんな感じだ。
・中学の時はサッカー部で全国大会ベスト8。県予選では1年にして最優秀選手に選出。今は帰宅部
・遅刻、早退、欠席が多い。だけど進級が危うくならないように、各教科を満遍なく休んでいる
・特定の一人以外とは、用がなければほとんど口を利かない(特定の一人は男子なので問題ない)
・サボりは多いが不良ではない
・鞄が異常に重たい。それで鍛えているのではないかとの噂もある
・いつも眠そう
・前髪長すぎ
一言で言うと変わり者。
噂の中で私が気になったのは、突然サッカーをやめていること。しかも怪我とかではないらしい。何故だろう。私と同じように周囲の期待が重くなってしまったのかもしれない。その重みを捨て、今は周りに合わせず、自分の思うままに行動している……などと、勝手な想像をしてみたりする。
そして、周りの期待を重く感じているのに、作り笑いを捨てられず、今もずっと流され続けている自分と比べてしまうのだ。
いつか聞いてみたい。サッカー部をやめた理由を……




